最期を迎えるその日まで
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◆ 蘭視点
完全にやられた。
車の窓の外を見ながら腸かが煮えくり返る。ぐつぐつと腹の底が熱くて冷めることがない。それはあの野郎と――橙子に対して込み上げる怒りだ。
どうして、どうして、そこまで従順になるんだ。もう少し反感を持ってくれたっていいだろう。だのに、どうしてオレたちと同じくらい従順にあの男に従って、その色に染まろうとするんだ。
こう考えると橙子に対してだけ怒りを覚えている感じがする。だが、この状況を作り出したあの男のこともやっぱり腹が立つ。
よくよく思い出せばこの時期にあいつはあの男の妻になった。つまり、あのホテルのレストランで結婚記念日を祝いに来たんだろう。だからこそ、橙子は男の好みだろう格好をしていた。男は自分の色に染まりつつある橙子をオレらに見せつけたかったに違いねぇ。
随分と陰険な男だ。あの男は繋ぎ役にと橙子を選んだように見えるが誰がどう見たって橙子に男として執着している。惚れている。
気分が悪ぃ。煮え立った腸はついに気持ち悪さをもたらした。ムカムカしてくる胃に苛立ちながら横に座る弟を見る。
「辛気臭い顔すんなよ」
オレまで辛気臭くなるだろう。竜胆の顔は苛立ちもあるだろうがそれ以上に橙子の変化の方が気にかかるのだろう。だから、こんな辛気臭い顔をしている。
弟の可哀想な横顔に胃のムカつきが僅かに納まった気がした。さて、どう慰めてやるかと顎に手をかけると。
「ずっとあの野郎のところにいんのかな」
まるで迷子のガキみてぇな声だ。でも、あそこまで他の野郎に染まった好きな女を見ればそうなるのかもしんねぇな。オレはなんねぇけど。けど、この可愛い弟は違う。
とはいえ、オレが竜胆の言葉に何を返せるか。
「どうだろうな……」
そういえば橙子があいつの傍でいる期限を考えていなかった。そもそも1年そこいらであの巨大な組のすべてを梵天に譲渡できるかは難しい。その間に橙子が絆される可能性は十分に考えられる。ただ、あいつの忠誠心がまだオレらや梵天にあればすべてのことが完遂すれば戻って来る可能性はある。けど、そのとき戻って来る橙子が以前と同じかと考えたら難しい。
「戻ってくっかな?」
「さぁな」
オマエが望む橙子が戻って来るかもオレは分からない。そもそもあそこまで橙子が従順であるならば下手をすれば――。
「早くしねぇとガキとかできそうだよな」
笑いを孕んだ竜胆の声に視線を向ける。そこには唇を歪めて嗤う可愛い弟がいた。ああ。こいつはそんなにも橙子が執着しているのか。なら、あの野郎を笑えないぞと心の中で呟きながらもガキという選択肢に思考が冷めて熱される。
「ガキ、か」
「だって、あそこまで橙子が従順なんだぜ? ガキが欲しいってあの野郎が頼めば一人や二人ぐらい産むんじゃねぇか?」
「ぜってぇありえるわ」と零しながらストンと感情を落とした竜胆。まるで「地雷」と言っている様子だ。うんうん。でも、オレも分かるよ。あいつがあの男のガキを孕んで産むのは〝地雷〟だわ。けどな。竜胆、兄ちゃんはたとえ橙子があの野郎のガキを産んで、愛しんでいても――。
「殺せば問題ねぇだろ」
泣いて助けてほしいって懇願したって橙子の腕から奪って殺す。どんなに好きな女に似ていてもオレら兄弟の血が流れていなければ要らない。あ、オレらの血が流れていてもガキについては考えるけれど、橙子が欲しいって言うんなら一人くらいいいかな。
そのときは橙子に似てるといいな。
完全にやられた。
車の窓の外を見ながら腸かが煮えくり返る。ぐつぐつと腹の底が熱くて冷めることがない。それはあの野郎と――橙子に対して込み上げる怒りだ。
どうして、どうして、そこまで従順になるんだ。もう少し反感を持ってくれたっていいだろう。だのに、どうしてオレたちと同じくらい従順にあの男に従って、その色に染まろうとするんだ。
こう考えると橙子に対してだけ怒りを覚えている感じがする。だが、この状況を作り出したあの男のこともやっぱり腹が立つ。
よくよく思い出せばこの時期にあいつはあの男の妻になった。つまり、あのホテルのレストランで結婚記念日を祝いに来たんだろう。だからこそ、橙子は男の好みだろう格好をしていた。男は自分の色に染まりつつある橙子をオレらに見せつけたかったに違いねぇ。
随分と陰険な男だ。あの男は繋ぎ役にと橙子を選んだように見えるが誰がどう見たって橙子に男として執着している。惚れている。
気分が悪ぃ。煮え立った腸はついに気持ち悪さをもたらした。ムカムカしてくる胃に苛立ちながら横に座る弟を見る。
「辛気臭い顔すんなよ」
オレまで辛気臭くなるだろう。竜胆の顔は苛立ちもあるだろうがそれ以上に橙子の変化の方が気にかかるのだろう。だから、こんな辛気臭い顔をしている。
弟の可哀想な横顔に胃のムカつきが僅かに納まった気がした。さて、どう慰めてやるかと顎に手をかけると。
「ずっとあの野郎のところにいんのかな」
まるで迷子のガキみてぇな声だ。でも、あそこまで他の野郎に染まった好きな女を見ればそうなるのかもしんねぇな。オレはなんねぇけど。けど、この可愛い弟は違う。
とはいえ、オレが竜胆の言葉に何を返せるか。
「どうだろうな……」
そういえば橙子があいつの傍でいる期限を考えていなかった。そもそも1年そこいらであの巨大な組のすべてを梵天に譲渡できるかは難しい。その間に橙子が絆される可能性は十分に考えられる。ただ、あいつの忠誠心がまだオレらや梵天にあればすべてのことが完遂すれば戻って来る可能性はある。けど、そのとき戻って来る橙子が以前と同じかと考えたら難しい。
「戻ってくっかな?」
「さぁな」
オマエが望む橙子が戻って来るかもオレは分からない。そもそもあそこまで橙子が従順であるならば下手をすれば――。
「早くしねぇとガキとかできそうだよな」
笑いを孕んだ竜胆の声に視線を向ける。そこには唇を歪めて嗤う可愛い弟がいた。ああ。こいつはそんなにも橙子が執着しているのか。なら、あの野郎を笑えないぞと心の中で呟きながらもガキという選択肢に思考が冷めて熱される。
「ガキ、か」
「だって、あそこまで橙子が従順なんだぜ? ガキが欲しいってあの野郎が頼めば一人や二人ぐらい産むんじゃねぇか?」
「ぜってぇありえるわ」と零しながらストンと感情を落とした竜胆。まるで「地雷」と言っている様子だ。うんうん。でも、オレも分かるよ。あいつがあの男のガキを孕んで産むのは〝地雷〟だわ。けどな。竜胆、兄ちゃんはたとえ橙子があの野郎のガキを産んで、愛しんでいても――。
「殺せば問題ねぇだろ」
泣いて助けてほしいって懇願したって橙子の腕から奪って殺す。どんなに好きな女に似ていてもオレら兄弟の血が流れていなければ要らない。あ、オレらの血が流れていてもガキについては考えるけれど、橙子が欲しいって言うんなら一人くらいいいかな。
そのときは橙子に似てるといいな。