最期を迎えるその日まで
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◆ 蘭視点
食事に拘りがあるようで拘りはない。嘘。やっぱり拘りあるわ。
目の前に広がる久々に見たまともな色鮮やかな朝食に苛立ちが込み上げる。こめかみを揉みながらテーブルの傍にいる名を聞いたが忘れた女に声をかける。
「なにこれ、」
「作ってみたの? どうかしら?」
女がはにかみながら首を傾げると明るい色をした髪が肩から滑る。つるりと肩から滑るそれが〝あいつ〟みたいで声をかけたのがきっかけだった気がする。でも、抱いたときの触り心地も、膣の中も、喘ぎ声も、何もかも違った。当たり前だ。この女とあいつは別の人間だし、あんな女がこの世に二人もいてたまるか。でも、他の女に比べれば幾分かマシだったから何度かこのセーフハウスに呼んだのだが間違いだった。
「勝手なことすんなよ」
「でも、せっかくだから」
女を冷ややかに見れば肩を縮こませた。ああ。いかにも女って感じがだりぃ。いや、あいつだって女だった。そうじゃねぇんだよ。なんか。やっぱりちがぇな。
オレも学習しねぇな。どうしてこう毎度下手な女を選らんじまうんだろうな。
「食わねぇし、出てけ」
水が飲みたいとキッチンに向かおうと足を動かす。けれど、すぐに素肌の背中に生暖かいものが抱き着いて来た。気色が悪ぃ。
「うっざ」
腰に回る柔くてしなやかな女の腕を外して振り払う。後ろで鈍い音がしたがどうでもいい。つか、何ぶってんだよ。
半歩下がって尻もちをついているだろう女を見下ろす。
途端、女のカラコンで色を変えた大きくした瞳 が期待に輝く。うんざりする。
「もうねぇから」
「っ、そんな」
期待に輝いていた瞳 が砕け散って潤ませる。うざい。その瞳 がまたウザい。あいつはそんな瞳ぜってぇしない。ああ、もうなんでこんなにあいつの代わりがいねぇんだよ。
「いいから出てけ」
もう女の生暖かい柔い肌に触れたくなかった。だから、さっさと行けと言うが女は中々立ち上がらない。寧ろ尻もちから四つん這いになってにじり寄って来る。気色悪ぃな。
「さわんな」
あと少しでオレのスウェットに触れそうになったときに足が自然に動いた。足は女の顔、いや、顎に当った。うげ。きもい。
すぐに足を床に擦りつける。つか、顎になんか当たったら失神すんじゃねぇの。
うげっとすぐに女を見れば想像していた通り落ちていた。ぐったりとしている。
「チッ」
舌打ちして手にしていたスマホで電話をかける。もちろん。電話の相手は優秀なあいつの部下。あいつは何のつもりか。自身の優秀な部下を置き土産と言わんばかりに置いて行った。その部下を使いっぱしりにするのは勿体ないが対処が上手いな。
「女の処理よろしく」
相手は一言応えると電話を切った。どうやらオレがどこのセーフハウスを使っているのか把握しているらしい。そこまでしなくてもと思うがこういうときにありがたい。
スマホを片手にテーブルに並んだ色鮮やかな食事を見て眉を顰めすぐ視線を逸らした。
本当はシャワーを浴びたかったが女が起きたときが面倒だ。昨夜来ていたシャツにスーツを着る。そのまま部屋を出てエントランスホールで待つことにした。
事務所でシャワー浴びてから見回りに行くか。スマホを弄りながら考えていると「蘭さん」と呼ばれる。顔を上げればいつもの厳つい顔があった。
「相変わらず早ぇな」
「いえ。処理いつものように?」
軽く返事をすれば目礼して最後に「迎えが待っています」と一言残しエレベーターに向かって行った。デカい背中を見送ることなく組んでいた足を解いて立ち上がる。そのまま迎えが来ている出入り口に向かって歩き出した。
「事務所でシャワー浴びっから」
「はい。分かりました。スーツはどうします?」
「事務所にあるやつでいいよ。あ、これはクリーニングで」
「かしこまりました」
相方の強面とは打って変わって今どきらしい顔の男が頷く。こちらもあっちと同じくらい優秀だ。にしても、両方揃っているのも珍しい。
「竜胆は?」
「事務所にお送りした後です。今はシャワーを浴びているかと」
「なにあいつも朝帰りなわけ?」
「はい」
最近、こういうことがよくあんな。
橙子があの男と結婚してから竜胆はちょっと荒れた。いや、別にガキの頃みたいな荒れるとかはなかった。ただ、短気に拍車がかかった感じ。部下を千切っては投げ、千切っては投げなんてして三途や鶴蝶からどうにかしろと苦言があったくらいだ。
オレも流石にこれ以上人員を削られるのはごめんだったからすげぇ頑張った。今は千切って投げることはしなくなった。落ち着いてくれてマジでよかった。
「なぁ。今、竜胆ってどんな女と遊んでんの?」
「ぇ、あ、その昨夜は遊んでいたわけではないのですが……」
歯切れの悪い様子にオレはひとり合点がいってこめかみを揉む。
「また行ったか」
「……処分してもよろしいんですが」
遠慮がちに言われてすぐに「そうするか」と即答できない自分がイヤになる。
竜胆のことも馬鹿にできない。オレもまだあの部屋を手放すことができない。とんだ軟弱野郎だ。
「蘭さん?」
「当面の間はあのままでいい。あの部屋のお蔭で落ち着いてんだろうし」
「そうですか……」
「うん」
って、言いながらただの言い訳。竜胆を使った言い訳。
どんなに気に入った女だったとしてもいつもならもう名残もない。だのに、あいつは今でもオレら兄弟の中で居座ってる。ほんとどうしてくれんだよ。
「ほんと厄介な女だ」
食事に拘りがあるようで拘りはない。嘘。やっぱり拘りあるわ。
目の前に広がる久々に見たまともな色鮮やかな朝食に苛立ちが込み上げる。こめかみを揉みながらテーブルの傍にいる名を聞いたが忘れた女に声をかける。
「なにこれ、」
「作ってみたの? どうかしら?」
女がはにかみながら首を傾げると明るい色をした髪が肩から滑る。つるりと肩から滑るそれが〝あいつ〟みたいで声をかけたのがきっかけだった気がする。でも、抱いたときの触り心地も、膣の中も、喘ぎ声も、何もかも違った。当たり前だ。この女とあいつは別の人間だし、あんな女がこの世に二人もいてたまるか。でも、他の女に比べれば幾分かマシだったから何度かこのセーフハウスに呼んだのだが間違いだった。
「勝手なことすんなよ」
「でも、せっかくだから」
女を冷ややかに見れば肩を縮こませた。ああ。いかにも女って感じがだりぃ。いや、あいつだって女だった。そうじゃねぇんだよ。なんか。やっぱりちがぇな。
オレも学習しねぇな。どうしてこう毎度下手な女を選らんじまうんだろうな。
「食わねぇし、出てけ」
水が飲みたいとキッチンに向かおうと足を動かす。けれど、すぐに素肌の背中に生暖かいものが抱き着いて来た。気色が悪ぃ。
「うっざ」
腰に回る柔くてしなやかな女の腕を外して振り払う。後ろで鈍い音がしたがどうでもいい。つか、何ぶってんだよ。
半歩下がって尻もちをついているだろう女を見下ろす。
途端、女のカラコンで色を変えた大きくした
「もうねぇから」
「っ、そんな」
期待に輝いていた
「いいから出てけ」
もう女の生暖かい柔い肌に触れたくなかった。だから、さっさと行けと言うが女は中々立ち上がらない。寧ろ尻もちから四つん這いになってにじり寄って来る。気色悪ぃな。
「さわんな」
あと少しでオレのスウェットに触れそうになったときに足が自然に動いた。足は女の顔、いや、顎に当った。うげ。きもい。
すぐに足を床に擦りつける。つか、顎になんか当たったら失神すんじゃねぇの。
うげっとすぐに女を見れば想像していた通り落ちていた。ぐったりとしている。
「チッ」
舌打ちして手にしていたスマホで電話をかける。もちろん。電話の相手は優秀なあいつの部下。あいつは何のつもりか。自身の優秀な部下を置き土産と言わんばかりに置いて行った。その部下を使いっぱしりにするのは勿体ないが対処が上手いな。
「女の処理よろしく」
相手は一言応えると電話を切った。どうやらオレがどこのセーフハウスを使っているのか把握しているらしい。そこまでしなくてもと思うがこういうときにありがたい。
スマホを片手にテーブルに並んだ色鮮やかな食事を見て眉を顰めすぐ視線を逸らした。
本当はシャワーを浴びたかったが女が起きたときが面倒だ。昨夜来ていたシャツにスーツを着る。そのまま部屋を出てエントランスホールで待つことにした。
事務所でシャワー浴びてから見回りに行くか。スマホを弄りながら考えていると「蘭さん」と呼ばれる。顔を上げればいつもの厳つい顔があった。
「相変わらず早ぇな」
「いえ。処理いつものように?」
軽く返事をすれば目礼して最後に「迎えが待っています」と一言残しエレベーターに向かって行った。デカい背中を見送ることなく組んでいた足を解いて立ち上がる。そのまま迎えが来ている出入り口に向かって歩き出した。
「事務所でシャワー浴びっから」
「はい。分かりました。スーツはどうします?」
「事務所にあるやつでいいよ。あ、これはクリーニングで」
「かしこまりました」
相方の強面とは打って変わって今どきらしい顔の男が頷く。こちらもあっちと同じくらい優秀だ。にしても、両方揃っているのも珍しい。
「竜胆は?」
「事務所にお送りした後です。今はシャワーを浴びているかと」
「なにあいつも朝帰りなわけ?」
「はい」
最近、こういうことがよくあんな。
橙子があの男と結婚してから竜胆はちょっと荒れた。いや、別にガキの頃みたいな荒れるとかはなかった。ただ、短気に拍車がかかった感じ。部下を千切っては投げ、千切っては投げなんてして三途や鶴蝶からどうにかしろと苦言があったくらいだ。
オレも流石にこれ以上人員を削られるのはごめんだったからすげぇ頑張った。今は千切って投げることはしなくなった。落ち着いてくれてマジでよかった。
「なぁ。今、竜胆ってどんな女と遊んでんの?」
「ぇ、あ、その昨夜は遊んでいたわけではないのですが……」
歯切れの悪い様子にオレはひとり合点がいってこめかみを揉む。
「また行ったか」
「……処分してもよろしいんですが」
遠慮がちに言われてすぐに「そうするか」と即答できない自分がイヤになる。
竜胆のことも馬鹿にできない。オレもまだあの部屋を手放すことができない。とんだ軟弱野郎だ。
「蘭さん?」
「当面の間はあのままでいい。あの部屋のお蔭で落ち着いてんだろうし」
「そうですか……」
「うん」
って、言いながらただの言い訳。竜胆を使った言い訳。
どんなに気に入った女だったとしてもいつもならもう名残もない。だのに、あいつは今でもオレら兄弟の中で居座ってる。ほんとどうしてくれんだよ。
「ほんと厄介な女だ」