すべて奪われたかった
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◆ 蘭視点
気が動転している竜胆からスマホを奪って首領の前に行く。
三途が喧しくするが無視して輝きのない瞳をした首領に声をかける。
「オレらの女に接触してきた男から連絡」
「は?」鶴蝶の方から気の抜けた声がした。まぁそういう反応になるよな。だが、三途は違った。喧しかったお綺麗な唇を閉じて「あいつか?」とすぐに聞いて来る。頭の回転が速くて助かる。
「おいおい。オマエらだけで話を進めんな」
『そうですよ。灰谷蘭さん、ちゃんと周りの方々にも説明しないと』
ムカつくくらい爽やかな声に竜胆のスマホを握る手に力が入りかける。でも、これで奴の声は聞こえたのだろう。周りの気配が途端に緊張を帯びたものになる。よし。煽ってくれて助かるわ。
「拉致られたのか?」
三途の声は心配とかそうではないだろう。でも、顔見知りや一時でも愛人役をしたのか情のようなものが見える。短い時間にそれほどの仲になったわけ? 意外だわ。
普段だったら揶揄うが今はそういう場合じゃない。分からない、と答えようとしたオレに変わってスマホが答えた。
『いえ。拉致ではなく僕が彼女のいるホテルの部屋にお邪魔しています』
は? お邪魔している? 護衛がいるつってもそれ以前にオレら以外の人間は入れないエリアになっているはずだ。何やってんだ。
『危害も加えていません。ただ、お話するには彼女はとても重要な立場なので』
何が重要なんだ。そもそもこいつの目的も分からない。苛立ちが募る中、明司が「どういう意味だ」と冷静な声で訊ねる。
『あ。まずはご挨拶しなければいけませんね』
『すっかり忘れていました』と場違いな朗らかさだ。どうやら明司の質問に答える気はないらしく、自分のペースで話を進めたいらしい。ここにいる奴らも馬鹿じゃない。
オレは三途を見れば三途は顎をしゃくった。どうやらあっちのペースに乗ってみようと言うらしい。仕方ねぇ。何せオレらはこいつの情報を一切持っていない。
「アンタ、だれ?」
首領の感情の起伏がない声でスマホの向こう側に声をかける。
『僕は貴方たちが死ぬことを望んでいた古狸の最後の隠し子ですよ』
息を飲む声は一体誰のものか。それともオレ自身のものか。
まさかあの古狸にまだ隠し子がいたなんて。なら、この男がどうして今になって動いたのか分かる。だが、どうして橙子に接触したんだ。それだけはまだ分からない。
『古狸は死んだというのは、そこに幹部が勢ぞろいしているところから掴んでいるでしょう』
何もかもお見通しって言う感じが不愉快さを掻き立たせる。
男はオレたちの神経を逆なでさせながら柔らかな声音で話を続けていく。
『僕は貴方たちに協力したいんです』
協力という言葉に再び空気が動く。オレはすぐに三途たちを見るが一様に眉を寄せている。ただ、変わらず首領だけ無表情で感情の動きが読めない。でも、止めないところからこいつに話しを続けさせていいってことだろう。
『僕はね、別に組の事はどうでもいいんです。ただ、どうにも腹立たしさだけはある』
柔らかい声音が急激に冷え込んだ声になった。どうやら古狸が戦後から大事に成長させた組のことを憎んでいるらしい。その理由は何となく想像できる。だが、よくここまで見つからなかったもんだ。にしても協力っていうのはどういう意味だ。
「協力っていうのはどうしてくれるんだ?」
鶴蝶がすかさず訊くと小さく笑いが声が聞こえると『すべてです』と男が答えた。
『組のすべてを貴方たちが手に入れられるようにです』
「それはオレらが組から掠め取ろうとしているもんをか?」
『はい。まぁ、そのためには僕が組長にならなければいけないんですが、』
つまり、まずは組長になれるようにオレたちが協力しろってことなのか。認知もされていなさそうな男を組長にできるのか。だが、花屋の撤退の手際の良さを考えると組側に協力者がいると考えられる。組内部の対立構造が容易に想像できる。
「オマエに協力する組側の人間はいるのか」
『もちろん。ただ、僕の本当の目的を知っているのは貴方たちだけです』
鶴蝶が改めて訊ねると男は容易く答えた。男の言葉に鶴蝶が「首領どうする」と訊ねた。オレは自然と首領を見た。首領は考える素振りもなにも見せず血色の悪い唇を動かした。
「テメェが裏切らない証しはどうすんだ」
感情の起伏が感じられない言葉に思考が動いて男が橙子を付け狙った意味を理解した。橙子をオレらが一等気に入っているから狙ったならば他の幹部のそういう女でもいい。だが、あいつらは橙子の才覚に目を着けたに違いない。
『ふふ。お気づきかと思いますが、彼女が梵天に入り灰谷ご兄弟の花屋を仕切り初めてからだいぶ繁盛していますよね? それに彼女のそうした筋の情報は貴重だ』
「その女を繋ぎにしてぇってことか」
『はい。できれば僕の妻として』
は? こいつ今なんつった?
一瞬だけ首領の視線が向けられた気がして見るけれどもう首領視線はオレの手元だった。
「そうする方が何かといいのか」
『はい。体のいい人質になりますし色々楽でしょう』
「そうか。たかが愛人だ。切り捨てるなんて簡単だぞ」
心臓が跳ねる。首領にとっては確かにたかが愛人だ。けれど、それは首領や組織にとってで、オレらにとっては――。
「まぁ、ことが進むならいい」
「だろ、蘭、竜胆?」首領の言葉がずっしり重く圧し掛かる。それにオレらは否を言える権利はない。背後にいるだろう竜胆を肩越しに見る。
オレによく似た目がこっちを凝視している。縋るような目をすんなよ、と心の中で返しながら視線を外す。
もうどうしようもできねぇよ。
三途を見れば情もなくただ「仕方ねぇだろ」と言っているように感じた。まぁ、確かに仕方ねぇよな。
オレは肩をすくめて「いいよ」と何でもない風に答える。ほんとに何でもないように見えただろうか。上手く取り繕えたのか首領は「なら」と話しを進める。
「その話に乗る」
『即決ありがとうございます。では、話し合いですが早速明日に――』
「待て。その前にテメェの顔を見せろ」
遮るように三途がスマホの向こう側に言う。男は「ああ……そうですね」と言った。
その言葉にすぐにテレビ電話に切り替える。映った男は橙子が言った通りだった。
柔らかい目元で朗らかな整った面立ち。一見すればこちらの世界に縁の無さそうな好青年にも見える。だがこういう奴が一番食えないのも知っている。
『さて顔合わせも出来ました。では、失礼します』
電話はそれを最後に通信が途切れた。
気が動転している竜胆からスマホを奪って首領の前に行く。
三途が喧しくするが無視して輝きのない瞳をした首領に声をかける。
「オレらの女に接触してきた男から連絡」
「は?」鶴蝶の方から気の抜けた声がした。まぁそういう反応になるよな。だが、三途は違った。喧しかったお綺麗な唇を閉じて「あいつか?」とすぐに聞いて来る。頭の回転が速くて助かる。
「おいおい。オマエらだけで話を進めんな」
『そうですよ。灰谷蘭さん、ちゃんと周りの方々にも説明しないと』
ムカつくくらい爽やかな声に竜胆のスマホを握る手に力が入りかける。でも、これで奴の声は聞こえたのだろう。周りの気配が途端に緊張を帯びたものになる。よし。煽ってくれて助かるわ。
「拉致られたのか?」
三途の声は心配とかそうではないだろう。でも、顔見知りや一時でも愛人役をしたのか情のようなものが見える。短い時間にそれほどの仲になったわけ? 意外だわ。
普段だったら揶揄うが今はそういう場合じゃない。分からない、と答えようとしたオレに変わってスマホが答えた。
『いえ。拉致ではなく僕が彼女のいるホテルの部屋にお邪魔しています』
は? お邪魔している? 護衛がいるつってもそれ以前にオレら以外の人間は入れないエリアになっているはずだ。何やってんだ。
『危害も加えていません。ただ、お話するには彼女はとても重要な立場なので』
何が重要なんだ。そもそもこいつの目的も分からない。苛立ちが募る中、明司が「どういう意味だ」と冷静な声で訊ねる。
『あ。まずはご挨拶しなければいけませんね』
『すっかり忘れていました』と場違いな朗らかさだ。どうやら明司の質問に答える気はないらしく、自分のペースで話を進めたいらしい。ここにいる奴らも馬鹿じゃない。
オレは三途を見れば三途は顎をしゃくった。どうやらあっちのペースに乗ってみようと言うらしい。仕方ねぇ。何せオレらはこいつの情報を一切持っていない。
「アンタ、だれ?」
首領の感情の起伏がない声でスマホの向こう側に声をかける。
『僕は貴方たちが死ぬことを望んでいた古狸の最後の隠し子ですよ』
息を飲む声は一体誰のものか。それともオレ自身のものか。
まさかあの古狸にまだ隠し子がいたなんて。なら、この男がどうして今になって動いたのか分かる。だが、どうして橙子に接触したんだ。それだけはまだ分からない。
『古狸は死んだというのは、そこに幹部が勢ぞろいしているところから掴んでいるでしょう』
何もかもお見通しって言う感じが不愉快さを掻き立たせる。
男はオレたちの神経を逆なでさせながら柔らかな声音で話を続けていく。
『僕は貴方たちに協力したいんです』
協力という言葉に再び空気が動く。オレはすぐに三途たちを見るが一様に眉を寄せている。ただ、変わらず首領だけ無表情で感情の動きが読めない。でも、止めないところからこいつに話しを続けさせていいってことだろう。
『僕はね、別に組の事はどうでもいいんです。ただ、どうにも腹立たしさだけはある』
柔らかい声音が急激に冷え込んだ声になった。どうやら古狸が戦後から大事に成長させた組のことを憎んでいるらしい。その理由は何となく想像できる。だが、よくここまで見つからなかったもんだ。にしても協力っていうのはどういう意味だ。
「協力っていうのはどうしてくれるんだ?」
鶴蝶がすかさず訊くと小さく笑いが声が聞こえると『すべてです』と男が答えた。
『組のすべてを貴方たちが手に入れられるようにです』
「それはオレらが組から掠め取ろうとしているもんをか?」
『はい。まぁ、そのためには僕が組長にならなければいけないんですが、』
つまり、まずは組長になれるようにオレたちが協力しろってことなのか。認知もされていなさそうな男を組長にできるのか。だが、花屋の撤退の手際の良さを考えると組側に協力者がいると考えられる。組内部の対立構造が容易に想像できる。
「オマエに協力する組側の人間はいるのか」
『もちろん。ただ、僕の本当の目的を知っているのは貴方たちだけです』
鶴蝶が改めて訊ねると男は容易く答えた。男の言葉に鶴蝶が「首領どうする」と訊ねた。オレは自然と首領を見た。首領は考える素振りもなにも見せず血色の悪い唇を動かした。
「テメェが裏切らない証しはどうすんだ」
感情の起伏が感じられない言葉に思考が動いて男が橙子を付け狙った意味を理解した。橙子をオレらが一等気に入っているから狙ったならば他の幹部のそういう女でもいい。だが、あいつらは橙子の才覚に目を着けたに違いない。
『ふふ。お気づきかと思いますが、彼女が梵天に入り灰谷ご兄弟の花屋を仕切り初めてからだいぶ繁盛していますよね? それに彼女のそうした筋の情報は貴重だ』
「その女を繋ぎにしてぇってことか」
『はい。できれば僕の妻として』
は? こいつ今なんつった?
一瞬だけ首領の視線が向けられた気がして見るけれどもう首領視線はオレの手元だった。
「そうする方が何かといいのか」
『はい。体のいい人質になりますし色々楽でしょう』
「そうか。たかが愛人だ。切り捨てるなんて簡単だぞ」
心臓が跳ねる。首領にとっては確かにたかが愛人だ。けれど、それは首領や組織にとってで、オレらにとっては――。
「まぁ、ことが進むならいい」
「だろ、蘭、竜胆?」首領の言葉がずっしり重く圧し掛かる。それにオレらは否を言える権利はない。背後にいるだろう竜胆を肩越しに見る。
オレによく似た目がこっちを凝視している。縋るような目をすんなよ、と心の中で返しながら視線を外す。
もうどうしようもできねぇよ。
三途を見れば情もなくただ「仕方ねぇだろ」と言っているように感じた。まぁ、確かに仕方ねぇよな。
オレは肩をすくめて「いいよ」と何でもない風に答える。ほんとに何でもないように見えただろうか。上手く取り繕えたのか首領は「なら」と話しを進める。
「その話に乗る」
『即決ありがとうございます。では、話し合いですが早速明日に――』
「待て。その前にテメェの顔を見せろ」
遮るように三途がスマホの向こう側に言う。男は「ああ……そうですね」と言った。
その言葉にすぐにテレビ電話に切り替える。映った男は橙子が言った通りだった。
柔らかい目元で朗らかな整った面立ち。一見すればこちらの世界に縁の無さそうな好青年にも見える。だがこういう奴が一番食えないのも知っている。
『さて顔合わせも出来ました。では、失礼します』
電話はそれを最後に通信が途切れた。