こころの隅に錆を飼う
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◇ 夢主視点
「ひっでぇ顔してんなぁ」
「え?」
ケラケラと笑い声がしてパッと前を向くとそこには兄さんがいた。兄さんは私の顔を見て顔をくしゃっと笑って前髪を払ってっくれた。随分と乱暴にだけど。
「ちょ、ちょっと、兄さん」
「はは。悪ぃって」
「もう」
前髪を直しながら兄さんの顔をとっくり見る。
最期に見たときは頬がこけて目の下には深く隈が刻まれていた。けど今目の前にいる兄さんは溌剌だった頃の姿だ。
「ん? なんだよ?」
「いや、随分元気そうだなって」
「なんだそれ」
目尻を下げて笑う顔は私によく似ている。誰がそう言ったっけ。お爺様だっけ、それともお父様だっけ。とりあえず、母親が違うにも関わらず私たち兄妹は似ているらしい。
「お前、急性アルコール中毒になんなよ」
「そこまでバカな飲み方してないよ」
目尻を下げてまた笑った。何が面白いんだか。にしてもこうもはっきり聞こえるなんて鮮明な夢――あ、これ夢か。
「兄さんもう死んだんだものね」
「……おう」
途端一気に兄さんが老け込んで背筋に冷たいものが伝う。今私は夢から冷めようとしている。イヤだと思う。けれど、目の前の兄さんの姿が死に際の、死ぬ間際の姿に変貌していく。夢が醒めるのだ。
「お前は――?」
「え? なに?」
何か億劫そうに兄さんが言うけれど声も掠れて聞こえない。そうだ。最期もそんなで本当の最期の言葉を義姐さんさえ聞き取ることができなかった。だのに、あのクソ野郎は――あっ。
「兄さん! あいつ殺したの! もういないのよ!」
その代償として組を失くしてしまったけれど。これで誰も、組の皆も苦しむことはないの。ごめん。でも、安心して。
「それじゃあ、お前――――だろ」
悲し気に目を伏せた兄さんの言葉ははっきりと聞こえなかった。そして、この夢から覚めるように兄さんは霞のように消えていった。
「ぅっ」
重い瞼を上げるとぼんやりと見慣れた景色が見えた。
昨日、どうやって帰って来たんだっけとアルコールにやられた脳味噌で考える。ふと、最後に行ったバーで蘭様と竜胆様がいらっしゃったんだ。それから、えっと、あー。
次々に思い出していく中でお二人に迷惑をかけたことをしっかりと思い出す。
「あぁ゛やらかしたぁ゛」
酒で焼けた声を整えるために「んん゛」と喉を鳴らす。それからハァと溜息をついて身体を起そうとして違和感を覚える。
「あ゛?」
布団を徐に捲ると――下着だった。いや、厳密に言うとブラジャーがないのでパンイチの状態だった。自分で脱いだ記憶がない。というか、車まで来たところで意識がない。つまり、まさか。
「まぁ。いいか」
いや、よくない。自分で脱いだらいいけれど蘭様または竜胆様が脱がせてくれたなら申し訳ない。ただ、何故パンイチよ。
「うっ、ぁ~、ダル」
今日の出勤は夕方だからその時間まで寝よう。このままもう一度寝ようとしたけれどやっぱりシャワーも浴びたいし、喉も乾いた。
「起きよ」
だる、だる、だるぅ、と心の中で唱えながら何とか起き上がる。そして、ベッドから降りたときだった。枕元にあるスマホがあるのに気付く。
あ、蘭様と竜胆様にお詫びのメッセージを送らないと。徐にスマホを手に取ってロックを開けると。
「あ」
お二人からちゃんとメッセージが届いていた。すぐにアプリを押してそれぞれのメッセージを見て首を傾げた。
蘭様も竜胆様も今日も休んでいいというありがたいお言葉と共に一緒に出掛けようと言うお誘いがあった。それぞれ送っているところから三人で一緒というわけではなさそうだ。
珍しいことではないけれど態々こうしたメッセージをもらったのは初めてだった。
それに少しだけ緊張する。もしかして、今回のことで何かお咎めが。竜胆様にしっかりとやらかした自覚はある。けど、じゃあ、蘭様はなに。
「なにかしら」
引っ込んでいた冷や汗をかきながら私は暫く返事を出せなかった。
**タイトル**
お題配布サイト『天文学』様から
お題『そして雨の奇跡が終わる』より抜粋
「ひっでぇ顔してんなぁ」
「え?」
ケラケラと笑い声がしてパッと前を向くとそこには兄さんがいた。兄さんは私の顔を見て顔をくしゃっと笑って前髪を払ってっくれた。随分と乱暴にだけど。
「ちょ、ちょっと、兄さん」
「はは。悪ぃって」
「もう」
前髪を直しながら兄さんの顔をとっくり見る。
最期に見たときは頬がこけて目の下には深く隈が刻まれていた。けど今目の前にいる兄さんは溌剌だった頃の姿だ。
「ん? なんだよ?」
「いや、随分元気そうだなって」
「なんだそれ」
目尻を下げて笑う顔は私によく似ている。誰がそう言ったっけ。お爺様だっけ、それともお父様だっけ。とりあえず、母親が違うにも関わらず私たち兄妹は似ているらしい。
「お前、急性アルコール中毒になんなよ」
「そこまでバカな飲み方してないよ」
目尻を下げてまた笑った。何が面白いんだか。にしてもこうもはっきり聞こえるなんて鮮明な夢――あ、これ夢か。
「兄さんもう死んだんだものね」
「……おう」
途端一気に兄さんが老け込んで背筋に冷たいものが伝う。今私は夢から冷めようとしている。イヤだと思う。けれど、目の前の兄さんの姿が死に際の、死ぬ間際の姿に変貌していく。夢が醒めるのだ。
「お前は――?」
「え? なに?」
何か億劫そうに兄さんが言うけれど声も掠れて聞こえない。そうだ。最期もそんなで本当の最期の言葉を義姐さんさえ聞き取ることができなかった。だのに、あのクソ野郎は――あっ。
「兄さん! あいつ殺したの! もういないのよ!」
その代償として組を失くしてしまったけれど。これで誰も、組の皆も苦しむことはないの。ごめん。でも、安心して。
「それじゃあ、お前――――だろ」
悲し気に目を伏せた兄さんの言葉ははっきりと聞こえなかった。そして、この夢から覚めるように兄さんは霞のように消えていった。
「ぅっ」
重い瞼を上げるとぼんやりと見慣れた景色が見えた。
昨日、どうやって帰って来たんだっけとアルコールにやられた脳味噌で考える。ふと、最後に行ったバーで蘭様と竜胆様がいらっしゃったんだ。それから、えっと、あー。
次々に思い出していく中でお二人に迷惑をかけたことをしっかりと思い出す。
「あぁ゛やらかしたぁ゛」
酒で焼けた声を整えるために「んん゛」と喉を鳴らす。それからハァと溜息をついて身体を起そうとして違和感を覚える。
「あ゛?」
布団を徐に捲ると――下着だった。いや、厳密に言うとブラジャーがないのでパンイチの状態だった。自分で脱いだ記憶がない。というか、車まで来たところで意識がない。つまり、まさか。
「まぁ。いいか」
いや、よくない。自分で脱いだらいいけれど蘭様または竜胆様が脱がせてくれたなら申し訳ない。ただ、何故パンイチよ。
「うっ、ぁ~、ダル」
今日の出勤は夕方だからその時間まで寝よう。このままもう一度寝ようとしたけれどやっぱりシャワーも浴びたいし、喉も乾いた。
「起きよ」
だる、だる、だるぅ、と心の中で唱えながら何とか起き上がる。そして、ベッドから降りたときだった。枕元にあるスマホがあるのに気付く。
あ、蘭様と竜胆様にお詫びのメッセージを送らないと。徐にスマホを手に取ってロックを開けると。
「あ」
お二人からちゃんとメッセージが届いていた。すぐにアプリを押してそれぞれのメッセージを見て首を傾げた。
蘭様も竜胆様も今日も休んでいいというありがたいお言葉と共に一緒に出掛けようと言うお誘いがあった。それぞれ送っているところから三人で一緒というわけではなさそうだ。
珍しいことではないけれど態々こうしたメッセージをもらったのは初めてだった。
それに少しだけ緊張する。もしかして、今回のことで何かお咎めが。竜胆様にしっかりとやらかした自覚はある。けど、じゃあ、蘭様はなに。
「なにかしら」
引っ込んでいた冷や汗をかきながら私は暫く返事を出せなかった。
**タイトル**
お題配布サイト『天文学』様から
お題『そして雨の奇跡が終わる』より抜粋
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