こころの隅に錆を飼う
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◇ 夢主視点
最後は夜景の見えるバーで飲みたかった。その願いも叶って私の目の前にはキラキラした夜の世界を見つめながらカクテルに入っていたチェリーを口に放り込む。酒の沁み込んだチェリーはさらに甘くなったような気がして美味しい。
「随分美味そうに食ってんじゃん」
聞き慣れた声に思わず口の中でもごもごしていたチェリーを飲み込む。ぐっと喉の中間で突っかかって慌ててカクテルを飲む。すると、声をかけられた反対側から「大丈夫かよ」と呆れた声がした。
「だ、だいじょうぶです、」
呆れた声を出した方に身体を向けて答えた。声の持ち主はやっぱり竜胆様だった。
透明な液体の入ったグラスを大きな手で持って首を傾げて眉を下げていた。それだけ見ると可愛い青年の背伸びに見える。けど、端々に感じる大人の男の雰囲気でクラクラしそう。いや、私の頭がアルコール回っているじゃなくて、素面のときに見ても絶対クラクラする。ぼぅっと竜胆様に見惚れていると肩を掴まれて身体が無理矢理振り向かされる。
「オレもいるけど」
琥珀色の液体が入ったグラスを揺らす蘭様が目を合わせながら艶っぽく囁く。この夜特有の艶やかさに一体どれくらいの人間が堕ちて道を踏み外したのかしら。私も堅気の人間だったらあっさり落とされてあっさり捨てられたに違いないわ。
いや、でも堅気の人間でなくとも私のことはトカゲのしっぽのようにあっさり見捨てられるんでしょうね。気に入られているという自負はあるけれど、所詮愛人だもの。
「オマエ、目がゆらゆらしてっけど平気?」
「まだ平気です」
覗き込んで来る顔に蘭様を見つめ返しながらしっかりと返す。そういえばもうカクテルグラスは空になってしまっていた。新しいのが飲みたい。
「お代わりしてきます」
「まだ飲むの?」
蘭様の呆れを含んだ声に顔を見ずに頷いて席を立ってカウンターに向かう。
カウンターに向かう道すがら何を飲もうかと考える。さっきのチェリーは美味しかった。またチェリーが入ってるやつが飲みたいな。あ、また甘いの飲もう。
「なにか甘いのください」
とにかく甘いの、と付け足すように言えばバーテンダーは頷いて作り始める。
滑らかによどみなく美しくカクテルが作られていく。何ができるのかなとワクワクしながら眺めているとあっという間にカクテルは完成した。
グラスに注がれる深みのある赤みのある琥珀色に目を瞠った。
「どうぞ」
「ありがとうございます……」
最後にチェリーを添えられて完成されたカクテルを手に取って目の高さまで上げる。
これは知っている。昔お酒が飲めるようになったときに連れて行ってもらったバーで見せてもらったことがある。
「マンハッタンですか?」
バーテンダーに訊ねると静かに頷いた。
私は静かに感動したと同時に急激な寂しさが込み上げて来た。
初めて見たときは「まだ子猫ちゃんには早いわよ」と飲ませてくれさえしなかった。
そんな子どもだった私は差し出される年齢になったのだ。このマンハッタンに見合う女になったことに感動した。けどそれを報告できる人がもうこの世にいないことがたまらなく寂しい。
「っ」
アルコールで緩んだ涙腺のせいで瞬く間に視界が揺れる。瞬きひとつしてしまえばそこからボロボロ涙が零れるだろう。いや、顔を動かした確実に涙が零れる。
いつまでもこのままいられない。仕方ないと瞬きをすると両目から涙が零れて頬を伝っていく。生暖かい涙はすぐに冷たくなる。グラスを置いて拭おうと手を持っていくが。
「よれんじゃねぇの?」
大きな手で握られて拭えなかった。パチパチと瞬きをして涙を押し出しながら滲む視界で手の持ち主を見る。
最後は夜景の見えるバーで飲みたかった。その願いも叶って私の目の前にはキラキラした夜の世界を見つめながらカクテルに入っていたチェリーを口に放り込む。酒の沁み込んだチェリーはさらに甘くなったような気がして美味しい。
「随分美味そうに食ってんじゃん」
聞き慣れた声に思わず口の中でもごもごしていたチェリーを飲み込む。ぐっと喉の中間で突っかかって慌ててカクテルを飲む。すると、声をかけられた反対側から「大丈夫かよ」と呆れた声がした。
「だ、だいじょうぶです、」
呆れた声を出した方に身体を向けて答えた。声の持ち主はやっぱり竜胆様だった。
透明な液体の入ったグラスを大きな手で持って首を傾げて眉を下げていた。それだけ見ると可愛い青年の背伸びに見える。けど、端々に感じる大人の男の雰囲気でクラクラしそう。いや、私の頭がアルコール回っているじゃなくて、素面のときに見ても絶対クラクラする。ぼぅっと竜胆様に見惚れていると肩を掴まれて身体が無理矢理振り向かされる。
「オレもいるけど」
琥珀色の液体が入ったグラスを揺らす蘭様が目を合わせながら艶っぽく囁く。この夜特有の艶やかさに一体どれくらいの人間が堕ちて道を踏み外したのかしら。私も堅気の人間だったらあっさり落とされてあっさり捨てられたに違いないわ。
いや、でも堅気の人間でなくとも私のことはトカゲのしっぽのようにあっさり見捨てられるんでしょうね。気に入られているという自負はあるけれど、所詮愛人だもの。
「オマエ、目がゆらゆらしてっけど平気?」
「まだ平気です」
覗き込んで来る顔に蘭様を見つめ返しながらしっかりと返す。そういえばもうカクテルグラスは空になってしまっていた。新しいのが飲みたい。
「お代わりしてきます」
「まだ飲むの?」
蘭様の呆れを含んだ声に顔を見ずに頷いて席を立ってカウンターに向かう。
カウンターに向かう道すがら何を飲もうかと考える。さっきのチェリーは美味しかった。またチェリーが入ってるやつが飲みたいな。あ、また甘いの飲もう。
「なにか甘いのください」
とにかく甘いの、と付け足すように言えばバーテンダーは頷いて作り始める。
滑らかによどみなく美しくカクテルが作られていく。何ができるのかなとワクワクしながら眺めているとあっという間にカクテルは完成した。
グラスに注がれる深みのある赤みのある琥珀色に目を瞠った。
「どうぞ」
「ありがとうございます……」
最後にチェリーを添えられて完成されたカクテルを手に取って目の高さまで上げる。
これは知っている。昔お酒が飲めるようになったときに連れて行ってもらったバーで見せてもらったことがある。
「マンハッタンですか?」
バーテンダーに訊ねると静かに頷いた。
私は静かに感動したと同時に急激な寂しさが込み上げて来た。
初めて見たときは「まだ子猫ちゃんには早いわよ」と飲ませてくれさえしなかった。
そんな子どもだった私は差し出される年齢になったのだ。このマンハッタンに見合う女になったことに感動した。けどそれを報告できる人がもうこの世にいないことがたまらなく寂しい。
「っ」
アルコールで緩んだ涙腺のせいで瞬く間に視界が揺れる。瞬きひとつしてしまえばそこからボロボロ涙が零れるだろう。いや、顔を動かした確実に涙が零れる。
いつまでもこのままいられない。仕方ないと瞬きをすると両目から涙が零れて頬を伝っていく。生暖かい涙はすぐに冷たくなる。グラスを置いて拭おうと手を持っていくが。
「よれんじゃねぇの?」
大きな手で握られて拭えなかった。パチパチと瞬きをして涙を押し出しながら滲む視界で手の持ち主を見る。