こころの隅に錆を飼う
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◆ 竜胆視点
「おい。橙子の墓参りに着いていけ」
事務所を出て車に乗り込むと兄貴が運転席に向かって言った。運転手にはあいつが連れて来た部下の内の一人がいる。本来はこの事務所であいつの護衛のために傍にいる。だが、橙子が連れてきた部下二人はそりゃもう優秀だった。だから今日みたいに一人はあいつの護衛、もう一人は兄貴やオレの補佐に着くことがある。
「姐さんと墓参りですか」
昔気質の口が重い男は車を静かに発進させながら囁くように答えた。
何だかその言葉が妙に引っかかった。兄貴もオレと同じだったらしく「何だ?」と聞き返す。それに1秒、2秒間を置いて「実は」と重苦しく口を開いた。
「その日の姐さんは墓参りした足で所縁の飲み屋を渡り歩いて最終的にセーフハウスに行って飲み潰れるんすよ。あと普段吸わない煙草をカートンで買って一日で空にするんです」
なんだそれ。オレは口をあんぐり開けて兄貴を見る。そしたら兄貴も目を見開いてオレを見ていた。よく似た顔をしているけれど驚き方はちょっと違うんだなとこういうときしみじみする。じゃねぇよ。そうじゃねぇよ。
「なにあいつ一日飲んだくれんの?」
「そうですね……何せあの野郎から解放される一日でもありますし……色々思うことはあるのかと」
飲まずに言わられないという状態だったのか。さっきあいつの様子がおかしかった理由が分かった。なるほど。あのクズが死んでもまだしっかりと橙子の中で刻まれているらしい。
途端苛立ちが込み上げる。あんなクズの影がまだあいつに影響しているなんて腹立たしい。すっかり抜けきったと思うがそれを打ち消すに半年という時間がまだ足りないらしい。絶対あのクズと過ごした時間よりも半年でもオレら兄弟といた方が濃いはずなのに。
「で、オマエが知ってるってことは見張ってたのか?」
兄貴の言葉で苛立ちの海から引き上げられる。そうだ。あいつは曲がりにもなりにも極妻だったんだ。落ちぶれているとはいえ歴史のある組の女。そんな女が単独行動できるはずがない。
「はい……あの男の指示もありましたが普通に心配でしたので」
重苦しい答えだった。こいつもきっと自由に動けなかったんだろう。弱い立場の男は大変だな。大切なものを守るのにも。
「今年はどうすんだ?」
オレら兄弟は橙子だけじゃなくてこの部下たちも許しを出している。あいつも今年は誘って行くんじゃないか。
「一緒に行くのは姐さん次第です」
「誘われなかったら?」
続いて訊けば「影ながら護衛します」とはっきりと答えた。おお。見事な忠臣っぷりだ。けど、それがいい。だから、安心して橙子を任せられる。きっと盾になってでも護るだろうし。
「じゃあさ」
「ん?」と横を向くと兄貴が薄い唇で微笑んでいた。それはもう楽しそうだった。
「仕事が片付き次第オレら合流すっから」
なーるほど。兄貴の考えが何となく分った。まぁ、あの真面目な女が飲んだくれる姿は見てぇし、煙草吹かす姿も見てみてぇよな。狂った姿とはまた違う荒んだ姿は確かにオレも見たい。興味深く楽しそうだ。
自然と口角が上がるのを見られたくなくて手のひらで覆い隠す。ま、兄貴にはバレてんだろうな。
「竜胆。その日はサッサと片付けんぞ」
「了解」
手を離して兄貴を見て答える。その顔は同じ顔していた。
「おい。橙子の墓参りに着いていけ」
事務所を出て車に乗り込むと兄貴が運転席に向かって言った。運転手にはあいつが連れて来た部下の内の一人がいる。本来はこの事務所であいつの護衛のために傍にいる。だが、橙子が連れてきた部下二人はそりゃもう優秀だった。だから今日みたいに一人はあいつの護衛、もう一人は兄貴やオレの補佐に着くことがある。
「姐さんと墓参りですか」
昔気質の口が重い男は車を静かに発進させながら囁くように答えた。
何だかその言葉が妙に引っかかった。兄貴もオレと同じだったらしく「何だ?」と聞き返す。それに1秒、2秒間を置いて「実は」と重苦しく口を開いた。
「その日の姐さんは墓参りした足で所縁の飲み屋を渡り歩いて最終的にセーフハウスに行って飲み潰れるんすよ。あと普段吸わない煙草をカートンで買って一日で空にするんです」
なんだそれ。オレは口をあんぐり開けて兄貴を見る。そしたら兄貴も目を見開いてオレを見ていた。よく似た顔をしているけれど驚き方はちょっと違うんだなとこういうときしみじみする。じゃねぇよ。そうじゃねぇよ。
「なにあいつ一日飲んだくれんの?」
「そうですね……何せあの野郎から解放される一日でもありますし……色々思うことはあるのかと」
飲まずに言わられないという状態だったのか。さっきあいつの様子がおかしかった理由が分かった。なるほど。あのクズが死んでもまだしっかりと橙子の中で刻まれているらしい。
途端苛立ちが込み上げる。あんなクズの影がまだあいつに影響しているなんて腹立たしい。すっかり抜けきったと思うがそれを打ち消すに半年という時間がまだ足りないらしい。絶対あのクズと過ごした時間よりも半年でもオレら兄弟といた方が濃いはずなのに。
「で、オマエが知ってるってことは見張ってたのか?」
兄貴の言葉で苛立ちの海から引き上げられる。そうだ。あいつは曲がりにもなりにも極妻だったんだ。落ちぶれているとはいえ歴史のある組の女。そんな女が単独行動できるはずがない。
「はい……あの男の指示もありましたが普通に心配でしたので」
重苦しい答えだった。こいつもきっと自由に動けなかったんだろう。弱い立場の男は大変だな。大切なものを守るのにも。
「今年はどうすんだ?」
オレら兄弟は橙子だけじゃなくてこの部下たちも許しを出している。あいつも今年は誘って行くんじゃないか。
「一緒に行くのは姐さん次第です」
「誘われなかったら?」
続いて訊けば「影ながら護衛します」とはっきりと答えた。おお。見事な忠臣っぷりだ。けど、それがいい。だから、安心して橙子を任せられる。きっと盾になってでも護るだろうし。
「じゃあさ」
「ん?」と横を向くと兄貴が薄い唇で微笑んでいた。それはもう楽しそうだった。
「仕事が片付き次第オレら合流すっから」
なーるほど。兄貴の考えが何となく分った。まぁ、あの真面目な女が飲んだくれる姿は見てぇし、煙草吹かす姿も見てみてぇよな。狂った姿とはまた違う荒んだ姿は確かにオレも見たい。興味深く楽しそうだ。
自然と口角が上がるのを見られたくなくて手のひらで覆い隠す。ま、兄貴にはバレてんだろうな。
「竜胆。その日はサッサと片付けんぞ」
「了解」
手を離して兄貴を見て答える。その顔は同じ顔していた。