こころの隅に錆を飼う
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◇ 夢主視点
2016年某月から7ヶ月
もうすぐあの日が近づく。あの日は一日胸の中心が重くなって、頭も上手く回んない。けど、それはまるで自分が弱っているようでイヤだった。だから、普段吸わない煙草と度数の高い酒で誤魔化すの。苦い煙を吹かして、喉を焼く様なアルコールを摂取して、ただ、ただ、時間が過ぎるのを待つ。太陽が昇ってまた沈んでいく。月が明るく輝いた頃に意識を失う。次に目を覚ましときにはいつもの自分に戻っている。頭ガンガン痛いけれどその日を迎えると強い自分に戻れたような気分だった――ほんとうは強くもないけれど。
「ぇ゛」
その日が近づくと寝不足になるし、ついでに緊張で胃が絞めつけらえるのか理由は分からないが吐き気が納まらない。特に墓参りの許しを貰うために伺いを立てる日の前日や当日の朝は酷い。今も朝からずっとシンクとお友だち状態。もう吐くものもないし、実際口の中は酸っぱいものが広がっている。
「はぁ、はっ」
吐き出したものを流すのに水を出す。ザァっと水が出る音に少しだけ緊張が和らぐ。ついでにあらかじめ用意して置いたグラスを手に取って水を灌ぐ。溢れるほど注いだ水で口をゆすぐ。何とか吐き気が納まった気がする。
「はぁ」
トンとグラスを置いてまた息を吐き出す。じっとしていると心臓の音が耳につくし、何か血の流れるような音が聞こえる。こういう日になると顕著に聞こえる音が嫌い。
「だいじょうぶ、」
弱っている自分自身に言い聞かせる。今年はあのクソ野郎から許しを貰うんじゃない。私は今あいつの妻ではなく梵天の灰谷ご兄弟の愛人。大丈夫。大丈夫よ。
「だいじょうぶ」
もう一度自分自身に言い聞かせるようにおまじないを口にする。
出勤するまで私はずっとそう言い聞かせ続けた。それでも緊張は抜けることなく事務所に来たお二人を前にして身体を強張らせる。
蘭様と竜胆様は目敏く私の様子に気づいて「なんだ」「どうした」とソファに座った。それにならって私もお二人の前のソファに着いて決死の思いで墓参りの許しを請うと――。
「いいぜ」
「別に構わねぇよ」
あっさりと墓参りの許可をくださった。拍子抜けというか、肩透かしを食らった気分。あまりにも簡単に許しをくれたものだから「ほんとうによろしいのですか?」と聞き返してしまった。
すると、お二人はよく似た顔できょとんと幼い表情をして揃って首を傾げた。
え。可愛い。けど、そんなに可笑しかったかしら。戸惑いに視線を泳がせる。
「いや、だって墓参りだろ?」
傾げた首を直しながら竜胆様が不思議そうな眼差しのまま言う。続いて蘭様が首を直しながら「オレらには縁はねぇけどオマエは違うんだろ」と言う。
「え、ええ。はい」
「じゃ、一日休んで行けよ」と竜胆様があっさりとした態度のまま言う。なんか想像していたのと違う。でも、改めて考えてみてもお二人が「ダメ」と却下する想像できなかった。なんで私はあれほど緊張して吐いていたんだろうか。もしかしたら習慣的に気持ち悪くなっていただけなのかもしれない。安心に緩んだ身体で私は頭を下げる。
「お許しありがとうございます」
「別にいいって……あ、そうだ。あいつらも行く?」
「え」
あいつらって、と顔を上げて訊く前に竜胆様が「ああ、あいつらね」と反応した。
だから誰と首を傾げる。私の反応にお二人が揃って「えぇ」と眉を下げた。その「ありえねぇよ」と言いたげな顔は何だろう。
「オマエ、流石にねぇよ」
「組の頃からの部下だろ?」
「あ、」
ようやく言わんとしていることに察すると綺麗な顔が揃って引いた顔をする。そんなお顔までしなくても、というかこれには訳がある。
蘭様と竜胆様は当たり前のように言ってくださるけれどあのクソは違った。あいつは私だけにしか許しをくれなかった。だから、最初から私一人で行くことしか頭になかった。
「もしかして、あいつはオマエだけだった?」
俯いていた顔を上げると蘭様が目の前まで来ていた。いつの間にか傍に来たことに驚きもしたが、的を射たお言葉に瞬きを繰り返す。
「よくお分かりで」
「ここまでくりゃわかかるって」
言って蘭様は私の隣に座って長い腕を肩に回して、さらに顔を寄せて来た。キスでもするような距離間でくすくす笑う。
「オレらが優しいのはオマエもわかってんだろ?」
「重々と」
「だからオマエの部下も一緒に墓参り行って来いよ」
反対側から竜胆様の声が聞こえる。同時に腕の重みが消えて振り返るとやっぱりそこには竜胆様がいた。
「では、お言葉に甘えようかと思います」
「そーしろ」
「はい」
こうして私は墓参りの日をお優しいお二人のお蔭であっさりと確保できた。
けど、あの二人は来るかしら。何せ、私のその日の醜態をよく知っているのだから。
2016年某月から7ヶ月
もうすぐあの日が近づく。あの日は一日胸の中心が重くなって、頭も上手く回んない。けど、それはまるで自分が弱っているようでイヤだった。だから、普段吸わない煙草と度数の高い酒で誤魔化すの。苦い煙を吹かして、喉を焼く様なアルコールを摂取して、ただ、ただ、時間が過ぎるのを待つ。太陽が昇ってまた沈んでいく。月が明るく輝いた頃に意識を失う。次に目を覚ましときにはいつもの自分に戻っている。頭ガンガン痛いけれどその日を迎えると強い自分に戻れたような気分だった――ほんとうは強くもないけれど。
「ぇ゛」
その日が近づくと寝不足になるし、ついでに緊張で胃が絞めつけらえるのか理由は分からないが吐き気が納まらない。特に墓参りの許しを貰うために伺いを立てる日の前日や当日の朝は酷い。今も朝からずっとシンクとお友だち状態。もう吐くものもないし、実際口の中は酸っぱいものが広がっている。
「はぁ、はっ」
吐き出したものを流すのに水を出す。ザァっと水が出る音に少しだけ緊張が和らぐ。ついでにあらかじめ用意して置いたグラスを手に取って水を灌ぐ。溢れるほど注いだ水で口をゆすぐ。何とか吐き気が納まった気がする。
「はぁ」
トンとグラスを置いてまた息を吐き出す。じっとしていると心臓の音が耳につくし、何か血の流れるような音が聞こえる。こういう日になると顕著に聞こえる音が嫌い。
「だいじょうぶ、」
弱っている自分自身に言い聞かせる。今年はあのクソ野郎から許しを貰うんじゃない。私は今あいつの妻ではなく梵天の灰谷ご兄弟の愛人。大丈夫。大丈夫よ。
「だいじょうぶ」
もう一度自分自身に言い聞かせるようにおまじないを口にする。
出勤するまで私はずっとそう言い聞かせ続けた。それでも緊張は抜けることなく事務所に来たお二人を前にして身体を強張らせる。
蘭様と竜胆様は目敏く私の様子に気づいて「なんだ」「どうした」とソファに座った。それにならって私もお二人の前のソファに着いて決死の思いで墓参りの許しを請うと――。
「いいぜ」
「別に構わねぇよ」
あっさりと墓参りの許可をくださった。拍子抜けというか、肩透かしを食らった気分。あまりにも簡単に許しをくれたものだから「ほんとうによろしいのですか?」と聞き返してしまった。
すると、お二人はよく似た顔できょとんと幼い表情をして揃って首を傾げた。
え。可愛い。けど、そんなに可笑しかったかしら。戸惑いに視線を泳がせる。
「いや、だって墓参りだろ?」
傾げた首を直しながら竜胆様が不思議そうな眼差しのまま言う。続いて蘭様が首を直しながら「オレらには縁はねぇけどオマエは違うんだろ」と言う。
「え、ええ。はい」
「じゃ、一日休んで行けよ」と竜胆様があっさりとした態度のまま言う。なんか想像していたのと違う。でも、改めて考えてみてもお二人が「ダメ」と却下する想像できなかった。なんで私はあれほど緊張して吐いていたんだろうか。もしかしたら習慣的に気持ち悪くなっていただけなのかもしれない。安心に緩んだ身体で私は頭を下げる。
「お許しありがとうございます」
「別にいいって……あ、そうだ。あいつらも行く?」
「え」
あいつらって、と顔を上げて訊く前に竜胆様が「ああ、あいつらね」と反応した。
だから誰と首を傾げる。私の反応にお二人が揃って「えぇ」と眉を下げた。その「ありえねぇよ」と言いたげな顔は何だろう。
「オマエ、流石にねぇよ」
「組の頃からの部下だろ?」
「あ、」
ようやく言わんとしていることに察すると綺麗な顔が揃って引いた顔をする。そんなお顔までしなくても、というかこれには訳がある。
蘭様と竜胆様は当たり前のように言ってくださるけれどあのクソは違った。あいつは私だけにしか許しをくれなかった。だから、最初から私一人で行くことしか頭になかった。
「もしかして、あいつはオマエだけだった?」
俯いていた顔を上げると蘭様が目の前まで来ていた。いつの間にか傍に来たことに驚きもしたが、的を射たお言葉に瞬きを繰り返す。
「よくお分かりで」
「ここまでくりゃわかかるって」
言って蘭様は私の隣に座って長い腕を肩に回して、さらに顔を寄せて来た。キスでもするような距離間でくすくす笑う。
「オレらが優しいのはオマエもわかってんだろ?」
「重々と」
「だからオマエの部下も一緒に墓参り行って来いよ」
反対側から竜胆様の声が聞こえる。同時に腕の重みが消えて振り返るとやっぱりそこには竜胆様がいた。
「では、お言葉に甘えようかと思います」
「そーしろ」
「はい」
こうして私は墓参りの日をお優しいお二人のお蔭であっさりと確保できた。
けど、あの二人は来るかしら。何せ、私のその日の醜態をよく知っているのだから。
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