刻々と変わりゆくもの
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◆ 蘭視点
仕事はそこまで遅くなることなく終わった。その後、オレたちは本部のアジトに戻ることなく直帰した。家に着くまでにデリを頼んで、つまみを見繕って帰る。
その最中は久々に竜胆と家で飲むことに柄にもなくオレもテンションが上がっていた。竜胆も同じで途中の買い物も楽しかった。
家に着くと10分もしないでデリが届く。なら早速とジャケット、ベスト、ネクタイと取り払ってカウンター席で兄弟水入らずの時間が始まったが――。
「なんか微妙」
竜胆が頼んだもんをすぐに放棄した。もういらねぇと横に下げて缶チューハイに手を伸ばしてプルタブを開けた。すきっ腹は酔うだろうが、と思いながらもオレも正直あんまり美味いとは思えなかった。けど、すきっ腹もイヤだなと竜胆よりは食べて下げた。
それからつまみを食べてチビチビお互い缶チューハイ片手に愚痴を言う。知っているか。反社でも上司に対して愚痴が出んだわ。笑える。
けど、ほぼすきっ腹で酒を飲み始めた竜胆すぐには酔いはじめた。ぐでんとカウンターに上体を投げて呻く。
「にいちゃぁん、あいつの茶色メシがたべたぁい」
「デリのメシまじぃ」とごねる始末。そこまではねぇだろ。けど、竜胆はガキみたいに「食べたい、食べたい」と駄々を捏ねる。最初はオレも食いたくなるからやめろよと思ったけれど――これはウケる。
オレは傍らに置いたスマホを手に取って動画撮影を始めることにした。
「竜胆は橙子が作るご飯が好きなの?」
小さな子どもに訊くみたいに声をかける。ぐでんとしていた竜胆は目をトロンとさせながらスマホを見る。でも、撮るなとか言わないで「うん」と幼く応える。ほんとに三十路手前なのか。三途とか九井とかがしたらうげぇと思うけれどやっぱりそこは弟。可愛いな、と思う。
「じゃあ、あいつが作るご飯の中で何が好き?」
「んー。なんでもスキだけどぉ……」
視線が上に向いて考える素振りを見せる竜胆。どうやら好きなものが多いらしい。そういえば結構何でも食べてたな。さて、一体何を答えてくれるのか画面を見ながらニヤニヤしていると竜胆がふにゃっと笑った。それは子どもの頃によく見ていた笑い方だった。
「コロッケ」
意外な答えに目を瞠る。竜胆は十代の頃から脂質のあるもんはあまり食べなかった。だから、コロッケという答えは意外だった。
驚いているオレを他所に竜胆はフワフワした顔で「めったに作んねぇけどぉ」って言う。流石、オレの弟、可愛いな。にしても、この動画、橙子が見たら可愛さに呻くんじゃねぇか。いや、ぜってぇ呻くね。オレも呻きてぇもん。
「にいちゃんは? なにが好き?」
「オレ?」
「そぉ」
ふにゃふひゃの竜胆に眦を下げながら「オレかぁ」と考える。何でも食べる竜胆と違ってオレは選り好みしてっからなぁ。でも、竜胆が言う通り結構なんでも美味いんだよな。んー。選ぶなら――あ。
「オレはね。甘い玉子焼き」
橙子はどっちも好きで気分で甘かったり、ダシだったりする。オレはその甘い方が好き。ダシも嫌いじゃないけどなんか甘い方が好き。
「甘いほうかぁ。オレは、だしのがすきぃ」
「そうなんだ。じゃ、元気になったら作ってもらおうなぁ」
「うん」
子どもみたいに頷いた竜胆はうとうとし出した。おーい。オマエのその無駄に着やせする筋肉質で重い身体をオレに運ばせるな。
オレは撮影を止めて竜胆の肩を揺らす。
「おーい。ここで寝るなってせめてソファ行けって」
「ぅぅん。にいちゃん運んでよ」
「無理言うな」
腰がお陀仏になる。その末、ぎっくり腰になってみろ。あいつらに笑われるわ。そもそも鶴蝶にそんなダサイ姿見られてたくねぇんだわ。
「ほら、竜胆、がんばれ、がんばれ」
「うぅ、がんばれぇねぇ」
「いや、がんばってくれ、オレのためにもな、な?」
「うぇ」と呻く竜胆を何とか起こして後ろにあるソファに寝かせる。いくら可愛い弟でも寝室までなんか無理だし。寝室はオレが寝るところ。客間も遠くて無理。だから、ここで寝てくれ。
「ま、柔らかいし平気だろ」
あとはブランケットかけてやればいいだろ。
「全く世話の焼ける弟だな」
可愛い動画撮れたからいいけれど。さっきのやり取りを思い出しても頬がにやける。
「弟ってのは何年経っても可愛いもんなんだな」
早く、橙子に見せたいな。あと、早くメシを元気に食う竜胆も見てぇな。
「あ、そうだ」
オレはカウンターに置いたスマホを取る。どうせ明日記憶のある竜胆が「消せッ!」と叫ぶのは目に見えている。その前にクラウドに保存して――。
「あいつに送ろ」
トンと編集もしない動画をあいつに送った。
仕事はそこまで遅くなることなく終わった。その後、オレたちは本部のアジトに戻ることなく直帰した。家に着くまでにデリを頼んで、つまみを見繕って帰る。
その最中は久々に竜胆と家で飲むことに柄にもなくオレもテンションが上がっていた。竜胆も同じで途中の買い物も楽しかった。
家に着くと10分もしないでデリが届く。なら早速とジャケット、ベスト、ネクタイと取り払ってカウンター席で兄弟水入らずの時間が始まったが――。
「なんか微妙」
竜胆が頼んだもんをすぐに放棄した。もういらねぇと横に下げて缶チューハイに手を伸ばしてプルタブを開けた。すきっ腹は酔うだろうが、と思いながらもオレも正直あんまり美味いとは思えなかった。けど、すきっ腹もイヤだなと竜胆よりは食べて下げた。
それからつまみを食べてチビチビお互い缶チューハイ片手に愚痴を言う。知っているか。反社でも上司に対して愚痴が出んだわ。笑える。
けど、ほぼすきっ腹で酒を飲み始めた竜胆すぐには酔いはじめた。ぐでんとカウンターに上体を投げて呻く。
「にいちゃぁん、あいつの茶色メシがたべたぁい」
「デリのメシまじぃ」とごねる始末。そこまではねぇだろ。けど、竜胆はガキみたいに「食べたい、食べたい」と駄々を捏ねる。最初はオレも食いたくなるからやめろよと思ったけれど――これはウケる。
オレは傍らに置いたスマホを手に取って動画撮影を始めることにした。
「竜胆は橙子が作るご飯が好きなの?」
小さな子どもに訊くみたいに声をかける。ぐでんとしていた竜胆は目をトロンとさせながらスマホを見る。でも、撮るなとか言わないで「うん」と幼く応える。ほんとに三十路手前なのか。三途とか九井とかがしたらうげぇと思うけれどやっぱりそこは弟。可愛いな、と思う。
「じゃあ、あいつが作るご飯の中で何が好き?」
「んー。なんでもスキだけどぉ……」
視線が上に向いて考える素振りを見せる竜胆。どうやら好きなものが多いらしい。そういえば結構何でも食べてたな。さて、一体何を答えてくれるのか画面を見ながらニヤニヤしていると竜胆がふにゃっと笑った。それは子どもの頃によく見ていた笑い方だった。
「コロッケ」
意外な答えに目を瞠る。竜胆は十代の頃から脂質のあるもんはあまり食べなかった。だから、コロッケという答えは意外だった。
驚いているオレを他所に竜胆はフワフワした顔で「めったに作んねぇけどぉ」って言う。流石、オレの弟、可愛いな。にしても、この動画、橙子が見たら可愛さに呻くんじゃねぇか。いや、ぜってぇ呻くね。オレも呻きてぇもん。
「にいちゃんは? なにが好き?」
「オレ?」
「そぉ」
ふにゃふひゃの竜胆に眦を下げながら「オレかぁ」と考える。何でも食べる竜胆と違ってオレは選り好みしてっからなぁ。でも、竜胆が言う通り結構なんでも美味いんだよな。んー。選ぶなら――あ。
「オレはね。甘い玉子焼き」
橙子はどっちも好きで気分で甘かったり、ダシだったりする。オレはその甘い方が好き。ダシも嫌いじゃないけどなんか甘い方が好き。
「甘いほうかぁ。オレは、だしのがすきぃ」
「そうなんだ。じゃ、元気になったら作ってもらおうなぁ」
「うん」
子どもみたいに頷いた竜胆はうとうとし出した。おーい。オマエのその無駄に着やせする筋肉質で重い身体をオレに運ばせるな。
オレは撮影を止めて竜胆の肩を揺らす。
「おーい。ここで寝るなってせめてソファ行けって」
「ぅぅん。にいちゃん運んでよ」
「無理言うな」
腰がお陀仏になる。その末、ぎっくり腰になってみろ。あいつらに笑われるわ。そもそも鶴蝶にそんなダサイ姿見られてたくねぇんだわ。
「ほら、竜胆、がんばれ、がんばれ」
「うぅ、がんばれぇねぇ」
「いや、がんばってくれ、オレのためにもな、な?」
「うぇ」と呻く竜胆を何とか起こして後ろにあるソファに寝かせる。いくら可愛い弟でも寝室までなんか無理だし。寝室はオレが寝るところ。客間も遠くて無理。だから、ここで寝てくれ。
「ま、柔らかいし平気だろ」
あとはブランケットかけてやればいいだろ。
「全く世話の焼ける弟だな」
可愛い動画撮れたからいいけれど。さっきのやり取りを思い出しても頬がにやける。
「弟ってのは何年経っても可愛いもんなんだな」
早く、橙子に見せたいな。あと、早くメシを元気に食う竜胆も見てぇな。
「あ、そうだ」
オレはカウンターに置いたスマホを取る。どうせ明日記憶のある竜胆が「消せッ!」と叫ぶのは目に見えている。その前にクラウドに保存して――。
「あいつに送ろ」
トンと編集もしない動画をあいつに送った。