刻々と変わりゆくもの
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◆ 蘭視点
2016年某月から6ヶ月
あいつが三途のとこへの出向も終わり、オレたちのもとへ戻ってきた。
久々に三人でデートでもするかと思った矢先だった。あいつは風邪を引き瞬くまにベッドの住人になった。
「ごめいわぐ、ぅ、おが、げじまっ、ずっ、ごほっ、ごっ」
汗で濡れた前髪に、赤く火照った頬、潤んだ瞳。それだけ見ると最中か事後のよう。けど、実際は鼻が詰まったような掠れた声に咳までしている。ついでに疲れた顔はどこからどう見ても体調不良中の人間そのもの。
三途のところへの出向に普段の業務に最近の冷たい雨からの気温上昇。それに蓄積された疲労がここに来て限界を越えた原因だろうな。
「薬は飲んだ?」
「ぁ゛い」
頷くのも辛そうな顔をしている。半年間一緒にいるようになって初めてみる顔かもしれない。ふと、こいつと一緒にいてまだ半年なのかと気づく。
あまりにも竜胆との間にすんなり馴染んだ所為か、昔から一緒にいるような錯覚をしていた。不思議な女だ。だからこそ、あのパーソナルスペースの広い三途でさえもこいつを短い期間で受け入れたのかもしれない。しみじみしながら苦しげな顔を見下ろす。
「ゆっくり寝てろ。治ってからも無理すんなよ」
「ありがど、ござ、まず」
ごほっ、ごほっ、と苦しそうな橙子に触れようか迷ったがやめた。
「じゃあ、何かあったら連絡しろよ」
もう返事も辛いのか少しだけ首を動かして答えた。その様子にこいつの部下に様子を見させに来よう。何なら医者を往診させてもいいかもしれないな。
目を閉じたり開いたりする橙子に「寝ろ」と一声かける。すると、もう限界だというようにそのまま長い睫を伏せて眠ってしまった。その寝顔をしっかりと見て部屋を出て、リビングへ行くと――。
「竜胆、何ソレ?」
「何って、あいつ風邪引いてるから買い物行けないだろ」
「兄貴、先に行って」と途中で車を降りた竜胆。一体何んだと思ったが、まさか買い物していたとは優しいなと思う。けれど、その量にドン引いた。
いくら買いに行けねぇっていてもなぁ。食べ物、飲み物、薬、他にも色んなものが大量にテーブルに並んでいる。
ぜってぇに一人で持ち帰れる量じゃねぇな。まさかオレを下ろした車を態々呼んだのか。たぶんそうだろうなと思いながらテーブルに近づいてまじまじ見てみるがなるほど馴染みがない物が多い。
「全然馴染みねぇな」
「だろ? オレも兄貴も風邪と縁がねぇから全然分かんなかったわ。だから検索していいってもん適当に買って来た」
「いや、だからってなぁ、オマエ」
やり遂げたっていう感じのドヤ顔。いい歳の大人がする顔じゃねぇぞ。いや、弟だし可愛いけれどこれはと顎を擦って苦笑する。
最初に風邪引いたって言ったときは「夏風邪ってバカしか引かねぇんだろ」とか笑い飛ばしていたくせに。こうも言動と行動が違うとは。素直じゃない可愛い弟だ。
「随分心配してんだな」
「は、え、や、だって……」
からかい気味に指摘してやれば竜胆は視線を彷徨わせて肩にかかる髪を指に巻く。昔の自分の癖を見てまた笑いが込み上げる。すると、つり上がった眉がキュッと眉間に寄る。
「兄貴だって心配してたじゃん」
「ふふ。そうだな」
「心配した」とオレは素直に言う。だって、あいつなんかずっと元気だったし。それがいきなり崩れて驚くじゃん。竜胆にオレの素直な告白に居心地が悪そうにした。
「そうやっていいとこ取りする」
「どこがだよ」
別に橙子がいるわけじゃないじゃん。だからいいとこ取りでもなんでもない。けど、素直に言えなかった竜胆からすれば素直に言ったオレは狡いらしい。まったくいい歳だろもう。けど、切り替えの早い竜胆はすぐに「あいつ寝た?」訊いて来た。
「寝た。疲れている感じだから起こしてやるなよ」
「わかった。でも、ちょっとだけ見て来る」
「ん。あ。待て、竜胆」
手ぶらで行こうとした竜胆を引き留める。引き留められた竜胆はちょっと不満気に唇を曲げる。ちょっとくらいいいだろ、と思いながらテーブルを指す。
「水とか、スポドリとか、ゼリーとか他にも何か一緒に持ってけよ」
「いいな! ナイス、兄貴!」
いや、オマエ何のために買って来たんだよ。竜胆は不満げな顔を一気に輝かせてテーブルに戻る。そこから何かブツブツ言いながら漁る。その姿は無邪気だなと二十代後半で三十手前の弟に対して思うのはどうかと思うが弟なのでよし。それにこうして誰かのために迷う姿は珍しい。
「ま、これくらいでいいよな」
「おう。んじゃ、くれぐれも起こしてやるなよ」
「わぁってるよ」
そこそこ時間をかけて迷った結果、スポドリ、水、ゼリーに冷却シートを持ってあいつの寝室に行った。本当に起こさねぇか心配になるがまぁ平気だろ。
で、このテーブルにあるのはどうすっか。スポドリとか冷やした方がいいのか。でも、冷蔵庫まで体力が持つかも分かんねぇしな。
どうすっか、と腕を組んで悩んでいるとスマホが振動した。ああ、これで休憩時間終わりだ。ジェケットの内ポケットからスマホを取り出して出る。
「あ、なに、は? 今から? マジかよ。どこの処分場?」
2016年某月から6ヶ月
あいつが三途のとこへの出向も終わり、オレたちのもとへ戻ってきた。
久々に三人でデートでもするかと思った矢先だった。あいつは風邪を引き瞬くまにベッドの住人になった。
「ごめいわぐ、ぅ、おが、げじまっ、ずっ、ごほっ、ごっ」
汗で濡れた前髪に、赤く火照った頬、潤んだ瞳。それだけ見ると最中か事後のよう。けど、実際は鼻が詰まったような掠れた声に咳までしている。ついでに疲れた顔はどこからどう見ても体調不良中の人間そのもの。
三途のところへの出向に普段の業務に最近の冷たい雨からの気温上昇。それに蓄積された疲労がここに来て限界を越えた原因だろうな。
「薬は飲んだ?」
「ぁ゛い」
頷くのも辛そうな顔をしている。半年間一緒にいるようになって初めてみる顔かもしれない。ふと、こいつと一緒にいてまだ半年なのかと気づく。
あまりにも竜胆との間にすんなり馴染んだ所為か、昔から一緒にいるような錯覚をしていた。不思議な女だ。だからこそ、あのパーソナルスペースの広い三途でさえもこいつを短い期間で受け入れたのかもしれない。しみじみしながら苦しげな顔を見下ろす。
「ゆっくり寝てろ。治ってからも無理すんなよ」
「ありがど、ござ、まず」
ごほっ、ごほっ、と苦しそうな橙子に触れようか迷ったがやめた。
「じゃあ、何かあったら連絡しろよ」
もう返事も辛いのか少しだけ首を動かして答えた。その様子にこいつの部下に様子を見させに来よう。何なら医者を往診させてもいいかもしれないな。
目を閉じたり開いたりする橙子に「寝ろ」と一声かける。すると、もう限界だというようにそのまま長い睫を伏せて眠ってしまった。その寝顔をしっかりと見て部屋を出て、リビングへ行くと――。
「竜胆、何ソレ?」
「何って、あいつ風邪引いてるから買い物行けないだろ」
「兄貴、先に行って」と途中で車を降りた竜胆。一体何んだと思ったが、まさか買い物していたとは優しいなと思う。けれど、その量にドン引いた。
いくら買いに行けねぇっていてもなぁ。食べ物、飲み物、薬、他にも色んなものが大量にテーブルに並んでいる。
ぜってぇに一人で持ち帰れる量じゃねぇな。まさかオレを下ろした車を態々呼んだのか。たぶんそうだろうなと思いながらテーブルに近づいてまじまじ見てみるがなるほど馴染みがない物が多い。
「全然馴染みねぇな」
「だろ? オレも兄貴も風邪と縁がねぇから全然分かんなかったわ。だから検索していいってもん適当に買って来た」
「いや、だからってなぁ、オマエ」
やり遂げたっていう感じのドヤ顔。いい歳の大人がする顔じゃねぇぞ。いや、弟だし可愛いけれどこれはと顎を擦って苦笑する。
最初に風邪引いたって言ったときは「夏風邪ってバカしか引かねぇんだろ」とか笑い飛ばしていたくせに。こうも言動と行動が違うとは。素直じゃない可愛い弟だ。
「随分心配してんだな」
「は、え、や、だって……」
からかい気味に指摘してやれば竜胆は視線を彷徨わせて肩にかかる髪を指に巻く。昔の自分の癖を見てまた笑いが込み上げる。すると、つり上がった眉がキュッと眉間に寄る。
「兄貴だって心配してたじゃん」
「ふふ。そうだな」
「心配した」とオレは素直に言う。だって、あいつなんかずっと元気だったし。それがいきなり崩れて驚くじゃん。竜胆にオレの素直な告白に居心地が悪そうにした。
「そうやっていいとこ取りする」
「どこがだよ」
別に橙子がいるわけじゃないじゃん。だからいいとこ取りでもなんでもない。けど、素直に言えなかった竜胆からすれば素直に言ったオレは狡いらしい。まったくいい歳だろもう。けど、切り替えの早い竜胆はすぐに「あいつ寝た?」訊いて来た。
「寝た。疲れている感じだから起こしてやるなよ」
「わかった。でも、ちょっとだけ見て来る」
「ん。あ。待て、竜胆」
手ぶらで行こうとした竜胆を引き留める。引き留められた竜胆はちょっと不満気に唇を曲げる。ちょっとくらいいいだろ、と思いながらテーブルを指す。
「水とか、スポドリとか、ゼリーとか他にも何か一緒に持ってけよ」
「いいな! ナイス、兄貴!」
いや、オマエ何のために買って来たんだよ。竜胆は不満げな顔を一気に輝かせてテーブルに戻る。そこから何かブツブツ言いながら漁る。その姿は無邪気だなと二十代後半で三十手前の弟に対して思うのはどうかと思うが弟なのでよし。それにこうして誰かのために迷う姿は珍しい。
「ま、これくらいでいいよな」
「おう。んじゃ、くれぐれも起こしてやるなよ」
「わぁってるよ」
そこそこ時間をかけて迷った結果、スポドリ、水、ゼリーに冷却シートを持ってあいつの寝室に行った。本当に起こさねぇか心配になるがまぁ平気だろ。
で、このテーブルにあるのはどうすっか。スポドリとか冷やした方がいいのか。でも、冷蔵庫まで体力が持つかも分かんねぇしな。
どうすっか、と腕を組んで悩んでいるとスマホが振動した。ああ、これで休憩時間終わりだ。ジェケットの内ポケットからスマホを取り出して出る。
「あ、なに、は? 今から? マジかよ。どこの処分場?」
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