悪趣味な黙祷
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□ 夢主視点
霧雨が降る中、部下から「例の女」が店の裏側の路地にいると言われたからだ。ふぅ。裏側がボーイの子出るのに邪魔じゃない。私は「わかった」と言ってスマホで時間を確認する。すると、もうすぐお二人が来る時間だ。つまり、幕引きの時間。
裏側から傘をさして通用口から出るとそこには彼女が立っていた。
「こんばんは」
悪鬼羅刹という言葉が良く似合う形相をしている彼女に微笑みを向ける。すると、女はジャケットのポケットから何か取り出して、シャキンと音がする。
「あらま」
キラキラ輝く短い刃。折り畳み式のナイフだ。それでも刺された場所が悪ければ死ぬ可能性も十分ある。危険な代物。それを華奢な手でギュッと握っている。
「あんたのせいよ」
綺麗な顔立ちだったのにその面影もなく陳腐な台詞を零す。そんな彼女に肩をすくめる。正直、私が悪いんではなくあなたが悪いんだと思う。あなたがもっと賢かったら三途様はこんな七面倒くさいことなんてしなかったもの。
「全部あなたが悪いのよ」
「ッ! わたしは何も悪くない!」
そんなことないわ。胸に手を当ててよく考えてみてよ。忠誠心が独りよがりじゃなかった。あなたのためと言って口やかましくしなかった。管理して見せようなんて思わなかった。ほんとうに相手のことを、三途様のことを考えた?
言ってあげたかったけれど、私を悪女に仕立てている彼女には届かないだろう。一歩下がって通用口を確認する。うん。これならいいだろう。
「わたし、悪くない! ただ、三途さんのために、あの人のためにやった!」
恋情の暴走。狂おしいほど相手を愛してしまったのかしら。でも、なんか引っかかるのよね。あれかしらそこまで相手を愛したことがないからかしら。なんか。彼女の言葉って。
「薄っぺらい」
思わず本音が漏れる。深くあの人を愛しているというのに言葉から漏れ出る想いは薄っぺらく聞こえる。どうしてなんだろう。どこからどう見てこの人は三途様を好きなのに。私の耳に入る言葉は素通りしていく。
「薄っぺらいのよ。あなた」
「ッッッ! 売女ごときに何が分かるッッッ!」
叫んでダッと駆け出し突進してくる。私は静かに彼女を見据え続ける。そして、女が通用口の前に来たときだった。女が私の視界から消えた。消えた原因は通用口の扉が開いたから。開いた扉だろう長い腕に笑みが浮か。
「蘭様。ナイスタイミングです」
「そ?」
長い腕の持ち主である蘭様が通用口から顔を出した。そこからさらに不満顔の竜胆様が顔を出して「また、いいとこ取り」と文句を言う。それが可愛くてクスクス笑うと竜胆様がムと唇を横に真っ直ぐにした。
「橙子、笑うなよ。つか、大丈夫か?」
そのまま傘も差さず出て来る竜胆様に私は慌てて駆けよって傘に入れる。
「濡れますよ。竜胆様」
「ん。オレが持つ」
「ありがとうございます」
傘の柄を渡すと後ろで呻き声が聞こえて竜胆様の身体越しに見る。彼女はどうやら立てる雰囲気はない。ノックアウト状態だった。
「オレも仲間に入れて」
「あ、ちょ、兄貴!」
いつの間にか出て来た蘭様が竜胆様から傘の柄を奪う。私は竜胆様に抱き込まれるように納まった。傘はそこまで大きくなく三人では厳しい。お蔭で強くなってきた雨で蘭様の肩に、竜胆様の肩が濡れる。
「ああ。お二人のスーツが、もう入りましょう」
「そうする?」
「そうしようぜ……で、あの女は?」
竜胆様が倒れているだろう女の方に視線を向ける。その興味の無さそうな横顔ったらない。私も興味はないけれどこう見えるのかしら。
「三途の部下が回収すんだろ」
蘭様も竜胆様と同じく興味がないというようだった。そして、蘭様は竜胆様と私に先に入るように促す。竜胆様に肩を抱かれたまま店に入る瞬間、ヒールの低いパンプスを履いた足が見えた。動きやすそうなパンプスだ。別にそれをダサいとか悪く言うつもりはないけれど――。
「三途様の隣に並ぶには似合わないわね」
雨の音に紛れる程度の独り言はお二人に聞こえていたらしい。同じタイミングでお二人が嗤った。
こうして私が梵天に入っての大仕事があっさりと幕を閉じた。
**タイトル**
お題配布サイト『エナメル』様より
霧雨が降る中、部下から「例の女」が店の裏側の路地にいると言われたからだ。ふぅ。裏側がボーイの子出るのに邪魔じゃない。私は「わかった」と言ってスマホで時間を確認する。すると、もうすぐお二人が来る時間だ。つまり、幕引きの時間。
裏側から傘をさして通用口から出るとそこには彼女が立っていた。
「こんばんは」
悪鬼羅刹という言葉が良く似合う形相をしている彼女に微笑みを向ける。すると、女はジャケットのポケットから何か取り出して、シャキンと音がする。
「あらま」
キラキラ輝く短い刃。折り畳み式のナイフだ。それでも刺された場所が悪ければ死ぬ可能性も十分ある。危険な代物。それを華奢な手でギュッと握っている。
「あんたのせいよ」
綺麗な顔立ちだったのにその面影もなく陳腐な台詞を零す。そんな彼女に肩をすくめる。正直、私が悪いんではなくあなたが悪いんだと思う。あなたがもっと賢かったら三途様はこんな七面倒くさいことなんてしなかったもの。
「全部あなたが悪いのよ」
「ッ! わたしは何も悪くない!」
そんなことないわ。胸に手を当ててよく考えてみてよ。忠誠心が独りよがりじゃなかった。あなたのためと言って口やかましくしなかった。管理して見せようなんて思わなかった。ほんとうに相手のことを、三途様のことを考えた?
言ってあげたかったけれど、私を悪女に仕立てている彼女には届かないだろう。一歩下がって通用口を確認する。うん。これならいいだろう。
「わたし、悪くない! ただ、三途さんのために、あの人のためにやった!」
恋情の暴走。狂おしいほど相手を愛してしまったのかしら。でも、なんか引っかかるのよね。あれかしらそこまで相手を愛したことがないからかしら。なんか。彼女の言葉って。
「薄っぺらい」
思わず本音が漏れる。深くあの人を愛しているというのに言葉から漏れ出る想いは薄っぺらく聞こえる。どうしてなんだろう。どこからどう見てこの人は三途様を好きなのに。私の耳に入る言葉は素通りしていく。
「薄っぺらいのよ。あなた」
「ッッッ! 売女ごときに何が分かるッッッ!」
叫んでダッと駆け出し突進してくる。私は静かに彼女を見据え続ける。そして、女が通用口の前に来たときだった。女が私の視界から消えた。消えた原因は通用口の扉が開いたから。開いた扉だろう長い腕に笑みが浮か。
「蘭様。ナイスタイミングです」
「そ?」
長い腕の持ち主である蘭様が通用口から顔を出した。そこからさらに不満顔の竜胆様が顔を出して「また、いいとこ取り」と文句を言う。それが可愛くてクスクス笑うと竜胆様がムと唇を横に真っ直ぐにした。
「橙子、笑うなよ。つか、大丈夫か?」
そのまま傘も差さず出て来る竜胆様に私は慌てて駆けよって傘に入れる。
「濡れますよ。竜胆様」
「ん。オレが持つ」
「ありがとうございます」
傘の柄を渡すと後ろで呻き声が聞こえて竜胆様の身体越しに見る。彼女はどうやら立てる雰囲気はない。ノックアウト状態だった。
「オレも仲間に入れて」
「あ、ちょ、兄貴!」
いつの間にか出て来た蘭様が竜胆様から傘の柄を奪う。私は竜胆様に抱き込まれるように納まった。傘はそこまで大きくなく三人では厳しい。お蔭で強くなってきた雨で蘭様の肩に、竜胆様の肩が濡れる。
「ああ。お二人のスーツが、もう入りましょう」
「そうする?」
「そうしようぜ……で、あの女は?」
竜胆様が倒れているだろう女の方に視線を向ける。その興味の無さそうな横顔ったらない。私も興味はないけれどこう見えるのかしら。
「三途の部下が回収すんだろ」
蘭様も竜胆様と同じく興味がないというようだった。そして、蘭様は竜胆様と私に先に入るように促す。竜胆様に肩を抱かれたまま店に入る瞬間、ヒールの低いパンプスを履いた足が見えた。動きやすそうなパンプスだ。別にそれをダサいとか悪く言うつもりはないけれど――。
「三途様の隣に並ぶには似合わないわね」
雨の音に紛れる程度の独り言はお二人に聞こえていたらしい。同じタイミングでお二人が嗤った。
こうして私が梵天に入っての大仕事があっさりと幕を閉じた。
**タイトル**
お題配布サイト『エナメル』様より
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