夢路のあなた
桜舞う中の美しい人
うさぎは、近頃見る夢があった。
その夢では視界を埋め尽くすような薄紅色の花びらが宙を舞っていた。目を凝らして景色を見ようとすると薄紅色の花びらは量を増してさらに視界を遮られる。
花びらが舞う幻想の景色は美しくもあり心に響く。だが、あまりに量があると鬱陶しい。
案の定、うさぎもしばらくするとその花びらたちが少々鬱陶しく感じた。舞う花びらを手で払いながら歩く。
暫く歩くと花びらを散らす大木があった。その木は、春になると薄紅色の花を咲かせる木であった。
うさぎも見たことのない立派な桜の大木に感嘆していると、満開の花を付けた枝の下に人影が見えた。
きになったうさぎは警戒心もなく桜の花びらを遮りながら近づく。そして、宙を舞う花びらの隙間からようやく人の姿が確認できた。
その人は、多く美形に囲まれて見慣れたうさぎでも目を見張るほど麗しい人であった。
麗しい人は、歴史や古典の授業でよく見かける着物を身に纏った男性であった。といっても、遠目であるゆえにその人が男性であるかと断言はできなかった。それほど、男女の美を超越した美しい人なのであった。
そして、その麗しい人と舞い散る桜の花びらはよく似合っていて。うさぎは近寄ることも忘れて見惚れていた。
しばらく見惚れているとその麗しい人の視線が桜からうさぎに映った。
ふいに出逢った視線にうさぎが口を開こうとすると急に舞う桜の花びらが量を増し、麗しい人とうさぎを隔てた。
桜の花びらはうさぎを覆うように渦を巻く。圧倒的な花びらの量にうさぎはその桜の花びらに耐え切れず目を閉じる。暫くして目を開ければ見慣れた部屋の天井が飛び込んできた。こうして、いつもうさぎは幾度となく『夢』から覚めるのであった。
「また、話せなかった……」
幾度となく話そうと試みるもいつも桜の花びらに邪魔をされ叶わない。麗しくもあり、どこか儚さをもった人がうさぎは頭から離れなかった。
このように男性が頭から離れなかったのは恋人の衛くらいだろうか。そして、その愛おしい恋人のことを考え無くさせるほどその夢の人が気になってしょうがなかった。
これは、きっといけないこと。恋人がいるにも関わらず別の男性を四六時中考えることはやはりいけないことだ。そもそも恋人でもない人の夢に見るのはいけないことなのだ。きっと。
目覚まし時計を見やればまだまだ起きる時間まで時間がある。
うさぎは時計から目を反らす。そして、次から次へと生まれる思考から逃げるように強く目を閉じた。目を閉じれば次に眠気がやってくる。そうすれば、もう何も考えなくて済む気がするから。
だが、目を閉じたうさぎはいつもまた逢えるかな、と期待を込めて眠りにつくのだった。
* * *
三日月宗近は、近頃見る夢があった。
その夢ではいつも自分は大木の桜の下にいて桜を見上げている。麗しい桜はいつも満開で、花びらを散らしている。
枯れることのない桜に三日月は不思議に思うことはあれが不気味に思うことはない。それは、これが三日月の見ている夢だからだ。
それにこの美しき桜は三日月の癒しでもあるのだ。現実に引き戻ってしまえばまた傷つき、刀身が折れてしまうのではないかというほど出陣させられるのだ。
夢であろうがこの癒しの時間を三日月は失いたくなかった。そして、夢くらいはゆっくりと桜を愛でていたかった。
このようにいくらか桜を愛でる夢を見ていると、同時にとある者が三日月の夢に出てくるようになった。
その者は、純白の衣に身を包み、黄金色の長い髪を風に遊ばせている麗しい娘であった。
遠目から見てもその娘が清廉で純粋なのがわかる。それほど、彼女の青く澄み切った瞳は清らかだからだ。
距離があるのに清廉な娘の瞳まで見えるのは可笑しい。だが、これも夢だからと三日月は思う。
その清らかな娘もじっと三日月を見つめている。すると、いつの頃からかその瞳に見られるのに歓喜することに三日月は気づいた。
三日月も同じように清廉な娘を見つめ返す。そして、三日月はいつも一歩踏み出そうとすると、娘との間に大量の桜の花びらが壁となって隔てる。
いつも愛でる麗しい桜がこの時ばかりは三日月は恨めしく思った。そして、清廉な娘と隔てるように舞う桜の花びらは三日月に迫る。咄嗟に目を瞑れば、この夢は終わるのであった。
それは、目を開けた途端に飛び込んでくる傷ついた仲間だからである。先ほどまでの美しい桜と娘の姿など欠片も見当たらない。
ただ、三日月の目に映るのは傷つき疲れ切った仲間たちの姿だけであった。そして、自分の身体を見下ろせば仲間と同じようにボロボロとなった衣と傷ついた身体がそこにはあった。
至福の夢から覚めた三日月はどっと押し寄せる疲れに息をつく。すると、隣に同じように背を預けていた者の動く気配を感じ視線だけそちらにやる。
隣で身じろいだのは同じ刀工をもつ兄弟刀といえる小狐丸であった。小狐丸は、何が可笑しいのか、くつくつと可笑しそうに笑っていた。
この状況で笑える兄弟刀に三日月は怪訝な視線を送った。
すると、その視線を感じたのか小狐丸が相変わらず口元を緩ませながら白い顔をこちらに向けた。
「なんだ」
「いや。三日月が幸せそうに眠っていたのでな、つい」
「この状況を考えればどんな夢も至福だろう」
確かに、と答える小狐丸は三日月から目の前で死んだように寝ころぶ仲間を見つめた。同じく三日月も仲間たちに目をやる。そして、現実の惨状に三日月はそっと目を閉じた。さすれば、再び至福の夢が訪れるかもしれないからだ。
だが、夢は訪れず再び三日月が目を開けたとき再び彼らにとって過酷な現実が始まった。
時代、時空を越えたこの二人の男女の夢。一体どのような縁なのだろうか。そして、この縁は結ばれるのだろうか。
この二人の逢瀬が完成するとき、彼女の定められた運命はどのように流れるのだろうか。
2024.07.20 改題、一部修正
うさぎは、近頃見る夢があった。
その夢では視界を埋め尽くすような薄紅色の花びらが宙を舞っていた。目を凝らして景色を見ようとすると薄紅色の花びらは量を増してさらに視界を遮られる。
花びらが舞う幻想の景色は美しくもあり心に響く。だが、あまりに量があると鬱陶しい。
案の定、うさぎもしばらくするとその花びらたちが少々鬱陶しく感じた。舞う花びらを手で払いながら歩く。
暫く歩くと花びらを散らす大木があった。その木は、春になると薄紅色の花を咲かせる木であった。
うさぎも見たことのない立派な桜の大木に感嘆していると、満開の花を付けた枝の下に人影が見えた。
きになったうさぎは警戒心もなく桜の花びらを遮りながら近づく。そして、宙を舞う花びらの隙間からようやく人の姿が確認できた。
その人は、多く美形に囲まれて見慣れたうさぎでも目を見張るほど麗しい人であった。
麗しい人は、歴史や古典の授業でよく見かける着物を身に纏った男性であった。といっても、遠目であるゆえにその人が男性であるかと断言はできなかった。それほど、男女の美を超越した美しい人なのであった。
そして、その麗しい人と舞い散る桜の花びらはよく似合っていて。うさぎは近寄ることも忘れて見惚れていた。
しばらく見惚れているとその麗しい人の視線が桜からうさぎに映った。
ふいに出逢った視線にうさぎが口を開こうとすると急に舞う桜の花びらが量を増し、麗しい人とうさぎを隔てた。
桜の花びらはうさぎを覆うように渦を巻く。圧倒的な花びらの量にうさぎはその桜の花びらに耐え切れず目を閉じる。暫くして目を開ければ見慣れた部屋の天井が飛び込んできた。こうして、いつもうさぎは幾度となく『夢』から覚めるのであった。
「また、話せなかった……」
幾度となく話そうと試みるもいつも桜の花びらに邪魔をされ叶わない。麗しくもあり、どこか儚さをもった人がうさぎは頭から離れなかった。
このように男性が頭から離れなかったのは恋人の衛くらいだろうか。そして、その愛おしい恋人のことを考え無くさせるほどその夢の人が気になってしょうがなかった。
これは、きっといけないこと。恋人がいるにも関わらず別の男性を四六時中考えることはやはりいけないことだ。そもそも恋人でもない人の夢に見るのはいけないことなのだ。きっと。
目覚まし時計を見やればまだまだ起きる時間まで時間がある。
うさぎは時計から目を反らす。そして、次から次へと生まれる思考から逃げるように強く目を閉じた。目を閉じれば次に眠気がやってくる。そうすれば、もう何も考えなくて済む気がするから。
だが、目を閉じたうさぎはいつもまた逢えるかな、と期待を込めて眠りにつくのだった。
* * *
三日月宗近は、近頃見る夢があった。
その夢ではいつも自分は大木の桜の下にいて桜を見上げている。麗しい桜はいつも満開で、花びらを散らしている。
枯れることのない桜に三日月は不思議に思うことはあれが不気味に思うことはない。それは、これが三日月の見ている夢だからだ。
それにこの美しき桜は三日月の癒しでもあるのだ。現実に引き戻ってしまえばまた傷つき、刀身が折れてしまうのではないかというほど出陣させられるのだ。
夢であろうがこの癒しの時間を三日月は失いたくなかった。そして、夢くらいはゆっくりと桜を愛でていたかった。
このようにいくらか桜を愛でる夢を見ていると、同時にとある者が三日月の夢に出てくるようになった。
その者は、純白の衣に身を包み、黄金色の長い髪を風に遊ばせている麗しい娘であった。
遠目から見てもその娘が清廉で純粋なのがわかる。それほど、彼女の青く澄み切った瞳は清らかだからだ。
距離があるのに清廉な娘の瞳まで見えるのは可笑しい。だが、これも夢だからと三日月は思う。
その清らかな娘もじっと三日月を見つめている。すると、いつの頃からかその瞳に見られるのに歓喜することに三日月は気づいた。
三日月も同じように清廉な娘を見つめ返す。そして、三日月はいつも一歩踏み出そうとすると、娘との間に大量の桜の花びらが壁となって隔てる。
いつも愛でる麗しい桜がこの時ばかりは三日月は恨めしく思った。そして、清廉な娘と隔てるように舞う桜の花びらは三日月に迫る。咄嗟に目を瞑れば、この夢は終わるのであった。
それは、目を開けた途端に飛び込んでくる傷ついた仲間だからである。先ほどまでの美しい桜と娘の姿など欠片も見当たらない。
ただ、三日月の目に映るのは傷つき疲れ切った仲間たちの姿だけであった。そして、自分の身体を見下ろせば仲間と同じようにボロボロとなった衣と傷ついた身体がそこにはあった。
至福の夢から覚めた三日月はどっと押し寄せる疲れに息をつく。すると、隣に同じように背を預けていた者の動く気配を感じ視線だけそちらにやる。
隣で身じろいだのは同じ刀工をもつ兄弟刀といえる小狐丸であった。小狐丸は、何が可笑しいのか、くつくつと可笑しそうに笑っていた。
この状況で笑える兄弟刀に三日月は怪訝な視線を送った。
すると、その視線を感じたのか小狐丸が相変わらず口元を緩ませながら白い顔をこちらに向けた。
「なんだ」
「いや。三日月が幸せそうに眠っていたのでな、つい」
「この状況を考えればどんな夢も至福だろう」
確かに、と答える小狐丸は三日月から目の前で死んだように寝ころぶ仲間を見つめた。同じく三日月も仲間たちに目をやる。そして、現実の惨状に三日月はそっと目を閉じた。さすれば、再び至福の夢が訪れるかもしれないからだ。
だが、夢は訪れず再び三日月が目を開けたとき再び彼らにとって過酷な現実が始まった。
時代、時空を越えたこの二人の男女の夢。一体どのような縁なのだろうか。そして、この縁は結ばれるのだろうか。
この二人の逢瀬が完成するとき、彼女の定められた運命はどのように流れるのだろうか。
2024.07.20 改題、一部修正
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