貴方を想って手紙に綴る
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貴方を想って手紙に綴る・4
あれから100年と少しの時間が流れた。人の姿がおぼつかなかった私もすっかり慣れた。いや、慣れたと思うだけで人間の方からみたら〝どうした〟と思うことがあるかもしれない。それでも尾を踏んでいた頃から比べればだいぶ慣れた。
とはいってもたかが100歳。寿命の長い一族だからまだまだ子どもの領域。一族の中ではまだまだ子どもの私になんと魔法士養成学校への入学許可書が届いた。その学校は私でも聞いたことがある名門のひとつだ。
正直、魔法に関しては私の方が知っていることが多い気がする。それでも現代の人間と交流したいと思う。
マレウス様の遊び相手を解任された後、妖精と人間の間の確執を学んだ。それから旅の途中にマレウス様からお話を聞いていたリリア様に出会うことが出来た。想像よりも若くて驚いた。
そして、そのときにマレウス様にお手紙を渡すことが出来た。
実はマレウス様にはあれから手紙を送ろうとしたのだけれど、茨の谷との国交問題で多くの国が届けられないことを知った。だから、私はマレウス様に送りたい手紙だけが増えていった。そんなときにリリア様、いえリリアさんにお会いすることができた。
リリアさんはイヤな顔ひとつせず私の手紙を受け取ってくれた。そして、また会ったら受け取ろうと言ってくれたけれど、それ以降会うことはなかった。
今も私はマレウス様への手紙を書いている。いや、今なら送ることができるかもしれない。でも、マレウス様は私を忘れているかもしれないし、まだ入城を許されない私の一族の手紙は届く前に燃やされるかもしれない。
だから、私の手紙は増えていく。送れない手紙がどんどん、と。
魔法士養成学校の名門であるブルームノヴァカレッジに入学した。この学校は同じく名門の魔法士養成学校として名のあるノーブルベルカレッジと兄妹校だとか。その学校とは長く交流しているが、今年度から魔法士養成学校の頂点に君臨する二校と交流が再会されるとか。そういえば、いつの間にか交流が断絶されていたが理由はなんだったのかな。分からない。
ノーブルベルカレッジは学校全体の交流だが、この2校とは生徒が半分ずつ別れて交流するらしい。私は何となくナイトレイブンカレッジを選んだ。
ナイトレイブンカレッジでも生徒からの視線が集中した。それもそうかドラゴンの末裔なんて物珍しいから仕方ない。とはいえ、ブルームノヴァの入学式も集中していたが何だか少し違うような気もする。
何が違うのか。辺りを見回したときにヒトの中からひと際とびぬけた角があった。あの艶やかな角には見覚えがあった。私は咄嗟にその角の持ち主を見た。すると、その角の持ち主は蛍の柔らかな光を称えた瞳で私を見ていた。
「マレウス様?」
思わず囁けばマレウス様が目を見開いたままこちらへとやって来る。どこからか「マレウス!」とこれまた聞き覚えのある声がした。いや、それどころではない生徒をかき分けてやって来るマレウス様。あまりの勢いに生徒が自然と道を作る。すると、自然と私の前は人がいなくなる。
これは中々恥ずかしいというかなんというか。これはいけない気がする。
冷や汗が湧き出るがどこかへ行こうにも遅かった。
「ベアトリス」
高い子どもらしい声は低くとても威厳に満ちていた。そんな声に呼ばれたら何だか心臓の鼓動が早くなってしまった。
「マレウス様、覚えていらしてくれたんですね。お久しぶりです」
「ああ。お前も僕を忘れたわけではないのか」
「マレウス様のことは忘れられませんよ」
「そうか」と口にするマレウス様はすっかり大人びた顔立ちになっている。けれど、嬉しそうな顔はどこか子どもの頃の面影が見えたように思う。私の目の錯覚かもしれないけれど――。
「マレウス、一体どうしたのじゃ――おお! ベアトリス嬢ではないか!」
「リリアさん、お久しぶりです」
「うんうん! 久しいのぅ!」
ん? 何かリリアさん、こんなお爺様のような口調だったか? 以前会ったときはもっと若々しい口調だと思ったのだけれど――あれ?
とりあえず、交流会があるので積もる話は後でとなった。
交流会も終わり帰る前に時間を貰いマレウス様、リリアさんとお話することになった。
「やぁ~マレウスが大きくなっているのだからベアトリス嬢も大きく成長しているわけだ!」
「確かにお会いしたときはリリアさんと同じくらいでしたね」
「お? それは遠まわしにわしの身長がアレ的なこと言っているのか?」
「そういうわけでは」
やはりどこか老成したリリアさん。だけれど、趣味はどうも若々しく何だかちぐはぐしていて面白い。ふと、横から何か言いたげな視線を感じる。
「マレウス様、何か?」
「それ、だ」
「それ?」
「名前」
むすっと拗ねた顔をするマレウス様にああ、なるほどとすぐに合点がいく。そして、見た目はすっかり大人になっているのに中身はやっぱり幼さが残っている。それはきっと私も同じだろうけれど、何だか昔を思い出す。
「マレウス様もリリアさんのようにお呼びしましょうか?」
「名前は……呼び捨てで構わない。話し方ももっとくだけた感じでいい」
「わかりました。では、マレウスとお呼びします。とはいえ、話し方は……」
「ここは城でもない。通う学び舎は違えど同じ学年だ。仰々しくしなくていい」
「ですが、」
渋る様子を見せる私にマレウス様――いえ、マレウスが眉を顰める。大人びた顔立ちなのに表情が幼い。なんだか微笑ましくなった。
「ふふ、わかった」
「っ!」
一瞬にして嬉しそうな顔に変わる。なんと随分と可愛らしいところが残っている。
「あ。そうだ。マレウスはスマホ持ってる? よかったら連絡先を交換しない?」
リリアさんも、と見れば心よく頷いてくれた。その一方でマレウスは渋い顔をしている。なぜ?
「ああ。こやつはどうにも電子機器が苦手でな。ちょうど壊して修理に出したばかりのところなのじゃ」
「あら残念。でも慣れるのに時間はかかるよね。私もまだまだ使いこなせていないから」
色々機能が付きすぎて分からない。でも、今後生きていくなら使う機会も増えるから頑張らないと。けど、マレウスが使えないなら――あ。
「なら。手紙、手紙を出すわ」
「手紙……」
「うん。今なら間違いなくマレウスに届くでしょ」
マレウスの目が僅かに見開かれた。そして、蛍の光をした瞳が微笑む。
「そうだな。今度こそ待っているぞ」
「うん。あ、せっかくだし学校で面白いことがあったら送るね。あと、よかったらマレウスも何かあったら手紙送ってちょうだい」
「僕から、か。ふふ。そうだな。僕からでもいいのか」
「うん。ん? リリアさん?」
リリアさんが微笑ましいものを見る目でこちらを見ていた。本来は両親と変わらない年齢のリリアさんだからもしかしたら私たちのやり取りが子どもみたいで微笑ましかったのかな。
「私たちちょっと子どもっぽかったですか?」
「いや、やっと普通に手紙を送り合える時代になったんだなとしみじみしていたところじゃ」
遠くを見つめるリリアさん。それはやはり両親と同じようだった。けど、その言葉は私の身体にゆっくりとしみていく。
「はい。よい時代だと思います。手紙を送るのが楽しみになります。ね。マレウス」
「ああ。そうだな。今度便箋と封筒を麓の街に買いに行かなければな」
「お! 楽しそうじゃな。わしも行こう!」
楽しそうなお二人に私も新しく便箋と封筒を買わなければ。ああ、何だかとても嬉しい。同時にマレウスとまたこうして話せるようになったのが心の底から嬉しく思う。
嬉しさを噛みしめていると鐘の音が鳴り響く。ああ、もう時間だ。
「もう行かないと……」
「楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまうな」
「リリアの言う通りだな……ベアトリス」
マレウスを見れば何だか離れがたい気持ちになる。けれど、今度またいつでも会える。
「また会おう」
「ええ。でも案外すぐに会えるかもしれないよ」
「ん? まぁ、交流会もまたすぐあるだろうしそうじゃな」
「ああ、そうだな」
それ以外にも会える方法があるけれど、二人を驚かせたいからもう少し秘密にしよう。
内心笑っている私を横に二人の会話が続く。
「さ、マレウス。ベアトリス嬢を送ってやれ」
「わかっている。ベアトリス、行くぞ」
「うん……ん?」
先に歩くマレウスの後を着いていこうとしたら不意に止まった。そして、腕を差し出された。なに、と見上げれば「はぐれたら大変だ」と言われた。
「はぐれる予定ないのだけれど」
すると、マレウスの顔が不満顔になる。ん? なに?
首を傾げると後ろにいたリリアさんが「エスコートじゃ」と言って来た。
「エスコート?」
「マレウスも年頃じゃからなエスコートの練習が必要なのじゃ」
「ああ。なるほど、婚約者ができたときまごまごしていたらカッコ悪いものね」
なら私はちょうどいいかもしれない。よし、とマレウスの腕にそっと手を添える。
その腕にふいに子どもの頃を思い出す。あのときはうんと細かったのに。私と変わらなかったのに今はやっぱり大人のそれになっている。
またドキドキしてしまう。
「うんうん! 様になっておる! さ、マレウス! 無事にベアトリス嬢を闇の鏡のところまでエスコートするんじゃぞ!」
「はぁ、わかっている。ベアトリス」
「うん」
私の歩調に会わせてくれるマレウス。これ練習もなにも平気なんじゃないか。もういつでも婚約者が出来て平気。
婚約者と言う言葉に胸が少しキュっとなる。私も幾度か話があったけれど、まだ早いといって断って来た。でも、マレウスは違う。
「もう婚約の話があるの?」
「元老院たちは早く決めた方がいいと言っているがおばあ様はまだ早いと言っている」
「そうね。でも、私たちの種族は結婚相手を探すのも大変だから元老院の皆様のお気持ちも分からないではないわ」
ドラゴンの末裔は数を減らしているし、そもそも寿命長いから子供ができるのも300歳くらいになってからとか。
「まぁ100歳越えたばかりの私たちには早いといえば早い話よね。あ、でも、私は恋人は欲しいな」
「ぇ」
マレウスの抜けた声にちょっと笑ってしまう。まぁ。王子様のマレウスにはあまりない発想だろうな。
「あら。意外? 私、結婚はまだいいのだけれど恋人は欲しいの。恋をしてみたいのよ」
「してみたい、と言ってするものなのか?」
「一理あり。でも、恋をしたい。落ちてみたい。一度でもいいから」
両親はお互い一目惚れだったというし。そういうのを味わってみたい。でも、マレウスが言う通りしてみたい、というものではないのも理解している。
「恋に憧れているだけかもしれないけどね」
そう私が囁く。マレウスは聞こえなかったのか。答えるのが難しかったのか何も言わない。この話はここで終わり、マレウスから今の茨の谷や、近状が話される。その情報量に私は帰るのが惜しくなる。
「え、え。待って、情報整理でいないんだけれど、私これで学校戻るの?」
「ふふ、まぁ時間はたっぷりあるだろ」
私の反応を面白がっているマレウスに呆れる。でも、彼の言う通り。
「時間はたっぷりある。いい言葉ね」
「ああ。また次会ったときか、手紙でもいいな」
「ええ。楽しみにしている」
もう何度したやり取りか。それほどまでに私たちはあのときの時間で止まっていたのだと思う。胸の奥がじんわりと温かい。
「マレウス。今日再会できて嬉しかった。私のこと覚えていてくれて嬉しかったわ。ありがとう」
「ベアトリス、僕も同じだ」
蛍の光のように美しい瞳に魅了されそうなのを何とか振り切る。
「また会いましょう。夜の祝福あれ」
「また会おう。夜の祝福あれ」
今度は握手をしない。そうしなくてもまた会えるのだから。
私はマレウスをしっかりと見つめてから闇の鏡を通じて学校へと戻った。そして、その日の夜、夢の中の私はマレウスと楽しそうに笑っていたのだった。
2025.07.07 公開日
2025.11.27 夢主の口調変更
2025.11.29 一部文章修正
あれから100年と少しの時間が流れた。人の姿がおぼつかなかった私もすっかり慣れた。いや、慣れたと思うだけで人間の方からみたら〝どうした〟と思うことがあるかもしれない。それでも尾を踏んでいた頃から比べればだいぶ慣れた。
とはいってもたかが100歳。寿命の長い一族だからまだまだ子どもの領域。一族の中ではまだまだ子どもの私になんと魔法士養成学校への入学許可書が届いた。その学校は私でも聞いたことがある名門のひとつだ。
正直、魔法に関しては私の方が知っていることが多い気がする。それでも現代の人間と交流したいと思う。
マレウス様の遊び相手を解任された後、妖精と人間の間の確執を学んだ。それから旅の途中にマレウス様からお話を聞いていたリリア様に出会うことが出来た。想像よりも若くて驚いた。
そして、そのときにマレウス様にお手紙を渡すことが出来た。
実はマレウス様にはあれから手紙を送ろうとしたのだけれど、茨の谷との国交問題で多くの国が届けられないことを知った。だから、私はマレウス様に送りたい手紙だけが増えていった。そんなときにリリア様、いえリリアさんにお会いすることができた。
リリアさんはイヤな顔ひとつせず私の手紙を受け取ってくれた。そして、また会ったら受け取ろうと言ってくれたけれど、それ以降会うことはなかった。
今も私はマレウス様への手紙を書いている。いや、今なら送ることができるかもしれない。でも、マレウス様は私を忘れているかもしれないし、まだ入城を許されない私の一族の手紙は届く前に燃やされるかもしれない。
だから、私の手紙は増えていく。送れない手紙がどんどん、と。
魔法士養成学校の名門であるブルームノヴァカレッジに入学した。この学校は同じく名門の魔法士養成学校として名のあるノーブルベルカレッジと兄妹校だとか。その学校とは長く交流しているが、今年度から魔法士養成学校の頂点に君臨する二校と交流が再会されるとか。そういえば、いつの間にか交流が断絶されていたが理由はなんだったのかな。分からない。
ノーブルベルカレッジは学校全体の交流だが、この2校とは生徒が半分ずつ別れて交流するらしい。私は何となくナイトレイブンカレッジを選んだ。
ナイトレイブンカレッジでも生徒からの視線が集中した。それもそうかドラゴンの末裔なんて物珍しいから仕方ない。とはいえ、ブルームノヴァの入学式も集中していたが何だか少し違うような気もする。
何が違うのか。辺りを見回したときにヒトの中からひと際とびぬけた角があった。あの艶やかな角には見覚えがあった。私は咄嗟にその角の持ち主を見た。すると、その角の持ち主は蛍の柔らかな光を称えた瞳で私を見ていた。
「マレウス様?」
思わず囁けばマレウス様が目を見開いたままこちらへとやって来る。どこからか「マレウス!」とこれまた聞き覚えのある声がした。いや、それどころではない生徒をかき分けてやって来るマレウス様。あまりの勢いに生徒が自然と道を作る。すると、自然と私の前は人がいなくなる。
これは中々恥ずかしいというかなんというか。これはいけない気がする。
冷や汗が湧き出るがどこかへ行こうにも遅かった。
「ベアトリス」
高い子どもらしい声は低くとても威厳に満ちていた。そんな声に呼ばれたら何だか心臓の鼓動が早くなってしまった。
「マレウス様、覚えていらしてくれたんですね。お久しぶりです」
「ああ。お前も僕を忘れたわけではないのか」
「マレウス様のことは忘れられませんよ」
「そうか」と口にするマレウス様はすっかり大人びた顔立ちになっている。けれど、嬉しそうな顔はどこか子どもの頃の面影が見えたように思う。私の目の錯覚かもしれないけれど――。
「マレウス、一体どうしたのじゃ――おお! ベアトリス嬢ではないか!」
「リリアさん、お久しぶりです」
「うんうん! 久しいのぅ!」
ん? 何かリリアさん、こんなお爺様のような口調だったか? 以前会ったときはもっと若々しい口調だと思ったのだけれど――あれ?
とりあえず、交流会があるので積もる話は後でとなった。
交流会も終わり帰る前に時間を貰いマレウス様、リリアさんとお話することになった。
「やぁ~マレウスが大きくなっているのだからベアトリス嬢も大きく成長しているわけだ!」
「確かにお会いしたときはリリアさんと同じくらいでしたね」
「お? それは遠まわしにわしの身長がアレ的なこと言っているのか?」
「そういうわけでは」
やはりどこか老成したリリアさん。だけれど、趣味はどうも若々しく何だかちぐはぐしていて面白い。ふと、横から何か言いたげな視線を感じる。
「マレウス様、何か?」
「それ、だ」
「それ?」
「名前」
むすっと拗ねた顔をするマレウス様にああ、なるほどとすぐに合点がいく。そして、見た目はすっかり大人になっているのに中身はやっぱり幼さが残っている。それはきっと私も同じだろうけれど、何だか昔を思い出す。
「マレウス様もリリアさんのようにお呼びしましょうか?」
「名前は……呼び捨てで構わない。話し方ももっとくだけた感じでいい」
「わかりました。では、マレウスとお呼びします。とはいえ、話し方は……」
「ここは城でもない。通う学び舎は違えど同じ学年だ。仰々しくしなくていい」
「ですが、」
渋る様子を見せる私にマレウス様――いえ、マレウスが眉を顰める。大人びた顔立ちなのに表情が幼い。なんだか微笑ましくなった。
「ふふ、わかった」
「っ!」
一瞬にして嬉しそうな顔に変わる。なんと随分と可愛らしいところが残っている。
「あ。そうだ。マレウスはスマホ持ってる? よかったら連絡先を交換しない?」
リリアさんも、と見れば心よく頷いてくれた。その一方でマレウスは渋い顔をしている。なぜ?
「ああ。こやつはどうにも電子機器が苦手でな。ちょうど壊して修理に出したばかりのところなのじゃ」
「あら残念。でも慣れるのに時間はかかるよね。私もまだまだ使いこなせていないから」
色々機能が付きすぎて分からない。でも、今後生きていくなら使う機会も増えるから頑張らないと。けど、マレウスが使えないなら――あ。
「なら。手紙、手紙を出すわ」
「手紙……」
「うん。今なら間違いなくマレウスに届くでしょ」
マレウスの目が僅かに見開かれた。そして、蛍の光をした瞳が微笑む。
「そうだな。今度こそ待っているぞ」
「うん。あ、せっかくだし学校で面白いことがあったら送るね。あと、よかったらマレウスも何かあったら手紙送ってちょうだい」
「僕から、か。ふふ。そうだな。僕からでもいいのか」
「うん。ん? リリアさん?」
リリアさんが微笑ましいものを見る目でこちらを見ていた。本来は両親と変わらない年齢のリリアさんだからもしかしたら私たちのやり取りが子どもみたいで微笑ましかったのかな。
「私たちちょっと子どもっぽかったですか?」
「いや、やっと普通に手紙を送り合える時代になったんだなとしみじみしていたところじゃ」
遠くを見つめるリリアさん。それはやはり両親と同じようだった。けど、その言葉は私の身体にゆっくりとしみていく。
「はい。よい時代だと思います。手紙を送るのが楽しみになります。ね。マレウス」
「ああ。そうだな。今度便箋と封筒を麓の街に買いに行かなければな」
「お! 楽しそうじゃな。わしも行こう!」
楽しそうなお二人に私も新しく便箋と封筒を買わなければ。ああ、何だかとても嬉しい。同時にマレウスとまたこうして話せるようになったのが心の底から嬉しく思う。
嬉しさを噛みしめていると鐘の音が鳴り響く。ああ、もう時間だ。
「もう行かないと……」
「楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまうな」
「リリアの言う通りだな……ベアトリス」
マレウスを見れば何だか離れがたい気持ちになる。けれど、今度またいつでも会える。
「また会おう」
「ええ。でも案外すぐに会えるかもしれないよ」
「ん? まぁ、交流会もまたすぐあるだろうしそうじゃな」
「ああ、そうだな」
それ以外にも会える方法があるけれど、二人を驚かせたいからもう少し秘密にしよう。
内心笑っている私を横に二人の会話が続く。
「さ、マレウス。ベアトリス嬢を送ってやれ」
「わかっている。ベアトリス、行くぞ」
「うん……ん?」
先に歩くマレウスの後を着いていこうとしたら不意に止まった。そして、腕を差し出された。なに、と見上げれば「はぐれたら大変だ」と言われた。
「はぐれる予定ないのだけれど」
すると、マレウスの顔が不満顔になる。ん? なに?
首を傾げると後ろにいたリリアさんが「エスコートじゃ」と言って来た。
「エスコート?」
「マレウスも年頃じゃからなエスコートの練習が必要なのじゃ」
「ああ。なるほど、婚約者ができたときまごまごしていたらカッコ悪いものね」
なら私はちょうどいいかもしれない。よし、とマレウスの腕にそっと手を添える。
その腕にふいに子どもの頃を思い出す。あのときはうんと細かったのに。私と変わらなかったのに今はやっぱり大人のそれになっている。
またドキドキしてしまう。
「うんうん! 様になっておる! さ、マレウス! 無事にベアトリス嬢を闇の鏡のところまでエスコートするんじゃぞ!」
「はぁ、わかっている。ベアトリス」
「うん」
私の歩調に会わせてくれるマレウス。これ練習もなにも平気なんじゃないか。もういつでも婚約者が出来て平気。
婚約者と言う言葉に胸が少しキュっとなる。私も幾度か話があったけれど、まだ早いといって断って来た。でも、マレウスは違う。
「もう婚約の話があるの?」
「元老院たちは早く決めた方がいいと言っているがおばあ様はまだ早いと言っている」
「そうね。でも、私たちの種族は結婚相手を探すのも大変だから元老院の皆様のお気持ちも分からないではないわ」
ドラゴンの末裔は数を減らしているし、そもそも寿命長いから子供ができるのも300歳くらいになってからとか。
「まぁ100歳越えたばかりの私たちには早いといえば早い話よね。あ、でも、私は恋人は欲しいな」
「ぇ」
マレウスの抜けた声にちょっと笑ってしまう。まぁ。王子様のマレウスにはあまりない発想だろうな。
「あら。意外? 私、結婚はまだいいのだけれど恋人は欲しいの。恋をしてみたいのよ」
「してみたい、と言ってするものなのか?」
「一理あり。でも、恋をしたい。落ちてみたい。一度でもいいから」
両親はお互い一目惚れだったというし。そういうのを味わってみたい。でも、マレウスが言う通りしてみたい、というものではないのも理解している。
「恋に憧れているだけかもしれないけどね」
そう私が囁く。マレウスは聞こえなかったのか。答えるのが難しかったのか何も言わない。この話はここで終わり、マレウスから今の茨の谷や、近状が話される。その情報量に私は帰るのが惜しくなる。
「え、え。待って、情報整理でいないんだけれど、私これで学校戻るの?」
「ふふ、まぁ時間はたっぷりあるだろ」
私の反応を面白がっているマレウスに呆れる。でも、彼の言う通り。
「時間はたっぷりある。いい言葉ね」
「ああ。また次会ったときか、手紙でもいいな」
「ええ。楽しみにしている」
もう何度したやり取りか。それほどまでに私たちはあのときの時間で止まっていたのだと思う。胸の奥がじんわりと温かい。
「マレウス。今日再会できて嬉しかった。私のこと覚えていてくれて嬉しかったわ。ありがとう」
「ベアトリス、僕も同じだ」
蛍の光のように美しい瞳に魅了されそうなのを何とか振り切る。
「また会いましょう。夜の祝福あれ」
「また会おう。夜の祝福あれ」
今度は握手をしない。そうしなくてもまた会えるのだから。
私はマレウスをしっかりと見つめてから闇の鏡を通じて学校へと戻った。そして、その日の夜、夢の中の私はマレウスと楽しそうに笑っていたのだった。
2025.07.07 公開日
2025.11.27 夢主の口調変更
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