第五の精霊その後の転生物語

小さい頃の思い出



 男の子の友達が難しいと言えば自分の立場から考えるのも難しかった。とくに王侯貴族の子息との距離間にも注意されたことがあった。

「そういえばレオナと仲良くなったときも周りに注意されたことがあったわ」

 覚えていないかしら。わたしは隣にだらしなく寝そべっている整った顔立ちをした王子様に訊ねる。王子様ことレオナは寝ていても綺麗だった。お兄様で現在夕焼け草原を治めているファレナ陛下とはまた違う趣。確かレオナのお母様に似ているとか。肖像画も当時見せてもらったけれど確かに横にいて見上げていたレオナは似ていた。

 だけれど外見に似合わずいつも気だるげにやる気のない人。好きなことには興味をしっかり持つけれど後は別にと言う感じ。何でも出来てしまう要領がいいからかしら。
 それにしたって、少しくらいわたしの話を聞いてほしい。

「ねぇ。どうせ寝たふりでしょ。レオナ」
「あぁ~うるせぇな」

 「んだよ」と片目をパチと開いたレオナが鬱陶し気にわたしを見上げる。その綺麗なサマーグリーンの瞳を上から覗き見ながら「小さいの頃のことよ」と言う。途端に眉根をギュッと寄せた。

「ガキの頃のことなんざ覚えてねぇよ」
「ウソでしょ。ねぇ、ほら文通をしていたときの頃のこと」
「てめぇな……チッ、覚えてねぇ」

 パチと開いていた瞳を閉じてわたしから逃げるように背を向ける。ゆらゆらと動く長い尻尾が肩にペチペチ当たってからゆらゆら動く。まるであっちにいけと言っているようだ。

「はぁ。お昼寝がほんとうに昔から好きなのね」

 しょうがない。わたしは座り直して動物語学の本を読む。動物とお喋りできると楽しそうだなって今一番力を入れている教科。もう少ししたら植物園に住みつく可愛子とお喋りが出来そうなのよね。
 そういえば。警戒心が強いと言えばこの横で寝ているレオナを思い出す。初めて出会ったときなんてわたしのことをすごく警戒していた。お蔭であの頃のわたしは初めての外交初日に泣きそうになった。でも、前世の記憶というちょっと卑怯かなと思わなくはないけれどそれを使って必死に交流を持とうとした。今思えば、わたしって友達作りが今も昔も下手くそよね。今も下手だし。結構相手任せ。

「そういえば、あのときも結局レオナからよね」

 歩み寄ってくれたのは何だかんだレオナだった。可愛い顔に似合わない呆れた顔。しょうがないというように隣に座ってきた。それが嬉しくてわたしは最後別れるとき泣きべそをかいてしまったし、その勢いで文通の約束をしてしまった。でも、それも大人の都合でパァよ。男女の友情が成り立たないなんて昔ならまだしも今ならねぇ。

「男女の友情成り立つわ……ねぇ、レオナ」
「……うるせぇな」
「ぃった!」

 パシンとしなやかな尻尾に殴られる。鞭のような尻尾はやはり痛くて腕を擦る。もうここまでやらなくても。昔の方が力加減をわかっていたわ。

「もう、昔の方がかっこよかったわよ」
「は?」

 ポソと呟いたわたしの言葉にレオナが反応を示した。背を向けていた身体だけれど顔だけ肩越しにこちらを見ている。真ん丸な瞳は驚いた時の猫みたいで可愛い。けれど、レオナが驚いたような反応するのはとても意外だった。

「レオナ、どうしたの?」

 声をかければレオナはすぐに可愛らしい丸い耳をぺそっと伏せてゆっくりと視線を逸らした。こういう仕草をするときのレオナは何か気まずいことをしたあとの仕草だ。小さい頃の癖が変わっていないことに嬉しくなると同時に何に反応したのか考えてわたしは頬を緩める。途端にレオナの綺麗な唇から呻き声が漏れる。

「あなたならたくさんの人から言われているじゃないの、ふっふふ」
「フン。どうせ第二とはいえ王子の俺に取り入りたいからだろ」
「そうかしら? あなたってしゃべらなければ素敵な王子様だから」

 わたしに背を向けていたレオナが胡乱な目をするとまた身体をこちらに向けた。頭を支えるように腕を立ててジトと据わった目で見上げて来る。その顔は呆れたとか、お前馬鹿、みたいなことを考えている顔だ。結構レオナも感情が表情に出ている。

「レオナってわかりやすいわよね」
「あァ?」

 予想外だったわたしの言葉に不機嫌になるレオナにわたしは笑みだけを浮かべる。そうするとレオナはもう何も言わんと仰向けになって目を閉じる。
 ふて寝ってかしらってわたしもまた本に視線を落とした。
 わたしはそのまま横になるレオナの隣で読書を続けた。それからわたしはこの方法が一番落ち着いて本が読める場所だということに判明する。ただ、そのことをケイトとトレイに言ったらまた何とも言えない顔をされたし、レオナにも珍しくそういう顔をされてしまった。

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