第五の精霊その後の転生物語

視線の真相



 入学して初めての長期休暇を終えて学園に戻ってくるとやけに視線を感じるようになった。一体なにかしら。
 視線を感じる度に辺りを見回すけれど視線の元を辿ることはできなかった。入学当時の好奇心を孕んだものでもなく。ねっとりとつき纏わるような視線でもない。
 正体の分からない視線に慣れつつあるけれど、やっぱり四六時中向けられるのは疲れる。王族だろうに、と言われても疲れるものは疲れるのよね。

「何だか疲れているみたいね」

 ふぅと溜息をつきながら授業の準備をしていると隣から声をかけられる。ツンとした気位の高そうな声は王侯貴族にいそうな声。その声の持ち主の名前を呼ぶ。

「ヴィル」

 横を向くと彼がちょうど席に座るところだった。ツンとした顔立ちの彼はヴィル・シェーンハイト。世界にその名を轟かせるスーパーモデルであり俳優。お父様もとても有名な俳優でその方の舞台にとても感銘を受けた記憶はまだ新しい。

 そのヴィルと仲良くなったのは新しく作られた映画研究会が気になって足を向けたときだった。聞いてみたら映画研究会を立ち上げたのはヴィルだった。芸能活動で忙しいのに部活動をするなんて、と思った。けれど彼はしっかりと学生生活を全うすることを決めて活動をすると胸を張っていた。見学したわたしも誘われたけれど生憎公務以外で表舞台に出ることに抵抗があって入会はしなかった。でも、その後も挨拶から始まり映画や舞台について話すようになった。

 特にヴィルの幼少期に出ていた舞台が好きで話したとき珍しく照れた彼は今でも印象に残っている。てっきり、当然のことって受け取ると思っていたのに。
 さて、わたし基準では友達だけれど大っぴらに言えないヴィルを見てまた溜息をつく。

「あらやだ。アタシを見て溜息なんて」
「ああ。違うの、ごめんなさい。ただ最近視線が……」
「視線?」

 に綺麗な眉を怪訝に顰めるヴィル。そのヴィルに「実は、」と最近向けられる視線について話す。途端に顰められた眉が解かれて呆れたような顔になって頭を緩く左右に振った。

「その視線……すぐに解決するわ」
「え。本当に」
「ええ……ルーク」

 ヴィルが少し離れたところにいる男の子を呼んだ。「ルーク……」それって、とわたしはその名前には覚えがあった。確か、トレイの部活に見学に行ったときに紹介された同学年の男の子の名前。

「オーララ」

 呼ばれて現れた人はやっぱりトレイの紹介された男の子だった。現れたルークは両手を上げて緩やかに頭を左右に振った。ふと目が合うとなじみ深い緑の瞳が意味深長気に弓なりにしなった気がする。その笑みがどうにも捉えどころがなくて身構えてしまう。
 わたしが身構えたのが分かったのかルークの視線がヴィルへと行く。安心しながらわたしはヴィルの影に隠れるように様子を窺うことにした。

「ヴィル。君の怒った顔も美しいね」
「お世辞は結構よ。アンタ、最近ずっとエルサのこと〝観察〟しているでしょ」

 「え」咄嗟にルークを見れば再び彼と目が合う。目が合った彼の自然に紛れてしまうような自然の色をした瞳が細まって、口角がキュッと上がった。一瞬だけ狐を思わせる顔立ちにやはり肩に力が入る。私の反応が見えたのかルークは途端に柔らかな笑みに切り替えた。

「怖がらせてしまってすまなかったね」
「いえ、ええ、その、どうしてって聞いてもいいの?」

 戸惑いながら思わずヴィルが言う観察の理由を尋ねる。すると、彼は先ほどの口角をキュッと上げた笑みでも、作った柔らかな笑みでもない晴れやかな笑みを浮かべた。

「君は観察しがいがあるからさ!」
「え、ええ、わたしが?」
「ウイ! 君は自分が思っている以上に秘めているモノがある。とても魅力的な女性さ」
「そ、それは、ありが、とう」

 思わずお礼を言うけれど結局何を目的にしているかは分からない。でも、雰囲気から自分が興味を持った人を観察している人なのは察することはできた。なら、ヴィルもされたのかしら。じっと横にいるヴィルを見れば視線に気づいたヴィルの瞳が向けられる。そして、首が縦に動かすと深い溜息をついた。

「はぁ! ほんっと、寮も同じだからそれこそおはようからおやすみまでよ」
「わ、わぁ。それはお疲れ様」
「ほんっと性質の悪いパパラッチの方がましに感じるわ」

 何だか想像したらドッと疲れた。スーパーモデルで人の視線を集めてしまうほど美しいヴィルでも疲れるとは。ルークの視線の凄まじさを実感してしまう。。現にわたしも疲れたし目力がすごいのかしら。

「ルーク。まだ続けるの?」
「いや。プリンセスの負担になるようならばやめければね」

 紳士らしく引いていくルークだけれど最後の最後に「おしいがね」とボソと囁くのに信用ができない。やっぱりルークもまたここの学園の生徒なのだなと思わせる。

「ま。これ以上エルサに何かあれば煩い保護者が出て来るからやめなさい」
「保護者?」

 ヴィルの発言に首を傾げれば「あら自覚なし?」と言われた。コクンと頷けばヴィルの視線が教室の入り口に向かった。もしかして授業を担当するトレイン先生のこと。あの先生はよく勉強も見てくれるし他にも興味深いお話をよく聞かせてくれる。先生の中でもとても好きな先生だったりする。そのトレイン先生が保護者なのかしらと振り返るとそこには隣の授業にいるはずのケイトとトレイがいた。

「あら。二人ともどうしたの?」

 手を振って声をかければ二人とも軽く返してくれた。「何でもないよぉ~」「ちょっと用事があってな」と返して来た。トレイの用事もしかしてルークかしら。振り返ってルークを見れば口角をキュッと上げて同じく手を振り返していた。

「違うのかしら?」
「ふっ、ふふ。アンタよりも保護者の方が勘はいいみたいね」
「え、ええ。あ、もしかして保護者って」

 あの二人、と綺麗な唇で悪戯っぽく言うヴィル。それに呆れたわたしは首を振った。

「違うわ。二人は、そのたぶん、と、友達、よ」
「あら。まだ自信ないの?」
「だって、」

 二人は男の子だし、友達じゃないって言われたら。そもそも前世でも今の世でも友達が少ないし、友達になれる環境を相手が用意してくれたようなもので自信がない。

「男の子と友達って難しいのね」

 ふぅと息をついてわたしはすでに教室に戻った二人がいたところ見た。


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