適切な距離って
◆ エルサ視点
「テツギョちゃんセ~ンパイ」
「きゃぁっ」
にゅっと現れた顔に声をあげて反射的に後退さると、踵が引っかかり転びそうになる。何とか踏んばると、すかさず背中に手が添えられた。
「あっぶねー」
わたしの前に突然現れたフロイドに支えられた。驚かされたヒトに支えられるのは情けないけれど、とりあえず「ありがとう」とお礼を言うとフロイドの手を支えに立ち直る。そして、隣にやって来たフロイドを見上げる。
「フロイド、いきなり驚かさないでちょうだい」
「あれくらいで驚くテツギョちゃん先輩もどーかと思うけど」
フロイドの意見も一理ありかしら。確かに、将来女王になる身としてはちょっとしたことで驚くのはと思うけれど。それでもやっぱりいきなり声をかけて驚かすのは、なんて考えてしまう。
「まぁいいわ。で、フロイドはどうしたの?」
モストロ・ラウンジ関係か。はたまた寮関係のことか。何かしらと随分高い位置にあるフロイドの顔を見上げる。すると、フロイドは小さな子どもみたいに首を傾げて目を瞬かせた。
「べつに? なんもねぇけど?」
「あら? そうなの?」
「うん。ただ、テツギョちゃん先輩がいるなぁって思って」
「だから声かけた」と言うフロイド。拍子抜けしながらも胸がふわっとする。結局3年生になっても女の子は入学しなかったけれど、こうして後輩に少しでも慕われていると思えると嬉しくなる。
「ふふ。そう、んふふ」
「ん? 何かおもしれぇことあった?」
「ふふ。ちょっと嬉しいことがあったの」
「ふーん。それってなに?」
ぐんと遠くにあった顔が近づいてきた。フロイドのこうした距離の近さは困ってしまう。
すぐに一歩引いて距離を取る。
「もう、フロイドいつも言うけれど近すぎるわ」
「あ~はい、はぁい」
適当な返事で屈んだ身体を直すフロイド。この調子はどうやら直す気はないみたい。
ハァ、と心の中でため息をつく。でも、わたしだけじゃなくて他のヒトにも距離が近いときがあるからパーソナルスペースが狭いのかもしれない。それでも。
「今が良くてもお付き合いするヒトができたら気をつけなさいね」
「は? なんで?」
「え?」
開いていた距離がまたぐっと縮まる。いつもの楽しそうな両目が妙に真剣みを帯びていてドキとしてしまう。
「なぁ。なんで?」
「なん、でって……そういうものじゃないの?」
「そうなの?」
「ん、ん~~」
お付き合いしているお相手が自分以外の異性と距離が近いのはイヤなものではないのかしら。といっても、以前も、今も、わたしは誰かとお付き合いということをしたことがない。誰かに恋焦がれたことがない。いまも、さしてその辺りに興味は薄かったりする。いや、それでもロマンチックな話しは素敵だと思うのだけれど。自分に置き換えると――って。違う。いまはわたしの恋愛事情なんて関係ないわ。
フロイドの子どものような無邪気な質問にはっきり答えられないでいると――。
「あぁ。なんか、わかったわ」
「ぇ?」
フロイドはあっさりと身を引いた。そして、一人何か納得したように腕を組んで頷いている。本当になんというか不思議な子。
「わかったならいいわ……」
「うん。だから、ま、テツギョちゃん先輩にはいいかなって思った」
「ん?」
口角を上げてにやりと笑うフロイドに海の底にでも引きずり込まれてしまいそうな感覚に陥る。
さっきとは別の意味で胸騒ぎがしているとニパッとフロイドがいつものように笑った。
「なーんて。ま、気を付けまーす!」
「あは♪」といつもらしく微笑むと頭の後ろで手を組んで歩き出す。その様子に肩の力を抜いて後に続く。
「はぁ。なんだか疲れちゃったわ」
「なら、今日のシフトサボる?」
「それはダメでしょ」
さっきまでの引きずり込まれそうな雰囲気はなくなりいつものフロイドに戻る。それに安心しながらいつものように話しをしながら寮に二人揃って戻った。
「テツギョちゃんセ~ンパイ」
「きゃぁっ」
にゅっと現れた顔に声をあげて反射的に後退さると、踵が引っかかり転びそうになる。何とか踏んばると、すかさず背中に手が添えられた。
「あっぶねー」
わたしの前に突然現れたフロイドに支えられた。驚かされたヒトに支えられるのは情けないけれど、とりあえず「ありがとう」とお礼を言うとフロイドの手を支えに立ち直る。そして、隣にやって来たフロイドを見上げる。
「フロイド、いきなり驚かさないでちょうだい」
「あれくらいで驚くテツギョちゃん先輩もどーかと思うけど」
フロイドの意見も一理ありかしら。確かに、将来女王になる身としてはちょっとしたことで驚くのはと思うけれど。それでもやっぱりいきなり声をかけて驚かすのは、なんて考えてしまう。
「まぁいいわ。で、フロイドはどうしたの?」
モストロ・ラウンジ関係か。はたまた寮関係のことか。何かしらと随分高い位置にあるフロイドの顔を見上げる。すると、フロイドは小さな子どもみたいに首を傾げて目を瞬かせた。
「べつに? なんもねぇけど?」
「あら? そうなの?」
「うん。ただ、テツギョちゃん先輩がいるなぁって思って」
「だから声かけた」と言うフロイド。拍子抜けしながらも胸がふわっとする。結局3年生になっても女の子は入学しなかったけれど、こうして後輩に少しでも慕われていると思えると嬉しくなる。
「ふふ。そう、んふふ」
「ん? 何かおもしれぇことあった?」
「ふふ。ちょっと嬉しいことがあったの」
「ふーん。それってなに?」
ぐんと遠くにあった顔が近づいてきた。フロイドのこうした距離の近さは困ってしまう。
すぐに一歩引いて距離を取る。
「もう、フロイドいつも言うけれど近すぎるわ」
「あ~はい、はぁい」
適当な返事で屈んだ身体を直すフロイド。この調子はどうやら直す気はないみたい。
ハァ、と心の中でため息をつく。でも、わたしだけじゃなくて他のヒトにも距離が近いときがあるからパーソナルスペースが狭いのかもしれない。それでも。
「今が良くてもお付き合いするヒトができたら気をつけなさいね」
「は? なんで?」
「え?」
開いていた距離がまたぐっと縮まる。いつもの楽しそうな両目が妙に真剣みを帯びていてドキとしてしまう。
「なぁ。なんで?」
「なん、でって……そういうものじゃないの?」
「そうなの?」
「ん、ん~~」
お付き合いしているお相手が自分以外の異性と距離が近いのはイヤなものではないのかしら。といっても、以前も、今も、わたしは誰かとお付き合いということをしたことがない。誰かに恋焦がれたことがない。いまも、さしてその辺りに興味は薄かったりする。いや、それでもロマンチックな話しは素敵だと思うのだけれど。自分に置き換えると――って。違う。いまはわたしの恋愛事情なんて関係ないわ。
フロイドの子どものような無邪気な質問にはっきり答えられないでいると――。
「あぁ。なんか、わかったわ」
「ぇ?」
フロイドはあっさりと身を引いた。そして、一人何か納得したように腕を組んで頷いている。本当になんというか不思議な子。
「わかったならいいわ……」
「うん。だから、ま、テツギョちゃん先輩にはいいかなって思った」
「ん?」
口角を上げてにやりと笑うフロイドに海の底にでも引きずり込まれてしまいそうな感覚に陥る。
さっきとは別の意味で胸騒ぎがしているとニパッとフロイドがいつものように笑った。
「なーんて。ま、気を付けまーす!」
「あは♪」といつもらしく微笑むと頭の後ろで手を組んで歩き出す。その様子に肩の力を抜いて後に続く。
「はぁ。なんだか疲れちゃったわ」
「なら、今日のシフトサボる?」
「それはダメでしょ」
さっきまでの引きずり込まれそうな雰囲気はなくなりいつものフロイドに戻る。それに安心しながらいつものように話しをしながら寮に二人揃って戻った。