同じで違う少年

同じで違う少年・2



 ダンスパーティーの最中、片方の女の子は抜け出し一人の男の人と出会った。
 女の子はその人をもう一人の女の人に紹介するけれど――ダメだった。
 女の子と女の人は険悪な雰囲気となり女の人を引き留めるため手袋を引き抜くと――。

 女の人が手を振りかざしたところに鋭い〝氷〟が生れた。

 女の人は怯えるように会場を飛び出し、城を飛び出し、逃げる。

 泣きそうな、怖がっているような、表情で吹雪の中を歩き。
 雪が吹雪く中、女性は諦めた表情をして、手袋を、マントを脱ぎ捨てる。
 何もかも解き放たれたように氷の城を築き、ティアラを投げ捨て、肌のすべてを隠すドレスを変える。

 解放された爽快感もあるだろうに女性はどこか寂し気に一人城にいた。

 またそこで夢は途切れて重いところから意識が引き上げられた。
 重い瞼を何度か上げ下げしていると――「ユウ?」と気遣う声がかけられる。
 優しくて甘くい柔らかな声。あの女の人の声もこうなのか。それとももっと硬くて緊張しているのだろうか。見る夢はいつも声が聞こえない。それでもユウはあの女性が一人寂しく泣いている〝声〟が聞こえた気がした。

「ひとり、ぼっちかぁ……」

 それでいいのかな。きっとよくないよ。でも、それを伝えられないし。きっと、それはユウの役目ではない。それに一人でいいと言う人を無理矢理連れ戻すのはその人をさらに傷つけてしまう。けど、それでも、ユウはあの優しいエルサに似た人には一人ぼっちで居てほしくなくて、いろんな人に囲まれて笑っていてほしい。
 ユウの勝手なお願い事であるけれど、夢の彼女にはそう願わずにはいられなかった。
 もう一度、眠りそうになったときだった。自分の手が何かを掴んでいるというか。何かを握っているというか。何だか柔らかい感触が手にあった。その柔らかい感触は何だかひんやりとしていて気持ちよくて離れがたくて――。

「きもちぃ」

 むにむに、と握って、何だか細いものがあって、何となく指に絡めていると――。

「ぁ、あの、ユウ?」
「んぁ?」

 遠慮がちにかけられた声に瞼を上げて辺りを見ると――何だか白いぼんやりとしたものがあった。いや、ものではない。これは完全に〝モノ〟ではなく〝者〟だ。

「は、ぇ? あ……えるしゃせんぱい?」
「ええ。うん。そうよ」

 視界がはっきりしてくると白いぼんやりとしたのがはっきりと見えてくる。
 はっきりと見えたそれはプラチナブロンドの美しい髪に、雪原のように白い頬を薄っすらと薔薇色に染めた女神だった。

「ひぁっ! めんなさい!」

 口が回らないのに自分が握っていた柔らかいモノの答えが分かった。何とか手を離そうとしたけれど恋人繋ぎ並みに指を絡めていたせいで瞬時に外すことはできなかった。

「うぇ。すいません。ごめんなさいっ!」
「ぁ、あ。ユウ、落ち着いて。大丈夫。大丈夫だから。ね、ね」

 まるで小さな子どもを宥める声音に恥ずかしくなる。
 羞恥心やらなにやらに襲われながら手を離して布団に潜り込む。ユウはここに布団があってよかったと心底思った。だが、すぐに潜っていられないことに気づいた。

「いま、何時ですか」
「えっと……最後の授業が終わった頃よ」
「エルサ先輩はずっと、まさか、ここ……に?」

 恐る恐る布団から顔を出しながらエルサ先輩を見ればにっこりと笑って「気にしないで」と言われた。もうそれが答えであり申し訳なさが天元突破した。

「す、すいませんでした! 誠申し訳ありませんッッッッ!」

 布団を蹴り上げてあらん限りの声と共にベッドの上で土下座をして叫んだ。
 ユウの背中は汗でびっしょりになりつつある。これは具合が悪かった証拠でもあるが同時にエルサ先輩に看病させたこととか、手を握って恋人繋ぎまでしてしまったことや。諸々のことがエルサ親衛隊でもバレたら――ユウは自分の命の短さを嘆いた。

「すいません。すいません」
「ユウ。そんな謝らないで。そもそもあなたの手を振りほどくことはできたのよ。それをしないであなたの傍にいることを選んだのはわたし。だからあなたが気にすることではないのよ」

 ユウは首を横に振りたかったけれど、エルサの慈愛に満ちた優しい表情に横に振ることはできなかった。だから、代わりに頭を深々と下げて「ありがとうございます」と感謝の気持ちを伝えた。

「いいのよ……ところで、ユウ。何か悩みがあるんじゃないの」
「ぇ」

 突然のことに呆けた顔をするとエルサが慌てて手を振った。

「ああ。もちろん、元の世界に帰れないとか。色々あると思うけれど……その、やっぱり何か思うことがあって身体が疲れてしまったんじゃないかと思って」

 心配げに綺麗な眉を下げるエルサに何だか目尻にじんわりと涙が滲む。
 元の世界に帰れないのはもう半ば諦めに近い気持ちは抱くこともある。ただ、グリムやエースにデュースと仲良くなった友だちと別れが寂しいと感じる。でも、家族のことを思い出すと郷愁が浮かび泣きたくなるときもある。
 一度弱った心にエルサの優しさがしみ込んで思わず涙がこぼれてしまった。

「す、すいません。別に深く悩んでいたわけではないんですけど」

 慌てて涙を拭って何とか笑って見せてもエルサの表情は晴れない。
 優しい人だと思う。いや、実際に優しい。本当に慈悲深い。

「エルサ先輩がオクタヴィネル寮なのなんか腑に落ちます」
「え、そう?」
「はい……」

 にへっと笑うとエルサの表情が少し崩れる。
 それによかたっと思うと何だか保健室の外がうるさくなってきた。

「あら。お迎えが来たみたいね」
「そうですね……あの、エルサ先輩」
「何かしら?」

 綺麗に微笑むエルサにちょっとドキっとしながらユウはマブたちが来る前に囁く。

「今度、そのよかったら悩み聞いてもらえますか……」

 一瞬大きな目をさらに見開いてまた優しく微笑んだ。

「いいわ。わたしでよければいつでも。あなたが話したいと思うときで」

 本当に優しい人だ。ユウはそう思って笑った瞬間「子分――ッ!」と飛び込んで来たのだった。



2/3ページ