可愛い後輩を装う少年
◆ エルサ視点
「エース。大丈夫?」
「ぜんぜん大丈夫じゃないっす……」
発展的な錬金術の授業で宝石の精製と精製工程のレポートを提出することになった。まずは予習として精製について調べるために放課後図書室に来たらぐったりとしたエースがいた。
慌てて近づいて「大丈夫か」尋ねたら疲れ切った声で「ぜんぜん」と返されてしまった。
何かあったのかと思えば「筋肉痛」とのこと。
「もしかして昨日の部活?」
「……フロイド先輩と組んだらこうなりました」
「え?」
フロイドと組んで、と思えば机にうつ伏せになっていたエースの顔がこっちに向く。そして、わたしをじっとりと恨みがましく見上げて来た。
「せんぱい、フロイド先輩の手綱しっかりと掴んでくださいよ」
「手綱って、そういうのはアズールやジェイドの役目よ」
「んなことないっすよ。フロイド先輩はエルサ先輩の前ではしおらしんすから」
「ええ?」
そうかしらと首を傾げるとエースがゆっくりと身体を起こした。そのエースはだらっとしながら肘を机に着けて「ほかにも」と話し出した。
「みんなそうっすよ。エルサ先輩の前では」
「皆?」
「っす。みーんなエルサ先輩の前では大人しいっす」
こくりとエースの頭が揺れ出す。
皆っていうのはわたしの周りにいるヒトたちのことなのかしら。でも、大人しいってことはない気がするわ。
「そう?」
「はい。オレだって、先輩の前では大人しくて可愛い後輩なろうって思います」
「あら。そう?」
「はい」
何だか眠そうな返事。これはもしかして半分寝ぼけ始めているのかしら。いや、眠いからボケている。なんだか分からないけれど、なんか可愛いわ。
「ふふ。そんなことしなくても可愛い後輩よ」
「そうしてるんですぅ」
こくこくと瞼が重そうに下がって上がっている。これはもう駄目ね。
「エース。部屋に戻って今日はゆっくり休みなさい」
「明日、クルーウェルせんせいの課題提出」
「どこまでやったの?」
「ぜんぜん、てつけてねいれす」
「あらぁ」
これはもう駄目ね。こっくり、こっくり大きくなってまた机にうつ伏せになる。
このまま寝せたらいけないきがするけれど、仕方ない。あとフロイドの手綱とやらを握れなかったお詫びに1年生の頃の記憶を掘り起こす。
――たぶん、あの課題よね。
さらさらと羊皮紙に課題のポイントを書き記す。その部分だけ破ってエースの教科書に挟む。たぶん、これで気づくはず……気づいてほしい。
「あとでメッセージも送った方がいいかしら?」
すやすや眠るエースの寝顔にあれこれと世話したくなる。
最近やっとオクタヴィネル寮の1年生と会話することができるようになった。それでも遠巻きに見られやすいのでこうして慕ってくれる1年生は他の寮生でも世話したくなる。
「でも、我慢よね」
部活も違うし。世話の焼き過ぎは要注意。
最後にエースの教科書の傍にキャンディーを置く。これくらいなら平気かな、と思った。
「がんばってね。エース」
そう囁いて自分の課題に取り組むことにした。
次の日、見かけたエースが余裕綽々の様子で何だか笑ってしまったのは内緒。
2025.01.25
「エース。大丈夫?」
「ぜんぜん大丈夫じゃないっす……」
発展的な錬金術の授業で宝石の精製と精製工程のレポートを提出することになった。まずは予習として精製について調べるために放課後図書室に来たらぐったりとしたエースがいた。
慌てて近づいて「大丈夫か」尋ねたら疲れ切った声で「ぜんぜん」と返されてしまった。
何かあったのかと思えば「筋肉痛」とのこと。
「もしかして昨日の部活?」
「……フロイド先輩と組んだらこうなりました」
「え?」
フロイドと組んで、と思えば机にうつ伏せになっていたエースの顔がこっちに向く。そして、わたしをじっとりと恨みがましく見上げて来た。
「せんぱい、フロイド先輩の手綱しっかりと掴んでくださいよ」
「手綱って、そういうのはアズールやジェイドの役目よ」
「んなことないっすよ。フロイド先輩はエルサ先輩の前ではしおらしんすから」
「ええ?」
そうかしらと首を傾げるとエースがゆっくりと身体を起こした。そのエースはだらっとしながら肘を机に着けて「ほかにも」と話し出した。
「みんなそうっすよ。エルサ先輩の前では」
「皆?」
「っす。みーんなエルサ先輩の前では大人しいっす」
こくりとエースの頭が揺れ出す。
皆っていうのはわたしの周りにいるヒトたちのことなのかしら。でも、大人しいってことはない気がするわ。
「そう?」
「はい。オレだって、先輩の前では大人しくて可愛い後輩なろうって思います」
「あら。そう?」
「はい」
何だか眠そうな返事。これはもしかして半分寝ぼけ始めているのかしら。いや、眠いからボケている。なんだか分からないけれど、なんか可愛いわ。
「ふふ。そんなことしなくても可愛い後輩よ」
「そうしてるんですぅ」
こくこくと瞼が重そうに下がって上がっている。これはもう駄目ね。
「エース。部屋に戻って今日はゆっくり休みなさい」
「明日、クルーウェルせんせいの課題提出」
「どこまでやったの?」
「ぜんぜん、てつけてねいれす」
「あらぁ」
これはもう駄目ね。こっくり、こっくり大きくなってまた机にうつ伏せになる。
このまま寝せたらいけないきがするけれど、仕方ない。あとフロイドの手綱とやらを握れなかったお詫びに1年生の頃の記憶を掘り起こす。
――たぶん、あの課題よね。
さらさらと羊皮紙に課題のポイントを書き記す。その部分だけ破ってエースの教科書に挟む。たぶん、これで気づくはず……気づいてほしい。
「あとでメッセージも送った方がいいかしら?」
すやすや眠るエースの寝顔にあれこれと世話したくなる。
最近やっとオクタヴィネル寮の1年生と会話することができるようになった。それでも遠巻きに見られやすいのでこうして慕ってくれる1年生は他の寮生でも世話したくなる。
「でも、我慢よね」
部活も違うし。世話の焼き過ぎは要注意。
最後にエースの教科書の傍にキャンディーを置く。これくらいなら平気かな、と思った。
「がんばってね。エース」
そう囁いて自分の課題に取り組むことにした。
次の日、見かけたエースが余裕綽々の様子で何だか笑ってしまったのは内緒。
2025.01.25