雷光のような少年

◆ エルサ視点



 探るような視線でもなく、舐めまわすようなじっとりとしたものでもなく、ただただ値踏みする強い視線をここ数日感じる。
 昼時、多くの生徒が集まる生徒の間を縫って辿るとそこにはライトグリーンの色彩をもつ見慣れないヒトがいた。見慣れない顔と真新しい張りのある制服から入学してきたばかりの1年生なのが分かる。

「あの子、ずぅっとエルサちゃんのこと見てるっていうか観察? してるよね」
「ディアソムニアの生徒だろ?」

 目の前に座るケイトとその隣に座るトレイの視線がわたしの背後に向けられる。
 わたしもベストや腕章からディアソムニアの生徒であることは認識している。そして、寮長であるマレウスと副寮長であるリリアからあの子についても話しを訊いた。

「うん。あの子、ディアソムニア寮の1年生でマレウスやリリア、それにシルバーと同郷で昔馴染みなんですって」
「あ。なんだ。ちゃんと把握済みなんだ」
「そこまで分かっているなら問題はないってことか?」

 ケイトとトレイの視線が背後からわたしに戻る。二人の拍子抜けした表情に思わず苦笑いで返してしまう。

「問題はないのだけれど、そのどこにいても視線は感じるのはちょっとね」

 ねっとりとした感じではなく真っすぐな純粋な視線だからまだ気分は悪くはない。でも、あまりにもどこにいても感じるから何だかどんどん動きづらくはなっている。

「視線慣れしているお姫様のエルサちゃんでさえそう感じるってことは相当だね」
「ということは、モストロ・ウランジで働いているときもそうなのか」
「ぇえ。まぁ。そうなのよ」

 わたしが給仕で出ていたときは必ずいた。それにアズール、ジェイド、フロイドも気づいていたし、なんなら他の寮生も気づいていた。
 最初は追い払うか、と言われたけれど特に問題行動も起こしていない彼にそんなことでいなかった。それ以上にわたしを指名して給仕させようとして来た生徒の方が多く迷惑となっていた。とはいえ、じっと無言で見つめていた彼をアズールは気にかかったのか珍しく寮長権限で注意するかと聞いてきた。でも、やっぱり何もしていない彼にそんなことできなず、アズールの進言も断った。

「でも、ストレスたまっきてる感じ?」
「んー。ん~。ストレスっていうほどでもないけれど……そろそろ理由というかいっそ話しかけてほしい気持ちはあるかしら」

 首を傾げるケイトと逆の方に首を傾げる。
 そう。そろそろ何か言いたげとではないけれど何かあるならぜひ聞いてほしい。もういっそ話しかけて何か聞かれた方がましな気持ちになってきた。

「やっぱりストレスになっているんじゃないか」
「ハァ。これくらいで情けないわよね」
「いやぁ。エルサちゃんはよく頑張っている方だけれど……あれほど真っすぐな視線はそれはそれで、だよねぇ」

 チラッと一瞬だけケイトの若葉色の瞳がわたしの後ろに向けられた。でも、一瞬ですぐにわたしに戻して眉毛を下げて困ったように八重歯を覗かせて笑った。
 彼につられるように苦笑を零してティーカップに手を伸ばすと――。

「若様ッッ! リリア様ッッ!」

 元気のいい声が食堂に響いた。反射的に後ろを肩越しに見れば背筋を伸ばして立っているセベクくんがいた。そして、すぐ傍にマレウスとリリア。それに後ろからシルバーがついていた。どうやら彼はマレウスたちのために席取りをしていたみたいだ。

「ハハ。うちのやんちゃ坊主たちも元気だがあの生徒も元気だな」
「いやいや。トレイくん、あの子のあれとうちの子たちの元気は違くない?」

 新しく入った1年生の可愛さの比較を始めるケイトとトレイ。その話はなんだか微笑ましくて羨ましい。
 わたしは今年も女子生徒が入って来なかった。ついでにいうとまだオクタヴィネル寮の1年生と親しくなっていない。
 何だか。よそよそしいというか。異性が苦手な子も多いのかしら。距離を掴みかねているという感じでもあるし。
 もう少し様子を見ない、と手に取ったティーカップに口を着けていると――。

「いや、まだですッッッ!!」

 背後から再び叫ばれた声に思わずティーカップを落としそうになる。
 危なかった、ともう一度背後をそっと見ればマレウスがちょっと厳しい表情をしていた。リリアは何だか呆れたというかなんというか。そして、シルバーもちょっと難しい顔をしている。叫んだセベクくんはというと何だか視線をさ迷うようなさっきまで伸びていた背筋がちょっと丸い。

「何があったの……?」
「んー。エルサちゃんはずっと背を向けているから分からなかったけれどなんか怒られている雰囲気?だったよ。ね。トレイ」
「俺には怒られているというか窘められている感じに見えたがな」

 どうやら一瞬目を離しただけで何かあったらしい。とはいえ、敬愛するマレウスやリリアに叱られるのは彼に堪えるのではないのかしら。

「大丈夫かしら……」
「エルサちゃんったらお人好しだねぇ」

 マジカメを見ているだろうスマホから視線を離さないケイトが言う。
 ティーカップをソーサーに戻し、もう一度だけ彼をそっと見る。すると、もう彼らは誰も立っていなかった。ただマレウスとシルバーだけが座っていた。どうやらリリアと彼は昼食を取りに行ったようだ。それとも他の二人の分も取りに行ってしまったのかもしれない。背を向けているシルバーの様子は分からないけれど、マレウスはまだ難しい顔をしているように見えた。

「ちょっと落ち込んでいるみたいだな」

 トレイの声につられて前を見る。そして、トレイの視線を辿って行くとライトグリーンの頭が見えた。そして、その肩は少しだけ落ちていた。

「すっかりしょげてしまったのね」
「はは。しょげるいいね! それ!」
「もうケイトったら!」

 ケラケラ笑うケイトを注意しながらもう一度彼のことを見るがもう人の波に消えていた。


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