満ち溢れた少年

◆ エルサ視点


 鏡舎を出て朝食のため食堂に向かう生徒と同じ方向へ歩いていると後ろから明るい声で名前を呼ばれる。振り返るそこにはとても珍しい〝男の子〟たちがいた。

「オルト、おはよう」
「エルサさん! おはよう!」

 後ろの声に振り返れば真っ白なボディの小さな〝男の子〟がいた。そして、その傍らには猫背で丸まった背中と朝日から逃げようと深くフードを被った男の子もいた。そのフードの男の子の存在にわたしは目を丸くした。

「あら。イデア。おはよう」
「はざーす」
「まぁ。ずいぶん酷い声」
「や。朝はいつもこんなもんすわ」

 掠れて低い声は普段よりもさらに小さい。眠いという気怠さよりもなんか全体的に倦怠感を持った声だった。
 歩調を合わせてオルトの隣に行くとすいっと動いてイデアを挟んだ向かい側に行く。そして、朝日から逃げるようなイデアに変わって話てくれた。

「兄さん、最近ずぅっとちゃんとした朝食を取ってないんだよ。そろそろ栄養バランスとか考えると限界かと思って何とか出てきてもらったんだ」

 もう、とプンプン怒った様子のオルトにイデアは「ちゃんと食べてるんだけどな」と消え入りそうな声で返している。でも、その食事がちゃんとしていないことはわたしでも知っている。

「そうね。たまにはちゃんとした朝食を食べたほうがいいわよ」
「めんどい」
「ダメ! 今日は絶対にしっかり食べてね! それに日の光を浴びるのは身体にだっていいんだから!」

 ここぞとばかりにイデアに言い募るオルト。きっと、それができるのはオルトくらいなんだろう。その微笑ましい関係に思わず笑みがこぼれる。

「ふふ。オルトには何も言い返せないのかしら?」
「エルサさん、これでも僕すぅごくっ! 駄々こねられたんだよ!」

 「だからちょっと最終手段を取ったんだぁ」と悪い顔をするオルト。それが一体なんだったのか。イデアがのっそのっそ出てくるだけのことはあるのだろうことは確か。

「弟に弱いのね。お兄ちゃん」
「うっ。拙者そういう趣味ないんで」
「ぇ?」
「エルサさん、気にしないで」

 ぎゅっとフードの紐を引っ張って顔を隠そうとするイデア。それにオルトは気にするなと首を振った。
 その後、一緒に朝食でもと思ったのだけれど、ケイトやトレイが来るとイデアはオルトを伴って足早に去ってしまった。それがあったのが1年生の終わりだったか。それとも2年生の始まりのことだったか。

「あら。イデア。あなたを朝見かけるのは久しぶりね」
「はざす」
「おはよう。オルトもおはよう」
「おはよう! エルサさん!」

 真っ白なボディからナイトレイブンカレッジの制服に見える黒いボディへと変わったオルト。今年度から改めて学園に入学して1年生となった。
 今までオルトと授業を受けていたイデアがちゃんと授業を受けられるか心配したが何とかなっているみたい。

「部屋も別になったって聞いたときはほんとうに心配したわ」
「や。拙者、別にそこまで心配されるいわれはないんだが」
「え~。でも兄さん最初は僕がいないこと忘れて大変だったじゃん」
「ちょ、オルトッ! 兄ちゃんの沽券にかかわるから!」

 目を細めるオルトに慌てるイデアは前よりちょっと違う気がする。

 ――前も仲は良かったけれどもっと仲良くなった感じがするわ。

 兄弟仲がいいのはいいわよね。微笑ましい気持ちで二人を見ていて思い出したことがあった。

「そういえばオルトはボードゲーム部じゃなくて映画研究会に入ったんですってね」
「うん! せっかくだから新しいことを試してみたかったからね!」
「そうなの。でも、いつでも遊びに来てね」
「もちろんだよ!」

 キラキラ輝く様子は以前とはまた違った強く生き生きとしたものを感じる。隣でじっと聞いていたイデアも何かもっと言うのかと思ったら静かに聞き入っている様子だった。

「ついにイデアも弟離れの時が来たのね。寂しいのは分かるわ。わたしも妹大好きだから」
「ぇ、や。そんなブラコンみたいなこと言わんでくだされ」
「あら違うの?」
「いや。拙者の弟が最高なのは決まってるんだが……」

 「ブラコン。いや、その言い方はちょっと」とぐちぐち言うイデアをオルトと二人でこっそりと笑う。この様子ではまだまだ弟離れまだの様子。

「オルト。楽しい1年に――いえ、楽しい学園生活を送ってね」
「うん! いっぱい、たーくさん! やってみたいことはあるからね! 全部やってみるつもりだよ!」

 輝かしい光にわたしは思わず目を細めた。そして、彼のやりたいことがすべてできることを祈った。




2024.12.07 ピクシブ公開
2024.12.08 サイト公開
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