林檎の少年

◆エルサ視点



 ヴィルが中々の逸材が入寮したと聞いた。初めて対面したとき彼を一瞬だけ女の子だと思ってしまったことは内緒。だって、ずっと女の子がわたししかいなかったんだもの。
 彼――エペルは口数の少ない子だった。言葉を吟味するようにゆっくりと紡ぐ。そういう子なんだろうと思っていただから。大人しい子なのかと思ったのだけれど――。
 あれは、一人で麓の街に降りたときだった。珍しくしつこく絡まれてしまったときだった。

「わぃ゛の連れになんのようね」

 いつものゆっくりと紡ぐ唇から出たドスの利いた声に耳を疑った。けれど、彼は普段の大人しそうな雰囲気を殴り捨てたようにわたしに絡んで来た男の人を追い払った。
 ふん、と鼻を鳴らしたあとわたしを見て「ヤベッ!」と男の子らしい言葉が出た。

「エペル。あなた」
「あの! これは、そのッ~~ヴィル先輩には秘密にしてくださいッ!」

 勢いよく頭を下げるエペル。わたしは慌てて頭を上げさせた。
 頭を上げた彼の顔は不安というか何とも言えない苦し気な顔をしていた。何があったのか、というのはきっと私が首を突っ込むことではないんだろう。

「言わないわ。というか、ヴィルに話すとしたらあなたがわたしを助けてくれたことだけよ」
「でも、その僕……」

 淡く綺麗な唇をキュッと噛む。そんなことしたら切ってしまうかもしれない。わたしは慌てて「言わないわ」と告げる。

「あなたが言わないでほしいなら。何も言わない」

 するとエペルは分かりやすく安堵した顔をした。
 彼とヴィルの間に一体なにかあったのか。わたしは知らない。知らないけれど、もして聞いてみた方がいいのか。

 ――何だか心配になってきてしまうわ。

 オクタヴィネル寮に入った1年生とはまだ中々打ち解けていないなか。1年生とどう接していいのか。やっぱり他の寮には口を出さない方がいい気がする。けれど――。
 エペルの白魚のような手を握る。その手は小柄な彼から想像で居ないほどしっかりと男の子だった。それにちょっとドキドキしながら彼の大きな瞳を見つめる。

「エペル。わたしでいいならいつでも相談にのるからね!」
「ぇ、あ、は、はい」

 突然何をというような困惑を滲ませるエペルに先走ってしまった感じがした。でも、まだ1年生の彼には相談する窓口がたくさんあってもいいでしょう。
 そんな感じでわたしとエペルとの交流が始まった。



 出会ってしばらくが立った頃。
 休み中に申請し図書館に向かっているとマジフト部の人たちが見えた。その中でいっそう小柄な選手が目に入った。すると、その人がわたしを見つけて手を振って近寄って来た。
 「エルサ先輩! こんにちは」と元気のいい挨拶に自然と笑みが浮かぶ。

「今日の練習試合はスタメンなの?」
「はい! チャンスがやっと来ました!」

 髪を縛って、ゴーグルを頭に着けて、全身ナイトレイブンカレッジのマジフト部のクラブウェを身に纏ったエペル。出会った当初より何だか逞しくなった気がする。

「頑張ってね」
「はい! ぜったいにゴール入れてみせます!」

 箒を肩に担いで会場になっているコロシアムに向かって行った。
 その背中が入学した頃よりもやっぱり大きく見えた気がした。



2024.12.02
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