うたた寝少年

リリア視点



「メンダコちゃん、早くクラゲ引き取ってくんね」

 むすっとしたウツボの子に言われて苦笑が零れる。だが、エルサ姫の膝で眠る我が子にはもっと苦笑が零れるし、年頃の男として情けなさも込み上げる。

「エルサ。シルバーが迷惑をかけたのぉ」
「ふふ。いいのよ」

 詫びを言いに行くと言ってまた迷惑をかけるとは。流石に情けない。さて、流石にシルバーも大分大きく成長して抱えて運ぶのは少々難しい。ま、魔法を使えば問題はないが――。

「これ。起きんか!」
「きゃっ!」

 呑気に眠り続けるシルバーの額をパシンと叩く。シルバーは眉間に皺を寄せるとそのまま瞼を痙攣させてゆっくりと瞼を起した。

「おやじ、どの?」
「うむ。シルバー、わしはエルサに詫びを入れて来ると言ってきたと聞いていたのだが」

 「どういう状況じゃ?」と訊ねるとシルバーが目を動かしてエルサが視界に入ったのかギョッと目を見開くと勢いよく起き上がった。そして、その勢いでソファを降りて綺麗な直角で頭を下ろした。

「エルサ先輩、重ね重ねご迷惑をおかけしましたっっ!」

 久々に腹から出す声ではないか。じゃがな、シルバーここは他寮じゃ。先ほどからエルサ過激派になりつつある寮生からの視線が痛い。

「ほぉんと。テツギョちゃん先輩はこれからオレとジェイドとアズールと一緒に夕飯なのにさぁ」

 にょっとエルサの背後に立つフロイドの分かりやすい苛立ち。だが、まだ語尾を荒げないのはエルサの前だからだろうか。

 ――ほほぉ。可愛げのある男じゃ。いや、まだ可愛い後輩でいたいからかのぉ。

 これは面白いと若者たちの青い春を横目にしながらわしも頭を下げる。

「エルサ。わしからも悪かった」
「リリア!」
「おや、リリア先輩!」

 慌てる二人に笑いながら頭を上げる。さて、本気で視線が痛いの。これくらいの視線は可愛いがそろそろお暇するか。

「さ。シルバー、帰るぞ。マレウスも腹を空かせて待っておる」

 はっと目を見開くシルバーが「はい」と心底申し訳なさそうな顔をする。うむうむ。ちょっとは効いたじゃろ。にしても、謝罪をしたらすぐに帰って来ると思ったが――これはもしやの、もしや、かもな。

「では、邪魔したな」
「ほんとぉ~」
「こら、フロイド!」

 子どもらしく追撃するフロイドを嗜めるエルサはまるで傍からみたら姉と弟のようだ。それでは男としてもらえぬぞ。とはいえ、フロイドがそこまでエルサに気があるのか分からぬから要らぬことは言わぬ。

「さ。行くぞ。シルバー」
「はい……」

 静かな息子を横目に見ればどこか名残惜しげな顔をしている。ああ、こうして人間は成長していくのか。そう思うと嬉しいような寂しいような気がした。とはいえ、この我が子がかつて第五の精霊として生きた過去を持つ彼女に見合う男に成長するか――。

「シルバー。もっと励めよ」
「え、あ、はい」

 我に返ったシルバーはいい顔で返事をした。それに満足してシルバーを伴ってオクタヴィネル寮を後にした。しかし、わしはこのときシルバーに加勢する勢力がいることを知らなかった。



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