うたた寝少年
物語のワンシーン
「容赦なく叩き起こしていいってリリアは言ったけれど……」
――リリアはいつもこの状況を見て叩き起こしているの?
目の前にはキラキラした銀色の髪を輝かせ木を背もたれにして眠る男の子。健やかに眠る銀髪の男の子の周りには森にいるような動物と、いったいどこから出て来たと思うくらい可愛らしい花々があった。
昼間の暖かな日差しもあってかさながら御伽噺で描写されるような光景。絵画のような美しさともいえる光景を崩すことができる。
――できる気がしないわ。いえ、無理よ。
でも、そろそろ授業が始まる時間。まだ一年生である彼が次の時間空き時間とは考えられない。だから、起してあげないと思うけれど――。
「どうしよう……」
そもそも彼を護るように囲んでいる動物たちが容易に近寄らせてくれるかしら。動物は警戒心が強いし。動物言語で話しかけるにしてもあの動物の中のトップが分からないわ。
迷っている間にも時間は過ぎていく。ええい、しかたないと足を一歩踏み出す。草を踏みしめた音に動物たちが一斉にわたしを見る。
警戒されると肩を竦めたけれど動物たちは威嚇することはなかった。ただ愛らしい真ん丸の瞳でじっと見つめて来る。綺麗なキラキラした瞳に見つめながら微笑んで「はぁい」と手を振る。すると、彼の傍にいた鹿が徐に立ち上がって近づいて来る。
まだ小鹿といってもいい大きさの鹿にそれでも怖くなる。いや、故郷のトナカイを思い出せば鹿くらいなんてこと。
――やっぱりちょっと怖いわ。
けど鹿は突進してくることなくわたしの前を通り過ぎて背後に来ると――。
「わぁっ」
トンと軽く背中を押して来た。たたらを踏んで前に踏み出すとまた背中をトンと押される。これは前に行けということなのかしら。
想像しながら前に歩いていく。前を歩いて行けば必然的に眠り続けている男の子の前に来る。背後にいた鹿はわたしが前に立つと満足げに再び彼の傍に座り込んだ。
「えっと……座ってもいいかしら?」
指を下に向けながら誰に訊ねているのかも分からず人間の言葉で言う。それにチュンチュンという鳥の鳴き声が消されたのでわたしはスカートを気にしながら彼の傍に座る。
いや、座り込んでどうするのよ。起していいか聞けばよかった。
――なんで座っていいか聞くのよ!
自分の馬鹿さ加減に自己嫌悪に陥って額に手を当てていると何か軽く落ちる音がした。
なに、と膝元を見れば花で出来た冠があった。その花は彼の回りに落ちている愛らしい花と同じだった。
「これ、わたしに?」
そっと崩さないように持ち上げて周りにいる動物たちに訊ねる。すると、動物たちは首を縦に動かした。
何だか可愛い仕草に微笑ましくなって自然と頬が緩む。
「ありがと――ぁ」
感謝を告げると小鳥たちが来てわたしの手にあった花冠を取っていく。やっぱり駄目だったのかしらと思ったら小鳥たちは花冠を頭より高いところまで持っていくとパサと頭に乗せた。
すると、綺麗に乗った冠に手を添えてわたしは動物たちを見回す。動物たちは満足げに丸い瞳を輝かせていた。それがやっぱり愛らしくて笑いが零れる。
「ふ、ふふ。ありがとう」
そういえばアナが初めてつくった花冠をわたしに乗せてくれたことがあった。あのときのアナも可愛かったなぁと歳が離れてしまった妹を思い出していると――。
「えるさ、せんぱい?」
「え」
掠れた声に顔を向けるとそこには寝ぼけ眼(まなこ)のシルバーがいた。
自力で起きたことに胸を撫で下ろしながら「おはよう」と声をかける。シルバーは「ぇ、あ、はい……」と要領が得ない顔をしながら身体を起す。
「俺、もしかして、寝ていましたか」
「ええ。ふふ、ここにいる子たちが見守っていたわよ」
「ぁ、ああ。おまえたちか」
シルバーは覚醒し始めた目で周りを見回して小さく笑んだ。クールな顔立ちで真面目そうに唇を引き結んだ印象の強い彼の意外な微笑みだった。
その笑みにきっとこの学校にわたし以外の女の子がいたらイチコロね。ヴィルなどとはまた違うスマイルキラーだわ。
思わずまじまじと見ているとシルバーの故郷のオーロラによく似た瞳がわたしを捉える。
「エルサ先輩は俺に何か用があったんですか?」
「あ、用じゃないんだけれど……あッ! 授業よ!」
ブレザーのポケットから懐中時計を取り出す。蓋を開けてわたしはシルバーに見せる。それに普段冷静な彼の瞳がみるみる見開いていく。
「次、授業、あります」
「な、なら! 急がないと!」
「はい。そうですね」
すくっと立ち上がった彼は律儀に頭を下げて動物たちにも声をかけて足早に去って行った。
あっという間に小さくなる背中を見送って立ち上がる。同時に周りに動物たちが集まって来る。愛らしい瞳にもう少しいたくなるけれどわたしも図書館に行って調べものをしないといけない。
「また今度どこかで会いましょうね」
鹿の頭を撫でてわたしも名残惜しげにその場を後にした。
けれど、このときわたしは頭に花冠を乗せていることをすっかり忘れていた。それに気づいたのは図書館で調べものをしていたヴィルとルークに指摘されたときだった。
「や、やだぁ。だから、皆なんかじっと見て来ていたのねぇ!」
「ふふ。でも、君によく似合っていたよね。ねぇ。ヴィル」
「ええ。とっても素敵な花のプリンセスだったわ」
小声で二人に茶化されながらわたしは恥ずかしさに沈んだ。そして、どこから話が広まった――なんて言われなくても廊下で通りすぎた人達によって話はあっという間に学園に広まった。
お蔭でケイトにも、トレイにも茶化されるし、同じ寮の後輩のアズールたちにまでからかわれてしまった。その日は散々な日になってしまった。
それでもあの愛らしい花たちを無残に捨てることも出来ず私はドライフラワーにして部屋に飾ることにした。だって、花に罪はないでしょ。
「容赦なく叩き起こしていいってリリアは言ったけれど……」
――リリアはいつもこの状況を見て叩き起こしているの?
目の前にはキラキラした銀色の髪を輝かせ木を背もたれにして眠る男の子。健やかに眠る銀髪の男の子の周りには森にいるような動物と、いったいどこから出て来たと思うくらい可愛らしい花々があった。
昼間の暖かな日差しもあってかさながら御伽噺で描写されるような光景。絵画のような美しさともいえる光景を崩すことができる。
――できる気がしないわ。いえ、無理よ。
でも、そろそろ授業が始まる時間。まだ一年生である彼が次の時間空き時間とは考えられない。だから、起してあげないと思うけれど――。
「どうしよう……」
そもそも彼を護るように囲んでいる動物たちが容易に近寄らせてくれるかしら。動物は警戒心が強いし。動物言語で話しかけるにしてもあの動物の中のトップが分からないわ。
迷っている間にも時間は過ぎていく。ええい、しかたないと足を一歩踏み出す。草を踏みしめた音に動物たちが一斉にわたしを見る。
警戒されると肩を竦めたけれど動物たちは威嚇することはなかった。ただ愛らしい真ん丸の瞳でじっと見つめて来る。綺麗なキラキラした瞳に見つめながら微笑んで「はぁい」と手を振る。すると、彼の傍にいた鹿が徐に立ち上がって近づいて来る。
まだ小鹿といってもいい大きさの鹿にそれでも怖くなる。いや、故郷のトナカイを思い出せば鹿くらいなんてこと。
――やっぱりちょっと怖いわ。
けど鹿は突進してくることなくわたしの前を通り過ぎて背後に来ると――。
「わぁっ」
トンと軽く背中を押して来た。たたらを踏んで前に踏み出すとまた背中をトンと押される。これは前に行けということなのかしら。
想像しながら前に歩いていく。前を歩いて行けば必然的に眠り続けている男の子の前に来る。背後にいた鹿はわたしが前に立つと満足げに再び彼の傍に座り込んだ。
「えっと……座ってもいいかしら?」
指を下に向けながら誰に訊ねているのかも分からず人間の言葉で言う。それにチュンチュンという鳥の鳴き声が消されたのでわたしはスカートを気にしながら彼の傍に座る。
いや、座り込んでどうするのよ。起していいか聞けばよかった。
――なんで座っていいか聞くのよ!
自分の馬鹿さ加減に自己嫌悪に陥って額に手を当てていると何か軽く落ちる音がした。
なに、と膝元を見れば花で出来た冠があった。その花は彼の回りに落ちている愛らしい花と同じだった。
「これ、わたしに?」
そっと崩さないように持ち上げて周りにいる動物たちに訊ねる。すると、動物たちは首を縦に動かした。
何だか可愛い仕草に微笑ましくなって自然と頬が緩む。
「ありがと――ぁ」
感謝を告げると小鳥たちが来てわたしの手にあった花冠を取っていく。やっぱり駄目だったのかしらと思ったら小鳥たちは花冠を頭より高いところまで持っていくとパサと頭に乗せた。
すると、綺麗に乗った冠に手を添えてわたしは動物たちを見回す。動物たちは満足げに丸い瞳を輝かせていた。それがやっぱり愛らしくて笑いが零れる。
「ふ、ふふ。ありがとう」
そういえばアナが初めてつくった花冠をわたしに乗せてくれたことがあった。あのときのアナも可愛かったなぁと歳が離れてしまった妹を思い出していると――。
「えるさ、せんぱい?」
「え」
掠れた声に顔を向けるとそこには寝ぼけ眼(まなこ)のシルバーがいた。
自力で起きたことに胸を撫で下ろしながら「おはよう」と声をかける。シルバーは「ぇ、あ、はい……」と要領が得ない顔をしながら身体を起す。
「俺、もしかして、寝ていましたか」
「ええ。ふふ、ここにいる子たちが見守っていたわよ」
「ぁ、ああ。おまえたちか」
シルバーは覚醒し始めた目で周りを見回して小さく笑んだ。クールな顔立ちで真面目そうに唇を引き結んだ印象の強い彼の意外な微笑みだった。
その笑みにきっとこの学校にわたし以外の女の子がいたらイチコロね。ヴィルなどとはまた違うスマイルキラーだわ。
思わずまじまじと見ているとシルバーの故郷のオーロラによく似た瞳がわたしを捉える。
「エルサ先輩は俺に何か用があったんですか?」
「あ、用じゃないんだけれど……あッ! 授業よ!」
ブレザーのポケットから懐中時計を取り出す。蓋を開けてわたしはシルバーに見せる。それに普段冷静な彼の瞳がみるみる見開いていく。
「次、授業、あります」
「な、なら! 急がないと!」
「はい。そうですね」
すくっと立ち上がった彼は律儀に頭を下げて動物たちにも声をかけて足早に去って行った。
あっという間に小さくなる背中を見送って立ち上がる。同時に周りに動物たちが集まって来る。愛らしい瞳にもう少しいたくなるけれどわたしも図書館に行って調べものをしないといけない。
「また今度どこかで会いましょうね」
鹿の頭を撫でてわたしも名残惜しげにその場を後にした。
けれど、このときわたしは頭に花冠を乗せていることをすっかり忘れていた。それに気づいたのは図書館で調べものをしていたヴィルとルークに指摘されたときだった。
「や、やだぁ。だから、皆なんかじっと見て来ていたのねぇ!」
「ふふ。でも、君によく似合っていたよね。ねぇ。ヴィル」
「ええ。とっても素敵な花のプリンセスだったわ」
小声で二人に茶化されながらわたしは恥ずかしさに沈んだ。そして、どこから話が広まった――なんて言われなくても廊下で通りすぎた人達によって話はあっという間に学園に広まった。
お蔭でケイトにも、トレイにも茶化されるし、同じ寮の後輩のアズールたちにまでからかわれてしまった。その日は散々な日になってしまった。
それでもあの愛らしい花たちを無残に捨てることも出来ず私はドライフラワーにして部屋に飾ることにした。だって、花に罪はないでしょ。