主従な少年たち

清々しい顔



 わたしに後輩ができる。もしかしたら待望の女の子が入ってくるかもしれない。そう思うと式典よりも長い入学式にも耐えられた。一人ひとり読み上げられる名前をワクワク聞いていたのだけれど――。

「エルサちゃん、そんなに期待しない方がいんじゃない?」
「女の子がいなかったときに落ち込むぞ」
「そ、そんなこと言わないでちょうだい!」

 両隣にいるケイトとトレイの心配げというかちょっと呆れている声にわたしは小声で反論する。それでも二人は上から「でもねぇ」と言いたげに両隣から見下ろしてくる。
 いつもは慰めてくれたりするのに。少しは「いるかもね!」とか言ってくれてもいいじゃないの。もういいわ、と二人を無視して祈っていると――。

「ジャミル・バイパー」
「はい」

 呼ばれた名前に「あら」と反応する。それにケイトとトレイが真っ先に反応して「男の子だよ?」「女の子じゃないからな?」とすかさず返してくる。わたしはムッとしながら「違うわ」と返す。

「もしかして知り合い?」
「小さい頃にお父様とお母様と一緒に熱砂の国に行ったときに遊び相手をしてくれた子よ」

 懐かしい名前。カリムの名前はなかったから彼だけ入学許可書が来たのかしら。カリムが駄々を捏ねる姿が浮かぶけれど少年になったからはしないだろうか。
 熱砂の国での懐かしい光景を思い浮かべていると「スカラビア寮」と闇の鏡が叫んだ。

「あら。違う寮になってしまったわ」
「あとで遊びに行くといいんじゃない?」
「そうね」

 後で一年生のクラスに遊びに行ってみよう。それにあの彼がどのように成長したかも気になるし。幼いながらに気の回りすぎる姿を思い出して彼の今が心配になった。



   * * *



 数日後。彼に会うことができた。その表情といったら――。

「随分清々しい顔をしているのね」
「エルサ先輩、こんにちは」
「こんにちは、ジャミル」

 久々に会った彼は随分清々しい表情をしていた。なんというか解放された感じがする。わたしにすら愛想笑いを向けるほど清々しい。もう少し小さい頃のよしみで砕けた態度をとってほしいのだけれど、流石に無理かしら。
 肩透かしを食らった気持ちで「元気?」と訊ねる。すると、よそ行きの笑みがスンと落ちて打ち解けた頃の彼らしい顔になって「元気だ」と言ってくれた。
 私は嬉しくなって「わたしもよ」と返す。

「カリムも元気?」
「ああ。俺だけがあんたが在籍するナイトレイブンカレッジに入学すると聞いたときの癇癪は酷かったがな」
「そ、そう」

 大変といいながらもジャミルはニヒルな笑みを浮かべている。
 どうやら二人は〝あの後〟から友人らしい関係が築けたらしい。彼らの環境では難しかっただろうにきっと何度も分かり合うためにうぶつかり合ったに違いないわ。お互い価値観も違うし、大変だっただろう。それでも今、それなりの友人関係を気づけている様子が見えるのは嬉しい。

「にしても、エルサの噂はすごいな」
「え、噂? え、なに? 噂って?」

 学園内唯一の女子生徒ということで色々話のネタになってきた。そこに来てまさかの噂なんて一体何かしら。不安になって眉を下げるとジャミルが腕を組んで「悪いものじゃない」と言ってくれた。

「むしろいい方じゃないか?」

 ジャミルが口角をくいっと上げた。いい噂と言っておきながら彼の表情からいいという感じはしない。わたしは気になって「どんな……?」と尋ねる。ジャミルは顎に手をかけて「女神」と一言告げた。

「女神?」
「そう。ナイトレイブンカレッジには氷の美しい女神さまがいる――って噂話」

 女神ということは女性の神様ってことよね――いや、そうじゃなくて。
 わたしはここの一部の生徒の妄想に頭が痛くなってきた。

「女の子がわたし一人だからそんな噂というか話ができたのよ」

 社交辞令で様々な誉め言葉をもらったことがある。けれど、その中でも女神なんて今まで言われたことがない。

 ――ここにいる皆は女の子に飢え過ぎなのよ。

 そもそも地元に行けば同年代の女の子がたくさんいるはずよ。だのに、わたしに夢を見過ぎているのよ。

「へぇ。じゃあ、このファンクラブは非公式なのか?」
「は?」

 呆けた声を出すわたしにジャミルは腑に落ちないというような顔をしてポケットから何か取り出した。よく見ればそれは四つ折りにした紙だった。ジャミルはその紙を広げてわたしに見せてくれた。そして、その紙を見てわたしは目を丸くした。

「な、な、なにこれぇ!」

 そこには「女神・エルサを崇め称えるファンクラブ」と書いてあった。小さく「非公式」って書いてある。けれど今までファンクラブがあったなんて聞いたことがなかった。そもそもこれファンクラブって言いながらも崇め称えるなんて宗教染みてる。ひぃと悲鳴を上げながらジャミルから紙をひったくってクシャクシャに丸める。

「い、いみ、意味わからない!」
「でも、エルサも王女だろ? 故郷にくらいあんじゃないか?」
「ないわ! あるわけないでしょ!」

 寒さに強いはずの身体に悪寒が走る。早くこの紙も処分しなければ。手のひらに乗っているクシャクシャに丸くなった紙に向かって魔法を使おうとしたらサッとかっさられてしまった。

「じゃ、ジャミルもしかしてあなた……」

 紙を奪った彼を見れば呆れたように眉を上げて「興味はない」と一言告げる。

「今のエルサは紙以外に燃やし付きそうな形相だったからな。俺がしっかりとゴミ箱に捨てておくよ」
「お願いよ……ああ、でも、なんでわたしなんかに」

 いまだに悪寒の走る両腕をさするとジャミルは深い溜息をついた。「なによ」と見れば「べつに」と肩をすくめて返された。

「エルサは変わらないな――おっと、エルサ先輩って言った方がいいですかね」

 ふむ、と考える素振りを見せてから口角をくいっと上げるジャミル。何だか昔のあの猫かぶりしていたときが懐かしくなるわ。

「あなたもこれから仲がいい人ができるといいわね」
「ま。上手くやるさ」
「うん。頑張ってね」
「ああ」

 こうして昔馴染みとの再会を無事に果たせた。
 ちなみにジャミルとの再開後に、私はすぐにケイトとトレイを探し出し訊ねた。

「二人はわたしの変なファンクラブがあるって知ってた?」
「え、今頃~?」
「結構前からあるぞ」
「言ってよ!」

 何で教えてくれなかったのと二人に私は叫んでしまった。けれど、二人は知らない方が幸せかと思っていたと言った。わたしを思ってのことかもしれないけれどできれば言ってほしかったわ。
 こうしていらない情報を手にしてわたしの二年生はスタートしたのだけれど――。

「あ! エルサ! オレもここに入学することになったんだ!」

 三か月後にまさかもうひとり懐かしい後輩が増えるとは思わなかった。



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