獣人属の少年

お疲れ様なお世話係



「エルサさん! エルサさん! レオナさん知らないッスかっっ!」
「キャァっ!」
「おっと」

 部屋を出た瞬間にビュンと風のように現れた男の子に驚いて思わず後ろに転びそうになる。それを後ろにいたトレイが支えてくれた。

「大丈夫か?」
「え、ええ。はぁ。ラギー、いきなり現れたら驚くわ」
「すんません! けど、それどころじゃないんスよ!」
「え、ええ?」

 わたしより少し引く位置からぐわっと顔を近づけて来るラギーの形相は凄まじかった。思わずたじろぐと後ろから「まぁまぁ」と宥める声が聞こえる。

「三人とも後ろが詰まってるから廊下に出てから話しの続きにしよぉ」

 「ね」というケイトの言葉に自分が入り口を詰まらせていることに気づく。ラギーも同時に気づいたらしく「すんません」と丸い耳を下げて廊下に引き下がる。獣人属のこういうところにキュンと来てしまう。
 可愛いなぁ、と考えているわたしに続いてトレイ、ケイトが出てラギーの前に並び立つ。ラギーは落ち着かないように短い尻尾がパタパタ動いている。それも可愛い、と思いつつ彼の目的を確認するために訊ねる。

「ラギーはレオナを探してるの?」
「そうなんす。けど、いつものサボり場所にもいなくって」
「あら」

 そわそわしているラギーにわたしは思いつく限りの場所を頭に浮かべる。けれど、これを口にしていいのか。わたしはチラっとケイトとトレイを見る。二人はわたしを見ると微笑んだ。

「じゃ、俺たちは先に行くな」
「オレも次は占星術の授業だし、先に行くね!」

 察しのいい二人はそのまま手を振って次の授業に向かって行った。わたしは胸を撫で下ろしてラギーを見ると彼もこっちを見ていた。ついさっきまでの落ち着きの無さが嘘なくらい不思議そうな顔でわたしを見ていた。

「なにかしら?」
「や、なんかエルサさんってすげぇなって」
「ええ。何が?」
「や。ちょっと言葉にできないんスけど」

 「すげぇッス」と言ってニッと笑うラギー。彼の垂れ目の大きな目かつ丸くて大きな耳で可愛さがさらに上がった気がする。
 キュンキュンしながら「ありがとう」と返せばラギーの視線がちょっとさ迷った。でも、一瞬のことですぐに「で、レオナさんの居場所は」と訊いて来る。それにわたしは腕を組んで思いついた場所を口にしていく。やっぱりこういうのはラギー以外には知られたくないだろう。だから、二人にはちょっと席を外してもらった。
 ラギーはふんふん頷きながら頭を傾ける。

「んー。エルサさんが挙げた場所は殆ど探したんス。あるとすればオレの知らない空き教室とかッスかねぇ」

 顎を擦るラギーは思案気な顔をする。その難しい顔にお金を貰ってお世話係をしているとはいえこう振り回されるのも大変なはずだ。そこでふとジャケットのポケットに入れていたものを思い出す。

「ラギー。手を出して」

 彼は「なんすか」と言いながらシュバッと手早く出す。その早さに驚きながらポケットから取り出す。

「はい。どうぞ」

 ころんと大きな手に落とす。ラギーはすぐに手のひらに落ちたそれを掴んで顔の高さまであげる。

「これってチョコレートッスか?」
「ええ。わたしの国で人気のチョコレートよ」

 シルバーとブルーの包みに包まれた丸いチョコレート。わたしの国で大人気の老舗チョコレートブランド。この間、実家から送られて来た荷物の中に入っていた。最近はジャケットの中にちょっと入れていたりする。

「レオナ探し、わたしも手伝うわ」
「でも、エルサさんだって次授業じゃないんスか?」
「わたしは空き時間よ。それこそあなたは?」
「オレも平気ッス……んじゃ、せっかくなんでお願いします!」

 チョコレートをポケットにしまった後に彼はまた二ッと笑った。その顔はちょっと何だかさっきとは違ったけれど言うことでもない。たぶん、気にすることでもないのかもしれない。

「じゃ! 見つけたら連絡くださいッス」
「ええ。わかったわ」

 ラギーは手を振って背を向けて走って行った。その背中を見送ってわたしはひとつ彼にも言わなかった場所へと向かって歩き出した。



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