人魚の少年三人組
後輩と一曲
週末・雪と緑の国。王宮のホール。
アズールたち三人の許可を学園長に貰い帰省することができた。両親やアナへの紹介を終えて、幼馴染でアナより二つ年上に生まれたクリストフも紹介することができた。なんだかクリストフはすごく心配そうにしていたけれど三人はとてもいい子よと念を押した。
そしてあっという間にパーティーの時間が迫って来た。わたしは意気揚々と式典服を着ようとしたのだけれど――。
「あなたたちが式典服でいいならわたしもそれでいいと思ったのだけれど」
式典服を来た三人を前にわたしは白とブルーを基調としたボール・ガウン・ドレス。季節的にちょっと違うかもしれないけれどブルーのドレスは国民にも評判がよくてわたしの着るドレスなど公務のワンピースにもよく用いられる。前世のときもブルーを基調にしていたから着ていて落ち着くけれど。
「わたしだって式典服着たかったわ」
「仕方ありませんよ。エルサさんはパーティーの主催国のプリンセスですから」
アズールが困った子どもを相手にするように言う。
後輩に宥められてしまった。でも、やっぱりこういう場で式典服を着たかった。
「そもそも学園の話をするならやっぱり式典服の方がよかった気がする」
「まだ言うの?」
駄々っ子だね、とフロイドにぐさりと刺さる言葉をもらってしまった。けれど、やっぱり学園にいることを示すのは式典服だと思うのよ。
「ですが、そのドレスはエルサさんによく似合っていますよ」
「ありがとう、ジェイド」
さらりと褒めてくれるジェイド。それは素直に受け入れる。すると、アズールが顎に手を添えて「手作りですよね」と尋ねてくる。
「ええ。そうよ。我が国の職人が作った一点ものよ」
キラキラと輝く刺繍も国の職人のもの。王族が着るドレスは一流の職人から献上されるもの。ふと「忘れていた」と自分の立場を思い出す。
両親は学園の話もしてほしいけれど私はアズールが言ったとおりこの国のプリンセスだ。この国の素晴らしさも話さないといけない。
「美しいドレスですね。刺繍も素晴らしい」
「ありがとう。そうね。刺繍はお土産にもよく使われるの」
「ああ。城下街に降りたときに何度か見かけました」
「ふふ。よく見てくれていて嬉しいわ」
「こういうのも大切ですから」
キラリ眼鏡を反射させるアズールは商人の血がうずいているようにも見える。
そういえば、アズールのことだからこのパーティーに参加している人と話をしたいはず。
「アズール。わたしは平気だから参加している人たちとお話して来たら」
アズールの深い青の瞳が丸くなる。ジェイドもフロイドも大人びた顔立ちをしているけれど、アズールも同じくらい大人びている。だからそうした反応を示すと十六歳の男の子らしい幼さが見える。
可愛らしい反応に頬を緩めながらわたしはジェイドとフロイドを交互に見る。
「二人はいてくれるみたいだから声をかけてくる人たちもいないと思うわ」
ナイトレイブンカレッジの式典服を着た三人といるとまず同年代の男の子はダンスを誘ってこない。おかげでいつもぶわっと集まって来るようなこともない。ただそろそろ彼らが学生だということで近づいて来る成人男性は誘いに来そうだ。それでもジェイドとフロイドがいれば何とか断れるはず。
「だから気にしないでお話してきなさい。将来にも役にたつでしょうから」
ね、と言えばアズールは難しい顔をする。それからしばらくうんうん唸るように腕を組んでいるとパっとわたしを見る。突然のことに「なに」と首を傾げると彼はわざとらしく咳ばらいをしてすっと綺麗な手を差し出してきた。
「エルサさん、よろしければ僕と一曲踊っていただけますか?」
思いもよらない誘いに差し出された手とアズールを交互に見る。
「でも、いいの? アズール」
ここで踊っていては時間がなくなる。そういう意味合いを出せばアズールが大人びた笑みを浮かべる。
「確かにこの服を着て将来のために商談はいたします。ですが、まずはご依頼主である貴方を優先しなければ」
「依頼主ってそんな大げさな」
「いいえ。こういうことも大切ですから」
ふふ、と不敵な笑みを浮かべるアズールにフロイドとジェイドが「つって、悩んでいたっくせに」、「ですよねぇ」と続ける。それはそうだなとわたしも頷くと「エルサさんまで!」と声をあげる。
「ふふ。ごめんなさい。でも、優先してくれるなんて優しいわね」
「……ま、まぁ。これでも海の魔女の慈悲の精神に基づく寮に所属していますから」
「そうね。そうだわ」
ふいっと顔を逸らして見えたアズールの耳はちょっと赤い。アズールも照れることがあるのね。可愛らしい一面を見たところで差し出されたままの彼の手に自分の手を重ねる。不思議なことにいつも薄っすらと感じる不愉快感はなかった。ただ少し手が冷たいと思っただけだった。もしかして柄にもなく緊張しているのかしら。なんて思いながらわたしはアズールを見る。
「よろしくね、アズール」
「はい。お任せください」
ニヤッと笑ったそれだけはいつもの彼らしかった。
そして、アズールは陸生活一年目とは思えないほどダンスが上手だった。わたし自身は教養で踊れるようにしていたけれどアズールは一体どこで学んだのかしら。
「訓練所です。ナイトレイブンカレッジは王族もいると聞いていましたので入学前に少しだけ習いました」
「訓練所?」
「はい。人魚が陸に上がったときのための訓練所があるのですが」
ダンスを踊りながらも興味深い話を聞くことができた。もう少し聞こうかとしたらいつの間にか傍に来たフロイドに「次、オレとぉ~」と綺麗にアズールからフロイドにダンスの相手が変わった。彼のダンスはフロイドが楽しくがモットーなので少々動きが大きかった。そして、最後にとジェイドと踊ると彼はわたしの疲れを考慮したようにゆったりとしていた。
三人のお蔭でその後は誰からの誘いもなかった。誘われなかったのだけれども――話はこれで終わらなかった。
パーティーの翌日。闇の鏡でパーティーの翌日には学園に戻っていた。
もう少し寝ていたいなという眠気と戦いながら見たスマホに顔を青ざめることになった。
「な、な、なんなのっ、なんなのよ、これはっ」
画面に映し出されるネットニュース。そのネットニュースの主役はわたしとアズール、ジェイド、フロイドの三人。内容は雪と緑の国の王位継承権第一位である王女のわたしの婚約者候補だった。そこにはあることないこと憶測で様々なことが書かれていた。マジカメを見ればそれがトレンドになっておりコメントが凄まじいことになっていた。
「こ、こんなことで雪と緑の国が話題になるなんてっ!」
いや、違う。そうじゃない。わたしは習ったばかりの実践魔法で制服に着替え、髪の毛を整えて部屋を飛び出す。そして、談話室に行くといつも以上に視線が刺さる。だけれど、そんなこと気にしていられない。
「あ。寮長、おはようございます」
「おはよう、エルサ」
談話室でくつろいでいるオクタヴィネル寮の寮長を見つけた。息を整えて寮長に挨拶をするそれに寮長は少し面白げな声で返してくれる。これはどうやら寮長もあの記事を読んでいるらしい。
「あの、違う。違うんです。まったくの誤解なんです」
「ハハッ。分かっているさ。とはいえ、あなたが探しているのはアズールたちだろう」
「はい……」
まさかこんな事態になるとは思わずまずは彼らに謝罪しなければいけない。
――もう下手なお願いはできないわね。
まさかたった一回パーティーに同年代の男の子を連れて行くだけでこんなことになるなんて。きっとすぐに国が否定文と抗議文を出すとは思うけれど。
「はぁ。三人には申し訳ないことしてしまったわ」
「ま。仕方ないさ。ところでアズールたちならたぶんもう食堂に向かったと思うぞ」
「は! あ、ありがとうございます」
頭を下げてわたしは駆け出しそうになるのを我慢して歩く。後ろで「気を付けるんだぞー」という寮長の声がした気がする。わたしは「はい」と返事をして学校へ繋がる鏡を潜った。
週末・雪と緑の国。王宮のホール。
アズールたち三人の許可を学園長に貰い帰省することができた。両親やアナへの紹介を終えて、幼馴染でアナより二つ年上に生まれたクリストフも紹介することができた。なんだかクリストフはすごく心配そうにしていたけれど三人はとてもいい子よと念を押した。
そしてあっという間にパーティーの時間が迫って来た。わたしは意気揚々と式典服を着ようとしたのだけれど――。
「あなたたちが式典服でいいならわたしもそれでいいと思ったのだけれど」
式典服を来た三人を前にわたしは白とブルーを基調としたボール・ガウン・ドレス。季節的にちょっと違うかもしれないけれどブルーのドレスは国民にも評判がよくてわたしの着るドレスなど公務のワンピースにもよく用いられる。前世のときもブルーを基調にしていたから着ていて落ち着くけれど。
「わたしだって式典服着たかったわ」
「仕方ありませんよ。エルサさんはパーティーの主催国のプリンセスですから」
アズールが困った子どもを相手にするように言う。
後輩に宥められてしまった。でも、やっぱりこういう場で式典服を着たかった。
「そもそも学園の話をするならやっぱり式典服の方がよかった気がする」
「まだ言うの?」
駄々っ子だね、とフロイドにぐさりと刺さる言葉をもらってしまった。けれど、やっぱり学園にいることを示すのは式典服だと思うのよ。
「ですが、そのドレスはエルサさんによく似合っていますよ」
「ありがとう、ジェイド」
さらりと褒めてくれるジェイド。それは素直に受け入れる。すると、アズールが顎に手を添えて「手作りですよね」と尋ねてくる。
「ええ。そうよ。我が国の職人が作った一点ものよ」
キラキラと輝く刺繍も国の職人のもの。王族が着るドレスは一流の職人から献上されるもの。ふと「忘れていた」と自分の立場を思い出す。
両親は学園の話もしてほしいけれど私はアズールが言ったとおりこの国のプリンセスだ。この国の素晴らしさも話さないといけない。
「美しいドレスですね。刺繍も素晴らしい」
「ありがとう。そうね。刺繍はお土産にもよく使われるの」
「ああ。城下街に降りたときに何度か見かけました」
「ふふ。よく見てくれていて嬉しいわ」
「こういうのも大切ですから」
キラリ眼鏡を反射させるアズールは商人の血がうずいているようにも見える。
そういえば、アズールのことだからこのパーティーに参加している人と話をしたいはず。
「アズール。わたしは平気だから参加している人たちとお話して来たら」
アズールの深い青の瞳が丸くなる。ジェイドもフロイドも大人びた顔立ちをしているけれど、アズールも同じくらい大人びている。だからそうした反応を示すと十六歳の男の子らしい幼さが見える。
可愛らしい反応に頬を緩めながらわたしはジェイドとフロイドを交互に見る。
「二人はいてくれるみたいだから声をかけてくる人たちもいないと思うわ」
ナイトレイブンカレッジの式典服を着た三人といるとまず同年代の男の子はダンスを誘ってこない。おかげでいつもぶわっと集まって来るようなこともない。ただそろそろ彼らが学生だということで近づいて来る成人男性は誘いに来そうだ。それでもジェイドとフロイドがいれば何とか断れるはず。
「だから気にしないでお話してきなさい。将来にも役にたつでしょうから」
ね、と言えばアズールは難しい顔をする。それからしばらくうんうん唸るように腕を組んでいるとパっとわたしを見る。突然のことに「なに」と首を傾げると彼はわざとらしく咳ばらいをしてすっと綺麗な手を差し出してきた。
「エルサさん、よろしければ僕と一曲踊っていただけますか?」
思いもよらない誘いに差し出された手とアズールを交互に見る。
「でも、いいの? アズール」
ここで踊っていては時間がなくなる。そういう意味合いを出せばアズールが大人びた笑みを浮かべる。
「確かにこの服を着て将来のために商談はいたします。ですが、まずはご依頼主である貴方を優先しなければ」
「依頼主ってそんな大げさな」
「いいえ。こういうことも大切ですから」
ふふ、と不敵な笑みを浮かべるアズールにフロイドとジェイドが「つって、悩んでいたっくせに」、「ですよねぇ」と続ける。それはそうだなとわたしも頷くと「エルサさんまで!」と声をあげる。
「ふふ。ごめんなさい。でも、優先してくれるなんて優しいわね」
「……ま、まぁ。これでも海の魔女の慈悲の精神に基づく寮に所属していますから」
「そうね。そうだわ」
ふいっと顔を逸らして見えたアズールの耳はちょっと赤い。アズールも照れることがあるのね。可愛らしい一面を見たところで差し出されたままの彼の手に自分の手を重ねる。不思議なことにいつも薄っすらと感じる不愉快感はなかった。ただ少し手が冷たいと思っただけだった。もしかして柄にもなく緊張しているのかしら。なんて思いながらわたしはアズールを見る。
「よろしくね、アズール」
「はい。お任せください」
ニヤッと笑ったそれだけはいつもの彼らしかった。
そして、アズールは陸生活一年目とは思えないほどダンスが上手だった。わたし自身は教養で踊れるようにしていたけれどアズールは一体どこで学んだのかしら。
「訓練所です。ナイトレイブンカレッジは王族もいると聞いていましたので入学前に少しだけ習いました」
「訓練所?」
「はい。人魚が陸に上がったときのための訓練所があるのですが」
ダンスを踊りながらも興味深い話を聞くことができた。もう少し聞こうかとしたらいつの間にか傍に来たフロイドに「次、オレとぉ~」と綺麗にアズールからフロイドにダンスの相手が変わった。彼のダンスはフロイドが楽しくがモットーなので少々動きが大きかった。そして、最後にとジェイドと踊ると彼はわたしの疲れを考慮したようにゆったりとしていた。
三人のお蔭でその後は誰からの誘いもなかった。誘われなかったのだけれども――話はこれで終わらなかった。
パーティーの翌日。闇の鏡でパーティーの翌日には学園に戻っていた。
もう少し寝ていたいなという眠気と戦いながら見たスマホに顔を青ざめることになった。
「な、な、なんなのっ、なんなのよ、これはっ」
画面に映し出されるネットニュース。そのネットニュースの主役はわたしとアズール、ジェイド、フロイドの三人。内容は雪と緑の国の王位継承権第一位である王女のわたしの婚約者候補だった。そこにはあることないこと憶測で様々なことが書かれていた。マジカメを見ればそれがトレンドになっておりコメントが凄まじいことになっていた。
「こ、こんなことで雪と緑の国が話題になるなんてっ!」
いや、違う。そうじゃない。わたしは習ったばかりの実践魔法で制服に着替え、髪の毛を整えて部屋を飛び出す。そして、談話室に行くといつも以上に視線が刺さる。だけれど、そんなこと気にしていられない。
「あ。寮長、おはようございます」
「おはよう、エルサ」
談話室でくつろいでいるオクタヴィネル寮の寮長を見つけた。息を整えて寮長に挨拶をするそれに寮長は少し面白げな声で返してくれる。これはどうやら寮長もあの記事を読んでいるらしい。
「あの、違う。違うんです。まったくの誤解なんです」
「ハハッ。分かっているさ。とはいえ、あなたが探しているのはアズールたちだろう」
「はい……」
まさかこんな事態になるとは思わずまずは彼らに謝罪しなければいけない。
――もう下手なお願いはできないわね。
まさかたった一回パーティーに同年代の男の子を連れて行くだけでこんなことになるなんて。きっとすぐに国が否定文と抗議文を出すとは思うけれど。
「はぁ。三人には申し訳ないことしてしまったわ」
「ま。仕方ないさ。ところでアズールたちならたぶんもう食堂に向かったと思うぞ」
「は! あ、ありがとうございます」
頭を下げてわたしは駆け出しそうになるのを我慢して歩く。後ろで「気を付けるんだぞー」という寮長の声がした気がする。わたしは「はい」と返事をして学校へ繋がる鏡を潜った。