薔薇の少年

お茶会への招待



「トレイにケイト少し時間貰えるかい?」
「ん? いいぞ」
「いいよ~。でも、リドルくんは大丈夫?」

 ケイトが「勉強の時間じゃないの?」と訊ねて来た。ボクは大丈夫と頷く。今日は相談するためにスケジュールの調整をしている。だから、二人の相談する時間は十分ある。

「そっか。じゃ、我らが女王様の相談はなんでしょうか」
「こらこら。ケイト茶化した言い方するな」
「でも、実際しっかりもののリドルくんが改めて相談なんて気になるし!」

 スマホをテーブルに置いて興味津々なケイト。トレイはいつも通り諌めるけれど少し心配げだ。そこまで心配されることではないのだけれど昔のことがあるからな。
 頭に過る苦々しい記憶を追い払うようにボクは一度頭を振って口を開く。

「実は……その、エルサ先輩に」
「エルサちゃん?」
「エルサ?」

 二人が若干前のめりになって聞いて来た。二人の反応の強さに驚く。

 エルサ先輩。

 ナイトレイブンカレッジ唯一の女子生徒で雪と緑の国の第一王女。所属寮がオクタヴィネル寮ということで最初は警戒していたが一緒の授業で印象が一変した。何よりあのリーチ兄弟に臆せず指導している姿には感動を覚えたくらいだ。
 とても素敵な女性だと思った。彼女を評するとき先に容姿の素晴らしさを称えることがあるけれどボクはそれ以外にもっとあるだろうと思う。いや、もちろん容姿も素晴らしいよ。けれどまずあの姿勢のよさや立ち居振る舞い。王族とはいえ彼女のそれらすべてが優雅で美しい。それに内から出る気品さや優しさがとても好ましい。それにエルサ先輩はよく勉強に付き合ってくれる。魔法の訓練も嫌な顔をせず一緒にしてくれる。

 ずっとボクは独りだった。独りで勉強していた。

 いつの日か勉強を楽しいとかそう思う気持ちはなくなっていた。でも、彼女と勉強する時間や訓練する時間は独りのときにはない充実感があった。
 あと、勉強や訓練の後にエルサ先輩と話す時間がすごく好きだったりする。でも、そうした時間を過ごすからなのか少し前にトレイやケイトからは雰囲気が変わったと言われた。
 ボクもその気がする。少しだけ気持ちに余裕が出た気がする。だからといって寮長の仕事や決まり事を律することをやめるつもりはないけれどね。
 とはいえ、少しだけ変われたのはエルサ先輩のおかげだ。だからボクは彼女にお礼がしたかった。

「リドルくんがエルサちゃんに懐いているのは知っていたけれどそこまでとはねぇ」
「ふふ。よかったな、リドル」
「な、なんだい二人とも」

 二人の年上らしいくすぐったい眼差しを受け流しながら咳払いをする。

「で、エルサちゃんにお礼のお茶会でも開きたいのかな?」
「よくわかったね」
「だって、ハーツラビュル寮の専売特許といえばお茶会でしょ!」

 「エルサちゃんも興味津々だったし」と言うケイト。それに「おや」と思った。てっきり二人の友人だからこの寮のお茶会に呼んでいると思っていたが。それにトレイとケイトが苦笑を零す。

「そりゃ呼びたかったけどオレたち去年まで一年だったんだよ?」
「後ろ盾もなければなぁ」
「……ああ」

 一年生が上級生に何か言われたらどうにも出来ないこともある。二人なら上手にいなすだろう。けれど学内で唯一の女子生徒であるエルサ先輩絡みだと難しかったのだろう。

「でも! 今はリドルくんが寮長! トレイくんは副寮長! やぁっとエルサちゃんを呼べるねってトレイくんとも話していたんだよ」
「そうだったのかい」

 トレイを見れば苦笑いをしていたけれど「まぁな」と否定はしなかった。どうやらボクのしようとしていることは順調に行きそうだ。

「じゃ、二人共よろしく頼むよ!」

 こうしてボクはエルサ先輩のためのお茶会の準備を始めた。




「まぁ! わたしのためにお茶会を?」

 「嬉しいわ」キラキラと瞳を輝かせて微笑むエルサ先輩はとても美しいのだけれど――。ボクは背後にいるでっかい男を苦々しく見上げる。

「あれ? 金魚ちゃん、お茶会への招待はテツギョちゃん先輩にだけ? オレは?」
「何でいつもボクをからかうキミを呼ばなければいけないんだっ」

 声を抑えながらも今のように「金魚ちゃん」とからかってくるフロイドに苛立ってしまう。エルサ先輩の前では何故か大人しいくせに腹立たしい。

「もう。フロイドったらリドルをからかわないの」
「え~だってオレのことお茶会に呼んでくんねぇし」
「あなたが行ったらうろちょろするのが目に見えているからでしょ」
「テツギョちゃん先輩と一緒だったら大人しくしてっかもよ?」
「ウソ言わないの」

 ポンポン弾むようなやり取り。同じ寮だけに軽妙なやり取りをしている。エルサ先輩はフロイドをどう見ているか知らないけれど想像していたより仲がいいみたいだ。
 二人のやり取りを見ながらボクは羨ましさを覚えた。一年生で寮長になったからやはり同級生からは距離を置かれている。でも、中にはフロイドみたいなやつもいるし、普通に声をかけてくれる別の寮生はいる。上級生もそうだ。けど、エルサ先輩とフロイドのやり取りがどうにも羨ましい。

「で、オレも行っていいの?」
「わっ」

 顔を覗き込んで来たフロイドに驚くと笑われる。それに苛つきながらボクは「ダメだよ」と答える。今回だけは絶対にエルサ先輩だけと決めている。

「なぁんだ。金魚ちゃんのケチ」

 もういいし、とふらっとどこかへと行ってしまった。調子が狂うと思いながらエルサ先輩を見る。エルサ先輩も丁度同じタイミングでボクを見ていた。先輩は「困ったフロイドね」と微笑む。そうこの人にそう可愛がってもらえるフロイドは羨ましいけれど――。

「はい。彼はいつもそうです」

 でも、ボクはちょっと違う風に思われたい。
 何でそう思うかは分からないけれど。ボクはフロイドたちとは違う関係を築きたい。

「じゃ、楽しみにしているわね、お茶会」
「はいっ!」



2023/07/03 文章一部修正
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