薔薇の少年

薔薇の少年



「一週間で寮長になってしまったの?」
「そぉなんだよ」

 進級してクラスが別になったことで「友達」と確認できたケイトはハァと疲れた様子を見せる。彼曰く、ハーツラビュル寮の寮長がついこの間変わったという。しかも、それが入学して一週間の一年生だという。今までにないことだ。

「決闘で勝ったなんてすごいわ」

 まだ一年生。この世界では魔法士養成学校に入るまでしっかりと魔法を学ぶ場面が少ない。感覚や想像で使える魔法もあるが、多くの魔法を使いこなすためには魔法士養成学校に入らなければいけない。そんな一年生が寮長に勝って寮長になるなんてとても優秀な子としか言えない。

「すごいんだけどぉ。ちょぉっと頭の固い子なんだよねぇ」
「頭の固い子? 頑固ってこと?」
「んー。エルサちゃんくらいの頑固さならいいんだけど……また方向が違くって」

 え。わたしって頑固なの。ケイトのさらっとした言葉に眉を顰める。そんなわたしの反応に気づいたのかケイトはにっこりと「頑固だよ」と念を押すように言った。わたしはそこまで頑固じゃないはずなのに。

「で、その子はトレイの幼馴染ってこと?」
「そう。でも、なぁんか昔にあったらしくってねぇ……トレイくんは結構甘やかしてるよ」
「甘やかしている?」
「ん。ま、エルサちゃんも見れば分かるよ」

 と、言ってトトト、とスマホを操作するケイト。そういえば、今日はトレイと一緒じゃない。何か疲れたのかしら。意外だわ。

「ケイトは疲れちゃったの?」
「え?」

 目を丸くさせたケイトはすぐにふにゃと笑った。眉を下げるその様はなんとも言えない。それが昔――わたしから女王の位を継いだアナが見せた顔に似ていた。
 そんなケイトの姿にたまらず手を伸ばして綺麗に整えられた頭を撫でる。

「お疲れ様、ケイト」

 セットが崩れないように撫でてわたしは手を離す。すると、ケイトの固まっていた表情がふにゃっと崩れた。

「……わ、わぁ~ありがと~エルサちゃぁ~ん」
「そう? これくらいならいつでもするわよ!」
「あ、ありがとうぉ」

 八重歯を覗かせるケイトによかったと頷く。これは昔のこともあって得意よ。それにケイトはお姉さんが二人もいるからこういう風なのが利くのかもしれない。

「いつでも弱音聞くわよ! ケイト!」
「ほんとぉにありがと……ハハ、は、はぁあ」




 ケイトとそういうやり取りをした数日後。わたしはリドルくんと対面することとなった。

「あなたがリドル・ローズハートくん?」
「はい。エルサ先輩。今日はよろしくお願いします」
「ええ。こちらこそよろしく」

 一年生との合同授業。ペアとなったのが噂のリドルくんだった。わたしよりも身長は低いけれど何だか大きく見えるわ。寮長になったからかもしれないけれど、自分に自信があるのか大きく見えるのかしら。それが将来女王になるわたしからすると羨ましくもある。

「さぁ。今日は一年生が主体となって錬金術の実験を進めるわよ」

 「はい」と生真面目に頷くリドルくん。そのリドルくんが取り出した教科書には付箋紙がびっしりとついている。勉強熱心とは聞いていたけれどそれほどとは。

「すごいわ。しっかり予習していたのね」
「はい。当たり前のことですから」

 「僕にとっては普通のことです」というような鋼の瞳はどこか空っぽにも見えた。義務感ではないけれど熱心に励んだ結果とも言い難い。

「では、はじめましょう」
「そうね」

 と、わたしはこの授業でリドルくんを観察しようと思った。
 そして、一年生とは思えない手慣れた本当に彼は優秀な子だった。そう。優秀だったのだけれど――。

「ちょ、ちょっと待って!」
「え? 何ですか?」

 わたしは慌ててビーカーを持つリドルくんの手を両手で止める。それにびっくりした様子のリドルくん。わたしは「適量よ」と言いながら真剣な顔をするけれどリドルはゴーグル越しに大きな目を瞬かせた。そのあまりにも不思議そうな瞬きにわたしは唇を引き攣らせた。

「あの、あのね。適量ってビーカー一杯じゃないのよ」
「ですが、適量という規定はどこにも記載されていません」

 眉根を寄せて難しい顔をするリドル。その間にも大鍋の中はグツグツと言っている。わたしは魔法で大鍋の日を弱くして魔法で中身を掻き混ぜる。これで彼に説明できる。

「ええ。適量って難しいわ。だから、大鍋の中身をよく見ながら材料を加えるのよ」
「つまり、レシピ通りに作ってもその場の状況――天気などに左右されて状態が変わると言うことですか?」

 チラと実験室の外を見る。今日は雨雲の多い曇りでちょっと湿気もある。それを確認してから頷く彼に私は満足しながら試験管を手に取る。

「そう。今日はビーカーではなく試験管を使って入れていきましょう」
「試験管程度の量でいいんですか?」
「もしかしたらスプーン一杯でもいいかもしれないわね」

 受け取りながら不思議そうな顔をする。わたしはすぐ傍にあった実験用スプーンを見せながら言う。リドルくんは神妙な顔になって試験管とスプーンを見比べる。
 とても勤勉で優秀な子だけれどまだ柔軟性はないみたいね。

「さ。時間がなくなってしまうわ。さっそく試してみましょう」
「はい!」

 鋼の瞳が輝き剣のように美しくなる。その反応は年相応とは言い難いけれど嬉しかった。
 もう少し世界を広く見てほしいな。と思いながら実験を続けて見事クルーウェル先生から高評価を得た。


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