第五の精霊その後の転生物語
麗しき血の瞳
無防備だったのだと思う。いや、違う。彼も無理矢理とかそんなつもりはなかった。ただ告白をしたついでにちょっと腕を強く掴んだだけ。すぐに離してくれたし、謝ってくれた。なのに、なのに、わたしの身体は震えが止まらない。
「はぁっ、はぁっ、止まって、止まって、止まってよっ」
告白して来た男の子から逃げるように飛び込んだ空き教室。その空き教室は埃で満ちていたのに今はすっかり部屋中凍ってしまっている。埃っぽかった空気は今や肺が凍るほどに冷えている。吐き出す吐息も真っ白だ。わたしの魔法で作り出している空間だからなのか寒さは感じない。でも、これ以上部屋の外にでも広がったら他の生徒に迷惑がかかる。
「止まって、お願い、お願いよ」
今も尚雪の粉によく似た魔法の粉を吐き出すマジカルペン。魔法石はいまだに黒ずむことはないけれどもしオーバーブロットまで行くまで強くなっていったらどうしよう。前世のときとは違う魔法の仕組み。恐怖や不安が大きくなっていくと魔法も強くなっていく。
どうしよう、どうしよう、どうしよう、と力の限りペンを握っていると――。
「第五の精霊殿、如何したのじゃ?」
「え」
前世の懐かしい呼び名。馴染み深い名前にわたしは反射的に顔をあげるとそこには一人の男の子がいた。いや、男の子というには妙に貫禄のある不思議な雰囲気を持つ人がいた。
「あ、あなたは、」
「わしの名はリリア・ヴァンルージュじゃ」
リリアくん、と呼べばからりと笑われた。腹を抱えて笑いながらふわりと彼は重力を感じさせない感じに魔法かしらと思わず見てしまう。すると、リリアくんはフワフワ浮いたまま宙に浮かぶ魔法で作られた雪の結晶を見る。
「美しいのぉ。懐かしいのぉ」
まるで遠くの、さらに遠くを見るような哀愁に満ちた声。何故そんな声を出すのとさっきまで恐怖と不安で渦巻いていた思考が溶けていく。
「ふふ。不思議そうな顔をしておるな」
ええ、まぁ、と言いながら血のように深い赤い瞳を見つめ返す。その瞳はやはりどこかノスタルジックだった。でも、わたしもまたその血のような瞳に初めて見た気もしない。
「ふふ。第五の精霊殿は忘れてしまったかもしれないのぉ」
「え。何故、それを」
知っているのと言葉にしたときにシャンと音がした。え、と周りを見ると氷と雪に包まれていた部屋が元に戻り始めていた。わたしを中心に凍っていた部屋の氷と雪の魔法が解けようとしている。
「うむ。やはり感情に左右されやすいようじゃな」
フワフワ浮いていたリリアくんはトンと優雅に床に足を着ける。それから肩にかけたジャケットの乱れを直しながら少年顔に似合わぬ大人びた笑みを浮かべる。
「プリンセス・エルサ。大丈夫か?」
「……ええ。もう平気よ」
立ち上がろうとした足に中々力が入らない。これじゃまだ帰れない。
「どうやらもう少し時間がかかるようじゃな」
「そうみたい……でも、もう平気よ」
だから茨の谷の王子様であるマレウスの傍に戻って平気よ。そう暗に告げる。彼がマレウスの護衛係であることを何となく知っている。彼の能力ならば護衛など要らないかもしれないけれど。
「なぁにマレウスはもう一人でも平気じゃ――さて、もしよかったら話でもせぬか?」
楽しい話をしよう、と誘う彼にわたしは身体の力が抜けていた。それでも足に力が入らないから頷いた。
「よし! では、わしのとっておきの話をしよう!」
再びふわふわと浮いた彼にわたしは幼い子どもの頃のように瞳を輝かした。今、わたしの身体から恐怖や不安は一切消え去っていた。今あるのはただ目の前に紡がれる御伽噺の期待だった。
無防備だったのだと思う。いや、違う。彼も無理矢理とかそんなつもりはなかった。ただ告白をしたついでにちょっと腕を強く掴んだだけ。すぐに離してくれたし、謝ってくれた。なのに、なのに、わたしの身体は震えが止まらない。
「はぁっ、はぁっ、止まって、止まって、止まってよっ」
告白して来た男の子から逃げるように飛び込んだ空き教室。その空き教室は埃で満ちていたのに今はすっかり部屋中凍ってしまっている。埃っぽかった空気は今や肺が凍るほどに冷えている。吐き出す吐息も真っ白だ。わたしの魔法で作り出している空間だからなのか寒さは感じない。でも、これ以上部屋の外にでも広がったら他の生徒に迷惑がかかる。
「止まって、お願い、お願いよ」
今も尚雪の粉によく似た魔法の粉を吐き出すマジカルペン。魔法石はいまだに黒ずむことはないけれどもしオーバーブロットまで行くまで強くなっていったらどうしよう。前世のときとは違う魔法の仕組み。恐怖や不安が大きくなっていくと魔法も強くなっていく。
どうしよう、どうしよう、どうしよう、と力の限りペンを握っていると――。
「第五の精霊殿、如何したのじゃ?」
「え」
前世の懐かしい呼び名。馴染み深い名前にわたしは反射的に顔をあげるとそこには一人の男の子がいた。いや、男の子というには妙に貫禄のある不思議な雰囲気を持つ人がいた。
「あ、あなたは、」
「わしの名はリリア・ヴァンルージュじゃ」
リリアくん、と呼べばからりと笑われた。腹を抱えて笑いながらふわりと彼は重力を感じさせない感じに魔法かしらと思わず見てしまう。すると、リリアくんはフワフワ浮いたまま宙に浮かぶ魔法で作られた雪の結晶を見る。
「美しいのぉ。懐かしいのぉ」
まるで遠くの、さらに遠くを見るような哀愁に満ちた声。何故そんな声を出すのとさっきまで恐怖と不安で渦巻いていた思考が溶けていく。
「ふふ。不思議そうな顔をしておるな」
ええ、まぁ、と言いながら血のように深い赤い瞳を見つめ返す。その瞳はやはりどこかノスタルジックだった。でも、わたしもまたその血のような瞳に初めて見た気もしない。
「ふふ。第五の精霊殿は忘れてしまったかもしれないのぉ」
「え。何故、それを」
知っているのと言葉にしたときにシャンと音がした。え、と周りを見ると氷と雪に包まれていた部屋が元に戻り始めていた。わたしを中心に凍っていた部屋の氷と雪の魔法が解けようとしている。
「うむ。やはり感情に左右されやすいようじゃな」
フワフワ浮いていたリリアくんはトンと優雅に床に足を着ける。それから肩にかけたジャケットの乱れを直しながら少年顔に似合わぬ大人びた笑みを浮かべる。
「プリンセス・エルサ。大丈夫か?」
「……ええ。もう平気よ」
立ち上がろうとした足に中々力が入らない。これじゃまだ帰れない。
「どうやらもう少し時間がかかるようじゃな」
「そうみたい……でも、もう平気よ」
だから茨の谷の王子様であるマレウスの傍に戻って平気よ。そう暗に告げる。彼がマレウスの護衛係であることを何となく知っている。彼の能力ならば護衛など要らないかもしれないけれど。
「なぁにマレウスはもう一人でも平気じゃ――さて、もしよかったら話でもせぬか?」
楽しい話をしよう、と誘う彼にわたしは身体の力が抜けていた。それでも足に力が入らないから頷いた。
「よし! では、わしのとっておきの話をしよう!」
再びふわふわと浮いた彼にわたしは幼い子どもの頃のように瞳を輝かした。今、わたしの身体から恐怖や不安は一切消え去っていた。今あるのはただ目の前に紡がれる御伽噺の期待だった。