さぁ、戦いの火蓋が切られました!
さぁ、戦いの火蓋が切られました!・2
今なら戻って来ても平気、というメールを同室から貰った。
それに安堵する自分に自嘲しながらジャックは寮へと戻る。乾燥した空気が今は傷に響くような気がする。ズキズキと痛む身体を動かして静かな談話室を向けようとしたときだった。
「臭う」
「ッッ!」
静かな談話室に一等響く声と共に身体が浮いた。そして、状況を理解する前に視界が急激に動く。自分がどうなっているのか理解したのは談話室の池に叩き落とさた後だった。
突然の水中に何とか痛む身体を動かして水面から顔を出し、咽ながらなんとか陸地に腕をかけ上がる。
何とか息が整って陸地に上がろうとするとふと影が落ちる。影と同時にピリピリとした匂いが鼻を刺激し、身体がさらに重くなった。
そろそろと顔を上げれば美しい顔を険しくゆがめたレオナが見下ろしていた。
「何すんだッ!」と喉まで出かけたが静かに喉の奥へと戻っていく。
レオナが何も言わずとも機嫌が良くないのを感じる。それを恐ろしく感じる日が来るとは思わなかった。だが、それでも、それでも、ジャックのプライドが屈するのを許さなかった。ジャックは声が出ない代わりにレオナを睨み上げた。
ジャックからの反抗の意思をくみ取ったのか不機嫌そうだったレオナが一転して艶やかに嗤った。
「お前は変わらねぇなぁ。ジャック」
「ぁ?」
思わず反抗的な声を出すがレオナは気にせず目を細める。
「おい。ジャック、テメェ、タコ野郎から何を貰った」
すぐにアズールから貰った薬が頭を過った。身体全体池に落ちたのだ。ジャケットに入っている薬もきっとダメになっているに違いない。思わず薬の入っている場所に手を伸ばすが――。
「おい。ジャック」
「ぁ」
レオナの機嫌が再び下降しているのを感じる。同時にもう一つの気配が忍び寄ってレオナの背後から出てくる。
「ハァ。ジャックくんったら、ほんとに警戒心はどこいちゃったんスかねぇ」
ラギーの声はいつも明るく弾んでいる。だが薄雲のかかった瞳は冷え冷えとしている。ラギーもレオナと同じくヒリついた空気を纏っていた。今日はろくなことが起きないだろう。ジャックのプライドが鳴りを潜め始めるがやはり黙っていられない。
「ただ、話をしただけだ」
「話しってあのアズールくんと?」
「ハッ。ずいぶんと平和ボケした頭だな」
何をどう言ったって二人には言い訳にしか聞こえないだろう。実際言い訳と言えば言い訳だ。だが、何もない。二人が考えるようなことは何もないと言うにジャックは奥歯を噛む。
「ったく、テメェほんとに学習しねぇな」
「ほーんと。ジャックくん、何度も言ったでしょ。ここの奴らはただ優しい奴なんていないって」
ね、と優しく言いながらジャックと同じ目線となったラギーの目は少しも優しさがない。
その視線から逃げる。これはいよいよダメだ。
「……ほんとに、ただ話しただけで」
「ガキみてぇな言い訳すんじゃねぇよ」
レオナがスパンとジャックの言い分を叩き斬る。それにジャックは唇を噛む。いつもは子ども扱いする癖にこういうときは大人の仲間入りとかばかりの扱いだ。
「てことで、ジャックくん、今からまた覚えるまで復習だから」
「ぐッ」
ラギーの指が首筋の傷に刺さった。思わず痛みに顔を歪む。だが、それを気にする二人ではない。なにせもっと傷がつくのだから。それはこの二人が満足するまで終わらない。
「ジャック、立て。おい、ラギー」
「はいはい。準備はできてるッス!」
背を向けるレオナに、ラギーはジャックから手を離し魔法でバスタオルを召喚する。そして、それをジャックにかける。
柔らかいバスタオルはいつの日かの穏やかな日々を思い起こす。だのに、今はこれから自分の身に降り注ぐ行為に恐怖すら覚えた。