ジャック受
特別なおもてなし
「それってジャックさんだけの特別 なんですよ」
突然言われた内容に「は」と声は出ずとも口がパカッと開いて間抜けな顔になってしまった。それの顔はバッチリとおカウンターの店員に見られてしまった。お蔭で彼女は肩を揺らして笑っている。
恥ずかしくなって間抜けな口を閉じながら手にしていたフォークを置く。ちなみに残すつもりはない。ただ、ジャックのためと言われたことが引っかかったからだ。
「洋ナシのコンポートはメニューでもあんだろ」
「ええ。ですが、通年ではありませんよ」
彼女によく似合ったリップが引かれた唇がこれは楽しいと弧を描く。これはすっかり彼女のからかいのターゲットにされてしまった。質問するんじゃなかった。でも、質問しなければスッキリしたままこのとっても美味い洋ナシのコンポートが食べられない。
我慢をすることを覚えたジャックは「季節限定だったのか?」と訊ねる。
「はい」
「じゃ、なんで俺が頼む度に出てくんだ」
半眼で訊けば彼女は綺麗な指を一本立てたと思ったらピシとこちらに向けた。人様に指を指すなという念を込めて喉を唸らせる。彼女は「失礼しました」と言って指を指すのをやめると「特別なんだそうです」と付け足した。
「特別?」
訝し気な思いで訊き返すと彼女はくすぐったそうに「はい」と答えた。それから何か手元にあったグラスを拭き始める。どうやら止まっていた仕事を再開させたらしい。これ以上聞きだせないのかと思いきや彼女はまたひとつ零す。
「ジャックさんは――」
「うーにーちゃぁん♪」
「わっ」
にゅっと現れた姿と間延びした声と共に身体に重みがかかる。ついでにおしゃべりな彼女の口がぴたりと止まる。ジャックは心の中で舌打ちをしながら現れた男の名前を呼ぶ。
「……フロイド先輩」
「ウニちゃん久しぶりぃ~」
顔を覗き込んで来たフロイドはにへっと笑ってセットした髪を乱すように頭を撫でて来た。やめろと耳をピンピンと動かすがフロイドはそれも面白がって耳ごとくしゃくしゃ撫でて来る。鬱陶しさに「うぅ゛」と唸り出すと反対側にもうひとつ気配が現れた。
「フロイド。ジャックくんのご機嫌が斜めになっていますよ」
「すいませんね」と謝罪をしながら謝罪感のない声。もう一人の厄介者の登場だ。
「あれ? もう話しついたの?」
「はい。売り上げも何もかもアズールが課した目標を越えていました」
「へぇ。やるねぇ」
頭上で交わされる会話を無視してジャックはもう一度フォークを手に取る。チラとおしゃべりな彼女を見ればすでに姿がない。なんて気配の消し方だ。
「あ。ウニちゃんまた洋ナシ食べてんの?」
「スキだねぇ」と言う声は僅かに機嫌が良さそうに聞こえる。
ふと、先ほどの彼女の〝特別〟という言葉が頭を過る。この店はモストロ・ラウンジの輝石の国の支店。最初はあの悪徳三人組の店と思って近寄らなかったがジャックの勤め先にまで評判の声があがり同僚に連れられるままに来てもう二年は経っている。
さて、この洋ナシのコンポートは通年メニューではない。支配人はアズールではなく別の者がしているがここの責任者はこのリーチ兄弟らしい。
じっと、洋ナシのコンポートを見ながら〝もしや〟という考えが浮かぶ。いや、でもとすぐに否定するが〝もしや〟の可能性の方が大きい。
「気に入っていただけてなによりです」
ジェイドも同じく機嫌が良さそうだ。何とも機嫌の分かりやすい兄弟だ。それでもアズールがたまに扱い辛いと思うのが面白い。こんなにも分かりやすいのに。いや、そういった部分が必要な的に邪魔をするのかもしれない。
「美味いんで」
「そりゃそーでしょ」
「輝石の国でも一番の洋ナシを用意していますからね」
デザートは薔薇の王国以上に力を入れている。そう言うジェイドに「へぇ」と返しながら一口サイズに切って口に入れる。両サイドでごちゃごちゃ会話が続くがこの時ばかりは無視。
にしても、とジャックは何で毎回来る度に絡んで来るのか。いや、毎回タイミングよく来ているのか。リーチ兄弟は責任者ではあるがここにいるわけではない。輝石の国に在住しているわけではない。一応借りている部屋はあるらしいが。
タイミングがあまりに良すぎてGPSでも取り着けられている気分になる。職業がらなくはないがジャックとてそこまで馬鹿ではない。そして、それを訊ねる馬鹿な真似もしない。
ジャックは無心で食べ続け綺麗さっぱり食べることができた。
「ごちそうさま……で、何か用っすか」
「おや。まるで僕らが情報欲しくてジャックくんに近づいているようじゃないですか」
「違うんすか?」
いつの間にか隣に座ったジェイドに目を眇めれば心外ですと眉を下げられた。心外もなにも毎回それとなく情報を聞き出そうとするじゃないか。
ジャックは輝石軍の魔法に特化し魔法科だ。言わる軍人とはいっても陸上をするために入隊しただけだ。キャリア官僚でもない下っ端なので重要な情報は何もない。毎回そう言っているのに何かを聞き出そうとしている。
「ウニちゃんが下っ端なのは知ってるよ」
「ええ。何も情報といえる情報を持っていないことも」
「なら毎回なんなんすか?」
二人の顔を交互に見ても二人は似たような顔で笑みを浮かべるだけ。顔のパーツは違うのにこういうときの顔はよく似ている。
「ふつーにウニちゃんに会いに来たんだよ」
「はい。ジャックくんに会いたくて来てるんですよ」
パカとまた口が間抜けに開いた。慌てて口を閉じて長く伸びた髪に隠れた項を擦る。何か言わなければ、言わなければと、思っても唇が動かない。
いや、そもそも真に受けてはいけない。この二人が手八丁口八丁の悪徳三人組の内の二人であることを忘れたか。
「はぁ。からかってもなんにもねぇっすよ」
「からかってねぇし。ね、ジェイド」
「はい、フロイド。からかうならもっと面白くなるようなこと言いますよ」
「そーそー!」
そんなことをしたら元からない信用がなくなるぞ、とは言わない。言ったところでケラケラ笑うだけだし、楽しそうとやりそうだ。
「出る」
「まだ夜は始まったばかりですよ」
「明日も早ぇから帰る」
「ふぅん、仕事?」
「どっちでもいいだろ」
あんたらに関係はない。そう言い切るように立って再び現れた彼女を見る。彼女はまた楽しそうに唇に弧を描いている。まったくこの状況の何が楽しいんだか。
カードを差し出しながら会計を進めているのを見る。両隣が妙に静かなのが怖いがとりあえず無言を貫く。
「はい。お返しします……またいらしてくださいね」
「ああ」
くすくす笑う彼女にいつもの返事をしながらカードを受け取って席を立つ。すると同時に両隣の男たちも立ち上がる。
「なんすか」
「お見送りしますよ」
「お客様だから」
「そぉっすか」
「ありがとうございます」とあまり思ってないことを言いながら出入り口へと向かう。
「次はいつ来る?」
「ここのコンポートはそう安くないんで暫く来ないっす」
「ええ! つまんねぇじゃん」
「知らねぇっすよ」
そもそもコンポートを食べにくるために来るのだ。決して二人に会いにくるわけではない。分かっているだろうに、と出入り口に立ってジャックは後ろにいた二人を見る。
「あんたらは俺と話して何が楽しいんだ?」
自分は面白味も何もない。何が二人の琴線に引っかかっているのか皆目見当もつかない。特別にメニューを用意されるほど可愛い後輩という認識もない。
「何が目的だ?」
「別に目的なんてありません。ああ、でも」
勿体ぶるように言うジェイドの両目が妖しく輝く気がした。その瞳の輝きは苦手だ。逃げるようについフロイドを見れば同じように妖しい雰囲気を醸し出していた。
苦手だ、苦手だ、苦手だ。ジャックは早くここから逃げ出したくなる。でも、逃げ出してしまうのは矜持が許さない。
ぐっと脚に力をいれて二人を見据える。
「でも、なんだ」
「答えを聞きたいなら次に」
「なるべく早く会いに来てくれたら教えるよぉ」
妖しさを一気に消し去りいつもの二人らしい態度をする。身構えていた身体の力が抜ける。ジャックは前髪を払い溜息をつく。
「次の給料日には」
「フフ。お待ちしています」
「待ってるよ~」
結局、ジャックはまた来ることになってしまった。とはいっても、二人と約束しなくてもジャックはまたあの洋ナシのコンポートを食べる予定であった。
ジャックは静かに煌めく場所から華やかで煌びやかな輝きの中へと歩き出した。
「それってジャックさんだけの
突然言われた内容に「は」と声は出ずとも口がパカッと開いて間抜けな顔になってしまった。それの顔はバッチリとおカウンターの店員に見られてしまった。お蔭で彼女は肩を揺らして笑っている。
恥ずかしくなって間抜けな口を閉じながら手にしていたフォークを置く。ちなみに残すつもりはない。ただ、ジャックのためと言われたことが引っかかったからだ。
「洋ナシのコンポートはメニューでもあんだろ」
「ええ。ですが、通年ではありませんよ」
彼女によく似合ったリップが引かれた唇がこれは楽しいと弧を描く。これはすっかり彼女のからかいのターゲットにされてしまった。質問するんじゃなかった。でも、質問しなければスッキリしたままこのとっても美味い洋ナシのコンポートが食べられない。
我慢をすることを覚えたジャックは「季節限定だったのか?」と訊ねる。
「はい」
「じゃ、なんで俺が頼む度に出てくんだ」
半眼で訊けば彼女は綺麗な指を一本立てたと思ったらピシとこちらに向けた。人様に指を指すなという念を込めて喉を唸らせる。彼女は「失礼しました」と言って指を指すのをやめると「特別なんだそうです」と付け足した。
「特別?」
訝し気な思いで訊き返すと彼女はくすぐったそうに「はい」と答えた。それから何か手元にあったグラスを拭き始める。どうやら止まっていた仕事を再開させたらしい。これ以上聞きだせないのかと思いきや彼女はまたひとつ零す。
「ジャックさんは――」
「うーにーちゃぁん♪」
「わっ」
にゅっと現れた姿と間延びした声と共に身体に重みがかかる。ついでにおしゃべりな彼女の口がぴたりと止まる。ジャックは心の中で舌打ちをしながら現れた男の名前を呼ぶ。
「……フロイド先輩」
「ウニちゃん久しぶりぃ~」
顔を覗き込んで来たフロイドはにへっと笑ってセットした髪を乱すように頭を撫でて来た。やめろと耳をピンピンと動かすがフロイドはそれも面白がって耳ごとくしゃくしゃ撫でて来る。鬱陶しさに「うぅ゛」と唸り出すと反対側にもうひとつ気配が現れた。
「フロイド。ジャックくんのご機嫌が斜めになっていますよ」
「すいませんね」と謝罪をしながら謝罪感のない声。もう一人の厄介者の登場だ。
「あれ? もう話しついたの?」
「はい。売り上げも何もかもアズールが課した目標を越えていました」
「へぇ。やるねぇ」
頭上で交わされる会話を無視してジャックはもう一度フォークを手に取る。チラとおしゃべりな彼女を見ればすでに姿がない。なんて気配の消し方だ。
「あ。ウニちゃんまた洋ナシ食べてんの?」
「スキだねぇ」と言う声は僅かに機嫌が良さそうに聞こえる。
ふと、先ほどの彼女の〝特別〟という言葉が頭を過る。この店はモストロ・ラウンジの輝石の国の支店。最初はあの悪徳三人組の店と思って近寄らなかったがジャックの勤め先にまで評判の声があがり同僚に連れられるままに来てもう二年は経っている。
さて、この洋ナシのコンポートは通年メニューではない。支配人はアズールではなく別の者がしているがここの責任者はこのリーチ兄弟らしい。
じっと、洋ナシのコンポートを見ながら〝もしや〟という考えが浮かぶ。いや、でもとすぐに否定するが〝もしや〟の可能性の方が大きい。
「気に入っていただけてなによりです」
ジェイドも同じく機嫌が良さそうだ。何とも機嫌の分かりやすい兄弟だ。それでもアズールがたまに扱い辛いと思うのが面白い。こんなにも分かりやすいのに。いや、そういった部分が必要な的に邪魔をするのかもしれない。
「美味いんで」
「そりゃそーでしょ」
「輝石の国でも一番の洋ナシを用意していますからね」
デザートは薔薇の王国以上に力を入れている。そう言うジェイドに「へぇ」と返しながら一口サイズに切って口に入れる。両サイドでごちゃごちゃ会話が続くがこの時ばかりは無視。
にしても、とジャックは何で毎回来る度に絡んで来るのか。いや、毎回タイミングよく来ているのか。リーチ兄弟は責任者ではあるがここにいるわけではない。輝石の国に在住しているわけではない。一応借りている部屋はあるらしいが。
タイミングがあまりに良すぎてGPSでも取り着けられている気分になる。職業がらなくはないがジャックとてそこまで馬鹿ではない。そして、それを訊ねる馬鹿な真似もしない。
ジャックは無心で食べ続け綺麗さっぱり食べることができた。
「ごちそうさま……で、何か用っすか」
「おや。まるで僕らが情報欲しくてジャックくんに近づいているようじゃないですか」
「違うんすか?」
いつの間にか隣に座ったジェイドに目を眇めれば心外ですと眉を下げられた。心外もなにも毎回それとなく情報を聞き出そうとするじゃないか。
ジャックは輝石軍の魔法に特化し魔法科だ。言わる軍人とはいっても陸上をするために入隊しただけだ。キャリア官僚でもない下っ端なので重要な情報は何もない。毎回そう言っているのに何かを聞き出そうとしている。
「ウニちゃんが下っ端なのは知ってるよ」
「ええ。何も情報といえる情報を持っていないことも」
「なら毎回なんなんすか?」
二人の顔を交互に見ても二人は似たような顔で笑みを浮かべるだけ。顔のパーツは違うのにこういうときの顔はよく似ている。
「ふつーにウニちゃんに会いに来たんだよ」
「はい。ジャックくんに会いたくて来てるんですよ」
パカとまた口が間抜けに開いた。慌てて口を閉じて長く伸びた髪に隠れた項を擦る。何か言わなければ、言わなければと、思っても唇が動かない。
いや、そもそも真に受けてはいけない。この二人が手八丁口八丁の悪徳三人組の内の二人であることを忘れたか。
「はぁ。からかってもなんにもねぇっすよ」
「からかってねぇし。ね、ジェイド」
「はい、フロイド。からかうならもっと面白くなるようなこと言いますよ」
「そーそー!」
そんなことをしたら元からない信用がなくなるぞ、とは言わない。言ったところでケラケラ笑うだけだし、楽しそうとやりそうだ。
「出る」
「まだ夜は始まったばかりですよ」
「明日も早ぇから帰る」
「ふぅん、仕事?」
「どっちでもいいだろ」
あんたらに関係はない。そう言い切るように立って再び現れた彼女を見る。彼女はまた楽しそうに唇に弧を描いている。まったくこの状況の何が楽しいんだか。
カードを差し出しながら会計を進めているのを見る。両隣が妙に静かなのが怖いがとりあえず無言を貫く。
「はい。お返しします……またいらしてくださいね」
「ああ」
くすくす笑う彼女にいつもの返事をしながらカードを受け取って席を立つ。すると同時に両隣の男たちも立ち上がる。
「なんすか」
「お見送りしますよ」
「お客様だから」
「そぉっすか」
「ありがとうございます」とあまり思ってないことを言いながら出入り口へと向かう。
「次はいつ来る?」
「ここのコンポートはそう安くないんで暫く来ないっす」
「ええ! つまんねぇじゃん」
「知らねぇっすよ」
そもそもコンポートを食べにくるために来るのだ。決して二人に会いにくるわけではない。分かっているだろうに、と出入り口に立ってジャックは後ろにいた二人を見る。
「あんたらは俺と話して何が楽しいんだ?」
自分は面白味も何もない。何が二人の琴線に引っかかっているのか皆目見当もつかない。特別にメニューを用意されるほど可愛い後輩という認識もない。
「何が目的だ?」
「別に目的なんてありません。ああ、でも」
勿体ぶるように言うジェイドの両目が妖しく輝く気がした。その瞳の輝きは苦手だ。逃げるようについフロイドを見れば同じように妖しい雰囲気を醸し出していた。
苦手だ、苦手だ、苦手だ。ジャックは早くここから逃げ出したくなる。でも、逃げ出してしまうのは矜持が許さない。
ぐっと脚に力をいれて二人を見据える。
「でも、なんだ」
「答えを聞きたいなら次に」
「なるべく早く会いに来てくれたら教えるよぉ」
妖しさを一気に消し去りいつもの二人らしい態度をする。身構えていた身体の力が抜ける。ジャックは前髪を払い溜息をつく。
「次の給料日には」
「フフ。お待ちしています」
「待ってるよ~」
結局、ジャックはまた来ることになってしまった。とはいっても、二人と約束しなくてもジャックはまたあの洋ナシのコンポートを食べる予定であった。
ジャックは静かに煌めく場所から華やかで煌びやかな輝きの中へと歩き出した。
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