ジャック受
ぼくはただキミを見つめているだけ
「あ゛~づかれだぁ」
「お疲れぇ」
ウィンターホリデーの初日。豪華な夕食を終えてリビングのソファに座ってでダラダラゲームをしているときだった。実家住まいの兄が年末の繁忙期で疲れた顔をしながらソファに腰掛けて来た。社会人になった兄まだまだ年末休みはまだ先。恨みがましい感じの眼差しを無視しながらゲームを続けていると――。
「そういやさぁ、お前って狼の獣人属と友だち?」
「なに、唐突に」
「お前のマジカメアカウントに一緒に載ってたから」
「まぁ、そんな感じだけど……なに?」
ゲームをする手を一時止めて横を見る。肘掛けに寄り掛かった兄はぼんやりとしながら「いや、ちょっとさ」と言って口を少しだけ閉じる。
なんだよ、とゲームを再開しようとして思い出したことがあった。
ウィンターホリデーが始まる前にはた迷惑なゴーストの花嫁の騒動。エースは間抜けな先遣隊と助けるために花婿となった。カッコイイタキシード着てプロポーズ作戦までしたのだ。それから一年生のみに任された会場の片づけは面倒だったがオンボロ寮で騒いだのは楽しかった。ただエースのプロポーズ上映会がなければ。
そのときだ。エースはジャックのクソ重い結婚観というか恋愛観を聞いたのは。暫く恋人などいらないと思っているエースからしたら何とも面倒くさい考えだった。だが一周回ればそうまで相手のことを想える習慣もいいというかなんというか。狼の獣人属というか――彼、ジャックらしかった。
「狼の獣人属って一生に一人しか愛さないらしいよ。兄貴、知ってた?」
「知ってた」
「え?」
意外な返事にエースは再開させようとした手を止めて兄を見る。兄はやっぱり疲れたままで肘掛けにだらりと寄り掛かっていた。
「兄貴は知ってんの?」
「おう。同級生に狼の獣人属の奴がいたから」
「へぇ」
今まで兄からナイトレイブンカレッジを幾度となく聞いてきた。それこそ兄が在籍していたから。それは多くは楽しく面白いことばかりで話す兄も楽しそうだった。でも、今話している兄の雰囲気は今までと違う。こう纏う雰囲気が違う。このまま聞いていていいものか。話しの先を促すことも出来ずにエースは聞く体勢に入った。
「何だったかなぁ。まぁ、たぶん普通に恋バナしたときだよ。知ったのは」
「偶然ってやつ?」
「そ。んで、アイツもお前んとこみたいに一生涯に一人を愛すんだって言ってたな」
「ふはっ。やっぱそうなんだ」
「ああ。本当に狼の獣人属って一途だよな……」
余韻のある言い方だった。エースは兄の語りめいた話しに居心地が悪くなる。このまま部屋に戻るかと思ったが不自然過ぎる。どうしようかと考えている合間に「でさ」と話し出されてしまった。エースは部屋に戻ることをやめてすぐに「ん」と相槌を打つ。
「アイツに『気の多い奴を好きになったら大変だな』って言ったらさ。なんて言ったと思うよ」
「ぁ~~『それでも構わない』とか?」
エースは頭の中でジャックを思い浮かべる。あいつはきっと誰を好きになっても、誰を愛してもただひたすら相手のことを想うだろう。あいつはそういう奴だ。それほどに真っ直だ。それでもってジャックは相手が自分のことをどう思っていても構わないと考えていそう。相手のことを思う以上にジャックは自分勝手なところもあるから。
「……お前の友達もそうか?」
「そう言いそうな奴だな」
「ハハ。あの学校では真っ直ぐ過ぎて敵作りそうだな」
「マジでそういう感じ」
「そうか……アイツはちょっと違ったかなぁ」
やはりどこか遠くを見つめる兄にエースはやっぱり居心地が悪い。兄とは歳が離れているからこういうときどう答えていいかまだエースは分からない。笑い飛ばすこともできないし無邪気に聞き返すこともできない。
「で、答えは?」
「ああ。アイツは『同族以外となんか番うつもりはねぇ』って言った……たぶん」
「は、た、たぶんって」
エースは笑いながらも兄の放った言葉がジャックの声で再生された。それが何とも胸抉られたような心地がした。なんでそうなるか分からなかった。けれど、エースの知っているジャックだったら絶対に言わない。だから、違うからきっとそう思っただけ。それにジャックはどんな種族であろうと大切に相手を想うに違いない。
「同族に拘りがあんだね、その人」
「同族以外は信用ができねぇんだって言ってたわ」
「へぇ」
それは恋愛の前にどうかと思うが。だが、個々人育った環境によって価値観なんて様々だ。それを信じ続け排除するのもまた個人の勝手だ。でも、それでも、やっぱり兄の同級生である狼の獣人属の考えは偏り過ぎる気もする。
「その人は結婚とかしたの?」
「その恋バナした後に結婚前提に付き合い始めた子がいて卒業と同時に結婚した」
「マジで」
「マジマジ。たしかぁ今は一児の父って聞いた」
「す、すげぇ」
その価値観に合う女がいたんだ。一体どこで出会ったんだ。いや、ここまで来ると親戚の女と結婚したのではと考えてしまう。そもそもエースでさえジャックと出会うまで狼の獣人属に遇うことはなかった。他は違うのかと、考えたところでエースには一向に関係ないことだと至る。
「あいつは同族以外眼中になかった」
最後にポツリと兄は零す。それから話しはこれきりと終わり「疲れた」と言って部屋に戻ってしまった。エースもまたゲームでもやろうかと思ったが再開する気も失せてしまった。時間的に眠れる気もせず適当にテレビをつけて眺めていたがエースの頭には兄とのやり取りがずっと残っていた。
* * *
監督生のSOSで学園に駆けつけ、あっという間にウィンターホリデーは終わってしまった。その期間中に終わらなかった冬休みの課題をエースは一人で図書室で片づけていた。
「ちぇ。あいつらもこの授業取っておけよ」
「何で誰も取っていないんだよ」とグチグチしながらペンを動かしていると。目の前に人の気配がした。このまま無視しようと思ったが視線を感じるためノートから顔を上げて目を見開く。
「なんだ。ジャックじゃん」
「課題休み中に終わってねぇのか」
「ほぼ学校にいたんだろ」と言われてムッと来る。少し腹が立ったまま呆れ気味なジャックに「うるせぇなぁ」と小声で返す。ジャックは溜息をつくと斜め前の席に座った。同時に参考にするのだろう魔導書が二冊静かに置かれた。その様子にエースは先ほどの腹立たしさも消える。緩む唇のまま「お前もかよ」と言えばジャックが眉を顰める。
「課題は全部終わってる。これは予習だ。お前と一緒にすんじゃねぇよ」
「ンだよ。相変わらず真面目だな」
疲れねぇのかよ、と言いかけた言葉を飲み込む。きっとジャックは己のためなら疲れることなんてないのだろう。だから、言わずに飲み込んだ。ふと、ウィンターホリデー中の兄の会話が頭を過る。
「なぁ。お前の両親ってどっちも狼の獣人属?」
「あ? そうだけど……んだよ」
「ふぅん。それって親戚も皆そうなの?」
ジャックはエースの突然の質問に訝しみながらも「いや」と首を振った。それにエースは目を瞠った。想像していた答えと違ったからだ。
「え。同族以外と結婚してる人もいんの」
「ああ? 当たり前だろ」
溜息をついたジャックは「そもそも同族は少ねぇ」と何でもないことのように話した。やっぱり、そうなんだ。エースは自分の周りにも狼の獣人属を見ない。イヌ科の獣人属なら見かけたことがあるが、もしかしたらその中にいたかもしれない。でも、多くみたことがないからやはり狼の獣人属は少ないというエースの考えは的外れではなかった。
「ヒト属と結婚している人もいるし、イヌ科の獣人属と結婚している人もいれば、まったく違う種族の人と結婚している人もいたぜ」
「へぇ。でも、お前も言っていたあの恋愛観じゃ大変じゃねぇの?」
自分で言っておいて心臓の鼓動が少し早くなった気がする。何でそうなるんだよ。何も別に緊張することはないだろう。エースは何故か緊張しているのか分からずそれでもなんでもない風にジャックの言葉を待つ。
ジャックは僅かに目を伏せながら「そうかもしんねぇな」と答えた。その答えがどうしてか納得できずにジャックを見てしまう。
エースの視線に気づいたジャックが再び伏せていた目を上げて「なんだ」と訊いて来た。
「いや、別にさ……結構あっさりしてんなって」
「あっさりってなぁ。好きになる人の種族なんて考えてどうにかなるもんか?」
「同じ種族で恋愛した方が楽じゃん」
ジャックの鋭い目に力が入ったことは分かる。でも、エースも引けなかった。いや、何故か引きたくなかった。ジャックが兄の同級生だという狼の獣人属と違うとうことをはっきりとしたかったから。
「種族で恋愛するもんじゃねぇだろ。自分がこいつだと思った人と恋愛はするもんだろ」
真っ直ぐキラキラ煌めくジャックの瞳にエースは安心した。胸を撫で下ろして「そーだね」と頭をぐしゃとかき混ぜた。この際セットが崩れるなんて考えない。
「……エース、その、お前もしかして、す、好きな奴でもできたのか?」
「は?」
あれほど真っ直ぐだった瞳をあちこちに向けどもりながら訊いて来るジャック。それに思わず呆けた声が出た。
ジャックはエースの反応からすぐに何か感じ取ったのか。健康的に日焼けした肌を薄らと染めて「な、なんでもねぇ」とワザとらしく魔導書を開き出した。
そのあからさまな行動にエースは焦りが込み上げる。
「べ、別にいねぇし!」
「だ、だから、勘違いだって分かってるって!」
「なら、そう、そんな行動するな!」
「うるせぇ!」
言い返すジャックも大声で返すと周りの生徒から視線を一身に浴びることになった。エースもジャックもお互いぐっと言葉を飲み込んで鼻を鳴らし手元に視線を戻す。
課題をサッサと片付けて部屋に戻ろうと考えながらペンを動かす。それでもジャックが気になって盗み見るように見れば真剣に魔導書を読む姿があった。
いつも通りの変わりない真面目な姿。エースはジャックのその変わりない姿をいつまでも見ていたいと思った。
「あ゛~づかれだぁ」
「お疲れぇ」
ウィンターホリデーの初日。豪華な夕食を終えてリビングのソファに座ってでダラダラゲームをしているときだった。実家住まいの兄が年末の繁忙期で疲れた顔をしながらソファに腰掛けて来た。社会人になった兄まだまだ年末休みはまだ先。恨みがましい感じの眼差しを無視しながらゲームを続けていると――。
「そういやさぁ、お前って狼の獣人属と友だち?」
「なに、唐突に」
「お前のマジカメアカウントに一緒に載ってたから」
「まぁ、そんな感じだけど……なに?」
ゲームをする手を一時止めて横を見る。肘掛けに寄り掛かった兄はぼんやりとしながら「いや、ちょっとさ」と言って口を少しだけ閉じる。
なんだよ、とゲームを再開しようとして思い出したことがあった。
ウィンターホリデーが始まる前にはた迷惑なゴーストの花嫁の騒動。エースは間抜けな先遣隊と助けるために花婿となった。カッコイイタキシード着てプロポーズ作戦までしたのだ。それから一年生のみに任された会場の片づけは面倒だったがオンボロ寮で騒いだのは楽しかった。ただエースのプロポーズ上映会がなければ。
そのときだ。エースはジャックのクソ重い結婚観というか恋愛観を聞いたのは。暫く恋人などいらないと思っているエースからしたら何とも面倒くさい考えだった。だが一周回ればそうまで相手のことを想える習慣もいいというかなんというか。狼の獣人属というか――彼、ジャックらしかった。
「狼の獣人属って一生に一人しか愛さないらしいよ。兄貴、知ってた?」
「知ってた」
「え?」
意外な返事にエースは再開させようとした手を止めて兄を見る。兄はやっぱり疲れたままで肘掛けにだらりと寄り掛かっていた。
「兄貴は知ってんの?」
「おう。同級生に狼の獣人属の奴がいたから」
「へぇ」
今まで兄からナイトレイブンカレッジを幾度となく聞いてきた。それこそ兄が在籍していたから。それは多くは楽しく面白いことばかりで話す兄も楽しそうだった。でも、今話している兄の雰囲気は今までと違う。こう纏う雰囲気が違う。このまま聞いていていいものか。話しの先を促すことも出来ずにエースは聞く体勢に入った。
「何だったかなぁ。まぁ、たぶん普通に恋バナしたときだよ。知ったのは」
「偶然ってやつ?」
「そ。んで、アイツもお前んとこみたいに一生涯に一人を愛すんだって言ってたな」
「ふはっ。やっぱそうなんだ」
「ああ。本当に狼の獣人属って一途だよな……」
余韻のある言い方だった。エースは兄の語りめいた話しに居心地が悪くなる。このまま部屋に戻るかと思ったが不自然過ぎる。どうしようかと考えている合間に「でさ」と話し出されてしまった。エースは部屋に戻ることをやめてすぐに「ん」と相槌を打つ。
「アイツに『気の多い奴を好きになったら大変だな』って言ったらさ。なんて言ったと思うよ」
「ぁ~~『それでも構わない』とか?」
エースは頭の中でジャックを思い浮かべる。あいつはきっと誰を好きになっても、誰を愛してもただひたすら相手のことを想うだろう。あいつはそういう奴だ。それほどに真っ直だ。それでもってジャックは相手が自分のことをどう思っていても構わないと考えていそう。相手のことを思う以上にジャックは自分勝手なところもあるから。
「……お前の友達もそうか?」
「そう言いそうな奴だな」
「ハハ。あの学校では真っ直ぐ過ぎて敵作りそうだな」
「マジでそういう感じ」
「そうか……アイツはちょっと違ったかなぁ」
やはりどこか遠くを見つめる兄にエースはやっぱり居心地が悪い。兄とは歳が離れているからこういうときどう答えていいかまだエースは分からない。笑い飛ばすこともできないし無邪気に聞き返すこともできない。
「で、答えは?」
「ああ。アイツは『同族以外となんか番うつもりはねぇ』って言った……たぶん」
「は、た、たぶんって」
エースは笑いながらも兄の放った言葉がジャックの声で再生された。それが何とも胸抉られたような心地がした。なんでそうなるか分からなかった。けれど、エースの知っているジャックだったら絶対に言わない。だから、違うからきっとそう思っただけ。それにジャックはどんな種族であろうと大切に相手を想うに違いない。
「同族に拘りがあんだね、その人」
「同族以外は信用ができねぇんだって言ってたわ」
「へぇ」
それは恋愛の前にどうかと思うが。だが、個々人育った環境によって価値観なんて様々だ。それを信じ続け排除するのもまた個人の勝手だ。でも、それでも、やっぱり兄の同級生である狼の獣人属の考えは偏り過ぎる気もする。
「その人は結婚とかしたの?」
「その恋バナした後に結婚前提に付き合い始めた子がいて卒業と同時に結婚した」
「マジで」
「マジマジ。たしかぁ今は一児の父って聞いた」
「す、すげぇ」
その価値観に合う女がいたんだ。一体どこで出会ったんだ。いや、ここまで来ると親戚の女と結婚したのではと考えてしまう。そもそもエースでさえジャックと出会うまで狼の獣人属に遇うことはなかった。他は違うのかと、考えたところでエースには一向に関係ないことだと至る。
「あいつは同族以外眼中になかった」
最後にポツリと兄は零す。それから話しはこれきりと終わり「疲れた」と言って部屋に戻ってしまった。エースもまたゲームでもやろうかと思ったが再開する気も失せてしまった。時間的に眠れる気もせず適当にテレビをつけて眺めていたがエースの頭には兄とのやり取りがずっと残っていた。
* * *
監督生のSOSで学園に駆けつけ、あっという間にウィンターホリデーは終わってしまった。その期間中に終わらなかった冬休みの課題をエースは一人で図書室で片づけていた。
「ちぇ。あいつらもこの授業取っておけよ」
「何で誰も取っていないんだよ」とグチグチしながらペンを動かしていると。目の前に人の気配がした。このまま無視しようと思ったが視線を感じるためノートから顔を上げて目を見開く。
「なんだ。ジャックじゃん」
「課題休み中に終わってねぇのか」
「ほぼ学校にいたんだろ」と言われてムッと来る。少し腹が立ったまま呆れ気味なジャックに「うるせぇなぁ」と小声で返す。ジャックは溜息をつくと斜め前の席に座った。同時に参考にするのだろう魔導書が二冊静かに置かれた。その様子にエースは先ほどの腹立たしさも消える。緩む唇のまま「お前もかよ」と言えばジャックが眉を顰める。
「課題は全部終わってる。これは予習だ。お前と一緒にすんじゃねぇよ」
「ンだよ。相変わらず真面目だな」
疲れねぇのかよ、と言いかけた言葉を飲み込む。きっとジャックは己のためなら疲れることなんてないのだろう。だから、言わずに飲み込んだ。ふと、ウィンターホリデー中の兄の会話が頭を過る。
「なぁ。お前の両親ってどっちも狼の獣人属?」
「あ? そうだけど……んだよ」
「ふぅん。それって親戚も皆そうなの?」
ジャックはエースの突然の質問に訝しみながらも「いや」と首を振った。それにエースは目を瞠った。想像していた答えと違ったからだ。
「え。同族以外と結婚してる人もいんの」
「ああ? 当たり前だろ」
溜息をついたジャックは「そもそも同族は少ねぇ」と何でもないことのように話した。やっぱり、そうなんだ。エースは自分の周りにも狼の獣人属を見ない。イヌ科の獣人属なら見かけたことがあるが、もしかしたらその中にいたかもしれない。でも、多くみたことがないからやはり狼の獣人属は少ないというエースの考えは的外れではなかった。
「ヒト属と結婚している人もいるし、イヌ科の獣人属と結婚している人もいれば、まったく違う種族の人と結婚している人もいたぜ」
「へぇ。でも、お前も言っていたあの恋愛観じゃ大変じゃねぇの?」
自分で言っておいて心臓の鼓動が少し早くなった気がする。何でそうなるんだよ。何も別に緊張することはないだろう。エースは何故か緊張しているのか分からずそれでもなんでもない風にジャックの言葉を待つ。
ジャックは僅かに目を伏せながら「そうかもしんねぇな」と答えた。その答えがどうしてか納得できずにジャックを見てしまう。
エースの視線に気づいたジャックが再び伏せていた目を上げて「なんだ」と訊いて来た。
「いや、別にさ……結構あっさりしてんなって」
「あっさりってなぁ。好きになる人の種族なんて考えてどうにかなるもんか?」
「同じ種族で恋愛した方が楽じゃん」
ジャックの鋭い目に力が入ったことは分かる。でも、エースも引けなかった。いや、何故か引きたくなかった。ジャックが兄の同級生だという狼の獣人属と違うとうことをはっきりとしたかったから。
「種族で恋愛するもんじゃねぇだろ。自分がこいつだと思った人と恋愛はするもんだろ」
真っ直ぐキラキラ煌めくジャックの瞳にエースは安心した。胸を撫で下ろして「そーだね」と頭をぐしゃとかき混ぜた。この際セットが崩れるなんて考えない。
「……エース、その、お前もしかして、す、好きな奴でもできたのか?」
「は?」
あれほど真っ直ぐだった瞳をあちこちに向けどもりながら訊いて来るジャック。それに思わず呆けた声が出た。
ジャックはエースの反応からすぐに何か感じ取ったのか。健康的に日焼けした肌を薄らと染めて「な、なんでもねぇ」とワザとらしく魔導書を開き出した。
そのあからさまな行動にエースは焦りが込み上げる。
「べ、別にいねぇし!」
「だ、だから、勘違いだって分かってるって!」
「なら、そう、そんな行動するな!」
「うるせぇ!」
言い返すジャックも大声で返すと周りの生徒から視線を一身に浴びることになった。エースもジャックもお互いぐっと言葉を飲み込んで鼻を鳴らし手元に視線を戻す。
課題をサッサと片付けて部屋に戻ろうと考えながらペンを動かす。それでもジャックが気になって盗み見るように見れば真剣に魔導書を読む姿があった。
いつも通りの変わりない真面目な姿。エースはジャックのその変わりない姿をいつまでも見ていたいと思った。
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