星に煌めきを戻す方法

星に煌めきを戻す方法・1



 ジャックは幼い頃から敵意には慣れていた。幼いから狼の獣人属だからなのか家の教育なのかわからないが自己をしっかり持っていたジャックは敵意を抱かれることも少なくなかった。というより、同年代の子どもは大概ジャックを疎んでいた。そして、時折その中で悪意を持つ子どもいた。いたけれどやはり子どもでジャックは痛くも痒くもないというわけではなかった。それでも悪意に耐えることもできし、耐えられなくても両親や友人がいたから乗り越えられた。




 ハイスクールの年齢は子どもでもなければ大人でもない。子どもから見れば大人に見え、大人から見ればまだまだ子ども。そんな年齢であるがミドルスクール以上に様々な知識を着けている。さらに言えばジャックが在籍するナイトレイブンカレッジは賢い者も多い。それはただ賢いだけではない。様々な種類の賢い者がいる。

「はぁ」

 ジャックはいつになく深い溜息を零す。クソと声に出さずに長い前髪を掻き上げては溜息をつく。それを何度なく繰り返しながら胸に溜まるわだかまりを吐き出すが一向に消えない。

「クソ。情けねぇ」

 自分一人で立ち直れないことに苛立ちと焦りが募っていく。ここには話を聞いてくれる両親がいない。友人もいない。ならば一人でどうにかするしかない。するしかないのに。立ち直るよりも前に〝奴〟が現れて悪意を吐きかけていく。
 最初こそいつものあれか、と思ったら奴のそれは違った。ネチネチとジャックが一人の頃攻撃して来るのだ。ただ単純な悪意ならどうにかできても小刻みに悪意をぶつけられるのは正直ストレスが溜まる。
 つい先ほどまでいた男の顔を振り払うように頭を振るもどうにもダメだ。本当は課題を片付けようとしたのにこれじゃどうにも身に入らない。それに寮に戻ったらジャックに敵意を持っている先輩に遭遇する可能性も高い。それは今勘弁こうむりたい。ついでに、レオナやラギーに会って対応する気力もないし、弱っている自分を見せたくない。

「はぁ。どうすりゃいいんだ」

 このままここで時が過ぎるのを待つしかねぇのか。ジャックがそう思う時だった。トンと軽い足どりと静かな足取りが聞こえた。どうかこのままどっか行ってくれと願うよりも早く声をかけられた。

「ジャックっ! どうしたんだっ!」

 軽い足どりが駆け足に変わり心配する気配が近づいて来る。その後ろから「おい、カリム!」と呼んで落ち着いた駆け足が続く。ああ。今日も大変なんだなと思いながら間近まで迫った気配に応えるために顔をあげる。

「カリム先輩、ジャミル先輩、ちわっす」
「よう! ってそうじゃねぇだろ! ジャック、どうしたんだ?」

 元気に返事をしたと思った途端可愛らしい顔立ちを心配そうにした。顔を覗き込む仕草は自分が弟妹たちにやるものと似ていた。そういえば弟妹が沢山いると言っていた。だから、自然と見た目としては大人びたジャックでも年下らしく扱うのかもしれない。

「カリム。いきなり走り出すな……はぁ。ん? ジャック」

 追いついたジャミルが溜息をつくのも束の間ジャックの顔を見て顔を顰めた。
 言われたジャックは自分の顔を触れるがわからない。奴のせいで疲れてはいるが顔に出しているつもりはなかった。

「ジャミルの言う通りだな。ジャック、顔が青いぜ」
 大丈夫か、とやはり心配そうなカリムに首を縦に動かす。

「っす。ちょっと疲れただけなんで」
「疲れただってぇッ!」
「ぅおっ」

 勢いよく顔を寄せるカリムにのけ反る。けれど、カリムは気にした様子もなく再びジャックから身体を離して考えるように腕を組む。くるくる変わるカリムは今までジャックの周りにいないタイプですでに振り回されている気分がする。この人の相手をするジャミル先輩すげぇなと別の方向に尊敬の念が募る。その間に目を瞑って難しい顔をしていたカリムの目がパッと開いた。

「よし! 宴だな!」
「は?」

 うんうんなっていたと思えばいきなり宴とは。いや、この人はよく宴だ、宴と騒いでいるのは知っている。そのおこぼれにあずかろうとしているラギーも見たこともある。だから可笑しくはないが何故、と見ているとニパとジャックに笑かけた。

「落ち込んでいるときはドンチャン騒ぎが一番だ! ジャック今からオレの寮に来いよ!」
「え、えぇ?」

 意味わからん、とジャミルに救いの眼差しを向けると首を横に振られた。副寮長であり従者であるジャミルでも止められないのか。というか、意外にこの人がカリムのことを止められたところ見たことがない気がする。

「ジャック! 落ち込んだときは忘れるほど食って、飲んで、歌って、踊って、寝れば大丈夫だ!」
「は、はぁ……」

 そんなストレス発散方法はカリム以外に適当されない気がする。また彼の従者であるジャミルを見れば苦笑を零して肩をすくめた。もしかして、何か言うと思えば彼は何も言わなかった。ただ、カリムは止められないといった態度だ。ジャミルの態度に僅かに引っかかるが――ジャックはこのまま一人塞ぎ込んでいることにも限界を感じていた。

「……じゃあ、お邪魔します」
「おう! んじゃ、ジャミル今から宴の準備だな!」
「はぁ。わかった。ジャック、時間はかかるがどうだ、一緒にスカラビア寮に行かないか?」
「え?」

 意外な展開に目を丸くしてジャミルを見る。ジャミルは腕を組んで「早く準備が終わっても一時間以上はかかるからな」と言う。それになら一度寮に戻ってと考えて眉間に皺を寄せる。寮まで戻る気力がない。

「もてなす相手を準備前に誘うのは心苦しいが気晴らしにもなるだろ」
「そうだな! ジャックはうちの寮に来たことないだろ!」

 首を縦に動かすジャックに「決まりだな!」とカリムは肩を叩く。

「行こうぜ、ジャック!」
「歓迎するぞ」

 ジャックは歓迎体勢の二人に頭を下げてもう一度「お邪魔します」と告げる。

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