一大抗争のはじまり、はじまり
一大抗争のはじまり、はじまり・2
あの後の悲惨さといったら堪らなかった。何とか授業に参加出来たが部活動はできない。だというのに、ジャックを蹂躙した二人は艶々した最上級のコンディションで部活動をしている。なんて恨めしい。
それにアズールから貰った薬も結局水に溶けてしまってダメになってしまった。あのアズールが作ったんだからどれくらいの効果があったのかも知りたかったのに。とはいっても、そんなこと言ったらまたどんな目に合うかわからない。
はぁ、と溜息をついていると。
「ジャックくん、今日の部活お休みですか?」
「ッ!」
背後から密やかにかけられた声に身体が跳ねる。気配に気づかなかったなんて余程神経が鈍っているらしい。痛む身体を何とか動かして振り返れば会いたくない先輩上位に入る人がいた。
「じぇいどせんぱい」
「おやおや。声までしゃがれて」
風邪ですか、なんて言うけれどジェイドはどうしてジャックがこんな状況になっているのか理解しているはずだ。だのに、わざとらしく風邪なんて訊いて来るなんて。
「ほうっておいてください」
オクタヴィネル寮に絡むと最近やたらと二人の機嫌が悪い。せっかく今日は機嫌がいいのだからまた二人の機嫌を悪くしたくない。そんでもって慰めるのが面倒臭いからなるべく刺激したくない。
ジェイドを無視して課題を熟していると――。
「そうはいきません」
きっぱりとした声に反応する前に顎を掴まれて上を向かされた。すると眼前に切れ長のオッドアイが現れた。あまりの近い距離に息を飲む。
「ジャックくん、このままでよろしいんですか?」
低い穏やかな声はレオナのものとも違う。すぅっとなじみ深くジャックの耳に入り込んで来る。聞いてはいけないと思うのにジャックの耳はジェイドの声に集中してしまっている。そのまま暴れないジャックをいいことにジェイドは声を潜め秘め事を話すように続ける。
「いつもレオナさんやラギーさんのご機嫌伺いなど貴方らしくない」
ああ。傍からすればジャックの今の行動はそう見えるのか。そういえば、確かに自分らしくないな。相手の機嫌を窺うなど。
「でしょう? 貴方は今あのお二人と対等ではないんですよ」
いや対等なはずがない。だって、あの二人はジャックよりも世間を知っているし、魔法の力も、群れを統率する力も持っている。
「ええ。でもね。番うならば対等でありたくはないですか?」
そうだ。自分は番うならお互い対等でありたい。それは狼の獣人属である自分でもそうだ。お互い愛し愛されたい。大切に大事にしたい。
「フフ。それが当たり前なんですから……では今の貴方たちは?」
オッドアイが歪に嗤った気がした。でも、ジャックはそれよりも先輩たちとの今の関係が嫌だと思ってしまった。けれど、いつからそうなったのかいまいちわからないし、原因もわからない。
「もしお困りならばモストロラウンジにいらしてください」
「力になりますよ」と囁く声と共に視界からオッドアイが消える。ジャックは姿勢を戻して後ろを振り向くと――そこにジェイドの姿はなかった。
幻でも見ていたのか。いや、しっかりとここにジェイドの香りが残っている。だから、彼は確かにここにいた。何のためにジャックに声をかけたかわからないけれど。けれど、彼のお蔭でジャックは頭の奥で燻っていた悩みが形となって現れた。
「変えたい……違げぇな。戻りてぇな」
前みたいに。穏やかに三人過ごしていた時間に戻りたい。でも、時間は戻らない。ならば、やっぱりジャックが動かなければいけない。
「とりあえず寮に戻るか」
勉強道具を片付けてジャックはいまだに痛む節々に耐えながら図書室を出た。
だが、その日の夜、上手いこと話は進むことはなかった。
あの後の悲惨さといったら堪らなかった。何とか授業に参加出来たが部活動はできない。だというのに、ジャックを蹂躙した二人は艶々した最上級のコンディションで部活動をしている。なんて恨めしい。
それにアズールから貰った薬も結局水に溶けてしまってダメになってしまった。あのアズールが作ったんだからどれくらいの効果があったのかも知りたかったのに。とはいっても、そんなこと言ったらまたどんな目に合うかわからない。
はぁ、と溜息をついていると。
「ジャックくん、今日の部活お休みですか?」
「ッ!」
背後から密やかにかけられた声に身体が跳ねる。気配に気づかなかったなんて余程神経が鈍っているらしい。痛む身体を何とか動かして振り返れば会いたくない先輩上位に入る人がいた。
「じぇいどせんぱい」
「おやおや。声までしゃがれて」
風邪ですか、なんて言うけれどジェイドはどうしてジャックがこんな状況になっているのか理解しているはずだ。だのに、わざとらしく風邪なんて訊いて来るなんて。
「ほうっておいてください」
オクタヴィネル寮に絡むと最近やたらと二人の機嫌が悪い。せっかく今日は機嫌がいいのだからまた二人の機嫌を悪くしたくない。そんでもって慰めるのが面倒臭いからなるべく刺激したくない。
ジェイドを無視して課題を熟していると――。
「そうはいきません」
きっぱりとした声に反応する前に顎を掴まれて上を向かされた。すると眼前に切れ長のオッドアイが現れた。あまりの近い距離に息を飲む。
「ジャックくん、このままでよろしいんですか?」
低い穏やかな声はレオナのものとも違う。すぅっとなじみ深くジャックの耳に入り込んで来る。聞いてはいけないと思うのにジャックの耳はジェイドの声に集中してしまっている。そのまま暴れないジャックをいいことにジェイドは声を潜め秘め事を話すように続ける。
「いつもレオナさんやラギーさんのご機嫌伺いなど貴方らしくない」
ああ。傍からすればジャックの今の行動はそう見えるのか。そういえば、確かに自分らしくないな。相手の機嫌を窺うなど。
「でしょう? 貴方は今あのお二人と対等ではないんですよ」
いや対等なはずがない。だって、あの二人はジャックよりも世間を知っているし、魔法の力も、群れを統率する力も持っている。
「ええ。でもね。番うならば対等でありたくはないですか?」
そうだ。自分は番うならお互い対等でありたい。それは狼の獣人属である自分でもそうだ。お互い愛し愛されたい。大切に大事にしたい。
「フフ。それが当たり前なんですから……では今の貴方たちは?」
オッドアイが歪に嗤った気がした。でも、ジャックはそれよりも先輩たちとの今の関係が嫌だと思ってしまった。けれど、いつからそうなったのかいまいちわからないし、原因もわからない。
「もしお困りならばモストロラウンジにいらしてください」
「力になりますよ」と囁く声と共に視界からオッドアイが消える。ジャックは姿勢を戻して後ろを振り向くと――そこにジェイドの姿はなかった。
幻でも見ていたのか。いや、しっかりとここにジェイドの香りが残っている。だから、彼は確かにここにいた。何のためにジャックに声をかけたかわからないけれど。けれど、彼のお蔭でジャックは頭の奥で燻っていた悩みが形となって現れた。
「変えたい……違げぇな。戻りてぇな」
前みたいに。穏やかに三人過ごしていた時間に戻りたい。でも、時間は戻らない。ならば、やっぱりジャックが動かなければいけない。
「とりあえず寮に戻るか」
勉強道具を片付けてジャックはいまだに痛む節々に耐えながら図書室を出た。
だが、その日の夜、上手いこと話は進むことはなかった。