世界の交わり
Name Change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
世界が交わり、貴方に出会う
「きみとぼくは住む世界違うんだよ」
何それ、と出かかる言葉を飲み込む。同時に目の前の一応ギリギリで恋人の彼の言葉に苛立ちが込み上げる。
住む世界が違うと目の前の男は言うけれど、同じ薔薇の王国の貴族出身。爵位は私の家の方が上でかつ歴史もこちらの方が圧倒的に古い。とはいえ、男の家の爵位は一代限りのものではなく各国で貴族階級が無くなる中、生き残っている一族だ。歴史だって我が家が古すぎるだけで、新興というわけではない。
なぜ、住む世界がというのか――ひとつ心当たりがある。
私は魔力を持ち代々当主は魔法士。そして、魔法士として活躍してきた〝武〟の一面を持つ一族。とはいっても、今は昔の話。現代の我が家は事業で成り立っている。商才もあって没落することなく大成功している。
ゆえに私は男と付き合っていた。お互いの家の利益のためというと物語のような同時にこの時代にありえないように見えるだろう。でも、やはり上流階級ではそういう関係で婚姻関係が結ばれることもあるし、そうした交流の中で恋をして結婚することもある。
ちなみに、私と彼は恋とかそんなものはない。お互い利益があるなという相手を選んだはず――なのに。
なにが住む世界が違うと。
魔力が〝ある〟とか〝なし〟とかそんなんで住む世界が違うなんて言う方が時代錯誤じゃないの。そもそも私は彼の前で見せつけるように魔法を使ったことなんてない。ただ、日常的なクセで使っていたかもしれないけれど――それ? もしかしてそれ?
なんか器が小さい。なら、結局時間の問題だったのかもしれない。
「そう。なら、それはつまり私とは『さよなら』ということかしら?」
必然的に別れを告げる声は冷ややかなものになる。目の前の彼は私の態度に何かご不満があったようで顔をくしゃっと歪めた。
ああ。もしかして私に縋ってほしかったの。それとも私に謝ってほしかったのかしら。どっちにしても馬鹿みたい。
バカな男から視線を外してティーカップに手を伸ばしそっと手に取る。そのまま口を着ける。紅茶は想像していたよりも美味しかった。
ここはアフタヌーンティーをリーズナブルで体験できるお店としてヒットした。値段も比較的に手ごろで、内装も可愛らしく素敵でマジカメでよく様々な店舗のものが流れてくる。正直、あまり期待はしていなかったが美味しかった。今後の事業の参考になるかもしれない。
デザートも気になったけれど、と横目で店の外を見る。先ほどからチラチラこちらの様子を伺う素朴で可愛らしい女の子がいる。
ほんっとに馬鹿みたい。
小さく息をついて伝票を手に取る。
「支払いは私がしておくから外で待たせているお嬢さんをお迎えに行ったら」
彼の柔らかな目が見開き、僅かに居心地の悪さに眉を下げる。そういう顔をするならお嬢さんを連れてくるなという話。それとも態々私と別れることころを見せて安心させたかったのかしら。意味が分からないし、優しそうな見た目に反して何て誠実さのない男。
でも、彼は自分が正義。だから、きっと店を出たらあの素朴で可愛らしいお嬢さんに向かって「無事に別れることができた。君とこれからはずっと一緒だよ」なんて恥ずかしげもなく言うのだろう。
あの子、今からでもこんな男やめた方がいいんじゃないかしら。
いや、一応付き合っていた女がいるのに堂々と見えるところにいるから同じ穴の貉なのかもしれない。ある意味お似合いカップルになるのかも。
「これ以上なにも言うことはないわ。さぁ、さっさとお行きなさい」
冷ややかに見据えると彼は「ごめん」と意味もない謝罪を口にして席を立って出て行った。
外に目を向けてみればあの愛らしいお嬢さんが心配そうな顔のまま小走りしていくのが見える。きっと、お店を出た彼に駆け寄ったのだろう。それからのやり取りは――まぁ、想像できるから視線を手元に戻す。
伝票を弄りながら少し考える。
「住む世界が違う、か」
じゃあ、あのお嬢さんは違うのって思う。遠目からだから違ったら悪いけれど、彼女もまたあんたのこと住む世界の違う〝王子様〟って思って思う日が来るかもしれないのに。同じ薔薇の王国、同じく爵位を持つ家に生まれた私とあんた――魔力があるかなしか。ただそれだけで「住む世界」が違うなんてどうして思ったのか。
「はぁ。悪くはなかったんだけれど」
少なからず分からないところを共有できると思っていた相手だった。同じ〝世界〟に住んでいると思っていたのは私だけみたいで馬鹿みたい。
もう一度息をついてもう一度外を見る。すでに彼らの姿はない。もういいだろう。
伝票を持って席を立ち会計を済ませて私も外へと出た。振られた後の世界は別にこれといって変わらなかった。
ちょっと散歩してから帰ろうかしら。
寮に戻ったらジェマとルーシーを捕まえて愚痴を聞いてもらおう。あーならそれに見合うお茶菓子も買わないと。ま、そのお菓子はすでに決めているけど。
そもそも別れ話をするのに、わざわざ賢者の島を指定したのは、あのカフェ以外に「ボンボン・ルセット」のお菓子を食べたかったから。
というわけで早速向かいましょ。なにせ、あのお店は人気で列ができるほど。今日は休日だから平日よりも並ぶかもしれない。
「ま、時間はたくさんあるしいいか」
そのまま人混みの中を歩いているときにふと鞄に触れて足を止める。それからもう一度手探りで鞄に触れて勢いよく鞄を目の前に持ってくる。
「うそでしょ……」
鞄につけていた〝キーホルダー〟がない。
心臓がドクドク気持ち悪い。思考が霧散して纏まらない。取りあえず鞄を肩にかけ直して来た道を戻る。
人混みで足元を見ながら探すのは中々難しい。もしかしたら蹴られてどっかにもっと別の場所に転がっていったかもしれない。
手のひらサイズのクマのキーホルダー。別にどこかのブランドとかではない。薔薇の王国で昔から人気のキャラクターのキーホルダー。それでも私にとっては思い入れがあって――今日みたいな日にはいつも着けて来た。
慌てて道を戻るが見つからず、最初のお店まで戻って来てしまった。もしかしてお店の中にと思ってもう一度入って店員さんに訊ねてみる。けれど、どうやらなかったらしく申し訳ない顔をさせてしまった。
店を出てもう一度と思ってふと視界にブレスットが掠める。
「あ、あ、あ~~」
咄嗟に額に手をやる。そうだ。そうだ。忘れていた。普段失くさないからすっかり忘れていた。
「〝目印〟つけたじゃない」
息をついてキーホルダーを頭に思い描き召喚術を使う。
ポンと音を立てて手のひらに探していたキーホルダーが現れた。それに安心していると――。
「あっ!」
すぐ傍で驚く声が上がる。なにと反射的に振り返るとこちらを見て驚いている男の子がいた。鮮やかなオレンジ色の髪と鮮やかな緑の瞳。まだ幼さを残す輪郭と真新しい黒い制服。
「その子、お姉さんの?」
丸くさせた目を瞬かせて男の子が私の手の中にあるキーホルダーを指す。
一度手の中にあるちょっと汚れたテディベアのキーホルダーを見て、もう一度男の子を見る。
「こ、この子のこと?」
「うん」
頷く様もまだ幼さがある。たぶんまだ入学したての子なんだろう。
何だかこの間、入学してきた後輩たちを思い出す。微笑ましい気持ちがこみ上げる中、私は「そうよ」と返す。
「貴方が拾ってくれたの?」
「うん。でも拾って振り返った瞬間に居なくなったと思ったらお姉さんの手にあってびっくりした」
それは魔法士見習いでも確かにびっくりするわね。これは今後いきなり使うにも考えないといけないというか。魔力のない人からしたらもっと驚くのかしら。ほんとに気を着けないと。
「そっか。でも、よかった♪ その子お手入れしっかしされているように見えたから持ち主のところに帰れて」
にっこりと笑うと八重歯が覗く。それがまた幼さというか愛嬌がプラスされて何だか随分と可愛らしく見える。
「拾ってくれてありがとう。あと、驚かせてごめんなさいね」
「いいえ~。てか、お姉さんは魔法士? さっきのって召喚術? 便利そ~」
興味深そうに若葉のように瑞々しく瞳が輝く。その様は後輩たちと同じで微笑ましく可愛らしい。
「ええ。1年生でもできるけれど、確実にしたい場合はちゃんと召喚するものに目印をつけるいいわ」
「目印? 召喚するものをイメージするだけじゃダメなの?」
「それでもできるけれど、目印を着ければ確実よ」
へぇ、と私が召喚したキーホルダーを見つめる。
「よかったらお礼に教えましょうか?」
あ、しまった。見ず知らずの明らかに年上からお礼とかなんか犯罪の入り口みたいなことしているわね。間違った対応をしてしまった。
「あ、えっと、ごめんなさいね。出過ぎた真似をしたわ」
謝罪を口にすると男の子は「うーん」と腕を組んで考えだす。
「いや、でも、せっかくだから教わりたいけど、確かにお姉さんのこと知らないし」
「ちゃんとわかってるのね」
「いや、流石にオレも16だから」
苦笑いする顔は確かに幼さを残すけれど確かに世間知らずの子どもではない。小さな子ども扱いし過ぎてしまったわね。
「そうね。でも、何かお礼はしたいわ」
「それ。オレが同い年か年上ならいけないっていうか、危ないよ」
鋭い指摘に目を瞬かせる。それから思わず笑いが込み上げる。
「ふっ、ふふ。ええ。貴方の言う通り」
「でしょ」
得意げな顔はまた途端に幼さが覗く。なんかだか面白い子ね。
「ふふ。じゃあ、私があの人気のお店のギフトカードを買ってくるから少し時間いいかしら」
さっき別れ話とこのキーホルダーを探したときに入店した店。ここはギフトカードも取り扱っていた。それならすぐ手に入るし手ごろだろ。
「え。マジで」
再び若葉の瞳が輝いた。髪型や制服の着こなし方から見てお洒落な子と思ったけれど、こうした流行りのモノも好きみたい。安心しながらキーホルダーを鞄の中にそっと入れる。
「とっても大切にしているんだね」
男の子の言葉に「ええ」と答えて鞄のジッパーを上げる。
「私が小さい頃お手伝いをして初めて買った子なのよ」
「ああ、だからとっても綺麗なんだね」
そう言われると少し照れてしまう。でも、ほんとうはもっと綺麗だと言いたい。
「けど、久々に連れ出して悪いことをしてしまったわ」
「そうかな。むしろ探検できて楽しかったかもよ」
無邪気に笑う男の子。何だかファンシーな会話になってきているけれど、もしかしたらそうなのかもしれないと思わせた。そんなことないのに。
「ふふ。そうならたまに一緒にお出かけしないとね」
さて、じゃあ、とお店に向かう。男の子は「待ってるね~」と言って見送ってくれた。
ああいう子に会ったことがないわけじゃない。気軽に話せる子は意外に少ない。今の魔法士養成学校に入ってからの方が多いかもしれないくらい。
年下の子とああいう砕けた感じなのも初めてかもしれない――あの子の持つコミュ力の高さなんだろうけれどすごい。
あれは女の子にもモテるんじゃないかしら。顔立ちも整っているし――モテないわけがない。
うんうん、と一人納得しながら入店する。店員さんが先ほどと同じだったのでキーホルダーが見つかったことを告げると安心した顔を見せてくれた。それからギフトカードとお茶菓子を買う。お店に迷惑をかけたお礼も兼ねて。
店を出るとあの男の子はスマホを弄っていた。そのケースもまた人気ブランドのものでやっぱり流行りが好きな今どき男子らしい。
「待たせてごめんなさいね。はい。お礼のギフトカード」
可愛らしいカード入れに入ったギフトカードを渡す。こういうの男の子だと好き嫌いが分かれるけれどこの子はどうやら大丈夫だったみたい。
キラキラした目のままギフトカードを受け取って「カード入れもめっちゃ可愛い!」と言ってくれた。もしかして女きょうだいがいるのかも。そんな雰囲気がしてきた。
と考えてもこの子とはきっとこれっきり。
「ほんとに見つけてくれてありがとう」
「もういいって。オレこそそこらへんに置いていかないでよかった」
「ギフトカード貰えたし♪」とキラキラ笑う子に目を細める。直属の後輩だったらとっても可愛がったのに惜しい子。
「また会えたら今度は自己紹介かしらね」
「ふふ。そうだね。また、会えたらね」
ちょっとした線引きを感じた。まぁ、そんなものよね。ちょっと残念な気持ち――というのもなんかイヤだけれど、一期一会という言葉もあるしそういう時はそういう時よね。
「あ! お姉さん、キーホルダー落とさないようにこういうの着けた方がいいよ」
男の子は最後に色々な対策案を教えてくれた。今はこういうのがあるのかとなんか歳を取ったような考え方をしてちょっと危なかった。
「色々教えてくれてありがとう。次から気を付けるわ」
「うん。じゃ、バイバイ」
手を振る男の子に合わせて私も手を振り返して背を向ける。
再び休日でたくさん人がいる中を歩く。今日はこのまま寮へと戻ろう。お茶菓子も買えたし。
ボンボン・ルセットに向かう時よりもだいぶ気持ちが楽になっている。でも、同時にあの不義理な男が素朴で愛らしい女の子を選んだのかを考える。もしかしたら私とさっきの男の子のような世界の交わりがあったのかもしれない。そして、あの女の子はもしかしたら魔法を使えないのかもしれない。そういう〝世界〟の違いのことを言ったのかもしれない。でも、確かに魔力が少ない人間となら彼は魔力がある相手でも上手くいったのかもしれない。だけど、私は違う。
「住む世界が違う――か」
もしかしたら彼にとっては私たちが簡単に使う魔法は正解を大きく隔てるものだったのかもしれない。
「ああ。だから、お婆様もお母様も――」
力の強い人を伴侶に選んだのかしら。お爺様、お父様もどちらも魔法士養成学校出身で成績優秀だったと聞いている。同時にお爺様は元旧家の出身で、お父様は同じく貴族出身。あの男曰く、同じ世界にいた人を選んだということになる。
なら私も結局そういう人に落ち着くのかしら。
きっとその方が幸せということなのだろう。いまだ憧れのような恋しかしたことがない。でも、あの男はそんな中で巡り合った男でもあった。だから、きっといつか糧になるかもしれない、ならないかもしれない。
「でも、ひとつの気づきをくれたのは確かよね」
きっと私は魔力が強い男じゃないとダメということ。
「すると結局限られてくるのよね」
ふとあの男の子のことが頭を過る。でも、それはきっと私の相手に望ましい人がいる学校のひとつに通っているから。
「とりあえず、しばらくはいいかしら」
恋人探しはしばらく休む。その間は自分磨きにいそしみましょう。
決意を固め寮へと繋がるゲートを潜った。
2026.03.14
2026.03.30 一部文章修正
1/1ページ