ケイト
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幕間にて接吻
仕事も一通り終えた休憩時間。ティーセットと甘さ控えめのクッキーをお盆に乗せて向かうのはケイトの部屋。
私がお母様から当主の仕事を教えてもらっていると同じように私と結婚したケイトもお父様から色々と仕事を教えてもらっている最中。
まだ二人とも完全に引退するつもりはないが、引き継ぎなどは大事。私たち個人の仕事も勿論ある。けれど、場合によっては家の仕事を優先するときもある。
ケイトが今まさにそうであり、お父様から引き継ぎ資料を貰ってパーティーの準備中。ハーツラビュル寮出身であってもケイトは一般家庭出身。さらに言えば普通のパーティーではなく貴族や旧家はては王族まで連なるので中々に大変。
それぞれの関係性を把握し、配慮し、他にも準備することがたくさんある。ただ出席すればいいパーティーとは違うためケイトでも苦労している様子。
夜遅くまで資料を読み込んでいるのか、中々夜一緒に寝ることがない。それに朝食のときも、夕食の時も、疲れた顔をよくしている。
結婚してからの一番重大ともいえる仕事だからこそ頑張っているんだろう。けれど、ここまで根を詰めるのも身体によくない。
これではいけない。そう思って久々に一緒にお茶の休憩をしようと思って来たのだけれど――部屋に入って拍子抜けしてしまった。
「なるほど、その手があったわね」
「ぁ、あはは」
部屋にいた〝ケイト〟が苦笑いをするが本人ではない。彼がユニーク魔法で生み出した分身。そうだ。そうだ。彼の便利なユニーク魔法を忘れていた。そうよね。分身を使ってちゃんと適宜休憩を取っているわよね。
とはいえ、疲れているのに魔法を使って平気なのかしら。
「ちなみに30分程度だから平気だよ。なにも問題なし」
私の心配を察したのか分身のケイトがなんてことない様子で答える。それでもやっぱり分身の彼も疲れたように見える。
ハァ、とため息をついてローテーブルにお盆を置く。それからお茶の準備を始める。
お茶の準備を始める私にケイトが困惑気味に「アリアちゃん?」と名前を呼ぶ。それをとりあえず無視して紅茶をティーカップに入れる。
「ケイト。とりあえず、こっちに来て一緒に休憩しましょう」
「ぇ、いいの?」
「もちろん。私もちょうど休憩時間だし。いらっしゃい」
「ほら」と分身のケイトを手招く。
呼ばれたケイトは逡巡したそぶりを見せると八重歯を覗かせて立ち上がった。そのまま軽い足取りでソファの傍まで来ると隣に座った。
分身とはいえやっぱり体温も身に纏う香りも何もかも本人と同じ。出来のいい分身なのは流石ナイトレイブンカレッジの卒業生というところ。
「はい。紅茶とクッキー」
「あ! このクッキーって!」
パァッと顔を輝かせるケイトに自然と笑みが浮かぶ。
20歳を過ぎてすっかり大人びたかっこいい顔つきになったけれど、こういう顔のときは可愛らしいまま。
「この前、お土産で貰ったとき気に入っていたでしょ。だからお願いして買ってきてもらったの」
「そうなんだ。ありがと!」
「お礼ならローラにもね」
「そうだね」
ローラは私たちの家の通いのお手伝い。若い頃は実家で使用人をしていた。私も小さい頃、色々お世話してもらった人。そして、私が結婚するときに着いてきてくれた。もう引退という歳だけれど、仕事していないと身体が鈍るとかで色々してもらっている。
ケイトとも今は上手くやっている。最初は、なんか、なんか、色々あったけれどケイトのコミュ力なのか、ローラの年の功なのか、今はいい関係を築いている。
「じゃ、いただきます」
「どうぞ」
甘いものが苦手なケイトでもここのクッキーは結構好きみたい。私も好きなブランドのお菓子だから嬉しい。私も自分でいれた紅茶に口をつけながらふと気になったことをケイトに訊ねる。
「ねぇ。いつもあんたを置いてケイトは休憩しているの?」
「たまにね。疲れていると魔法もあんまり安定しないから」
なるほど。今のケイトは30分休憩できるほどの分身の維持ができる。ならまだ疲れてはいないということなのかしら。
「ちなみに30分は結構短め。元気いいと1時間くらい普通にオレくん置いていくから」
「1時間……」
これは聞かなかったことにしよう。といっても私も普通にイヤになるとそれくらいサボるからお相子か。でも、ケイトも1時間はサボりもとい休憩することもあるのか。というより、今30分しかできないということはやっぱり疲れているのか。
「やっぱり大変?」
「なにが?」
「今、じゃなくて色々……そう色々よ」
様々な含みを持たせて分身のケイトに訊ねてみる。本当はケイト本人に聞くべきことなんだろう。あとで共有されるとはいえちょっと卑怯な聞き方をしてしまった。
ケイトと付き合っているとき結婚まで考えていなかったといえば嘘になる。でも、ケイトとは結婚できないって考えていた。けれど、彼は「結婚しよう」って言ってくれた。でも、それでもこの面倒くさい習慣が蔓延る貴族の世界に彼を招き入れるには躊躇した。
そのときに何度も話し合った。話し合ってケイトは腹を括って私と結婚してくれた。けれど、こういう本来関わることがない世界で苦労しているケイトを見ると申し訳ない気持ちが込み上げる。
「色々そうだね。知らないことがたくさんあるから大変なことは大変だよ」
ふと見れば髪先を弄っていた。そこに少し疲れた顔が垣間見える。そうした顔を見るとやっぱりケイトにはもっと伸び伸びと人生を謳歌していてほしいなって思ってしまう。
でも、やっぱり一緒に居たいなって我が儘な自分もいる。もう自分がケイトと離れることができないほど想ってしまっているらしい。
「あんたも随分と悪い女に捕まっちゃったわね」
「ハハ。君みたいな悪女なら大歓迎だけどねぇ~」
笑って身体を寄せてくるケイトに同じように寄せる。それに嬉しそうな気配を感じて私も嬉しくなる。
「早く終わるといいわね」
「ねぇ~あ~でも、まだ1か月も先だし。まだまだやること山ほどあるし~マジ大変」
「そうねって、ぁ!」
腕を回して抱き着いてくると思いきや、ぐっと身体が押された。そのままソファで押し倒される。影を落とすケイトの顔を見上げればニパッと八重歯を覗かせて笑う。
「へへ。これくらいはいいかなぁって」
「別に私はいいけど……」
あとで本体に何か言われないかしら。といっても、最近こういう触れ合う時間もなかったから嬉しい。
おもむろにケイトに手を伸ばし頬に手を添える。それにまた嬉しそうに目を細める。猫らしくないのにそれが猫らしく見えた。久々に触れる熱はやっぱり分身でもケイト本体と変わらない。
「無理はしないでね」
「そこまでしてないよ。あと、それオレくんにも言ってあげてね」
「わかった……で、ところで」
「キスしていい?」我慢できずに訊ねればケイトは目を見開きパチパチと瞬きを繰り返す。そこまで珍しいことを言ったかしら――いや、あまり言ったことがないから驚くか。
「めっちゃくちゃしたいけど……それはオレくんにとって置いた方がいいかも」
「でも、ケイトはケイトでしょ」
「ふふ。アリアちゃんから見たらね。それでもオレはしょせん〝分身〟だからね」
そう言って身を屈めたケイトの唇が額に触れる。細やかすぎる触れ合いに物足りなくなる。なら私からと思ったら分身のケイトが「ぁ」と声を出すと起き上がる。
離れる姿に寂しさを感じながら起き上がると「時間ある?」と訊ねられる。
「あるけれど、どうして?」
「オレだけじゃオレくん拗ねるでしょ」
「そういうもの?」
「ふふ、オレくんはアリアちゃんのことだけは心狭いから」
目を細めて笑うケイトに首を傾げる。正直なところケイトと独占欲というのが繋がらない。軽い調子で「ずるくない!」って言う姿を想像するけれどなんかそれが独占欲とか嫉妬なのかよく分からない。そもそも他の男性と一緒にいてもそういう姿を見たことがないからより一層分からない。
「ケイトってそもそも嫉妬するの?」
「え! めちゃくちゃしてるよ!」
反射的に答えたらしい分身のケイトはすぐに口を紡ぐ。あきらかに「ヤバッ! 言い過ぎたッ!」って顔をしている。まぁ、ある意味自分の知られたくないことを言ってしまったからなんだろうけれど……。
「そうなの……全然気づかなかったわ」
嫉妬するのかケイトでも。全然察したことはない。それともたまに軽口で言うそれが本音だったのか。
「まぁ。オレでもさ、好きな子の前ではカッコつけたいからね」
「気づかなかった方がよかったってこと?」
「ふふ。どうだろ。気づいてほしいってときもあった、かもよ」
ケイトの顔がどこか意地悪めいたものになる。普段の愛嬌のいい表情から一転したそういう表情はドキドキして心臓に悪い。
「なら善処した方がいいかしら」
「んー。したほうがいいかもだし、しなくてもいいかも」
「もう。どっちよ」
ケイトは微笑むばかりでそっぽを向く。この際だからケイト本人に聞いちゃおうかしら。どうせこのやり取りも共有されるんだし。
「アリア」
「ッ!」
普段夜以外では滅多にない呼び捨てに驚いて顔を向ける。そして、触れるだけのキスをされる。
突然のキスに呆けているとケイトがにっこりと笑い――。
「おしまい」
「ぇ、ぁ」
囁かれた声と同時に目の前のケイトが消えた。キラキラ魔法の粉が消えていくのを見ているとすぐ傍に人の気配を感じて顔を向ける。
顔を向けた先には〝ケイト〟がいた。これは分身ではなく本体。その本体のケイトがいつもの愛嬌のいい笑みもなくただ無表情で私を見下ろしていた。
これはもしかして、と思う前にケイトが動き出して隣に座る。
無表情と言うのか。その横顔も中々素敵と思うのは悪いことだろう。うん。きっと悪い。
珍しく分かりやすく機嫌を損ねているケイト。滅多に機嫌を損ねないし、いつもそういう素振りを見せても、簡単に治ったように見せる。それが分かりやすくアピールしているのは本当に珍しい。
「アリアちゃん、あれは浮気じゃない?」
「は?」
意外な言葉に間抜けな声が出る。けれど、すぐにあれは分身といってもケイトでしょう。
「ケイトの分身よ。浮気にはならないでしょ」
「気持ち的に浮気だよ!」
「えぇ……」
珍しく顔全体が吊り上がっているケイト。いや、疲れている中の休憩で分身が私とイチャイチャしていたのが気に障ったのか。意外や意外。
完全に拗ねた顔になったケイトに身体を寄せとちょっと身体が跳ねる。それでもまだ拗ねた顔をしたまま私を見る。そして、吊り上がっていた眉がしゅんと下がる。
「ごめん。ちょっと八つ当たり」
「別に構わないわよ」
浮気ではないといいたけれど、言わないでおく。へにょへにょになって私に身体に寄せてくる身体を抱きしめて背中を撫でる。
「タイミングが悪かったわね」
「悪すぎ……あぁ。オレもなんで外出ちゃったかなぁ」
めそめそ言うケイトに私は苦笑する。それはもうほんとに仕方ないし、根詰めているから余計外に出たくなる気持ちは分かる。
「今度はちゃんと言うわね」
「お願いします……」
これが分身のケイトが言った嫉妬なのかはちょっとまだ分からない。だって、彼疲れているし。
とりあえず、残り時間はケイトを甘やかしというか慰めて終わった。それでもちょっと疲れが取れたのか最後はちょっと艶が良かった。
数か月後のパーティーは大盛況で終わりケイトもようやく肩の荷が下りた。その後に頑張ったケイトにご褒美という話となって――まぁたくさん一緒にいる時間を過ごすことができました。
タイトル
お題サイト「Amaranth」様からお借りしました
2025.05.17
仕事も一通り終えた休憩時間。ティーセットと甘さ控えめのクッキーをお盆に乗せて向かうのはケイトの部屋。
私がお母様から当主の仕事を教えてもらっていると同じように私と結婚したケイトもお父様から色々と仕事を教えてもらっている最中。
まだ二人とも完全に引退するつもりはないが、引き継ぎなどは大事。私たち個人の仕事も勿論ある。けれど、場合によっては家の仕事を優先するときもある。
ケイトが今まさにそうであり、お父様から引き継ぎ資料を貰ってパーティーの準備中。ハーツラビュル寮出身であってもケイトは一般家庭出身。さらに言えば普通のパーティーではなく貴族や旧家はては王族まで連なるので中々に大変。
それぞれの関係性を把握し、配慮し、他にも準備することがたくさんある。ただ出席すればいいパーティーとは違うためケイトでも苦労している様子。
夜遅くまで資料を読み込んでいるのか、中々夜一緒に寝ることがない。それに朝食のときも、夕食の時も、疲れた顔をよくしている。
結婚してからの一番重大ともいえる仕事だからこそ頑張っているんだろう。けれど、ここまで根を詰めるのも身体によくない。
これではいけない。そう思って久々に一緒にお茶の休憩をしようと思って来たのだけれど――部屋に入って拍子抜けしてしまった。
「なるほど、その手があったわね」
「ぁ、あはは」
部屋にいた〝ケイト〟が苦笑いをするが本人ではない。彼がユニーク魔法で生み出した分身。そうだ。そうだ。彼の便利なユニーク魔法を忘れていた。そうよね。分身を使ってちゃんと適宜休憩を取っているわよね。
とはいえ、疲れているのに魔法を使って平気なのかしら。
「ちなみに30分程度だから平気だよ。なにも問題なし」
私の心配を察したのか分身のケイトがなんてことない様子で答える。それでもやっぱり分身の彼も疲れたように見える。
ハァ、とため息をついてローテーブルにお盆を置く。それからお茶の準備を始める。
お茶の準備を始める私にケイトが困惑気味に「アリアちゃん?」と名前を呼ぶ。それをとりあえず無視して紅茶をティーカップに入れる。
「ケイト。とりあえず、こっちに来て一緒に休憩しましょう」
「ぇ、いいの?」
「もちろん。私もちょうど休憩時間だし。いらっしゃい」
「ほら」と分身のケイトを手招く。
呼ばれたケイトは逡巡したそぶりを見せると八重歯を覗かせて立ち上がった。そのまま軽い足取りでソファの傍まで来ると隣に座った。
分身とはいえやっぱり体温も身に纏う香りも何もかも本人と同じ。出来のいい分身なのは流石ナイトレイブンカレッジの卒業生というところ。
「はい。紅茶とクッキー」
「あ! このクッキーって!」
パァッと顔を輝かせるケイトに自然と笑みが浮かぶ。
20歳を過ぎてすっかり大人びたかっこいい顔つきになったけれど、こういう顔のときは可愛らしいまま。
「この前、お土産で貰ったとき気に入っていたでしょ。だからお願いして買ってきてもらったの」
「そうなんだ。ありがと!」
「お礼ならローラにもね」
「そうだね」
ローラは私たちの家の通いのお手伝い。若い頃は実家で使用人をしていた。私も小さい頃、色々お世話してもらった人。そして、私が結婚するときに着いてきてくれた。もう引退という歳だけれど、仕事していないと身体が鈍るとかで色々してもらっている。
ケイトとも今は上手くやっている。最初は、なんか、なんか、色々あったけれどケイトのコミュ力なのか、ローラの年の功なのか、今はいい関係を築いている。
「じゃ、いただきます」
「どうぞ」
甘いものが苦手なケイトでもここのクッキーは結構好きみたい。私も好きなブランドのお菓子だから嬉しい。私も自分でいれた紅茶に口をつけながらふと気になったことをケイトに訊ねる。
「ねぇ。いつもあんたを置いてケイトは休憩しているの?」
「たまにね。疲れていると魔法もあんまり安定しないから」
なるほど。今のケイトは30分休憩できるほどの分身の維持ができる。ならまだ疲れてはいないということなのかしら。
「ちなみに30分は結構短め。元気いいと1時間くらい普通にオレくん置いていくから」
「1時間……」
これは聞かなかったことにしよう。といっても私も普通にイヤになるとそれくらいサボるからお相子か。でも、ケイトも1時間はサボりもとい休憩することもあるのか。というより、今30分しかできないということはやっぱり疲れているのか。
「やっぱり大変?」
「なにが?」
「今、じゃなくて色々……そう色々よ」
様々な含みを持たせて分身のケイトに訊ねてみる。本当はケイト本人に聞くべきことなんだろう。あとで共有されるとはいえちょっと卑怯な聞き方をしてしまった。
ケイトと付き合っているとき結婚まで考えていなかったといえば嘘になる。でも、ケイトとは結婚できないって考えていた。けれど、彼は「結婚しよう」って言ってくれた。でも、それでもこの面倒くさい習慣が蔓延る貴族の世界に彼を招き入れるには躊躇した。
そのときに何度も話し合った。話し合ってケイトは腹を括って私と結婚してくれた。けれど、こういう本来関わることがない世界で苦労しているケイトを見ると申し訳ない気持ちが込み上げる。
「色々そうだね。知らないことがたくさんあるから大変なことは大変だよ」
ふと見れば髪先を弄っていた。そこに少し疲れた顔が垣間見える。そうした顔を見るとやっぱりケイトにはもっと伸び伸びと人生を謳歌していてほしいなって思ってしまう。
でも、やっぱり一緒に居たいなって我が儘な自分もいる。もう自分がケイトと離れることができないほど想ってしまっているらしい。
「あんたも随分と悪い女に捕まっちゃったわね」
「ハハ。君みたいな悪女なら大歓迎だけどねぇ~」
笑って身体を寄せてくるケイトに同じように寄せる。それに嬉しそうな気配を感じて私も嬉しくなる。
「早く終わるといいわね」
「ねぇ~あ~でも、まだ1か月も先だし。まだまだやること山ほどあるし~マジ大変」
「そうねって、ぁ!」
腕を回して抱き着いてくると思いきや、ぐっと身体が押された。そのままソファで押し倒される。影を落とすケイトの顔を見上げればニパッと八重歯を覗かせて笑う。
「へへ。これくらいはいいかなぁって」
「別に私はいいけど……」
あとで本体に何か言われないかしら。といっても、最近こういう触れ合う時間もなかったから嬉しい。
おもむろにケイトに手を伸ばし頬に手を添える。それにまた嬉しそうに目を細める。猫らしくないのにそれが猫らしく見えた。久々に触れる熱はやっぱり分身でもケイト本体と変わらない。
「無理はしないでね」
「そこまでしてないよ。あと、それオレくんにも言ってあげてね」
「わかった……で、ところで」
「キスしていい?」我慢できずに訊ねればケイトは目を見開きパチパチと瞬きを繰り返す。そこまで珍しいことを言ったかしら――いや、あまり言ったことがないから驚くか。
「めっちゃくちゃしたいけど……それはオレくんにとって置いた方がいいかも」
「でも、ケイトはケイトでしょ」
「ふふ。アリアちゃんから見たらね。それでもオレはしょせん〝分身〟だからね」
そう言って身を屈めたケイトの唇が額に触れる。細やかすぎる触れ合いに物足りなくなる。なら私からと思ったら分身のケイトが「ぁ」と声を出すと起き上がる。
離れる姿に寂しさを感じながら起き上がると「時間ある?」と訊ねられる。
「あるけれど、どうして?」
「オレだけじゃオレくん拗ねるでしょ」
「そういうもの?」
「ふふ、オレくんはアリアちゃんのことだけは心狭いから」
目を細めて笑うケイトに首を傾げる。正直なところケイトと独占欲というのが繋がらない。軽い調子で「ずるくない!」って言う姿を想像するけれどなんかそれが独占欲とか嫉妬なのかよく分からない。そもそも他の男性と一緒にいてもそういう姿を見たことがないからより一層分からない。
「ケイトってそもそも嫉妬するの?」
「え! めちゃくちゃしてるよ!」
反射的に答えたらしい分身のケイトはすぐに口を紡ぐ。あきらかに「ヤバッ! 言い過ぎたッ!」って顔をしている。まぁ、ある意味自分の知られたくないことを言ってしまったからなんだろうけれど……。
「そうなの……全然気づかなかったわ」
嫉妬するのかケイトでも。全然察したことはない。それともたまに軽口で言うそれが本音だったのか。
「まぁ。オレでもさ、好きな子の前ではカッコつけたいからね」
「気づかなかった方がよかったってこと?」
「ふふ。どうだろ。気づいてほしいってときもあった、かもよ」
ケイトの顔がどこか意地悪めいたものになる。普段の愛嬌のいい表情から一転したそういう表情はドキドキして心臓に悪い。
「なら善処した方がいいかしら」
「んー。したほうがいいかもだし、しなくてもいいかも」
「もう。どっちよ」
ケイトは微笑むばかりでそっぽを向く。この際だからケイト本人に聞いちゃおうかしら。どうせこのやり取りも共有されるんだし。
「アリア」
「ッ!」
普段夜以外では滅多にない呼び捨てに驚いて顔を向ける。そして、触れるだけのキスをされる。
突然のキスに呆けているとケイトがにっこりと笑い――。
「おしまい」
「ぇ、ぁ」
囁かれた声と同時に目の前のケイトが消えた。キラキラ魔法の粉が消えていくのを見ているとすぐ傍に人の気配を感じて顔を向ける。
顔を向けた先には〝ケイト〟がいた。これは分身ではなく本体。その本体のケイトがいつもの愛嬌のいい笑みもなくただ無表情で私を見下ろしていた。
これはもしかして、と思う前にケイトが動き出して隣に座る。
無表情と言うのか。その横顔も中々素敵と思うのは悪いことだろう。うん。きっと悪い。
珍しく分かりやすく機嫌を損ねているケイト。滅多に機嫌を損ねないし、いつもそういう素振りを見せても、簡単に治ったように見せる。それが分かりやすくアピールしているのは本当に珍しい。
「アリアちゃん、あれは浮気じゃない?」
「は?」
意外な言葉に間抜けな声が出る。けれど、すぐにあれは分身といってもケイトでしょう。
「ケイトの分身よ。浮気にはならないでしょ」
「気持ち的に浮気だよ!」
「えぇ……」
珍しく顔全体が吊り上がっているケイト。いや、疲れている中の休憩で分身が私とイチャイチャしていたのが気に障ったのか。意外や意外。
完全に拗ねた顔になったケイトに身体を寄せとちょっと身体が跳ねる。それでもまだ拗ねた顔をしたまま私を見る。そして、吊り上がっていた眉がしゅんと下がる。
「ごめん。ちょっと八つ当たり」
「別に構わないわよ」
浮気ではないといいたけれど、言わないでおく。へにょへにょになって私に身体に寄せてくる身体を抱きしめて背中を撫でる。
「タイミングが悪かったわね」
「悪すぎ……あぁ。オレもなんで外出ちゃったかなぁ」
めそめそ言うケイトに私は苦笑する。それはもうほんとに仕方ないし、根詰めているから余計外に出たくなる気持ちは分かる。
「今度はちゃんと言うわね」
「お願いします……」
これが分身のケイトが言った嫉妬なのかはちょっとまだ分からない。だって、彼疲れているし。
とりあえず、残り時間はケイトを甘やかしというか慰めて終わった。それでもちょっと疲れが取れたのか最後はちょっと艶が良かった。
数か月後のパーティーは大盛況で終わりケイトもようやく肩の荷が下りた。その後に頑張ったケイトにご褒美という話となって――まぁたくさん一緒にいる時間を過ごすことができました。
タイトル
お題サイト「Amaranth」様からお借りしました
2025.05.17
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