シグナル・シグナル
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恋するシグナルに気がついた
「ん?」
声が聞こえて覗いた路地裏。男一人に女一人。どこからどう見ても痴話喧嘩だった。関わらないように立ち去るつもりだった。でも、一瞬、ほんの一瞬の女の方が動いた。ヤバと思ったけれど身体はすぐに動かなくて女の人と目が合った。
最悪巻き込まれたと思う自分と女の人の瞳の美しさに見惚れる自分がいた。ほんの一瞬の気の迷いがいけなかった。女の人は口を開けてオレを呼んだ。
「ケイトッ! どこに行くのよ!」
何で知ってんのと目を見開いて凝視しちゃった。だって、マイナーな名前ではないけれどピンポイントに当てられる名前じゃないじゃん。絶対に。
あ、もしかしてマジカメかな。本名でしてるし、けどだからってミドルスクール卒業したばかっりのいたいけな少年を修羅場に巻き込む。普通。
なんて考えていたら女の人が大股に近づいて来た。瞳も綺麗な人だったが、フードで隠れていた顔はとても美しく華やかだった。
顔ちっさ。芸能人みたい。
美人のお姉さんがオレの隣まで来ると腕を組んできた。いきなり何と反射的に口を開きかけるとお姉さんが「新しい候補」なんて言い出した。
オレたち初対面だよね! あ、やっぱりそれともマジカメ? マジカメでけーくんターゲットにされた口? それなら、それならいいけどさぁ!
頭の中で喚きながらも冷静にこの状況を解析しようとする自分がいた。だって、いつ逃げるタイミングがくるかわからないし。というか、どういう意味とお姉さんを見る。オレの視線に気づいたお姉さんはウィンクして「話し合わせて」って小声で言う。やっぱり修羅場じゃん。最悪。
なにしてくれたんだよ、と男の方を見れば男の人は悔しげにオレを睨んでいた。睨む相手間違ってるでしょ。ふん、と顔を背けると男の人がお姉さんに噛みつき出した。
それから二人のやり取りが始まって暇になる。殴られるのだけは嫌だな。痛いのは勘弁してほしい。警察にでも連絡しようかなってスマホを取り出す。すると、マジカメにメッセが飛んでいたから癖で立ち上げる。
ヤバイなぁって思いながらメッセを飛ばしてくれた子のアカウントを見て目を丸くする。チラっと男の人の顔を確認してもう一度その子のアップしている写真を見る。そこには男の人とよく似ている人がいた。隣にはアイコンと同じ甘いキャンディみたいな女の子がいる。なるほど、この人どうやら二股をかけようとしているらしい。
やった。これですぐ終わりじゃん。そして、オレが想像していた通り修羅場はお姉さんの勝利で幕を閉じた。
* * *
最悪最低なことに巻き込んでくれたお姉さんはアリア・ブラッドベリーと名乗った。迷惑をかけたお礼に奢ってくれるということになった。ちょうど利用できると思ってお姉さんには協力してもらうことにした。
いい協力者を得たなと思ってお姉さんの名前を気まぐれに検索してみた。そして、あっさり出て来たアカウントに目ん玉が飛び出そうだった。
「マジかよ」
アリア・ブラッドベリーは薔薇の王国の伯爵令嬢だった。その公式アカウントには荘厳なお姫様がいた。この間見たパーカーとデニム姿の女の子はいない。見まごうことなく由緒正しき名家の伯爵令嬢がいる。
「マジで、え、なんでぇ?」
すぐにネットで検索をかけるとネットの百科事典のページが引っかかった。あのページ持ちとかすごい。オレはすぐに目を通して血の気が引く。
「貴族のお嬢様に、あんなこと頼んじゃってよかったのかなぁ」
後でしょっぴかれない。つか、絡んでいた男はしょっぴかれるレベルじゃない。つかつか、分かっていてあんなことしたとか命知らず過ぎでしょ。バカじゃん。
今からでも断って方がいいのかなとマジカメを立ち上げてみる。そして、アップされた写真を見て呆ける。
「ビスクドールみたい……」
小さい頃の姉ズが可愛いといったビスクドールを思い出す。けれど、ここの写真に映っている人は可愛いというよりも美しかった。薔薇の王国に相応しい薔薇のような令嬢。
オレは結局断りの連絡も入れることなく暇さえあれば麗しい人を見つめていた。
人形のように美しい人は実際喋るとお嬢様らしくなかった。比べる人がいなかったからかもしれないけれど写真と同一人物に見えなかった。でも、やっぱり今の彼女は庶民的な雰囲気を身に纏っていた。接しやすさに胸を撫で下ろしながらアリアちゃん先輩なんて呼んでみる。それに彼女は何も言わず話してくれる。
「あまい……」
誰がどう見たって甘ったるそうな胸焼けしそうなケーキ。このとき罪悪感がチクチクした。前は楽しそうに食べている姉ちゃんたちのケーキを載せていたからそんなこと全くなかった。でも、今はこうして顔を顰めながら食べてくれるアリアちゃん先輩に罪悪感がチクチク攻撃してくる。
悪かったなぁ、と思いながらコーヒーを頼み苦しげな彼女を応援する。あまりにも青ざめていく顔に心配の声をかけるたびに「がんばる……」と言うアリアちゃん先輩の律義さに感動したけれど馬鹿だなぁというヒドい感想が浮かんだ。
残しちゃえばいいのに、オレに押し付ければいいのに。けれど、どれも選ばず律儀に食べる彼女は愚かしく――気になった。
どうして少しだけ協力したオレのお願い事を叶えるの。なんで警戒心を下げるの。気になってオレはつい「友達になりたい」と口走ってしまった。でも、きっとこのときにはもう下心があったかもしれない。
* * *
気になった彼女とは交流が続いてより親しくなった。するとあの大人びた横顔を持つご令嬢はとても可愛い人だった。女の人は可愛いけれど、この人に感じる可愛さは違うのなんて分かっていた。こんな気持ち抱くのはイヤだなぁと思ったから蓋を閉じた。
これくらいなんてことないって思っていた。思っていたのに全然ダメだった。
四年生に進級して研修生となってアリアちゃん先輩は話せる範囲で研修先のことを話してくれた。その中には他の研修生の話もあった。でも、彼女の口から出るのは嫌だった。女の子ならいいけれどロイヤルソードアカデミー生や同じナイトレイブンカレッジ生の話は聞きたくなかった。たぶん、オレのためを思って話してくれているんだろうけれどやめてほしかった。
嫉妬していることに気づいて嗤った。
「は、ははっ、全然ダメじゃん」
自分で自分を嘲笑った。あっさりと開いた感情の蓋に思わず目を覆う。
「バカみたい」
学校なんて卒業したら皆バラバラになる。関係はそこでおしまい。それに何にも感じない。こういう区切りは縁の切れ目だということをオレは知っている。どんなに想っていてきっとアリアちゃん先輩が学校を卒業したらバイバイとなる。けど、それが嫌だと思う気持ちが止まらない。
でも、彼女は故郷に戻れば遠い存在のお姫様。身分制度がさほど意味をなさないとはいっても遠い存在であることに変わりはない。
まさか短い交流の中でこんなに繋がっていないと思う人に出会うなんて思わなかった。けど、きっと続かない。なら、オレが取る方法はひとつだけ。
「ちがうよ」
これは恋なんかじゃないよ。違うよ。自分自身に言い聞かせること。何なら「オレくん」たちを生み出してまで違うよねと言い聞かせあった。でも、それがまた滑稽でイヤになった。
そんな余裕のない間に変な子に絡まれてオレは仕方なくアリアちゃん先輩に頼ることにした。早くこの子と縁を切りたいと思うと同時にいい仕事してくれるじゃんと思う自分がいた。性懲りもなくイヤだ、イヤだ。
自分の感情を掻き消すようにして、アリアちゃん先輩と打ち合わせするために待ち合わせ場所に向かっていたら――。
「え」
ナンパ、はやくきて、というメッセージが彼女から送られて来た。オレはすぐに次に停車する駅を確認する。もう次が目的の駅だった。すぐに彼女に「すぐいく」と簡素なメッセージを送る。次の駅まではすぐなのに落ち着かなかった。出会ったときの光景が頭にパッと浮かぶ。もし他の誰か、親切な人が助けたら、それが切っ掛けで、仲良くなって――恋人になったら。
「ッ」
「イヤだな」なんてバカなことを考えている。オレは性懲りもなく彼女に恋人ができることをイヤなものだと感じている。自分の抱いた感情を「違う」と「勘違い」だと思い込もうとしているのに。でも、けど、他の男に、人間に助けられる彼女を見たくない。
「どうすればいいんだよ」
自分に不釣り合いの感情に泣きたくなる。構築された自分が瓦解していく。でも、それでもいいと心の片隅で思う自分が怖すぎる。新しく芽生える自分の存在に怯えながらも駆けだす足は止まらない。
そして、待ち合わせ場所で男に絡まれている彼女を見て不安なんて消し飛ぶ。
「ケイトッ!」
名前を呼んで駆け寄る彼女を見てもういいやと思った。なんて単純な自分に笑いたくなったけれど恋人っぽく振る舞って何とか耐えた。ああ、名前を呼んだときのちょっとソワッとしたアリアちゃんは可愛かった。けどなにより可愛かったのは今日の終わりだった。
「手、小さかった」
指細かった。研修で忙しいと言っていたけれど爪先まで綺麗だった。何より最後の恋人らしくとからかってきた彼女が最後は初々しい少女めいていた。白い頬が薔薇のように染まっていた。その頬の色に浅はかにも期待が滲む。
「かわいかったなぁ」
あぁあ、と顔を覆う。このまま家に帰ったら姉ちゃんズにからかわれるかもしれない。少し遠回りして帰ろう。
オレはその日、恋する自分を受け入れてた。
「ん?」
声が聞こえて覗いた路地裏。男一人に女一人。どこからどう見ても痴話喧嘩だった。関わらないように立ち去るつもりだった。でも、一瞬、ほんの一瞬の女の方が動いた。ヤバと思ったけれど身体はすぐに動かなくて女の人と目が合った。
最悪巻き込まれたと思う自分と女の人の瞳の美しさに見惚れる自分がいた。ほんの一瞬の気の迷いがいけなかった。女の人は口を開けてオレを呼んだ。
「ケイトッ! どこに行くのよ!」
何で知ってんのと目を見開いて凝視しちゃった。だって、マイナーな名前ではないけれどピンポイントに当てられる名前じゃないじゃん。絶対に。
あ、もしかしてマジカメかな。本名でしてるし、けどだからってミドルスクール卒業したばかっりのいたいけな少年を修羅場に巻き込む。普通。
なんて考えていたら女の人が大股に近づいて来た。瞳も綺麗な人だったが、フードで隠れていた顔はとても美しく華やかだった。
顔ちっさ。芸能人みたい。
美人のお姉さんがオレの隣まで来ると腕を組んできた。いきなり何と反射的に口を開きかけるとお姉さんが「新しい候補」なんて言い出した。
オレたち初対面だよね! あ、やっぱりそれともマジカメ? マジカメでけーくんターゲットにされた口? それなら、それならいいけどさぁ!
頭の中で喚きながらも冷静にこの状況を解析しようとする自分がいた。だって、いつ逃げるタイミングがくるかわからないし。というか、どういう意味とお姉さんを見る。オレの視線に気づいたお姉さんはウィンクして「話し合わせて」って小声で言う。やっぱり修羅場じゃん。最悪。
なにしてくれたんだよ、と男の方を見れば男の人は悔しげにオレを睨んでいた。睨む相手間違ってるでしょ。ふん、と顔を背けると男の人がお姉さんに噛みつき出した。
それから二人のやり取りが始まって暇になる。殴られるのだけは嫌だな。痛いのは勘弁してほしい。警察にでも連絡しようかなってスマホを取り出す。すると、マジカメにメッセが飛んでいたから癖で立ち上げる。
ヤバイなぁって思いながらメッセを飛ばしてくれた子のアカウントを見て目を丸くする。チラっと男の人の顔を確認してもう一度その子のアップしている写真を見る。そこには男の人とよく似ている人がいた。隣にはアイコンと同じ甘いキャンディみたいな女の子がいる。なるほど、この人どうやら二股をかけようとしているらしい。
やった。これですぐ終わりじゃん。そして、オレが想像していた通り修羅場はお姉さんの勝利で幕を閉じた。
* * *
最悪最低なことに巻き込んでくれたお姉さんはアリア・ブラッドベリーと名乗った。迷惑をかけたお礼に奢ってくれるということになった。ちょうど利用できると思ってお姉さんには協力してもらうことにした。
いい協力者を得たなと思ってお姉さんの名前を気まぐれに検索してみた。そして、あっさり出て来たアカウントに目ん玉が飛び出そうだった。
「マジかよ」
アリア・ブラッドベリーは薔薇の王国の伯爵令嬢だった。その公式アカウントには荘厳なお姫様がいた。この間見たパーカーとデニム姿の女の子はいない。見まごうことなく由緒正しき名家の伯爵令嬢がいる。
「マジで、え、なんでぇ?」
すぐにネットで検索をかけるとネットの百科事典のページが引っかかった。あのページ持ちとかすごい。オレはすぐに目を通して血の気が引く。
「貴族のお嬢様に、あんなこと頼んじゃってよかったのかなぁ」
後でしょっぴかれない。つか、絡んでいた男はしょっぴかれるレベルじゃない。つかつか、分かっていてあんなことしたとか命知らず過ぎでしょ。バカじゃん。
今からでも断って方がいいのかなとマジカメを立ち上げてみる。そして、アップされた写真を見て呆ける。
「ビスクドールみたい……」
小さい頃の姉ズが可愛いといったビスクドールを思い出す。けれど、ここの写真に映っている人は可愛いというよりも美しかった。薔薇の王国に相応しい薔薇のような令嬢。
オレは結局断りの連絡も入れることなく暇さえあれば麗しい人を見つめていた。
人形のように美しい人は実際喋るとお嬢様らしくなかった。比べる人がいなかったからかもしれないけれど写真と同一人物に見えなかった。でも、やっぱり今の彼女は庶民的な雰囲気を身に纏っていた。接しやすさに胸を撫で下ろしながらアリアちゃん先輩なんて呼んでみる。それに彼女は何も言わず話してくれる。
「あまい……」
誰がどう見たって甘ったるそうな胸焼けしそうなケーキ。このとき罪悪感がチクチクした。前は楽しそうに食べている姉ちゃんたちのケーキを載せていたからそんなこと全くなかった。でも、今はこうして顔を顰めながら食べてくれるアリアちゃん先輩に罪悪感がチクチク攻撃してくる。
悪かったなぁ、と思いながらコーヒーを頼み苦しげな彼女を応援する。あまりにも青ざめていく顔に心配の声をかけるたびに「がんばる……」と言うアリアちゃん先輩の律義さに感動したけれど馬鹿だなぁというヒドい感想が浮かんだ。
残しちゃえばいいのに、オレに押し付ければいいのに。けれど、どれも選ばず律儀に食べる彼女は愚かしく――気になった。
どうして少しだけ協力したオレのお願い事を叶えるの。なんで警戒心を下げるの。気になってオレはつい「友達になりたい」と口走ってしまった。でも、きっとこのときにはもう下心があったかもしれない。
* * *
気になった彼女とは交流が続いてより親しくなった。するとあの大人びた横顔を持つご令嬢はとても可愛い人だった。女の人は可愛いけれど、この人に感じる可愛さは違うのなんて分かっていた。こんな気持ち抱くのはイヤだなぁと思ったから蓋を閉じた。
これくらいなんてことないって思っていた。思っていたのに全然ダメだった。
四年生に進級して研修生となってアリアちゃん先輩は話せる範囲で研修先のことを話してくれた。その中には他の研修生の話もあった。でも、彼女の口から出るのは嫌だった。女の子ならいいけれどロイヤルソードアカデミー生や同じナイトレイブンカレッジ生の話は聞きたくなかった。たぶん、オレのためを思って話してくれているんだろうけれどやめてほしかった。
嫉妬していることに気づいて嗤った。
「は、ははっ、全然ダメじゃん」
自分で自分を嘲笑った。あっさりと開いた感情の蓋に思わず目を覆う。
「バカみたい」
学校なんて卒業したら皆バラバラになる。関係はそこでおしまい。それに何にも感じない。こういう区切りは縁の切れ目だということをオレは知っている。どんなに想っていてきっとアリアちゃん先輩が学校を卒業したらバイバイとなる。けど、それが嫌だと思う気持ちが止まらない。
でも、彼女は故郷に戻れば遠い存在のお姫様。身分制度がさほど意味をなさないとはいっても遠い存在であることに変わりはない。
まさか短い交流の中でこんなに繋がっていないと思う人に出会うなんて思わなかった。けど、きっと続かない。なら、オレが取る方法はひとつだけ。
「ちがうよ」
これは恋なんかじゃないよ。違うよ。自分自身に言い聞かせること。何なら「オレくん」たちを生み出してまで違うよねと言い聞かせあった。でも、それがまた滑稽でイヤになった。
そんな余裕のない間に変な子に絡まれてオレは仕方なくアリアちゃん先輩に頼ることにした。早くこの子と縁を切りたいと思うと同時にいい仕事してくれるじゃんと思う自分がいた。性懲りもなくイヤだ、イヤだ。
自分の感情を掻き消すようにして、アリアちゃん先輩と打ち合わせするために待ち合わせ場所に向かっていたら――。
「え」
ナンパ、はやくきて、というメッセージが彼女から送られて来た。オレはすぐに次に停車する駅を確認する。もう次が目的の駅だった。すぐに彼女に「すぐいく」と簡素なメッセージを送る。次の駅まではすぐなのに落ち着かなかった。出会ったときの光景が頭にパッと浮かぶ。もし他の誰か、親切な人が助けたら、それが切っ掛けで、仲良くなって――恋人になったら。
「ッ」
「イヤだな」なんてバカなことを考えている。オレは性懲りもなく彼女に恋人ができることをイヤなものだと感じている。自分の抱いた感情を「違う」と「勘違い」だと思い込もうとしているのに。でも、けど、他の男に、人間に助けられる彼女を見たくない。
「どうすればいいんだよ」
自分に不釣り合いの感情に泣きたくなる。構築された自分が瓦解していく。でも、それでもいいと心の片隅で思う自分が怖すぎる。新しく芽生える自分の存在に怯えながらも駆けだす足は止まらない。
そして、待ち合わせ場所で男に絡まれている彼女を見て不安なんて消し飛ぶ。
「ケイトッ!」
名前を呼んで駆け寄る彼女を見てもういいやと思った。なんて単純な自分に笑いたくなったけれど恋人っぽく振る舞って何とか耐えた。ああ、名前を呼んだときのちょっとソワッとしたアリアちゃんは可愛かった。けどなにより可愛かったのは今日の終わりだった。
「手、小さかった」
指細かった。研修で忙しいと言っていたけれど爪先まで綺麗だった。何より最後の恋人らしくとからかってきた彼女が最後は初々しい少女めいていた。白い頬が薔薇のように染まっていた。その頬の色に浅はかにも期待が滲む。
「かわいかったなぁ」
あぁあ、と顔を覆う。このまま家に帰ったら姉ちゃんズにからかわれるかもしれない。少し遠回りして帰ろう。
オレはその日、恋する自分を受け入れてた。