愛する人のために
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愛する人のために・2
彼女が愚王に嫁いで数年の月日が経ってしまった。もう少し早く来るべきだったが中々手間取った。けど、何だかんだこうして迎えにこられたのでもうどうでもいい。
人々の喧騒に紛れて時折大きく鳴り響く爆発音。どうやら随分と派手にやっているようだ。愉快、愉快と思いながら目を丸くさせる彼女を見る。
視線の先にいる彼女は純白の装束を身に着けている。まるであの時の花嫁衣裳のようだ。でも、今着ている服は意味合いが違う。
「随分と殺風景だな」
「……侍女や召使がいないもので」
「そうかい」
お優しい第二妃――いや、王妃が逃がしたのだろう。そして、王妃である自分は大人しく粛清されるのを待っているようだ。全く責任感の強い女だ。そのやせ細った身体をこの国に捧げるつもりらしい。だが、それを許すつもりなんてない。
目の前で靡くレースのカーテンを乱暴に手で除け部屋へ降り立つ。足を床につけて胸の前で手を組んだしおらしい彼女に告げる。
「奪いに来たぜ」
呆然とした彼女の瞳が僅かな光りを宿し輝く。それは生気が戻った美しい瞳だった。けれど、彼女は首を横に振った。
「いけません。わたくしはこの国の王妃となったのです。あの王と同じく粛清されるべきなのです」
「そう言うと思ったぜ……」
真面目な彼女が昔のように簡単に首を縦に振るとは思わなかった。だから、王妃になることは阻止したかったのだ。だのに、前王妃が愚かだったばかりに廃妃となってしまった。そうすれば賢く優しい皆が想像する王妃像を持つ彼女が格上げされるなど火を見るより明らかだった。
ふぅと息をついて距離を縮める。その分、一歩、二歩と下がるも意味なくレオナは彼女の前に立った。久々に見下ろした彼女はやはり以前と異なり痩せて顔色も悪かった。
ほっそりとしてしまった頬に触れてようやく彼女は我に返って指先から逃げる。
「殿下、お早くこの国から出て――」
「殿下じゃねぇよ」
「ぇ?」
怪訝に眉を顰める彼女にもう一度「もう殿下じゃねぇ」と言う。それに彼女は意味を理解したのか「なぜ」と零した。
「この計画を実行するためにクソ兄貴が夕焼けの草原に火の粉が被らないようにしろってな」
つまり、王位継承放棄とキングスカラー家からの除名が条件であった。夕焼けの草原とは関係ない組織となって彼の国を滅ぼせと言ったのだ。お蔭で色々楽であり大変だった。とはいっても、こうして大輪の華を咲かせるほどの成功をしたのだ。もうその苦労はどうでもいい。
「大人しく奪われる覚悟は出来たか?」
問いかけに迷いを見せる瞳。王妃になってしまった故の責任がここに留まらせようとするのだろう。だが、そんな心配はない。
レオナは、唇の端を上げて肩眉を上げあくどく笑かける。
「クーデターを起こした奴らはお前を見逃す」
「まさか、そんな」
「そういう約束だからな」
不敵に微笑めば彼女は信じられないという顔をする。
彼女の味方はほんの一部だった。そして、そのほんの一部が今回起こったクーデターの中心人物たちであった。お蔭でレオナも裏で動きやすかった。
「お前を支持していた奴らがいるだろ。そいつらが今回のクーデターの首謀者だ。ああ、心配すんなあいつらはお前の自由を願っている。だから、次の王の王妃にも第二妃にもしねぇ」
そういう契約だからなと黄金に輝く契約書を思い出して一人笑う。そして、いまだに動揺する彼女に言葉を投げかける。
「だから、お前はもう自由だ」
まさか自分がこんな言葉を投げかけることになるとは思わなかった。だが、雁字搦めになって動けなくなってしまった彼女には魔法の呪文と同じくらい聞くはずだ。それに、聞かずとも無理矢理ここから連れ去るつもりだ。
さぁ、どうでると窺っていると綺麗な形をした唇が動く。
「良いのでしょうか?」
迷い気味に訊ねる彼女に笑いが込み上げる。
「いいんじゃねぇの?」
「王妃ですのに……」
「恨まれてんのは国王とその周辺と対立している馬鹿貴族共だ。世論はお前が逃げたとしても見逃すよ」
そういう風に年数をかけて噂を流していたのだ。お蔭で王妃となった彼女を罵声する声は少ない。それに――とレオナは奥の手に取って置いたものを取り出し広げる。
「つーか、実はもうお前、王妃じゃねぇんだよ」
囚われた国王に書かせた――離婚証明書のコピーを目の前に突き出す。この離婚証明書はこの国の王だけが持つ特権。伴侶の承諾なしに離婚を完了した証明書である。本物の証明書はすでにクーデターを起こした頭が受理して持っている。
「お前なら分かるだろ。この証明書の意味を」
「……はい。では、その、私は」
顔を上げた彼女の顔は鮮やかに晴れていく。そして、その顔を見てレオナはもう一度告げる。
「だから、お前は俺に大人しく奪われろ」
後宮に突入した反乱軍は王妃を見つけ出すことはできなかった。その後、正式に国王と王妃の離婚が発表され新たな国の指導者は行方の捜査しないことを宣言した。それにより、暫く国は揺れたが皆新しい国づくりに忙しくなり記憶から薄れ消えていった。
その後、ある国の歴史では国王の非道さと悪行だけは残り、最初に娶った王妃の愚かさだけはしっかりと残されていた。しかし、第二妃として娶りその後王妃となった女の記録だけは残されなかった。だが王よりも前王妃よりも民に優しい王妃であったことが記録として残された。それ以外は肖像画も名前も残されなかった。
2021.02.06 改題&一部文章改変
彼女が愚王に嫁いで数年の月日が経ってしまった。もう少し早く来るべきだったが中々手間取った。けど、何だかんだこうして迎えにこられたのでもうどうでもいい。
人々の喧騒に紛れて時折大きく鳴り響く爆発音。どうやら随分と派手にやっているようだ。愉快、愉快と思いながら目を丸くさせる彼女を見る。
視線の先にいる彼女は純白の装束を身に着けている。まるであの時の花嫁衣裳のようだ。でも、今着ている服は意味合いが違う。
「随分と殺風景だな」
「……侍女や召使がいないもので」
「そうかい」
お優しい第二妃――いや、王妃が逃がしたのだろう。そして、王妃である自分は大人しく粛清されるのを待っているようだ。全く責任感の強い女だ。そのやせ細った身体をこの国に捧げるつもりらしい。だが、それを許すつもりなんてない。
目の前で靡くレースのカーテンを乱暴に手で除け部屋へ降り立つ。足を床につけて胸の前で手を組んだしおらしい彼女に告げる。
「奪いに来たぜ」
呆然とした彼女の瞳が僅かな光りを宿し輝く。それは生気が戻った美しい瞳だった。けれど、彼女は首を横に振った。
「いけません。わたくしはこの国の王妃となったのです。あの王と同じく粛清されるべきなのです」
「そう言うと思ったぜ……」
真面目な彼女が昔のように簡単に首を縦に振るとは思わなかった。だから、王妃になることは阻止したかったのだ。だのに、前王妃が愚かだったばかりに廃妃となってしまった。そうすれば賢く優しい皆が想像する王妃像を持つ彼女が格上げされるなど火を見るより明らかだった。
ふぅと息をついて距離を縮める。その分、一歩、二歩と下がるも意味なくレオナは彼女の前に立った。久々に見下ろした彼女はやはり以前と異なり痩せて顔色も悪かった。
ほっそりとしてしまった頬に触れてようやく彼女は我に返って指先から逃げる。
「殿下、お早くこの国から出て――」
「殿下じゃねぇよ」
「ぇ?」
怪訝に眉を顰める彼女にもう一度「もう殿下じゃねぇ」と言う。それに彼女は意味を理解したのか「なぜ」と零した。
「この計画を実行するためにクソ兄貴が夕焼けの草原に火の粉が被らないようにしろってな」
つまり、王位継承放棄とキングスカラー家からの除名が条件であった。夕焼けの草原とは関係ない組織となって彼の国を滅ぼせと言ったのだ。お蔭で色々楽であり大変だった。とはいっても、こうして大輪の華を咲かせるほどの成功をしたのだ。もうその苦労はどうでもいい。
「大人しく奪われる覚悟は出来たか?」
問いかけに迷いを見せる瞳。王妃になってしまった故の責任がここに留まらせようとするのだろう。だが、そんな心配はない。
レオナは、唇の端を上げて肩眉を上げあくどく笑かける。
「クーデターを起こした奴らはお前を見逃す」
「まさか、そんな」
「そういう約束だからな」
不敵に微笑めば彼女は信じられないという顔をする。
彼女の味方はほんの一部だった。そして、そのほんの一部が今回起こったクーデターの中心人物たちであった。お蔭でレオナも裏で動きやすかった。
「お前を支持していた奴らがいるだろ。そいつらが今回のクーデターの首謀者だ。ああ、心配すんなあいつらはお前の自由を願っている。だから、次の王の王妃にも第二妃にもしねぇ」
そういう契約だからなと黄金に輝く契約書を思い出して一人笑う。そして、いまだに動揺する彼女に言葉を投げかける。
「だから、お前はもう自由だ」
まさか自分がこんな言葉を投げかけることになるとは思わなかった。だが、雁字搦めになって動けなくなってしまった彼女には魔法の呪文と同じくらい聞くはずだ。それに、聞かずとも無理矢理ここから連れ去るつもりだ。
さぁ、どうでると窺っていると綺麗な形をした唇が動く。
「良いのでしょうか?」
迷い気味に訊ねる彼女に笑いが込み上げる。
「いいんじゃねぇの?」
「王妃ですのに……」
「恨まれてんのは国王とその周辺と対立している馬鹿貴族共だ。世論はお前が逃げたとしても見逃すよ」
そういう風に年数をかけて噂を流していたのだ。お蔭で王妃となった彼女を罵声する声は少ない。それに――とレオナは奥の手に取って置いたものを取り出し広げる。
「つーか、実はもうお前、王妃じゃねぇんだよ」
囚われた国王に書かせた――離婚証明書のコピーを目の前に突き出す。この離婚証明書はこの国の王だけが持つ特権。伴侶の承諾なしに離婚を完了した証明書である。本物の証明書はすでにクーデターを起こした頭が受理して持っている。
「お前なら分かるだろ。この証明書の意味を」
「……はい。では、その、私は」
顔を上げた彼女の顔は鮮やかに晴れていく。そして、その顔を見てレオナはもう一度告げる。
「だから、お前は俺に大人しく奪われろ」
後宮に突入した反乱軍は王妃を見つけ出すことはできなかった。その後、正式に国王と王妃の離婚が発表され新たな国の指導者は行方の捜査しないことを宣言した。それにより、暫く国は揺れたが皆新しい国づくりに忙しくなり記憶から薄れ消えていった。
その後、ある国の歴史では国王の非道さと悪行だけは残り、最初に娶った王妃の愚かさだけはしっかりと残されていた。しかし、第二妃として娶りその後王妃となった女の記録だけは残されなかった。だが王よりも前王妃よりも民に優しい王妃であったことが記録として残された。それ以外は肖像画も名前も残されなかった。
2021.02.06 改題&一部文章改変
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