最果てまで彼の天
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◆ レオナ視点
「父さん。これ母さんが好きだった花持ってきたから」
離宮へ移ってすぐに末息子がやって来たと思えば何の日でもないのに贈り物だと言う。そして、差し出された植木鉢には確かにジェマが愛した花があった。その花と息子を交互に見る。
ジェマの生き写しのような息子。微笑むとより似ていて懐かしくなると同時に狂おしいほどに会いたくなる。
「離宮は一人だと寂しいだろうし。ちょうどいい大きさになったから持ってきたんだ」
「ハッ。一人の方がせいぜいするがな」
「またそんなこと言って……」
離宮に連れて来た召使は少ない。こんなちっぽけな離宮だ。作業が回る程度に人数で十分だ。俺の後を継いだ長男はもっといた方がいいとジェマによく似た目をしながら訴えたが首を横に振った。
ジェマが死んだとき長男は魔法大学に在籍していた。あと残りわずかで卒業だと言うから俺はそこまで耐えながら引き継ぎを行った。
そして、先日大学をめでたく卒業し、俺は問答無用に長男に譲位した。勝手なことをする俺に周りはもちろん非難轟轟であったが、当の本人である長男は何も言わなかった。ただ、ジェマによく似な瞳で受け入れていた。そういうところは本当に似ている。
俺によく似た次男はマジフト選手として活躍している。周りは兄を支えるべき国政へと願い出ていたが「まだ無理」と拒否したとか。ただ「まだ」という今後ありえると思うと兄想いなところは俺に似ていないなと思った。
その片割れの愛娘は大学卒業と同時に婿をもらうことになった。まさかの結婚にも驚いたが相手が婿としてこっちに入ることにも驚いた。まぁ、直系もすくねぇしいいかと国王であったときに許可した。ただ、その男がロイヤルソードアカデミー出身っていうところだけは今も気に食わねぇ。どこがいいんだあのキラキラ野郎の。
娘の未来の夫に心の中で悪態をついていると「父さん」と呼ばれた。
「なんだ」
「ちゃんと面倒みられるの?」
「さぁ。どうだろうな」
「心配」と言いながらも笑う末息子の手からそっと鉢植えを受け取る。その植木鉢の花はすでに花開いておりあとは枯れるだけだ。
「明日にでも枯れそうだな」
「でも、ちゃんと面倒を見れば来年も咲くから」
毎日ちゃんと面倒見ろってか。まぁ、どうせもう何もない老後生活だ。花くらい面倒でも見てやろう。
「また遊びに来るよ」
「最終学年だろうが。そんなんで大丈夫か」
「心配ご無用。父さんと違ってちゃんと単位確保しているし、課題もこなしているから」
胸を張る様はどこかジェマに似ている。
ああ。ほんとうに会いたくなる。恋焦がれるような衝動がまさかあいつが死んでから来るとは思わなかった。
「父さん、ちゃんと面倒見てよ」
「……おう」
何か念を押すような末息子の言葉に力なく答えてしまった。それでも息子は誰よりもジェマによく似た顔で微笑んだ。そういうところ本当によく似ている。
末息子が出て行ってからずっと花を見つめていた。小ぶりな花が上に伸びるように連なる。よく彼女が育てていたのを覚えている。乾季と雨季しかないこの国では中々管理が難しかっただろう。
「よくやるよな」
そうジェマにも言った気がする。彼女はそれで笑った気がする。その笑った顔は随分と愛らしかったのを覚えている。
華やかな顔立ちから皆彼女を愛らしいと思わなかったようだが、俺からしたらあんな可愛い女はそうそういないと思う。
「ちゃんと面倒見てやるか」
お前の代わりに、と末息子に押し付けられた鉢植えを再びしっかりと持ち直した。
賢き王が生涯愛し続けた王妃の好きな花は死後墓標にも刻まれたとか――。
タイトル
お題サイト「天文学」様からお借りしました。
2025.03.01
「父さん。これ母さんが好きだった花持ってきたから」
離宮へ移ってすぐに末息子がやって来たと思えば何の日でもないのに贈り物だと言う。そして、差し出された植木鉢には確かにジェマが愛した花があった。その花と息子を交互に見る。
ジェマの生き写しのような息子。微笑むとより似ていて懐かしくなると同時に狂おしいほどに会いたくなる。
「離宮は一人だと寂しいだろうし。ちょうどいい大きさになったから持ってきたんだ」
「ハッ。一人の方がせいぜいするがな」
「またそんなこと言って……」
離宮に連れて来た召使は少ない。こんなちっぽけな離宮だ。作業が回る程度に人数で十分だ。俺の後を継いだ長男はもっといた方がいいとジェマによく似た目をしながら訴えたが首を横に振った。
ジェマが死んだとき長男は魔法大学に在籍していた。あと残りわずかで卒業だと言うから俺はそこまで耐えながら引き継ぎを行った。
そして、先日大学をめでたく卒業し、俺は問答無用に長男に譲位した。勝手なことをする俺に周りはもちろん非難轟轟であったが、当の本人である長男は何も言わなかった。ただ、ジェマによく似な瞳で受け入れていた。そういうところは本当に似ている。
俺によく似た次男はマジフト選手として活躍している。周りは兄を支えるべき国政へと願い出ていたが「まだ無理」と拒否したとか。ただ「まだ」という今後ありえると思うと兄想いなところは俺に似ていないなと思った。
その片割れの愛娘は大学卒業と同時に婿をもらうことになった。まさかの結婚にも驚いたが相手が婿としてこっちに入ることにも驚いた。まぁ、直系もすくねぇしいいかと国王であったときに許可した。ただ、その男がロイヤルソードアカデミー出身っていうところだけは今も気に食わねぇ。どこがいいんだあのキラキラ野郎の。
娘の未来の夫に心の中で悪態をついていると「父さん」と呼ばれた。
「なんだ」
「ちゃんと面倒みられるの?」
「さぁ。どうだろうな」
「心配」と言いながらも笑う末息子の手からそっと鉢植えを受け取る。その植木鉢の花はすでに花開いておりあとは枯れるだけだ。
「明日にでも枯れそうだな」
「でも、ちゃんと面倒を見れば来年も咲くから」
毎日ちゃんと面倒見ろってか。まぁ、どうせもう何もない老後生活だ。花くらい面倒でも見てやろう。
「また遊びに来るよ」
「最終学年だろうが。そんなんで大丈夫か」
「心配ご無用。父さんと違ってちゃんと単位確保しているし、課題もこなしているから」
胸を張る様はどこかジェマに似ている。
ああ。ほんとうに会いたくなる。恋焦がれるような衝動がまさかあいつが死んでから来るとは思わなかった。
「父さん、ちゃんと面倒見てよ」
「……おう」
何か念を押すような末息子の言葉に力なく答えてしまった。それでも息子は誰よりもジェマによく似た顔で微笑んだ。そういうところ本当によく似ている。
末息子が出て行ってからずっと花を見つめていた。小ぶりな花が上に伸びるように連なる。よく彼女が育てていたのを覚えている。乾季と雨季しかないこの国では中々管理が難しかっただろう。
「よくやるよな」
そうジェマにも言った気がする。彼女はそれで笑った気がする。その笑った顔は随分と愛らしかったのを覚えている。
華やかな顔立ちから皆彼女を愛らしいと思わなかったようだが、俺からしたらあんな可愛い女はそうそういないと思う。
「ちゃんと面倒見てやるか」
お前の代わりに、と末息子に押し付けられた鉢植えを再びしっかりと持ち直した。
賢き王が生涯愛し続けた王妃の好きな花は死後墓標にも刻まれたとか――。
タイトル
お題サイト「天文学」様からお借りしました。
2025.03.01
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