レオナ
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ここはふたりの小さな世界
意識が緩やかに覚醒していく。まだ完全に目覚めるわけでもなく、微睡みの中にいるような感覚。もう少し寝ようと意識を流そうとしたが、ふとすぐ傍に熱を感じた。
少しの暑さを感じて再度沈みかけた意識が急激に覚醒する。
残念、と思いゆっくりと重い瞼を上げる。薄っすら暗い景色に瞬きをして慣らす。すぐに目が暗闇に慣れていくと、なんか変であることに気づく。
目の前にある景色が明らかにヒトであること。同時に見慣れた褐色の肌とチョコレート色の緩やかな髪。
――ぇ? は?
寝起きで靄のかかった頭が瞬く間に晴れていく。一瞬どうして、なんで、と頭が混乱するが昨夜のことが頭を掠めて思考回路の挙動が治まる。
――昨日、そっか。そうだったわ。
昨夜、珍しく、ほんとうに珍しくレオナ様が誕生日に帰国した。そして、非常に珍しく誕生日当日に祝賀会が行われた。公式行事というよりも家族のみの誕生日パーティーという感じだった。そして、私もそれに招待された。
両親も呼ばれているのかと思ったらなんと私だけ。レオナ様とは幼い頃から交流あり、現在は恋人であるけれど、家族の中で唯一他人というのが何とも居たたまれなかった。
とりあえず、祝賀会というか食事が済んだら帰ろう。プレゼントもちゃんと渡せたし、レオナ様だってすぐに帰るだろうし。
そう思いながらなんとか口に入れた食べ物を咀嚼していた。
チェカ様が限界を迎えた頃にようやく解散となった。すぐに帰れなかったが王宮から実家はそう遠くない。十分帰れる時間と思ったのだけれど――。
「は? 帰すわけねぇだろ」
何言ってんだ。お前はバカか。そう言いたげなレオナ様の呆れ顔に私は冷や汗を流した。
「いえ。その家から迎えが来ている――」
「来てねぇぞ」
「はい?」
私はすぐ傍にいる侍従や侍女に果ては召使の方々を見る。彼ら、彼女らは皆にこりと微笑んだ。これは、これは、嵌められたのか。
「お前、恋人の誕生日に呼ばれたら普通帰らねぇだろ」
なんだか私の方が非常識みたいな風な言い方された。私? 私が悪いの? むしろ、嵌められた方よね。
モヤモヤする。尻尾が揺れて不満を訴える。こういうのはよくない。だけれど、嵌められてこう責められるのだから仕方ない気がする。
レオナ様の視線が少し動く。耳が心なしか萎れたように見える。
これはしおらしく見えるようにするレオナ様の仕草。これに私が弱いのを重々知っているからする仕草。
何度その仕草に負けたことか。というか、もう負けすぎて諦めの境地にある。なにせ、そもそもこう至るときはレオナ様が甘えたいという気持ちが少なからずあるからだ。
どういった経緯がレオナ様にあるのか分からないけれど。息を少しつく。
「わかりました。では、お世話になります」
「おう」
しおらしさが一瞬に霧散する。なんという変わり身の早さなのかしら。帰ってもいいけれど、レオナ様の尻尾が可愛らしく揺れているから帰る気持ちもすぐになくなる。
そう昨夜。そんなことがあって王宮にお世話になった。そして、客間を与えられて――なぜかレオナ様もくっついてきた。あれよ、あれよ、とそういう雰囲気となったのだった。
昨日の顛末を思い出して肌に直接触れるシーツの感触がする。どうやら服も着ることなく意識を落としたらしい。
そもそも今は何時なのだろう。
スマホは確か持ってきたハンドバックの中にあったはず。召喚魔法を使ってもいいけれど、この体勢から変わりたい。
レオナ様は起きている気配がない。なら、起こさないように身体を動かして背を向ける形になる。それからベッドを降りようと動こうとしたが――。
「ひぅっ!」
尻尾をくい引っ張られた。昨夜の名残なのか変な声が出てしまった。
意味もなく口を押えながら肩越しに振り向けば、暗闇に輝く深緑の瞳があった。どうやら私の行動は無意味だったみたい。
「起きていらっしゃったのですか」
「いまな」
ふぁ、と大きな欠伸をしたレオナ様がゆっくりと起き上がった。
三つ編みを解いた柔らかい髪がふわふわ揺れている。そして、よく見なくともレオナ様も服を着ていないのが分かる。
自分も来ていないのだけれど何だか気恥ずかしくなって魔法で服を着る。レオナ様はどうするのかと見ればあまり気にした様子がない。というよりまだ眠そうな顔をしている。
それでももういい時間なはず、とカーテンで閉じられている窓を見る。カーテンの隙間から零れる光は白く明るい。
朝ではなさそう。ならもう昼と考えているときに背中が重くなる。
「まだいいだろ」
低く掠れた声が耳もとで囁かれる。そのままギュッと抱きしめら頬に柔らかな髪が触れる。これはレオナ様が満足するまで離されないのだろう。この状況が別にイヤではない。イヤではないが――。
「レオナ様、学園にお戻りになる時間では?」
背後の気配が跳ねた。それからグルルと唸り声が聞こえる。言わずとも分かる「空気を読め」とレオナ様は言っているのだろう。
「レオナ様」
「チッ」
鋭い舌打ちはもはや慣れたもの。腕が緩くなると同時にカーテンを開く。窓から朝日とは言い難い日差しが入り込んでくる。一気に明るくなる部屋に慣れさせてから後ろを向く。
薄暗い中でも見えていたレオナ様の姿が日差しではっきりと見える。部屋に入り込む日差しを忌々しそうに睨む姿さえ様になる。
乱れた髪を鬱陶し気に払うレオナ様をしがしげと見てあることに気づく。
「レオナ様も髭が生えるのですね」
「あったりめぇだろ」
20歳だから当たり前といえば当たり前。でも、私自身はレオナ様の髭が生えている姿を見たのは今初めてではないだろうか。
じっと見つめているとレオナ様が珍しく困惑したような顔をする。
「そんなに珍しいか?」
「レオナ様のその御姿は、はい……触ってみてもよろしいですか」
レオナ様が本当に珍しく何とも言えない顔をしている。なんと私はレオナ様を困らせてしまった様子。いや、まぁ、意味も分からないからそうなるだろう。
「困らせてしまったご様子で、申し訳ありません」
「いや、まぁ、いいが……王族だからって珍しいことねぇぞ」
何だか本当に困惑しているのか、見当違いの返事をされてしまった。
そんな姿が面白い。思わず笑いが込み上げるとレオナ様の困惑に下がった眉が上がる。
「まさか俺をからかったのか?」
「めっそうもない。ふふ、でも、何だか今のレオナ様の御姿が珍しく」
「俺が困っている姿を見て面白がってるったぁ、中々な性格だな」
ニヤリと口角を上げるレオナ様はすっかりといつもの調子を戻ってしまった。
あら、おしい。もう少し見ていたかったのに。
「なに残念そうな顔してんだ」
「もう少し見たかったなと思いまして……」
「お前なぁ」
若干残念なものを見るような目を向けられた。レオナ様だって私が困る姿で楽しんでいらっしゃるふしがあるのに失礼な。
「お互い様でしょうに……で、触れても?」
「結局、触んのかよ。ほらよ」
顔を差し出してくるレオナ様。その姿があまりにも無防備に見えた。これは私だからなら嬉しい。
「失礼します……わぁ! ほんとに髭ですね」
「いや、髭以外ねぇだろ」
何言ってんだと呆れた眼差しを向けてくるレオナ様。それでも大人しく私に撫でられるのが何だか牙が抜けてしまったライオン。もはや猫なのでは――とは言わないけれど。
「おい。もういいだろ」
「ぁ、はい」
手を離すとレオナ様が顎を撫で終えると指を降る。その動作は魔法を使うときのものでキラと魔法の粉が舞うとレオナ様が服を身に纏っていた。
それでも寝起きのもふもふのままだった。本当に触り心地のよさそうな手入れの行き届いた髪。
「ジェマ」
「なんですか?」
見惚れていたのを悟られないように答えるとレオナ様がいつの間にか手にしたブラシを渡してきた。反射的に受け取るが、これはまさか。
「私が整えるのですか?」
「ん」
軽く返事をするとレオナ様がさっと後ろを向く。何だか子どもみたいで可愛らしい。
色々なレオナ様を見ることができて自然と頬が緩む。さて、では、レオナ様が他のヒトに侮られぬようにしっかりと〝たてがみ〟を整えなければ。
触れた髪はやはり柔らかく触り心地が良かった。
あらかた手入れを済ませるとレオナ様は「三つ編み」と所望してきた。
いいのだけれど魔法の方が早い気もするのだが「ん」と髪結い紐を渡されてはしかたない。にしても他のヒトの三つ編みとは難しい。
「これでどうでしょうか」
「おう。ずいぶん綺麗だな」
バランスも気にしながらなんとか完成するとレオナ様は満足そうに三つ編みを指で弄る。
お褒めの言葉に安心する。ふと、レオナ様の手に真新しいブラシが握られていた。
「次はジェマ。お前の番な」
「え」
ほら、おら、と後ろを向かされた。そして、乱れた髪がそっと優しく梳かれる。
「ぇ、あのレオナ様、私は自分で」
「いいから黙ってろ」
どうやら今度は私がお世話をされる番のよう。後ろにいるレオナ様から上機嫌の気配を感じる。これは昨夜と同じ。流されるがまま。だけれど、不思議と心地がいいものだった。
「こんなもんか」
「すごい。さらさらですね」
普段も気合を入れて手入れをしているつもりでも今日は何だか手触りがいい。
あの真新しいブラシか。それとも香りのいいオイルか。どちらも自分が使っているものと違ったように見える。
「レオナ様。そのブラシはどこのブランドですか?」
「ああ。こいつか。俺のと同じだぞ」
「うそ」
私も同じブランドのはずなのだけれど。そこまで長く使っているわけでもないし。何が違うの。
むむ、と真新しいブラシを睨む。すると、出入口の方でヒトの気配を感じる。どうやら時間が来たようす。
「もう終わりのようです」
「ハァ。仕方ねぇな」
機嫌よく上がっていた口角が下がってしまった。とはいえ、学園に戻らなければといけないので仕方ない。
「ふふ。またお戻りになったときにゆっくりと過ごしましょう」
そう告げるとレオナ様は目を丸くして瞬きを繰り返す。
とくにおかしなことを言っていないのだけれど、レオナ様は再び機嫌よさそうに身体を寄せて来た。
抱き寄せられて鼻先が触れてしまいそうなほど距離が縮まる。
「その言葉、ウソじゃねぇよな」
「は、はい」
「ふっ。そーかよ」
楽し気な声と共に唇がふさがれたがすぐに離れる。目の前にある深い深緑の瞳は嬉しそうに緩んでいた。その双眸に私もまた嬉しかった。
2025.07.27
意識が緩やかに覚醒していく。まだ完全に目覚めるわけでもなく、微睡みの中にいるような感覚。もう少し寝ようと意識を流そうとしたが、ふとすぐ傍に熱を感じた。
少しの暑さを感じて再度沈みかけた意識が急激に覚醒する。
残念、と思いゆっくりと重い瞼を上げる。薄っすら暗い景色に瞬きをして慣らす。すぐに目が暗闇に慣れていくと、なんか変であることに気づく。
目の前にある景色が明らかにヒトであること。同時に見慣れた褐色の肌とチョコレート色の緩やかな髪。
――ぇ? は?
寝起きで靄のかかった頭が瞬く間に晴れていく。一瞬どうして、なんで、と頭が混乱するが昨夜のことが頭を掠めて思考回路の挙動が治まる。
――昨日、そっか。そうだったわ。
昨夜、珍しく、ほんとうに珍しくレオナ様が誕生日に帰国した。そして、非常に珍しく誕生日当日に祝賀会が行われた。公式行事というよりも家族のみの誕生日パーティーという感じだった。そして、私もそれに招待された。
両親も呼ばれているのかと思ったらなんと私だけ。レオナ様とは幼い頃から交流あり、現在は恋人であるけれど、家族の中で唯一他人というのが何とも居たたまれなかった。
とりあえず、祝賀会というか食事が済んだら帰ろう。プレゼントもちゃんと渡せたし、レオナ様だってすぐに帰るだろうし。
そう思いながらなんとか口に入れた食べ物を咀嚼していた。
チェカ様が限界を迎えた頃にようやく解散となった。すぐに帰れなかったが王宮から実家はそう遠くない。十分帰れる時間と思ったのだけれど――。
「は? 帰すわけねぇだろ」
何言ってんだ。お前はバカか。そう言いたげなレオナ様の呆れ顔に私は冷や汗を流した。
「いえ。その家から迎えが来ている――」
「来てねぇぞ」
「はい?」
私はすぐ傍にいる侍従や侍女に果ては召使の方々を見る。彼ら、彼女らは皆にこりと微笑んだ。これは、これは、嵌められたのか。
「お前、恋人の誕生日に呼ばれたら普通帰らねぇだろ」
なんだか私の方が非常識みたいな風な言い方された。私? 私が悪いの? むしろ、嵌められた方よね。
モヤモヤする。尻尾が揺れて不満を訴える。こういうのはよくない。だけれど、嵌められてこう責められるのだから仕方ない気がする。
レオナ様の視線が少し動く。耳が心なしか萎れたように見える。
これはしおらしく見えるようにするレオナ様の仕草。これに私が弱いのを重々知っているからする仕草。
何度その仕草に負けたことか。というか、もう負けすぎて諦めの境地にある。なにせ、そもそもこう至るときはレオナ様が甘えたいという気持ちが少なからずあるからだ。
どういった経緯がレオナ様にあるのか分からないけれど。息を少しつく。
「わかりました。では、お世話になります」
「おう」
しおらしさが一瞬に霧散する。なんという変わり身の早さなのかしら。帰ってもいいけれど、レオナ様の尻尾が可愛らしく揺れているから帰る気持ちもすぐになくなる。
そう昨夜。そんなことがあって王宮にお世話になった。そして、客間を与えられて――なぜかレオナ様もくっついてきた。あれよ、あれよ、とそういう雰囲気となったのだった。
昨日の顛末を思い出して肌に直接触れるシーツの感触がする。どうやら服も着ることなく意識を落としたらしい。
そもそも今は何時なのだろう。
スマホは確か持ってきたハンドバックの中にあったはず。召喚魔法を使ってもいいけれど、この体勢から変わりたい。
レオナ様は起きている気配がない。なら、起こさないように身体を動かして背を向ける形になる。それからベッドを降りようと動こうとしたが――。
「ひぅっ!」
尻尾をくい引っ張られた。昨夜の名残なのか変な声が出てしまった。
意味もなく口を押えながら肩越しに振り向けば、暗闇に輝く深緑の瞳があった。どうやら私の行動は無意味だったみたい。
「起きていらっしゃったのですか」
「いまな」
ふぁ、と大きな欠伸をしたレオナ様がゆっくりと起き上がった。
三つ編みを解いた柔らかい髪がふわふわ揺れている。そして、よく見なくともレオナ様も服を着ていないのが分かる。
自分も来ていないのだけれど何だか気恥ずかしくなって魔法で服を着る。レオナ様はどうするのかと見ればあまり気にした様子がない。というよりまだ眠そうな顔をしている。
それでももういい時間なはず、とカーテンで閉じられている窓を見る。カーテンの隙間から零れる光は白く明るい。
朝ではなさそう。ならもう昼と考えているときに背中が重くなる。
「まだいいだろ」
低く掠れた声が耳もとで囁かれる。そのままギュッと抱きしめら頬に柔らかな髪が触れる。これはレオナ様が満足するまで離されないのだろう。この状況が別にイヤではない。イヤではないが――。
「レオナ様、学園にお戻りになる時間では?」
背後の気配が跳ねた。それからグルルと唸り声が聞こえる。言わずとも分かる「空気を読め」とレオナ様は言っているのだろう。
「レオナ様」
「チッ」
鋭い舌打ちはもはや慣れたもの。腕が緩くなると同時にカーテンを開く。窓から朝日とは言い難い日差しが入り込んでくる。一気に明るくなる部屋に慣れさせてから後ろを向く。
薄暗い中でも見えていたレオナ様の姿が日差しではっきりと見える。部屋に入り込む日差しを忌々しそうに睨む姿さえ様になる。
乱れた髪を鬱陶し気に払うレオナ様をしがしげと見てあることに気づく。
「レオナ様も髭が生えるのですね」
「あったりめぇだろ」
20歳だから当たり前といえば当たり前。でも、私自身はレオナ様の髭が生えている姿を見たのは今初めてではないだろうか。
じっと見つめているとレオナ様が珍しく困惑したような顔をする。
「そんなに珍しいか?」
「レオナ様のその御姿は、はい……触ってみてもよろしいですか」
レオナ様が本当に珍しく何とも言えない顔をしている。なんと私はレオナ様を困らせてしまった様子。いや、まぁ、意味も分からないからそうなるだろう。
「困らせてしまったご様子で、申し訳ありません」
「いや、まぁ、いいが……王族だからって珍しいことねぇぞ」
何だか本当に困惑しているのか、見当違いの返事をされてしまった。
そんな姿が面白い。思わず笑いが込み上げるとレオナ様の困惑に下がった眉が上がる。
「まさか俺をからかったのか?」
「めっそうもない。ふふ、でも、何だか今のレオナ様の御姿が珍しく」
「俺が困っている姿を見て面白がってるったぁ、中々な性格だな」
ニヤリと口角を上げるレオナ様はすっかりといつもの調子を戻ってしまった。
あら、おしい。もう少し見ていたかったのに。
「なに残念そうな顔してんだ」
「もう少し見たかったなと思いまして……」
「お前なぁ」
若干残念なものを見るような目を向けられた。レオナ様だって私が困る姿で楽しんでいらっしゃるふしがあるのに失礼な。
「お互い様でしょうに……で、触れても?」
「結局、触んのかよ。ほらよ」
顔を差し出してくるレオナ様。その姿があまりにも無防備に見えた。これは私だからなら嬉しい。
「失礼します……わぁ! ほんとに髭ですね」
「いや、髭以外ねぇだろ」
何言ってんだと呆れた眼差しを向けてくるレオナ様。それでも大人しく私に撫でられるのが何だか牙が抜けてしまったライオン。もはや猫なのでは――とは言わないけれど。
「おい。もういいだろ」
「ぁ、はい」
手を離すとレオナ様が顎を撫で終えると指を降る。その動作は魔法を使うときのものでキラと魔法の粉が舞うとレオナ様が服を身に纏っていた。
それでも寝起きのもふもふのままだった。本当に触り心地のよさそうな手入れの行き届いた髪。
「ジェマ」
「なんですか?」
見惚れていたのを悟られないように答えるとレオナ様がいつの間にか手にしたブラシを渡してきた。反射的に受け取るが、これはまさか。
「私が整えるのですか?」
「ん」
軽く返事をするとレオナ様がさっと後ろを向く。何だか子どもみたいで可愛らしい。
色々なレオナ様を見ることができて自然と頬が緩む。さて、では、レオナ様が他のヒトに侮られぬようにしっかりと〝たてがみ〟を整えなければ。
触れた髪はやはり柔らかく触り心地が良かった。
あらかた手入れを済ませるとレオナ様は「三つ編み」と所望してきた。
いいのだけれど魔法の方が早い気もするのだが「ん」と髪結い紐を渡されてはしかたない。にしても他のヒトの三つ編みとは難しい。
「これでどうでしょうか」
「おう。ずいぶん綺麗だな」
バランスも気にしながらなんとか完成するとレオナ様は満足そうに三つ編みを指で弄る。
お褒めの言葉に安心する。ふと、レオナ様の手に真新しいブラシが握られていた。
「次はジェマ。お前の番な」
「え」
ほら、おら、と後ろを向かされた。そして、乱れた髪がそっと優しく梳かれる。
「ぇ、あのレオナ様、私は自分で」
「いいから黙ってろ」
どうやら今度は私がお世話をされる番のよう。後ろにいるレオナ様から上機嫌の気配を感じる。これは昨夜と同じ。流されるがまま。だけれど、不思議と心地がいいものだった。
「こんなもんか」
「すごい。さらさらですね」
普段も気合を入れて手入れをしているつもりでも今日は何だか手触りがいい。
あの真新しいブラシか。それとも香りのいいオイルか。どちらも自分が使っているものと違ったように見える。
「レオナ様。そのブラシはどこのブランドですか?」
「ああ。こいつか。俺のと同じだぞ」
「うそ」
私も同じブランドのはずなのだけれど。そこまで長く使っているわけでもないし。何が違うの。
むむ、と真新しいブラシを睨む。すると、出入口の方でヒトの気配を感じる。どうやら時間が来たようす。
「もう終わりのようです」
「ハァ。仕方ねぇな」
機嫌よく上がっていた口角が下がってしまった。とはいえ、学園に戻らなければといけないので仕方ない。
「ふふ。またお戻りになったときにゆっくりと過ごしましょう」
そう告げるとレオナ様は目を丸くして瞬きを繰り返す。
とくにおかしなことを言っていないのだけれど、レオナ様は再び機嫌よさそうに身体を寄せて来た。
抱き寄せられて鼻先が触れてしまいそうなほど距離が縮まる。
「その言葉、ウソじゃねぇよな」
「は、はい」
「ふっ。そーかよ」
楽し気な声と共に唇がふさがれたがすぐに離れる。目の前にある深い深緑の瞳は嬉しそうに緩んでいた。その双眸に私もまた嬉しかった。
2025.07.27
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