何年、何十年、何百年と永遠であれば
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何年、何十年、何百年と永遠であれば
私が捧げるこの贈物はあの方にとって何の意味があるのだろうか。
彼の人と心を通わせるまで何十回も考えていた。それでも毎年あの方のために誕生日の贈物選びに手を抜くことはない。いえ、むしろ手なんか抜けない。きっと両親や兄様たち家族以上に気合を入れて選んでいた。それこそ時間が許すギリギリまで選んだ。
もうすぐレオナ様のお誕生日。恋人となって迎える初めての愛おしいお方のお誕生日。以前までは恋人ではないからとアクセサリー類は遠慮していた。その代りレオナ様が楽しめるものをと貴重な古文書や文具などを選んでいた。
たぶん、気に入ってくれていたとは思う。あのレオナ様が読んだ後に感想を言ってくれたし、研究に使った結果を報告してくれたから。律儀な方だなと思うと同時に選んだ物を読んで、使ってくれたことが嬉しかった。
だから、今年もレオナ様も気に入ってくれると嬉しい。そんなことを考えながら選んだ。
「気に入っていただけると嬉しいんですが」
「当たり前だろ」
綺麗な眉を片方だけ上げてフンと鼻を鳴らすレオナ様。その当たり前がわからないだと言い返したいけれど言わない。だって、そう言えばすぐにこのお方は拗ねてしまわれるから。
さて、あらためて迎えた恋人として初めて迎えたレオナ様のお誕生日。と、言うには少し早い。レオナ様の誕生日は明後日。その明後日のお誕生日は学園で過ごすらしい。これはレオナ様がナイトレイブンカレッジに入学してからずっとそうだった。だから、ご実家に寄りつきたくないというのは重々承知している。だから、私も去年まで配送で贈ったりしていたのだが――今年は違った。
レオナ様は誰にも言わずにこっそりと帰省されてきた。どうやら私のためらしい。どんな手を使ったかわからないけれどこっそりと夕焼け草原にレオナ様は帰省してくれた。
誰も知られずにレオナ様がここにいる。私のために。嘘みたいと、愛する人の顔を見上げる。ケープのついた黒いローブを身に纏った姿はとても怪しく妖しかった。
そして、そのローブに囲われている私もいけないことをしている気分になる。暑さからくる熱とは別の熱が身体の中心から込み上げてくる。
「ジェマ」
「ぁ、はい」
呼ばれると同時にさらに腰が抱き寄せられる。より近くなる距離。いや、もうずっと衣服が擦れるくらいには近い。だのに、より身体がぴったりとくっつく身体にさらに熱が上がる。汗が滲んで匂いが気になってきてしまうほどの距離。
「プレゼント、ねぇのか?」
「ッぁ」
耳元にあの綺麗な唇が寄せられ囁きと吐息が交じるように強請られる。震える耳と身体を何とか抑え込んで「もちろんございます」と答える。その声が震えていなかっただろうか。キュッと唇を閉じてから両手に持ったままの手のひら大の箱を見せる。
「この中にございます」
「ふぅん。今年は随分ちぃせぇな」
私の腰を片手で抱いたまま身体を離して手の中からパッと贈物を取る。しげしげと見つめるレオナ様は顔だけを寄せて「開けてくれ」とまた私の手の上に乗せた。それなら取らなければいいのにと思いながら頷く。
レオナ様は再び両手に腰を抱きながら「あちぃ」と呟きながら覗き込んでくる。それほど暑いならば離れればよろしいのではと思うけれど私はこのお方が恋しいから言わない。もう少し愛おしい殿方の体温も身体も味わっていたい。本人にはけして言わないけれど。
色々なことを考えながら包装を解く。そして、現れたのは藍色のベルベットの箱。
「アクセサリーでも入っているみたいな箱だな」
くくと喉が震えるようなに笑うレオナ様に気恥ずかしくなる。だって、今まで言ってしまえば無難な当たり障りのない贈物をしていたのだ。それこそレオナ様に鬱陶しい女と思わないようなものを。それでも最上級の贈物を、と王子であるレオナ様には贈っていた。でも、今年は違う。恋人であるレオナ様を想って考えて、考えて、選んだもの。
「早く中身が見てぇな」
なら自分でお開けになればよろしいのに。でも、レオナ様の声音がわくわくしているから何も言えない。もうなんて可愛らしいお方なのかしら。
それに嬉しい。自分の贈物でこのお方が楽しんでいただけるのが、とても嬉しくてたまらない。だから私は従順にこの箱の蓋に手をかける。
「がっかりなさらないでくださいませ」
「昔からしたことねぇよ」
「お前の贈物で」と付け足した言葉に頭がくらくらする。このお方は本当に狡い人。そして、私はまたこうしてレオナ様に対しての恋情を募らせていく。
「では、開けますよ」
「おう」
強く抱き寄せられる腰と同時にベルベットの箱を開ける。
そこにあるのは二つのリング。まるでペアリングのように見えるがこれはどちらもレオナ様への贈物に間違いない。
「ペア……リングじゃねぇよな」
「はい。どちらもレオナ様への贈物です」
やはりリングが二つ並んでいるのが気になったのか訊ねて来るレオナ様。それに私は頷いて二つ並ぶリングの右側のリングを指す。
「どちらも魔除けのリングです。こちらが朝から昼まで身に着けるリングです」
朝方から昼間に相応しいゴールドリング。トップに魔除けの意味を持つ赤珊瑚があしらわれている。地方によって赤珊瑚が持つ意味合いは変わるらしいけれど珊瑚の海周辺や東の国では魔除けの意味を持つと友人が教えてくれた。
「こちらの左側のリングは夕方から夜に身に着けるものです」
説明しながら次はシルバーの透かし彫りのリングを指さす。そのリングの飾りにあしらわれた黒水晶。この黒水晶は多くの魔除けの意味をもつ石の中でも強い力を持っているらしい。どちらともレオナ様をあらゆることから守ってほしいというおこがましい願いを込めたリング。
「魔除けかぁ」
ひょいっと鎮座していたリングを手に取ってしげしげ見つめるレオナ様。
私はそのレオナ様の様子を緊張しながら見つめる。魔除けや呪 いは古くから魔法を切っては切り離せないもの。だから、レオナ様も邪険には扱わないはず。そう思って最後に私自身の魔法で呪 いをかけたのだけれどどうかしら。
じっと窺うように見ていれば美しい唇の口角がくっと上がった。
「魔除けってのは魔法と切っても切り離せねぇからな……」
心臓が一度大きく離れると同時に腰に回っていた腕が離れた。そして、取ったリングをレオナ様は徐にリングを長い指にはめ込んだ。よかったサイズが合って、と安心しながら輝くゴールドのリングを見つめる。
「ジェマ。面白い呪 いをかけたな」
「なっ! 面白くなどありません! ちゃんとした呪 いですわ!」
「ハハッ! この俺に呪 いってのが面白れぇってんだ」
やはりこのお方は魔除けや呪 いを鼻で笑う方だった。魔法と切っては切れないと言っている癖に。
「ふっ。そうむくれるな。別に馬鹿にしちゃいねぇよ」
「していらっしゃるではありませぬか」
「してねぇよ……気に入った」
言ってこめかみにキスが贈られる。それに怒りがすぐにしぼんでしまうから私も単純な女だ。ついでに機嫌よく絡んでくるレオナ様の尻尾にもう降参だった。
溜息をつきながら私も尻尾を絡めればさらに機嫌がよくなるレオナ様。どうやら本当に贈物を気に入ってくれた様子だ。
「着ける時間を間違えると魔除け効果薄れますからね」
「おう」
「呪 いの持続効果が続くために浄化などお手入れが必要です」
「それはめんどい」
「やってくださいまし」
「わぁった」
また抱き着いてぐりぐりと額を擦りつけてくるレオナ様。暑くないのだろうか。私も暑くて仕方なくなってきたというのに。それでもやっぱり誕生日を共に祝えないこの方とのこの密やかな時間をまだ手放したくなかった。
「……レオナ様、お誕生日に電話してもよろしいですか?」
「あ?」
顔を上げて覗き込んで来るレオナ様の宝石のように美しい瞳を見る。暗がりにいるためか縦長の瞳孔も今は僅かに丸くいつもの鋭さが僅かに鳴りを潜めている。それが可愛らしくも見えるか私はもう重症だ。
「お誕生日を当日にお祝いしたいのです」
「ああ。構わねぇが……なら朝の方がいい」
「朝、ですか。え、起きられますの?」
「うるせぇな。起きる。はぁ。どうぜあいつらも朝から夜中まで人様の誕生日で騒ぎつくすつもりだろうかな」
「ああ。なるほど」
どんちゃん騒ぎの寮生たちを思い出したように笑えば、レオナ様も小さく笑った声が聞こえた。やはり王宮で行われる誕生の宴よりも楽しんでいるようだ。よかった。
「楽しそうで羨ましいです」
「どうせもうすぐその日はお前だけの時間になる」
「え」
どういう意味と一瞬頭を過るがすぐに理解する。自分はこの方と正式に婚約したことを。そして、来年は最終学年。そして七月の今頃は就職や進学準備ですでに学園を卒業した頃。つまり、私と共に過ごすと言うこと。ああ。本当になんてお方なのだろうか。
「だから、寂しがんな」
「はい……はい、そうでございますね」
頷いてその先にあるすごく近い未来に私は思い馳せる。そして、どうかこのお方のこれからの人生に影を落とさぬようにと願わずにはいられなかった。
それから太陽が昇り沈み――昇った日。愛おしい方が誕生した日。私はあの方に電話をする。朝に弱いあの方は起きているかしら。
不安になりながら電話をかける。するとワンコールであのお方は出た。まさかと思うと向こうから『おはよう、ジェマ』と挨拶をされてしまった。
「あ、おはようございます。レオナ様、あの」
『ん』
僅かに聞こえた機嫌の良さそうな声に私の方が幸せになっていく。本当に幸せになるのはあの方のはずなのに。
「あの、レオナ様……お誕生日おめでとうございます。生まれて来てくれてありがとうございます」
『ぶはっ! そこまで言うかよ!』
「当たり前です。言いますわ」
『そーかい』
笑う声が聞こえるに本当に今はそう思う。そして私の心配はきっと杞憂に終わるのだとこの時確信した。
「貴方様のこれからの日々が幸せでありますように」
それにまた笑う貴方の声が耳に響いた。
2021.7.27
私が捧げるこの贈物はあの方にとって何の意味があるのだろうか。
彼の人と心を通わせるまで何十回も考えていた。それでも毎年あの方のために誕生日の贈物選びに手を抜くことはない。いえ、むしろ手なんか抜けない。きっと両親や兄様たち家族以上に気合を入れて選んでいた。それこそ時間が許すギリギリまで選んだ。
もうすぐレオナ様のお誕生日。恋人となって迎える初めての愛おしいお方のお誕生日。以前までは恋人ではないからとアクセサリー類は遠慮していた。その代りレオナ様が楽しめるものをと貴重な古文書や文具などを選んでいた。
たぶん、気に入ってくれていたとは思う。あのレオナ様が読んだ後に感想を言ってくれたし、研究に使った結果を報告してくれたから。律儀な方だなと思うと同時に選んだ物を読んで、使ってくれたことが嬉しかった。
だから、今年もレオナ様も気に入ってくれると嬉しい。そんなことを考えながら選んだ。
「気に入っていただけると嬉しいんですが」
「当たり前だろ」
綺麗な眉を片方だけ上げてフンと鼻を鳴らすレオナ様。その当たり前がわからないだと言い返したいけれど言わない。だって、そう言えばすぐにこのお方は拗ねてしまわれるから。
さて、あらためて迎えた恋人として初めて迎えたレオナ様のお誕生日。と、言うには少し早い。レオナ様の誕生日は明後日。その明後日のお誕生日は学園で過ごすらしい。これはレオナ様がナイトレイブンカレッジに入学してからずっとそうだった。だから、ご実家に寄りつきたくないというのは重々承知している。だから、私も去年まで配送で贈ったりしていたのだが――今年は違った。
レオナ様は誰にも言わずにこっそりと帰省されてきた。どうやら私のためらしい。どんな手を使ったかわからないけれどこっそりと夕焼け草原にレオナ様は帰省してくれた。
誰も知られずにレオナ様がここにいる。私のために。嘘みたいと、愛する人の顔を見上げる。ケープのついた黒いローブを身に纏った姿はとても怪しく妖しかった。
そして、そのローブに囲われている私もいけないことをしている気分になる。暑さからくる熱とは別の熱が身体の中心から込み上げてくる。
「ジェマ」
「ぁ、はい」
呼ばれると同時にさらに腰が抱き寄せられる。より近くなる距離。いや、もうずっと衣服が擦れるくらいには近い。だのに、より身体がぴったりとくっつく身体にさらに熱が上がる。汗が滲んで匂いが気になってきてしまうほどの距離。
「プレゼント、ねぇのか?」
「ッぁ」
耳元にあの綺麗な唇が寄せられ囁きと吐息が交じるように強請られる。震える耳と身体を何とか抑え込んで「もちろんございます」と答える。その声が震えていなかっただろうか。キュッと唇を閉じてから両手に持ったままの手のひら大の箱を見せる。
「この中にございます」
「ふぅん。今年は随分ちぃせぇな」
私の腰を片手で抱いたまま身体を離して手の中からパッと贈物を取る。しげしげと見つめるレオナ様は顔だけを寄せて「開けてくれ」とまた私の手の上に乗せた。それなら取らなければいいのにと思いながら頷く。
レオナ様は再び両手に腰を抱きながら「あちぃ」と呟きながら覗き込んでくる。それほど暑いならば離れればよろしいのではと思うけれど私はこのお方が恋しいから言わない。もう少し愛おしい殿方の体温も身体も味わっていたい。本人にはけして言わないけれど。
色々なことを考えながら包装を解く。そして、現れたのは藍色のベルベットの箱。
「アクセサリーでも入っているみたいな箱だな」
くくと喉が震えるようなに笑うレオナ様に気恥ずかしくなる。だって、今まで言ってしまえば無難な当たり障りのない贈物をしていたのだ。それこそレオナ様に鬱陶しい女と思わないようなものを。それでも最上級の贈物を、と王子であるレオナ様には贈っていた。でも、今年は違う。恋人であるレオナ様を想って考えて、考えて、選んだもの。
「早く中身が見てぇな」
なら自分でお開けになればよろしいのに。でも、レオナ様の声音がわくわくしているから何も言えない。もうなんて可愛らしいお方なのかしら。
それに嬉しい。自分の贈物でこのお方が楽しんでいただけるのが、とても嬉しくてたまらない。だから私は従順にこの箱の蓋に手をかける。
「がっかりなさらないでくださいませ」
「昔からしたことねぇよ」
「お前の贈物で」と付け足した言葉に頭がくらくらする。このお方は本当に狡い人。そして、私はまたこうしてレオナ様に対しての恋情を募らせていく。
「では、開けますよ」
「おう」
強く抱き寄せられる腰と同時にベルベットの箱を開ける。
そこにあるのは二つのリング。まるでペアリングのように見えるがこれはどちらもレオナ様への贈物に間違いない。
「ペア……リングじゃねぇよな」
「はい。どちらもレオナ様への贈物です」
やはりリングが二つ並んでいるのが気になったのか訊ねて来るレオナ様。それに私は頷いて二つ並ぶリングの右側のリングを指す。
「どちらも魔除けのリングです。こちらが朝から昼まで身に着けるリングです」
朝方から昼間に相応しいゴールドリング。トップに魔除けの意味を持つ赤珊瑚があしらわれている。地方によって赤珊瑚が持つ意味合いは変わるらしいけれど珊瑚の海周辺や東の国では魔除けの意味を持つと友人が教えてくれた。
「こちらの左側のリングは夕方から夜に身に着けるものです」
説明しながら次はシルバーの透かし彫りのリングを指さす。そのリングの飾りにあしらわれた黒水晶。この黒水晶は多くの魔除けの意味をもつ石の中でも強い力を持っているらしい。どちらともレオナ様をあらゆることから守ってほしいというおこがましい願いを込めたリング。
「魔除けかぁ」
ひょいっと鎮座していたリングを手に取ってしげしげ見つめるレオナ様。
私はそのレオナ様の様子を緊張しながら見つめる。魔除けや
じっと窺うように見ていれば美しい唇の口角がくっと上がった。
「魔除けってのは魔法と切っても切り離せねぇからな……」
心臓が一度大きく離れると同時に腰に回っていた腕が離れた。そして、取ったリングをレオナ様は徐にリングを長い指にはめ込んだ。よかったサイズが合って、と安心しながら輝くゴールドのリングを見つめる。
「ジェマ。面白い
「なっ! 面白くなどありません! ちゃんとした
「ハハッ! この俺に
やはりこのお方は魔除けや
「ふっ。そうむくれるな。別に馬鹿にしちゃいねぇよ」
「していらっしゃるではありませぬか」
「してねぇよ……気に入った」
言ってこめかみにキスが贈られる。それに怒りがすぐにしぼんでしまうから私も単純な女だ。ついでに機嫌よく絡んでくるレオナ様の尻尾にもう降参だった。
溜息をつきながら私も尻尾を絡めればさらに機嫌がよくなるレオナ様。どうやら本当に贈物を気に入ってくれた様子だ。
「着ける時間を間違えると魔除け効果薄れますからね」
「おう」
「
「それはめんどい」
「やってくださいまし」
「わぁった」
また抱き着いてぐりぐりと額を擦りつけてくるレオナ様。暑くないのだろうか。私も暑くて仕方なくなってきたというのに。それでもやっぱり誕生日を共に祝えないこの方とのこの密やかな時間をまだ手放したくなかった。
「……レオナ様、お誕生日に電話してもよろしいですか?」
「あ?」
顔を上げて覗き込んで来るレオナ様の宝石のように美しい瞳を見る。暗がりにいるためか縦長の瞳孔も今は僅かに丸くいつもの鋭さが僅かに鳴りを潜めている。それが可愛らしくも見えるか私はもう重症だ。
「お誕生日を当日にお祝いしたいのです」
「ああ。構わねぇが……なら朝の方がいい」
「朝、ですか。え、起きられますの?」
「うるせぇな。起きる。はぁ。どうぜあいつらも朝から夜中まで人様の誕生日で騒ぎつくすつもりだろうかな」
「ああ。なるほど」
どんちゃん騒ぎの寮生たちを思い出したように笑えば、レオナ様も小さく笑った声が聞こえた。やはり王宮で行われる誕生の宴よりも楽しんでいるようだ。よかった。
「楽しそうで羨ましいです」
「どうせもうすぐその日はお前だけの時間になる」
「え」
どういう意味と一瞬頭を過るがすぐに理解する。自分はこの方と正式に婚約したことを。そして、来年は最終学年。そして七月の今頃は就職や進学準備ですでに学園を卒業した頃。つまり、私と共に過ごすと言うこと。ああ。本当になんてお方なのだろうか。
「だから、寂しがんな」
「はい……はい、そうでございますね」
頷いてその先にあるすごく近い未来に私は思い馳せる。そして、どうかこのお方のこれからの人生に影を落とさぬようにと願わずにはいられなかった。
それから太陽が昇り沈み――昇った日。愛おしい方が誕生した日。私はあの方に電話をする。朝に弱いあの方は起きているかしら。
不安になりながら電話をかける。するとワンコールであのお方は出た。まさかと思うと向こうから『おはよう、ジェマ』と挨拶をされてしまった。
「あ、おはようございます。レオナ様、あの」
『ん』
僅かに聞こえた機嫌の良さそうな声に私の方が幸せになっていく。本当に幸せになるのはあの方のはずなのに。
「あの、レオナ様……お誕生日おめでとうございます。生まれて来てくれてありがとうございます」
『ぶはっ! そこまで言うかよ!』
「当たり前です。言いますわ」
『そーかい』
笑う声が聞こえるに本当に今はそう思う。そして私の心配はきっと杞憂に終わるのだとこの時確信した。
「貴方様のこれからの日々が幸せでありますように」
それにまた笑う貴方の声が耳に響いた。
2021.7.27
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