砂嵐の王と春風の女神
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牙を抜かれた獅子
ジェマと初めて肌を重ねたのは出会って二年目のスプリング・ホリデーのことだった。
小さな窓から昼間の温かな太陽の光りさえもなく、ただ曇天の空から零れる雨音が聞こえる。でも、雨音なんて最初だけ始めってしまえば聴覚、視覚、嗅覚もすべて彼女に向けられた。
薄暗い中、僅かな明かりだけが頼りの中での行為。今思えばお互い経験がない中での初めての行為にしては危険な試みだった。しかも、環境もサイアクな部屋。
誰も知らない部屋と言うジェマの遊び場。秘密の部屋は狭く小さなテーブルに仮眠用の狭いベッド。一人ならちょうどいい憩いの場で初めて素肌を晒して重ねた。
「はッ、ン、はぁ、はぁ、は、ぁ」
狭いベッドで平均身長の高い二人の若者には窮屈だった。それでも何とか耐えたベッドの上で息をするジェマ。額に、首筋に、至る所に汗を滲ませる彼女は疲れたように瞼を降ろし長い睫が影を作っている。綺麗な形をした眉が寄せながら短い呼吸を繰りかえしている。痛かったのだろうか。
「はぁっ、ジェマッ」
身を屈めて慣れないながら目尻にささやかキスを送る。ピクと動く瞼が重くゆっくりと上がり潤んだ瞳が現れる。
「はっ、れおな、さっ」
上がる息に途切れる掠れた声がいやに艶っぽく耳の奥を刺激する。
もっと、感じたい。さっきの熱で溶け合う錯覚を思いだす。あれくらい訳もわからず一つになりたい。「でも駄目だ」と引っ込んでいた理性が戻って囁く。それでもまだ若い獣の本能が止まらない。止められない。
「ジェマッ」
「ぁ、れおなさっ、んぅ」
もうこれ以上は彼女の身体が丈夫とはいえもたないだろう。でも、それでも、と身勝手な本能を抑えたくて艶めく唇に噛みついた。
「ん、ふっぅ、はぁンっ」
無理だと肩を押される覚悟で重ねた唇をジェマは受け入れてくれた。ならば、もっと肌の熱を感じたいと背中に腕を回して抱き込んでさらに深く口づける。お互いの舌を根元まで絡ませて唾液を零しながら飽きるくらいキスを続けた。
やがて衝動的なキスも終わり二人狭いベッドで窮屈に身体を丸めて横になる。お互いの息もようやく落ち着いた頃、周りの音が入ってくる。すると、先ほどまで本能に急き立てられていた神経が落ち着いてゆっくりと疲れが身体に滲んでいく。
「れおなさん、あめ、ふってるわ」
「ん」
ピロトークらしいけれど俺はもう動けないし意識が保てない。気だるく軽い返事にもなっていない声を出し抱き寄せる。
「ぁ、レオナさん、落ちる」
「だいじょーぶだ」
「あと、こんなところで寝たらたら風邪引くから」
僅かに声はかすれているけれど声に力が戻ってくる。その穏やかな低い声にさらに眠気が誘われついに寝てしまった。
起きた後、彼女はすでに部屋を出る準備が出来ていたので恥ずかしい思い出だ。
あの場所は密やかに熱を掻き合わせるのにいい場所だ。ただ、環境があまりよろしくないと思っていた。でも、密やかに肌を重ねるのにやはりいい場所で結局同じ場所で数えられる程度だが肌を重ねた。その度に柄にもなく深く繋がっていく心地がした。
十八の誕生日を迎える前のサマーホリデー。ほぼ公然の秘密の付き合いとなった俺とジェマ。周りのメディアは婚約まで秒読みなど騒ぎ立てている。同時に忌々しい兄貴も「いつするんだ」と落ち着かない。自分自身がこの時期にすでに義姉さんと婚約していたからメディアと同じく秒読みと考えているみてぇだ。まったくオメデタイ頭をしてやがる。
フンと心の中であしらっていると唇に柔らかな感触がして離れた。
「心ここにあらずね」
「ぁ……」
鬱陶しいと思っていたら行為に出てしまったらしい。もう冷めたと表情で訴えるジェマが膝から降りようとするのを腰に腕を回して引き留める。ついでに細い尾に自分の尾を絡めると絡み返される。内心安堵の溜息を零しながらご機嫌伺いをする。
「悪かった、拗ねるな」
「拗ねるって言うよりも呆れたの」
僅かに浮かした腰を下ろして顔を近づけるジェマ。出会ったときよりも大人に近づいている。それはきっとジェマだけではなく俺自身もそうなのだろう。
「出会っても三年になるのかしら?」
「だな」
出会って三年。もうすぐ十八歳となりナイトレイブンカレッジでの生活も三年目に入る。使える駒の数が増えるのかと愉快な気分になると同時にもうすぐあの王宮に生涯を縛られると思うとうんざりした気分にもなる。
「ハァ。留年でもするか」
「あら、そんなこと言ったら兄様が寂しがるわ」
「アぁ? なんでだよ?」
彼女の兄であり先代サバナクロー寮長はマジフト選手をしている。何とも自由な男だが何だかんだ公務も行っているんだから真面目な男だ。
「兄様が今からスカウトするって張り切っているの」
意外なことに目を丸くすると同時にそういう選択肢を選んだいいのかと思った。
「……俺は夕焼けの草原の第二王子だぞ」
「知ってるけど、だから何なの?」
王宮以外の終わりを想像したことがなかった。そう零せば、彼女は意外そうに目を見開いた。
「あら。そうなの? 意外だわ」
「そうか?」
「ええ。だって、貴方なんでも出来るのに」
「もったいない」と付け足す彼女にどういう意味だという視線を向ける。それに彼女は心底意外だという顔をしながら話を続ける。
「わからない? レオナさん、貴方はどこへだって行けるのよ」
どうしてわからないの、と言いたげな顔に信じられないといった驚愕があった。
「……どうして、お前はどこへでも飛んでいける翼があるみてぇなこと言うんだ」
「だって、そういう力を貴方は持っているから」
俺自身の力を信じて疑わない顔は今まで周りにいた〝人間〟とは全く違った。俺はこのとき今までいた世界がとても狭く見えて来た。
「ハッ、くっくく。ジェマ。お前最高だな」
感謝の印に唇にキスを送り、また彼女の背中を意味ありげに撫でる。
ジェマに惹かれ始めた頃を思い出す。春風のような穏やかさが切っ掛け。でも、それ以前にきっと真っ直ぐに俺を見てくれる眼差しに惹かれていた。俺がずっと求めていたモノ。だから、隣にいるのが心地よく春風のように思えたのだ。だから、手放せない。
『まさかッ! まさかッ! まさかの展開!』
『常勝サバナクロー寮が一回戦で姿を消したッ!』
耳障りな歓声と解説に何てことのない顔で称賛を浴びる忌まわしい王の姿。
久々に味わった身体中に染み渡るほどの屈辱と怒り。自分がまた正統な王位継承者に負けた。産まれ持ったときから地位も、力も、持った奴に負けた。
力があればやっていける。それを覆す男に出会った。出会ってしまった。
奥歯を噛んで空に浮かぶ男を睨みつけた。
* * *
大会後、保健室で目を覚ました。保健室に運ばれた生徒はまだ疲れで眠り続ける中、疲労抜けきらぬまま目が覚めてしまった。霞む視界に頭痛が起きそうで目を再び閉じる。
負けた。計画は失敗し負けた。オーバーブロットから来る疲労から考えても綺麗に負けた。それでも以前よりも込み上げるモノは少ない。ただ、少ないだけでやはりあの悠々とした王位継承者は腹が立つ。
「クソッ」
結局、牙を鋭く研いでも喉元に噛みつくことも出来なかった。無様だ。
こんな姿を彼女はどう見るだろうか。あの日、牙を取り戻すために別れを告げてあっさりと俺を突き放した女。美しく微笑んで「さようなら」と手を優雅に振った女は今の俺をどう見るだろうか。俺をあの後輩のように真っ直ぐに見据えて来た女は失望していないか。
ジェマ。いまだに忘れられない春風のような女。彼女を忘れたふりを過ごした一年と少し。彼女は魔法学校を卒業して国に戻ったのか、それともどこか飛んで行ったのだろう。
連絡しようと思っていた。計画が成功し再び常勝サバナクロー寮を、強い寮を取り戻して連絡しようと思った。
「ダセぇ」
考えればなんてクサイことを考えていたんだか。優勝して連絡するなんてティーンかダサい男がすることだ。留年しているとはいえもうティーンといえる年齢でもないのに。ダサイことをしてしまった。ジェマのことになるとどうも駄目だ。
牙を取り戻すために何とか離した手にすがろうともしなかった女だ。それに彼女は春の風と例えたのだ。風のように気ままにどこかへ行ってしまったかもしれない。
それならまた捕まえに行くだけ、ただそれだけだ。
2021.06.26
ジェマと初めて肌を重ねたのは出会って二年目のスプリング・ホリデーのことだった。
小さな窓から昼間の温かな太陽の光りさえもなく、ただ曇天の空から零れる雨音が聞こえる。でも、雨音なんて最初だけ始めってしまえば聴覚、視覚、嗅覚もすべて彼女に向けられた。
薄暗い中、僅かな明かりだけが頼りの中での行為。今思えばお互い経験がない中での初めての行為にしては危険な試みだった。しかも、環境もサイアクな部屋。
誰も知らない部屋と言うジェマの遊び場。秘密の部屋は狭く小さなテーブルに仮眠用の狭いベッド。一人ならちょうどいい憩いの場で初めて素肌を晒して重ねた。
「はッ、ン、はぁ、はぁ、は、ぁ」
狭いベッドで平均身長の高い二人の若者には窮屈だった。それでも何とか耐えたベッドの上で息をするジェマ。額に、首筋に、至る所に汗を滲ませる彼女は疲れたように瞼を降ろし長い睫が影を作っている。綺麗な形をした眉が寄せながら短い呼吸を繰りかえしている。痛かったのだろうか。
「はぁっ、ジェマッ」
身を屈めて慣れないながら目尻にささやかキスを送る。ピクと動く瞼が重くゆっくりと上がり潤んだ瞳が現れる。
「はっ、れおな、さっ」
上がる息に途切れる掠れた声がいやに艶っぽく耳の奥を刺激する。
もっと、感じたい。さっきの熱で溶け合う錯覚を思いだす。あれくらい訳もわからず一つになりたい。「でも駄目だ」と引っ込んでいた理性が戻って囁く。それでもまだ若い獣の本能が止まらない。止められない。
「ジェマッ」
「ぁ、れおなさっ、んぅ」
もうこれ以上は彼女の身体が丈夫とはいえもたないだろう。でも、それでも、と身勝手な本能を抑えたくて艶めく唇に噛みついた。
「ん、ふっぅ、はぁンっ」
無理だと肩を押される覚悟で重ねた唇をジェマは受け入れてくれた。ならば、もっと肌の熱を感じたいと背中に腕を回して抱き込んでさらに深く口づける。お互いの舌を根元まで絡ませて唾液を零しながら飽きるくらいキスを続けた。
やがて衝動的なキスも終わり二人狭いベッドで窮屈に身体を丸めて横になる。お互いの息もようやく落ち着いた頃、周りの音が入ってくる。すると、先ほどまで本能に急き立てられていた神経が落ち着いてゆっくりと疲れが身体に滲んでいく。
「れおなさん、あめ、ふってるわ」
「ん」
ピロトークらしいけれど俺はもう動けないし意識が保てない。気だるく軽い返事にもなっていない声を出し抱き寄せる。
「ぁ、レオナさん、落ちる」
「だいじょーぶだ」
「あと、こんなところで寝たらたら風邪引くから」
僅かに声はかすれているけれど声に力が戻ってくる。その穏やかな低い声にさらに眠気が誘われついに寝てしまった。
起きた後、彼女はすでに部屋を出る準備が出来ていたので恥ずかしい思い出だ。
あの場所は密やかに熱を掻き合わせるのにいい場所だ。ただ、環境があまりよろしくないと思っていた。でも、密やかに肌を重ねるのにやはりいい場所で結局同じ場所で数えられる程度だが肌を重ねた。その度に柄にもなく深く繋がっていく心地がした。
十八の誕生日を迎える前のサマーホリデー。ほぼ公然の秘密の付き合いとなった俺とジェマ。周りのメディアは婚約まで秒読みなど騒ぎ立てている。同時に忌々しい兄貴も「いつするんだ」と落ち着かない。自分自身がこの時期にすでに義姉さんと婚約していたからメディアと同じく秒読みと考えているみてぇだ。まったくオメデタイ頭をしてやがる。
フンと心の中であしらっていると唇に柔らかな感触がして離れた。
「心ここにあらずね」
「ぁ……」
鬱陶しいと思っていたら行為に出てしまったらしい。もう冷めたと表情で訴えるジェマが膝から降りようとするのを腰に腕を回して引き留める。ついでに細い尾に自分の尾を絡めると絡み返される。内心安堵の溜息を零しながらご機嫌伺いをする。
「悪かった、拗ねるな」
「拗ねるって言うよりも呆れたの」
僅かに浮かした腰を下ろして顔を近づけるジェマ。出会ったときよりも大人に近づいている。それはきっとジェマだけではなく俺自身もそうなのだろう。
「出会っても三年になるのかしら?」
「だな」
出会って三年。もうすぐ十八歳となりナイトレイブンカレッジでの生活も三年目に入る。使える駒の数が増えるのかと愉快な気分になると同時にもうすぐあの王宮に生涯を縛られると思うとうんざりした気分にもなる。
「ハァ。留年でもするか」
「あら、そんなこと言ったら兄様が寂しがるわ」
「アぁ? なんでだよ?」
彼女の兄であり先代サバナクロー寮長はマジフト選手をしている。何とも自由な男だが何だかんだ公務も行っているんだから真面目な男だ。
「兄様が今からスカウトするって張り切っているの」
意外なことに目を丸くすると同時にそういう選択肢を選んだいいのかと思った。
「……俺は夕焼けの草原の第二王子だぞ」
「知ってるけど、だから何なの?」
王宮以外の終わりを想像したことがなかった。そう零せば、彼女は意外そうに目を見開いた。
「あら。そうなの? 意外だわ」
「そうか?」
「ええ。だって、貴方なんでも出来るのに」
「もったいない」と付け足す彼女にどういう意味だという視線を向ける。それに彼女は心底意外だという顔をしながら話を続ける。
「わからない? レオナさん、貴方はどこへだって行けるのよ」
どうしてわからないの、と言いたげな顔に信じられないといった驚愕があった。
「……どうして、お前はどこへでも飛んでいける翼があるみてぇなこと言うんだ」
「だって、そういう力を貴方は持っているから」
俺自身の力を信じて疑わない顔は今まで周りにいた〝人間〟とは全く違った。俺はこのとき今までいた世界がとても狭く見えて来た。
「ハッ、くっくく。ジェマ。お前最高だな」
感謝の印に唇にキスを送り、また彼女の背中を意味ありげに撫でる。
ジェマに惹かれ始めた頃を思い出す。春風のような穏やかさが切っ掛け。でも、それ以前にきっと真っ直ぐに俺を見てくれる眼差しに惹かれていた。俺がずっと求めていたモノ。だから、隣にいるのが心地よく春風のように思えたのだ。だから、手放せない。
『まさかッ! まさかッ! まさかの展開!』
『常勝サバナクロー寮が一回戦で姿を消したッ!』
耳障りな歓声と解説に何てことのない顔で称賛を浴びる忌まわしい王の姿。
久々に味わった身体中に染み渡るほどの屈辱と怒り。自分がまた正統な王位継承者に負けた。産まれ持ったときから地位も、力も、持った奴に負けた。
力があればやっていける。それを覆す男に出会った。出会ってしまった。
奥歯を噛んで空に浮かぶ男を睨みつけた。
* * *
大会後、保健室で目を覚ました。保健室に運ばれた生徒はまだ疲れで眠り続ける中、疲労抜けきらぬまま目が覚めてしまった。霞む視界に頭痛が起きそうで目を再び閉じる。
負けた。計画は失敗し負けた。オーバーブロットから来る疲労から考えても綺麗に負けた。それでも以前よりも込み上げるモノは少ない。ただ、少ないだけでやはりあの悠々とした王位継承者は腹が立つ。
「クソッ」
結局、牙を鋭く研いでも喉元に噛みつくことも出来なかった。無様だ。
こんな姿を彼女はどう見るだろうか。あの日、牙を取り戻すために別れを告げてあっさりと俺を突き放した女。美しく微笑んで「さようなら」と手を優雅に振った女は今の俺をどう見るだろうか。俺をあの後輩のように真っ直ぐに見据えて来た女は失望していないか。
ジェマ。いまだに忘れられない春風のような女。彼女を忘れたふりを過ごした一年と少し。彼女は魔法学校を卒業して国に戻ったのか、それともどこか飛んで行ったのだろう。
連絡しようと思っていた。計画が成功し再び常勝サバナクロー寮を、強い寮を取り戻して連絡しようと思った。
「ダセぇ」
考えればなんてクサイことを考えていたんだか。優勝して連絡するなんてティーンかダサい男がすることだ。留年しているとはいえもうティーンといえる年齢でもないのに。ダサイことをしてしまった。ジェマのことになるとどうも駄目だ。
牙を取り戻すために何とか離した手にすがろうともしなかった女だ。それに彼女は春の風と例えたのだ。風のように気ままにどこかへ行ってしまったかもしれない。
それならまた捕まえに行くだけ、ただそれだけだ。
2021.06.26