ヒプノシスマイク
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命をかけた揉め事が落ち着き、あなたに会える最後の日。
ちょうど2月14日だということにかこつけてドサクサに差し出したリボン付きの赤いハートは受け取ってもらえなかった。「依頼人から物貰うわけにはいかねぇんで」そう言って断る顔があまりに優しくて。
先生、好きです。
その言葉まで断られたら立ち直れないから。
喉まで出かかった言葉の代わりに「明日からはもう依頼人じゃないです、明日なら貰ってくれますか?」と屁理屈を並べた。必死すぎて俯く私の頭を見下ろしていた先生が、膝を折って目線を合わせてくる。「……自分で稼いで買えるようになったらアレ贈ってくれや」そう言って事務所の窓から見える高級チョコレート屋の看板を顎で指した。そんな仕草も格好良い。ずるい。
(だから、それまで絶対生き続けろ)
柔らかい瞳の奥がそう言った。
帰りがけ、ガラス越しに店の中を覗いてみた。高級だとは知っていたけどお菓子とは思えない値段ばかりで目を剥いた。高校生になったらバイトして買おうと思ってたけどこれは厳しそうだ。ちゃんと社会に出てある程度稼がないと。先は長いな。ちゃんと勉強して、良い大学に入って、しっかりした仕事に就職して、あの素敵な箱を自分で手に入れて、胸を張って渡してやる。次は断られないように最高の美女になってやる。贈り主を失ったハートの中身をバリボリ頬張りながら人生計画を練った。少し前まではどうやって終わらせようか、それしか考えられなかったというのに。
ベビーカーを押している義妹の買い物に付き合って入店した店で急に蘇ったあの日の景色。目の前のキラキラした箱たちはもう、ちょっとしたご褒美として手が届くようになっていた。旦那の分と私の分と~と楽しそうに選ぶ義妹の隣でそっと外を振り返る。道の向こう側、立派なビルの上層階。あの辺だったな…とキラキラ光を反射する窓を見上げる。こっからじゃ何も見えっこないけれど、あの時の気持ちがぶり返して窓を熱心に見つめた。「ねぇお義姉さん、お兄ちゃんの分はどうします?甥っ子ちゃんはまだチョコ食べれないかな」義妹がベビーカーを覗き込むのがわかって、返事をしようと目線を下げ、ハッ…と釘付けになった。ビルから出てきた白黒のジャケット。顔が見えないほど遠いのに、今まで忘れていたくらい時が経っているのに、どうしてこんなに胸が締め付けられるのだろう。ああ、先生、お元気でしたか。先生のおかげで私、自分のだけじゃなく新しい命まで繋いで生きています。あの時、先生が受け取ってくれなかったから。私の「恋」は受け取ってくれなかったけど、確かに「愛」を返してくれたから。ありがとう、先生。
「…旦那にはコレ、自分用にはコレ…あとコレも買っちゃおうかな」
「あはは、自分用に二つですか?最高!」
最後に選んだ赤いハートの箱を指差して義妹がけらけら笑う。あの日のハートの何倍も値の張る綺麗なハート。先生へ。そしてあの時の私へ。よく頑張りました。ご褒美だよ。帰ったらバリボリ頬張りながらこれから先の人生計画を練ろう。
正真正銘、自分の努力で手に入れた新しいハートを引っ提げて、キラキラ陽の注ぐ路へ一歩踏み出した。
ちょうど2月14日だということにかこつけてドサクサに差し出したリボン付きの赤いハートは受け取ってもらえなかった。「依頼人から物貰うわけにはいかねぇんで」そう言って断る顔があまりに優しくて。
先生、好きです。
その言葉まで断られたら立ち直れないから。
喉まで出かかった言葉の代わりに「明日からはもう依頼人じゃないです、明日なら貰ってくれますか?」と屁理屈を並べた。必死すぎて俯く私の頭を見下ろしていた先生が、膝を折って目線を合わせてくる。「……自分で稼いで買えるようになったらアレ贈ってくれや」そう言って事務所の窓から見える高級チョコレート屋の看板を顎で指した。そんな仕草も格好良い。ずるい。
(だから、それまで絶対生き続けろ)
柔らかい瞳の奥がそう言った。
帰りがけ、ガラス越しに店の中を覗いてみた。高級だとは知っていたけどお菓子とは思えない値段ばかりで目を剥いた。高校生になったらバイトして買おうと思ってたけどこれは厳しそうだ。ちゃんと社会に出てある程度稼がないと。先は長いな。ちゃんと勉強して、良い大学に入って、しっかりした仕事に就職して、あの素敵な箱を自分で手に入れて、胸を張って渡してやる。次は断られないように最高の美女になってやる。贈り主を失ったハートの中身をバリボリ頬張りながら人生計画を練った。少し前まではどうやって終わらせようか、それしか考えられなかったというのに。
ベビーカーを押している義妹の買い物に付き合って入店した店で急に蘇ったあの日の景色。目の前のキラキラした箱たちはもう、ちょっとしたご褒美として手が届くようになっていた。旦那の分と私の分と~と楽しそうに選ぶ義妹の隣でそっと外を振り返る。道の向こう側、立派なビルの上層階。あの辺だったな…とキラキラ光を反射する窓を見上げる。こっからじゃ何も見えっこないけれど、あの時の気持ちがぶり返して窓を熱心に見つめた。「ねぇお義姉さん、お兄ちゃんの分はどうします?甥っ子ちゃんはまだチョコ食べれないかな」義妹がベビーカーを覗き込むのがわかって、返事をしようと目線を下げ、ハッ…と釘付けになった。ビルから出てきた白黒のジャケット。顔が見えないほど遠いのに、今まで忘れていたくらい時が経っているのに、どうしてこんなに胸が締め付けられるのだろう。ああ、先生、お元気でしたか。先生のおかげで私、自分のだけじゃなく新しい命まで繋いで生きています。あの時、先生が受け取ってくれなかったから。私の「恋」は受け取ってくれなかったけど、確かに「愛」を返してくれたから。ありがとう、先生。
「…旦那にはコレ、自分用にはコレ…あとコレも買っちゃおうかな」
「あはは、自分用に二つですか?最高!」
最後に選んだ赤いハートの箱を指差して義妹がけらけら笑う。あの日のハートの何倍も値の張る綺麗なハート。先生へ。そしてあの時の私へ。よく頑張りました。ご褒美だよ。帰ったらバリボリ頬張りながらこれから先の人生計画を練ろう。
正真正銘、自分の努力で手に入れた新しいハートを引っ提げて、キラキラ陽の注ぐ路へ一歩踏み出した。
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