短編
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「名前さん、…あ」
画面から顔を上げないまま名を呼んで、いつもならすぐにある返事がないことに不審に思い、そしてすぐ気付く。
そうだ、彼女は今いないんだった。
日本の警察数名と共用の捜査室。
そこにいつもある顔が、今日はひとつ足りない。
苗字名前。
唯一の女性捜査員だ。
彼女には今単独で動いてもらっており、しばらくは戻らないのだった。
普段にこにこと華のある彼女一人欠けただけで酷く殺風景に見えるのだから不思議だ。彼女含め全員地味な色味のスーツなのだから特別視覚的に色が欠けたわけでもないのに。
なんとなく物寂しい気持ちになって手の届く範囲にある菓子をいくつか手に取るが、どれも今は気分じゃない。
何か飲みたい。
そこでようやく自分の飲み物が用意されていないことに気がつく。
ワタリに言えばすぐ用意されるだろうけれど、そうじゃない。
ここ最近は、彼女が出勤してくる際に自分用に買っている物と同じものを差し入れしてくれていたのだ。ついでだからと言って。
世界中にある某チェーン店のマークのついた紙カップ。
あれが、今日はない。
別にそれが大好物だというわけでもないが、一度気付いてしまうととても気になる。
がしがしと後頭部を掻いて、このままだと集中力に影響すると潔く認め、椅子から降りた。
「すみません、ちょっと出てきます」
「えっ?ちょっとってどこへ!?」
「すぐ戻ります」
…たぶん。
適当にあしらって久しぶりにひとりで外出する。
…なぜワタリに頼まなかったのだろう。
歩きながら疑問に思う。なぜか自分で買いに行く選択肢しかなかった。
最寄のその店のドアを開ければ、香ばしい珈琲の匂いが鼻を突いた。
ざっとメニューに目を通すが呪文のようで目がすべる。
「いらっしゃいませ」
「…カフェラテをひとつ」
「ホットとアイスがございますが」
「ホットで」
「サイズはいかがなさいますか?」
「普通で」
なにもわからない。
いつも買ってきてくれるのがホットということ以外、なにもわからない。
サイズも何があるのかすらわからない。
いつも大きすぎず小さすぎないカップなので普通で問題ないだろう。
何も聞いてくれるな、というオーラが伝わったのか質問はそこまでだった。
言われた通り、ランプの下で待つ。
出てきたマグカップを見てしまった、と思う。
持ち帰りというのを忘れた。聞かれなかったからだが。
心の中でアンケートにクレームを書き連ねながら仕方なく窓辺のソファに腰掛ける。
湯気の立つそれに口を近づけふぅふぅと冷まし、ずず、と一口。
そこで気付く。
違う。
これじゃない。
店内を見渡し、砂糖や蜂蜜の置いてあるカウンターを見つける。
シナモンパウダー。
これはきっといつも入っている。シナモンの香りが微かにするからだ。入れてみて一口。違う。甘党の私のために多めに砂糖を入れてくれていることを思い出す。(それでもワタリの淹れてくれる珈琲よりは苦いのだが)
シュガーポットを空にする勢いで砂糖を注ぐ。片づけをしていた店員が目を剥いたのは無視する。一口。違う。甘さの種類が違う。蜂蜜。これか?フォームミルクが沈み込むくらい垂らし入れる。一口。違う。いや、少し近くはなった。蜂蜜は入っている。何が違う?そもそもこんなに乳臭くないような。
「すみません、」
「あ、はい、お困りでしょうか」
「カフェラテというのはこの一種類ですか」
「カフェラテという商品はこちらになりますが、似たようなものにソイミルクを使用したソイラテ、エスプレッソを使用したカプチーノ、キャラメルソースを添えたキャラメルマキアート、エスプレッソにチョコレートシロップとミルクを加えホイップクリームをトッピングしたカフェモカ、同じものをバニラシロップでお作りしたホワイトモカ、期間限定でチョコレートラテもご用意しております。またすべてミルクをソイミルクに変更可能でございます。ディカフェのご用意もありますのでお好みでお試しくださいませ」
通りがかりの店員を呼び止めて聞けば、にこやかにすらすらと呪文を吐いた。
なんだって。
ベースがそれだけの選択肢がある上に、カスタムも自由自在、加えてこのブースにある砂糖類も…組み合わせは無限大だ。
思わぬところで突きつけられた難題に瞳孔が開くのがわかる。
こんなところで超難関パズルに出会えるとは。
乾いた唇をぺろりと舐め、爛々とした瞳で店員を射抜く。
「…なるほど、ではそれらをひとつずつ、全部ください」
「ありがとうございます、恐れ入りますがレジでのご注文をお願いしてよろしいですか?」
「…………ああ、はい」
出鼻をくじかれた。
***
「!? なんですかその大荷物、竜崎!?」
「皆さんにお土産です」
両手に紙袋を提げて戻った自分を見て松田が騒ぐ。
ひとつひとつ机に並べ、片っ端から一口飲む。
お土産、といわれて集まってきた面々はその様子を見てお前が飲むのか…という顔をした。
「…ほら、どうぞ」
「ほらじゃないですよ!全部竜崎の飲みかけじゃないですか!」
「味見しただけです。どれも美味しいですよ」
「ええ~…」
直接手渡せば、いやな顔をしながらも渋々受け取って口をつける。間接キスだなどとくだらないことをいう奴はいないらしい。良識のある大人揃いで良かった。
さて。
今持ち帰ったのは全てカスタムなしのそのままの商品。
味が近いのはソイラテ、しかし確実なのはチョコレートソースが入っているということ。モカのミルクをソイに変更しているのか?彼女はそこそこ甘党だが、健康志向もあって豆乳を好んでいた話を思い出す。加えてチョコレートも好物…しかしキャラメルの味がする気もするし、シナモンパウダーも多分入っている。朝は目覚めるためにカフェインを取りたいと言っていたからディカフェの可能性は消える…
事件のことはそっちのけでカスタムを解き明かすことで頭がいっぱいだ。
これは明日も買いに行かなければ。
***
「また買ってきたんですか竜崎~!ここのところ毎日じゃないですか、そんなに気に入ったんですか?」
「安心してください、今日は皆さんの分はありません」
「ええ~!?そこは買ってきてくださいよお~」
見つけた。
やっと見つけた。
この味だ。
毎日通っていろいろ試した結果、彼女のお気に入りをついに突き止めた。
店員に顔を覚えられてしまったのは失態だが、おかげで砂糖を瓶ひとつあけても何も反応されなくなった。
毎日彼女の細かい言動や好みを思い返しながら推理して突き止めた懐かしい味に舌鼓を打つ。注文して即確認し、ついにこの味にたどり着いたことに興奮して同じものをもうひとつ買ってしまった。彼女が今日帰ってくるという報せはない。むしろ予定の帰還日まであと数日あった。冷めてしまったら勿体無いし、自分で二つ飲んでもかまわないが、これは彼女の分と思って購入したのだ、自分で飲むのは…、これを用意することによって彼女が早めに戻ってくるような願掛けのようなものだった。
「すみません、戻りました」
「! 名前さん、」
「名前ちゃん!早かったね!?」
己の反応に被って名前を呼んだ上にいち早く駆け寄った松田に思わず舌打ちが漏れる。全身が沸騰したように瞬間的に上がった体温は一気に冷め、立ち上がりかけた浮いた尻を、黙って椅子へと戻した。
優秀なので、と軽口を叩いて松田と談笑している彼女にすらイライラが向く。
と、笑顔のままの彼女がこちらを向いてばっちり目が合ってしまい、自然と背筋が伸びた。
「竜崎、ただいま戻りました」
「…おかえりなさい」
「ふふ、なんだか久しぶりで嬉しいです、はい、これいつもの、」
久しぶりで嬉しい?そう言ったか?
再びカッと熱くなる身体に気付かない振りをしながら差し出されたそれを見る。あ。某チェーン店の紙カップ。ほんのりキャラメルの匂い。これは。
「って、あれ?竜崎、それ…」
「…はい、”いつもの”です。かぶっちゃいましたね」
驚いて目を丸くしたまぬけな顔もかわいい。
願掛けで買ったこれが無駄にならなかったことも嬉しいが、急いで戻ってきたはずの彼女がちゃっかり寄り道をして自分と私の分だけ”いつもの”を買ってきてくれたことが嬉しい。
「えっ、いつものって、私結構カスタムしてますよ」
「まあ飲んでみてください」
訝しげな顔をした彼女にカップを渡し、代わりに彼女からカップを受け取る。うん、同じ味だ。私から受け取ったカップに口をつけた彼女の目がみるみる見開かれていくのをみて、自然と口角が上がった。とんでもなく満たされる満足感。
”キャラメルエクストラソースリストレットソイキャラメルマキアートホワイトモカシロップへ変更with チョコレートソースに蜂蜜とブラウンシュガーとシナモンパウダートッピング”、テイクアウトで。
(すごい!”いつもの”だ!?なんで!?)(私に解けない謎はありませんよ)
9万打リクエスト
「L相手、恋人未満。ヒロインが出張などで数日不在な間、寂しくて前にヒロインが飲んでて分けてもらった飲み物(カスタム可能なスタバやタピ的な)を探してお店に通い、どのカスタムか試して見つける。帰宅したヒロインと、お互いにそれを買ってて2倍だったりしたらいいなあ。 」
画面から顔を上げないまま名を呼んで、いつもならすぐにある返事がないことに不審に思い、そしてすぐ気付く。
そうだ、彼女は今いないんだった。
日本の警察数名と共用の捜査室。
そこにいつもある顔が、今日はひとつ足りない。
苗字名前。
唯一の女性捜査員だ。
彼女には今単独で動いてもらっており、しばらくは戻らないのだった。
普段にこにこと華のある彼女一人欠けただけで酷く殺風景に見えるのだから不思議だ。彼女含め全員地味な色味のスーツなのだから特別視覚的に色が欠けたわけでもないのに。
なんとなく物寂しい気持ちになって手の届く範囲にある菓子をいくつか手に取るが、どれも今は気分じゃない。
何か飲みたい。
そこでようやく自分の飲み物が用意されていないことに気がつく。
ワタリに言えばすぐ用意されるだろうけれど、そうじゃない。
ここ最近は、彼女が出勤してくる際に自分用に買っている物と同じものを差し入れしてくれていたのだ。ついでだからと言って。
世界中にある某チェーン店のマークのついた紙カップ。
あれが、今日はない。
別にそれが大好物だというわけでもないが、一度気付いてしまうととても気になる。
がしがしと後頭部を掻いて、このままだと集中力に影響すると潔く認め、椅子から降りた。
「すみません、ちょっと出てきます」
「えっ?ちょっとってどこへ!?」
「すぐ戻ります」
…たぶん。
適当にあしらって久しぶりにひとりで外出する。
…なぜワタリに頼まなかったのだろう。
歩きながら疑問に思う。なぜか自分で買いに行く選択肢しかなかった。
最寄のその店のドアを開ければ、香ばしい珈琲の匂いが鼻を突いた。
ざっとメニューに目を通すが呪文のようで目がすべる。
「いらっしゃいませ」
「…カフェラテをひとつ」
「ホットとアイスがございますが」
「ホットで」
「サイズはいかがなさいますか?」
「普通で」
なにもわからない。
いつも買ってきてくれるのがホットということ以外、なにもわからない。
サイズも何があるのかすらわからない。
いつも大きすぎず小さすぎないカップなので普通で問題ないだろう。
何も聞いてくれるな、というオーラが伝わったのか質問はそこまでだった。
言われた通り、ランプの下で待つ。
出てきたマグカップを見てしまった、と思う。
持ち帰りというのを忘れた。聞かれなかったからだが。
心の中でアンケートにクレームを書き連ねながら仕方なく窓辺のソファに腰掛ける。
湯気の立つそれに口を近づけふぅふぅと冷まし、ずず、と一口。
そこで気付く。
違う。
これじゃない。
店内を見渡し、砂糖や蜂蜜の置いてあるカウンターを見つける。
シナモンパウダー。
これはきっといつも入っている。シナモンの香りが微かにするからだ。入れてみて一口。違う。甘党の私のために多めに砂糖を入れてくれていることを思い出す。(それでもワタリの淹れてくれる珈琲よりは苦いのだが)
シュガーポットを空にする勢いで砂糖を注ぐ。片づけをしていた店員が目を剥いたのは無視する。一口。違う。甘さの種類が違う。蜂蜜。これか?フォームミルクが沈み込むくらい垂らし入れる。一口。違う。いや、少し近くはなった。蜂蜜は入っている。何が違う?そもそもこんなに乳臭くないような。
「すみません、」
「あ、はい、お困りでしょうか」
「カフェラテというのはこの一種類ですか」
「カフェラテという商品はこちらになりますが、似たようなものにソイミルクを使用したソイラテ、エスプレッソを使用したカプチーノ、キャラメルソースを添えたキャラメルマキアート、エスプレッソにチョコレートシロップとミルクを加えホイップクリームをトッピングしたカフェモカ、同じものをバニラシロップでお作りしたホワイトモカ、期間限定でチョコレートラテもご用意しております。またすべてミルクをソイミルクに変更可能でございます。ディカフェのご用意もありますのでお好みでお試しくださいませ」
通りがかりの店員を呼び止めて聞けば、にこやかにすらすらと呪文を吐いた。
なんだって。
ベースがそれだけの選択肢がある上に、カスタムも自由自在、加えてこのブースにある砂糖類も…組み合わせは無限大だ。
思わぬところで突きつけられた難題に瞳孔が開くのがわかる。
こんなところで超難関パズルに出会えるとは。
乾いた唇をぺろりと舐め、爛々とした瞳で店員を射抜く。
「…なるほど、ではそれらをひとつずつ、全部ください」
「ありがとうございます、恐れ入りますがレジでのご注文をお願いしてよろしいですか?」
「…………ああ、はい」
出鼻をくじかれた。
***
「!? なんですかその大荷物、竜崎!?」
「皆さんにお土産です」
両手に紙袋を提げて戻った自分を見て松田が騒ぐ。
ひとつひとつ机に並べ、片っ端から一口飲む。
お土産、といわれて集まってきた面々はその様子を見てお前が飲むのか…という顔をした。
「…ほら、どうぞ」
「ほらじゃないですよ!全部竜崎の飲みかけじゃないですか!」
「味見しただけです。どれも美味しいですよ」
「ええ~…」
直接手渡せば、いやな顔をしながらも渋々受け取って口をつける。間接キスだなどとくだらないことをいう奴はいないらしい。良識のある大人揃いで良かった。
さて。
今持ち帰ったのは全てカスタムなしのそのままの商品。
味が近いのはソイラテ、しかし確実なのはチョコレートソースが入っているということ。モカのミルクをソイに変更しているのか?彼女はそこそこ甘党だが、健康志向もあって豆乳を好んでいた話を思い出す。加えてチョコレートも好物…しかしキャラメルの味がする気もするし、シナモンパウダーも多分入っている。朝は目覚めるためにカフェインを取りたいと言っていたからディカフェの可能性は消える…
事件のことはそっちのけでカスタムを解き明かすことで頭がいっぱいだ。
これは明日も買いに行かなければ。
***
「また買ってきたんですか竜崎~!ここのところ毎日じゃないですか、そんなに気に入ったんですか?」
「安心してください、今日は皆さんの分はありません」
「ええ~!?そこは買ってきてくださいよお~」
見つけた。
やっと見つけた。
この味だ。
毎日通っていろいろ試した結果、彼女のお気に入りをついに突き止めた。
店員に顔を覚えられてしまったのは失態だが、おかげで砂糖を瓶ひとつあけても何も反応されなくなった。
毎日彼女の細かい言動や好みを思い返しながら推理して突き止めた懐かしい味に舌鼓を打つ。注文して即確認し、ついにこの味にたどり着いたことに興奮して同じものをもうひとつ買ってしまった。彼女が今日帰ってくるという報せはない。むしろ予定の帰還日まであと数日あった。冷めてしまったら勿体無いし、自分で二つ飲んでもかまわないが、これは彼女の分と思って購入したのだ、自分で飲むのは…、これを用意することによって彼女が早めに戻ってくるような願掛けのようなものだった。
「すみません、戻りました」
「! 名前さん、」
「名前ちゃん!早かったね!?」
己の反応に被って名前を呼んだ上にいち早く駆け寄った松田に思わず舌打ちが漏れる。全身が沸騰したように瞬間的に上がった体温は一気に冷め、立ち上がりかけた浮いた尻を、黙って椅子へと戻した。
優秀なので、と軽口を叩いて松田と談笑している彼女にすらイライラが向く。
と、笑顔のままの彼女がこちらを向いてばっちり目が合ってしまい、自然と背筋が伸びた。
「竜崎、ただいま戻りました」
「…おかえりなさい」
「ふふ、なんだか久しぶりで嬉しいです、はい、これいつもの、」
久しぶりで嬉しい?そう言ったか?
再びカッと熱くなる身体に気付かない振りをしながら差し出されたそれを見る。あ。某チェーン店の紙カップ。ほんのりキャラメルの匂い。これは。
「って、あれ?竜崎、それ…」
「…はい、”いつもの”です。かぶっちゃいましたね」
驚いて目を丸くしたまぬけな顔もかわいい。
願掛けで買ったこれが無駄にならなかったことも嬉しいが、急いで戻ってきたはずの彼女がちゃっかり寄り道をして自分と私の分だけ”いつもの”を買ってきてくれたことが嬉しい。
「えっ、いつものって、私結構カスタムしてますよ」
「まあ飲んでみてください」
訝しげな顔をした彼女にカップを渡し、代わりに彼女からカップを受け取る。うん、同じ味だ。私から受け取ったカップに口をつけた彼女の目がみるみる見開かれていくのをみて、自然と口角が上がった。とんでもなく満たされる満足感。
”キャラメルエクストラソースリストレットソイキャラメルマキアートホワイトモカシロップへ変更with チョコレートソースに蜂蜜とブラウンシュガーとシナモンパウダートッピング”、テイクアウトで。
(すごい!”いつもの”だ!?なんで!?)(私に解けない謎はありませんよ)
9万打リクエスト
「L相手、恋人未満。ヒロインが出張などで数日不在な間、寂しくて前にヒロインが飲んでて分けてもらった飲み物(カスタム可能なスタバやタピ的な)を探してお店に通い、どのカスタムか試して見つける。帰宅したヒロインと、お互いにそれを買ってて2倍だったりしたらいいなあ。 」