短編
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「ここ、よろしいですか」
「あ、はい、すみませ…あ、」
いつものカフェ、窓際のカウンター席。
空いているのを良いことに隣の椅子へ荷物を置いていたら、知らない間に混んできていたらしい。
同じくおひとり様であろう男性から声を掛けられ、慌てて荷物を退け先方を見やる。ボサボサの黒髪、隈取りのようなはっきりくっきりしたクマに縁取られたぎょろついた瞳、白いシャツ。強烈な個性を放つ男性を見て、脳内の記憶ボックスが一瞬で先日の出来事を呼び起こした。
◆◆◆
バサバサバサ
大きな音を立てて本が雪崩れる。
大型書店へ来ていた私は音に反応して振り返った。
見れば、何冊か本を抱えた男性が足元に大量の本をぶちまけて呆然と突っ立っている。平積みしてあった本にぶつかって床にばらまいてしまったようだ。ままある事態に本を拾うのを手伝う。突っ立ったままだった男性は私がしゃがんで本を拾うのを見てようやくのろのろとしゃがみこんだ。
「どうも、すみません」
「いえ」
「…………この棚はお詳しいですか?」
「え?」
この棚、との言葉に顔を上げればすぐ横の棚を指差している。ようやく男性が酷いクマで髪はボサボサ、ゆるいシャツにラフなジーンズ、裸足にスニーカーという出で立ちなことに気付く。正直怪しいし知り合いでなければまず声はかけないどころか避けて歩くだろう。
答えに詰まっていると男性は持っていた本をずい、と目の前に突きつけてきた。
「この分野の本を探していまして。あまり詳しくないのでより良い文献がありましたらご教授願いたい。同じ分野の本をお探しとお見受けしました」
言いながら私が持っていた本に視線が注がれる。なるほど、この本を手にしていたから詳しいかと聞いてきたのか。納得し得る理由もわかり、尚且つ得意分野であったためどんな用途の本を探しているのか簡単にヒヤリングして何冊かオススメを教えた。その場はそれで終わった。
「ーー……この間はどうも」
この人が私を覚えているか定かではないが、思わず声をかけてしまう。
飲み物を乗せたトレイをカウンターへ置いた男性はギョロリとこちらを向いた。
じぃ、と見つめられ居心地が悪い。
こちらは男性のあまりのインパクトに覚えていたけれど、私みたいな平凡な女のことをいちいち覚えていないかも。無言に堪え兼ね、人違いですと言おうか口を開く前に「ああ」と瞬きもしないまま頷かれた。
「本屋の。その節はお世話になりました、偶然ですね」
「いえ!偶然ですね」
「あの時はとても良い本を教えて頂きありがとうございました」
ぺこり、と頭を下げた彼はトレイの横に一冊の本を置いた。本屋でオススメした書籍より随分難しく踏み込んだ内容のものになっていて驚く。せいぜい数日しか経っていないのにもうこんな内容を理解できるというのか?
表紙をまじまじと見つめていると読みますか?と聞かれる。
「あっいえ、その本は持っているので」
「そうですか、それは失礼しました」
そう言うと彼はケーキの周りについたビニールをぺりぺりとめくった。
見れば飲み物一つにケーキが3つ、トレイから溢れそうになりながら狭そうに皿が乗っている。まさか一人で食べるわけじゃないよね。待ち合わせだろうか?連れがいるならどいた方が良いかな。残りの飲み物を一気に飲み干そうとカップに手をつけたところで彼は残り2つのビニールもぺりぺりと剥がし、遠慮なくフォークをずぶりと刺した。フォークは一つだ。まさか。
「……それ、お一人で食べるんですか?」
「…? はい」
何か問題でも?とばかりに一口ずつ綺麗な三角食べでケーキを口にする彼。口の中で味が混ざらないんだろうか。
もぐもぐと頰を膨らませながら私の方を見てきた彼は「貴女もこれを?」と期間限定のケーキにフォークを突き刺した。
私の前には空になった皿だけだが、皿やフォークに残っていたクリームを見て聞いてきたんだろう。
「……ええ、まあ」
「美味しいですねこれ、期間限定なのが惜しいです」
「!わかります!!だから終わっちゃう前にと思って今週二度目です」
よく知らない男性にベラベラと余計なことを言ってしまった、とハッとして誤魔化すようにカップに口をつける。
「そうなんですか。私も甘いものに目がなくて。毎日通いたいくらいです…この辺りに詳しくなくて…他に美味しいケーキが食べられる場所ご存知ですか?」
「あっそれならここの角を曲がったところのケーキ屋さんが美味しいですよ、あと駅前のカフェがーー」
私の週2発言にも引かず、むしろ上をいく毎日通いたい発言に調子に乗って推しているケーキ屋を教える。
そのあと好きなケーキが何種類か一緒だったこともあり少し雑談をして、先に店を出た。
◇◇◇
「おかえりなさいませ」
「ああ」
車に乗り込むと運転手がバックミラー越しに微笑んでくる。随分待たせてしまったことに謝ろうかと鏡越しに目を合わせれば「何か進展はありましたか?」と先に話題を振られた。
「……彼女、私のことを覚えていました」
「おや、それは良かったですね」
「やはり直接話しかけるのが一番効果的なようです…本屋で会ったのが初対面だと思っているようでした…明日はいきつけというケーキ屋へ行こうかと」
「……あまり遭遇率をあげると怪しまれますよ」
「…わかっている」
彼女の名前も住所も勤務地も全部全部判っている。
彼女に初めて会ったのはもう二カ月も前だ。一目惚れなんて信じていなかったのに雷に撃たれたような衝撃だった。こんなことが起こりうるなんて。それから接触を試みて苦手な人混みに紛れ電車で隣に座ってみたり、職場近くのよく出入りするカフェで待ち伏せてみたり、夕飯の買い物中のスーパーであとをつけたり。二カ月間たびたび外出しては視界に入ろうと行動したが彼女の世界に一切登場出来ないまま焦って平積みの本にぶつかってしまい雪崩を起こしてしまったのがつい三日前。
まさかそれで視界に入れるとは思いもよらなかった。どんな声で話すのか、どんな表情を見せるのか、二カ月で知り得たはずなのに自分に向けて発せられた声が、笑顔が、全くの別物に感じられて、全身を搔きむしりたい衝動に襲われた。
手ごたえを感じて今日はこちらから話しかけるという暴挙に出たが、まずまずの好感触ではないか?二度目だというのに随分心を許されたものだ。こちらが調べ尽くしているから教えられた店は全て知っていたが、それにしても会うのが二度目の見ず知らずの男性に自分の生活圏をほのめかす個人情報をベラベラと…危機感のなさに目眩がする。そんな人懐こいところも好感が持てると同時に誰にでもそれでは危な過ぎると苛つく。複雑な思いでざわざわする胸元のシャツを握り締めた。こんな気持ちになるのも生まれて初めてだ。
なんとしても懇意になりたい。
連続して「偶然」遭遇すると人間は運命を感じるという。しかし一歩間違えばストーカーと疑われお終いだ。(既にストーカーじみていることは棚に上げる)
じわじわと確実に。
このゲーム、必ずクリアしてみせる。
あと何回目で彼女に名前を尋ね「させられる」か策を練りながら爪を噛んだ。
9万打リクエスト
「珍しく外出したLが一般ヒロインに惚れ(この時点で絡みはあってもなくても)。また会いたいがために時々様子を見て、葛藤しつつ近づきたいL」
「あ、はい、すみませ…あ、」
いつものカフェ、窓際のカウンター席。
空いているのを良いことに隣の椅子へ荷物を置いていたら、知らない間に混んできていたらしい。
同じくおひとり様であろう男性から声を掛けられ、慌てて荷物を退け先方を見やる。ボサボサの黒髪、隈取りのようなはっきりくっきりしたクマに縁取られたぎょろついた瞳、白いシャツ。強烈な個性を放つ男性を見て、脳内の記憶ボックスが一瞬で先日の出来事を呼び起こした。
◆◆◆
バサバサバサ
大きな音を立てて本が雪崩れる。
大型書店へ来ていた私は音に反応して振り返った。
見れば、何冊か本を抱えた男性が足元に大量の本をぶちまけて呆然と突っ立っている。平積みしてあった本にぶつかって床にばらまいてしまったようだ。ままある事態に本を拾うのを手伝う。突っ立ったままだった男性は私がしゃがんで本を拾うのを見てようやくのろのろとしゃがみこんだ。
「どうも、すみません」
「いえ」
「…………この棚はお詳しいですか?」
「え?」
この棚、との言葉に顔を上げればすぐ横の棚を指差している。ようやく男性が酷いクマで髪はボサボサ、ゆるいシャツにラフなジーンズ、裸足にスニーカーという出で立ちなことに気付く。正直怪しいし知り合いでなければまず声はかけないどころか避けて歩くだろう。
答えに詰まっていると男性は持っていた本をずい、と目の前に突きつけてきた。
「この分野の本を探していまして。あまり詳しくないのでより良い文献がありましたらご教授願いたい。同じ分野の本をお探しとお見受けしました」
言いながら私が持っていた本に視線が注がれる。なるほど、この本を手にしていたから詳しいかと聞いてきたのか。納得し得る理由もわかり、尚且つ得意分野であったためどんな用途の本を探しているのか簡単にヒヤリングして何冊かオススメを教えた。その場はそれで終わった。
「ーー……この間はどうも」
この人が私を覚えているか定かではないが、思わず声をかけてしまう。
飲み物を乗せたトレイをカウンターへ置いた男性はギョロリとこちらを向いた。
じぃ、と見つめられ居心地が悪い。
こちらは男性のあまりのインパクトに覚えていたけれど、私みたいな平凡な女のことをいちいち覚えていないかも。無言に堪え兼ね、人違いですと言おうか口を開く前に「ああ」と瞬きもしないまま頷かれた。
「本屋の。その節はお世話になりました、偶然ですね」
「いえ!偶然ですね」
「あの時はとても良い本を教えて頂きありがとうございました」
ぺこり、と頭を下げた彼はトレイの横に一冊の本を置いた。本屋でオススメした書籍より随分難しく踏み込んだ内容のものになっていて驚く。せいぜい数日しか経っていないのにもうこんな内容を理解できるというのか?
表紙をまじまじと見つめていると読みますか?と聞かれる。
「あっいえ、その本は持っているので」
「そうですか、それは失礼しました」
そう言うと彼はケーキの周りについたビニールをぺりぺりとめくった。
見れば飲み物一つにケーキが3つ、トレイから溢れそうになりながら狭そうに皿が乗っている。まさか一人で食べるわけじゃないよね。待ち合わせだろうか?連れがいるならどいた方が良いかな。残りの飲み物を一気に飲み干そうとカップに手をつけたところで彼は残り2つのビニールもぺりぺりと剥がし、遠慮なくフォークをずぶりと刺した。フォークは一つだ。まさか。
「……それ、お一人で食べるんですか?」
「…? はい」
何か問題でも?とばかりに一口ずつ綺麗な三角食べでケーキを口にする彼。口の中で味が混ざらないんだろうか。
もぐもぐと頰を膨らませながら私の方を見てきた彼は「貴女もこれを?」と期間限定のケーキにフォークを突き刺した。
私の前には空になった皿だけだが、皿やフォークに残っていたクリームを見て聞いてきたんだろう。
「……ええ、まあ」
「美味しいですねこれ、期間限定なのが惜しいです」
「!わかります!!だから終わっちゃう前にと思って今週二度目です」
よく知らない男性にベラベラと余計なことを言ってしまった、とハッとして誤魔化すようにカップに口をつける。
「そうなんですか。私も甘いものに目がなくて。毎日通いたいくらいです…この辺りに詳しくなくて…他に美味しいケーキが食べられる場所ご存知ですか?」
「あっそれならここの角を曲がったところのケーキ屋さんが美味しいですよ、あと駅前のカフェがーー」
私の週2発言にも引かず、むしろ上をいく毎日通いたい発言に調子に乗って推しているケーキ屋を教える。
そのあと好きなケーキが何種類か一緒だったこともあり少し雑談をして、先に店を出た。
◇◇◇
「おかえりなさいませ」
「ああ」
車に乗り込むと運転手がバックミラー越しに微笑んでくる。随分待たせてしまったことに謝ろうかと鏡越しに目を合わせれば「何か進展はありましたか?」と先に話題を振られた。
「……彼女、私のことを覚えていました」
「おや、それは良かったですね」
「やはり直接話しかけるのが一番効果的なようです…本屋で会ったのが初対面だと思っているようでした…明日はいきつけというケーキ屋へ行こうかと」
「……あまり遭遇率をあげると怪しまれますよ」
「…わかっている」
彼女の名前も住所も勤務地も全部全部判っている。
彼女に初めて会ったのはもう二カ月も前だ。一目惚れなんて信じていなかったのに雷に撃たれたような衝撃だった。こんなことが起こりうるなんて。それから接触を試みて苦手な人混みに紛れ電車で隣に座ってみたり、職場近くのよく出入りするカフェで待ち伏せてみたり、夕飯の買い物中のスーパーであとをつけたり。二カ月間たびたび外出しては視界に入ろうと行動したが彼女の世界に一切登場出来ないまま焦って平積みの本にぶつかってしまい雪崩を起こしてしまったのがつい三日前。
まさかそれで視界に入れるとは思いもよらなかった。どんな声で話すのか、どんな表情を見せるのか、二カ月で知り得たはずなのに自分に向けて発せられた声が、笑顔が、全くの別物に感じられて、全身を搔きむしりたい衝動に襲われた。
手ごたえを感じて今日はこちらから話しかけるという暴挙に出たが、まずまずの好感触ではないか?二度目だというのに随分心を許されたものだ。こちらが調べ尽くしているから教えられた店は全て知っていたが、それにしても会うのが二度目の見ず知らずの男性に自分の生活圏をほのめかす個人情報をベラベラと…危機感のなさに目眩がする。そんな人懐こいところも好感が持てると同時に誰にでもそれでは危な過ぎると苛つく。複雑な思いでざわざわする胸元のシャツを握り締めた。こんな気持ちになるのも生まれて初めてだ。
なんとしても懇意になりたい。
連続して「偶然」遭遇すると人間は運命を感じるという。しかし一歩間違えばストーカーと疑われお終いだ。(既にストーカーじみていることは棚に上げる)
じわじわと確実に。
このゲーム、必ずクリアしてみせる。
あと何回目で彼女に名前を尋ね「させられる」か策を練りながら爪を噛んだ。
9万打リクエスト
「珍しく外出したLが一般ヒロインに惚れ(この時点で絡みはあってもなくても)。また会いたいがために時々様子を見て、葛藤しつつ近づきたいL」
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