名探偵のお気に入り
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「ドヌーヴは僕のことが嫌いなのかな」
「まぁ好きではないですね」
唐突に突きつけられた不躾な質問に不躾な即答を返す。
隣の端正な顔立ちが不愉快そうに歪んだ。
まぁ知ったことではないのだけど。そう思い、少女はブルーベリーが山盛り盛られたボウルを抱え直した。
「……嫌われるようなことしたかな」
「いえ、至って紳士的ですしお仕事も速くて的確で素晴らしいと思います」
「じゃあなんで、」
名前で呼んでくれないんだ。
不満気に発せられたその言葉を理解するのに時間を要し、少女はその長い睫毛に縁取られた碧い瞳をぱちくりと瞬いた。
「……ええと?」
「僕以外には名指しで呼ぶくせに僕の名を呼んだことはないじゃないか」
初めて会ったあの日に挨拶した以来、一度も名前を呼ばれていない。
「あの」だの「そうですね」だの「貴方」だの「あぁ」だの言うだけで名前を呼ばれていないのだ。それに気付いてしまったらもうあからさまに意図的に呼ばれていないことが気になって仕方なかった。故の冒頭の台詞だ。
「…必要ですか?呼ばなくても今迄会話出来ていましたよね?それに海砂ちゃんと話す時は名前も出ますよ」
「松田さんのことなんてマッツー呼ばわりなのにそこまで頑なに呼ばない理由を聞いても?」
「マッツーは海砂ちゃんのがうつって…ハァ…別に嫌いだから呼ばない訳ではありませんよ」
好きでもありませんが。
わざわざそう付け加えてブルーベリーを鷲掴み、頬張る。口元に垂れた紺色の汁をペロリと舌で舐めとる少女の次の発言を待ち望み、顔を凝視する。
「…夜神さんが2人いるので区別するためです」
「……は?」
「夜神さん、と呼んだら2人返事をされるのは非効率なので」
「そんな理由だったのか!?皆みたいに下の名前で呼べば良いだけじゃないか!」
「えっ総一郎さんって!?」
「なんでそっちだよ僕のことをだよ!月だよ!!!」
珍しく声を荒げてしまったらさもうるさいとばかりに顔を反らせて顰めっ面をされた。顰めっ面をしたいのはこっちなんだけど、イラついたように口の中で呟く。
「何故そうまでして呼ばれたいんです」
「別に呼ばれたい訳じゃないけど…ここまで頑なだと腹も立つっていうか」
「貴方と話すときはいつも目の合う距離なのだから話しかけているのもわかりますよね?呼ぶ必要ないじゃないですか?」
「そうかもしれないけど!」
何故ここまで名前を呼ばせようとするのか、もはや当人の月にすらわからなかった。引っ込みどころを失ったというか。口をへの字に曲げたまま座っている少女を見下ろすと、やれやれといったように頭を振ったその女は心底迷惑そうにじとりと見上げた。
「わかりました。呼びましょう。でもどうして呼ばなかったのかすぐわかりますよ」
「? どういう…」
「月くん」
少女の口から出た己の名にどきりとする。
散々呼ぶよう促しといて呼ばせたというのに、下の名前で呼ばれることなど珍しくもないのに、あまりに呼ばれなかったためか少女の口から己の名前が出たことに酷く動揺した。
返事をしようと口を開ける前に、鎖で繋がった隣の男から声が上がった。
「羨ましいですライトくん。ナマエ、私のことも下の名前で呼んでください」
「……」
「…こういうことです」
ほら面倒臭いでしょう。
少女が瞳で訴えてくるのに神妙な顔をして頷いてしまう。
「…『竜崎』、下の名前あるの?」
「……ありませんでした」
「じゃあ呼べないね」
「残念です…でもライトくんだけずるいです」
「あんまりワガママ言わないで、エル」
穴が開くほど少女を見つめた竜崎に呆れたように少女が声をかける。それを聞いたこの男はしばし目を瞬かせると「…ナマエのそういうところが好きです」とか言い出した。なんだ?窘められて喜ぶなんてMなのか?
「…というわけで必要最低限以外はお呼びしたくないのですが?」
「……ああ、わかった、悪かったよ、今迄通りで良い」
名前を呼ばれるたびにさっきのように突っかかられては面倒臭い。そんなことしないだろうと言い切れないのが恐ろしいところだ。
釈然としないまでも、名前を呼ばれない理由もわかったし割り切るか、月がそう納得しかけたところで新たな爆弾が落とされた。
「ああ、あとナマエはライトくんの名前が嫌いですもんね」
「!!竜崎!」
「…は!?」
落とされた爆弾は少女によって有耶無耶にされ真偽を夜神月が知ることはなかった。
「まぁ好きではないですね」
唐突に突きつけられた不躾な質問に不躾な即答を返す。
隣の端正な顔立ちが不愉快そうに歪んだ。
まぁ知ったことではないのだけど。そう思い、少女はブルーベリーが山盛り盛られたボウルを抱え直した。
「……嫌われるようなことしたかな」
「いえ、至って紳士的ですしお仕事も速くて的確で素晴らしいと思います」
「じゃあなんで、」
名前で呼んでくれないんだ。
不満気に発せられたその言葉を理解するのに時間を要し、少女はその長い睫毛に縁取られた碧い瞳をぱちくりと瞬いた。
「……ええと?」
「僕以外には名指しで呼ぶくせに僕の名を呼んだことはないじゃないか」
初めて会ったあの日に挨拶した以来、一度も名前を呼ばれていない。
「あの」だの「そうですね」だの「貴方」だの「あぁ」だの言うだけで名前を呼ばれていないのだ。それに気付いてしまったらもうあからさまに意図的に呼ばれていないことが気になって仕方なかった。故の冒頭の台詞だ。
「…必要ですか?呼ばなくても今迄会話出来ていましたよね?それに海砂ちゃんと話す時は名前も出ますよ」
「松田さんのことなんてマッツー呼ばわりなのにそこまで頑なに呼ばない理由を聞いても?」
「マッツーは海砂ちゃんのがうつって…ハァ…別に嫌いだから呼ばない訳ではありませんよ」
好きでもありませんが。
わざわざそう付け加えてブルーベリーを鷲掴み、頬張る。口元に垂れた紺色の汁をペロリと舌で舐めとる少女の次の発言を待ち望み、顔を凝視する。
「…夜神さんが2人いるので区別するためです」
「……は?」
「夜神さん、と呼んだら2人返事をされるのは非効率なので」
「そんな理由だったのか!?皆みたいに下の名前で呼べば良いだけじゃないか!」
「えっ総一郎さんって!?」
「なんでそっちだよ僕のことをだよ!月だよ!!!」
珍しく声を荒げてしまったらさもうるさいとばかりに顔を反らせて顰めっ面をされた。顰めっ面をしたいのはこっちなんだけど、イラついたように口の中で呟く。
「何故そうまでして呼ばれたいんです」
「別に呼ばれたい訳じゃないけど…ここまで頑なだと腹も立つっていうか」
「貴方と話すときはいつも目の合う距離なのだから話しかけているのもわかりますよね?呼ぶ必要ないじゃないですか?」
「そうかもしれないけど!」
何故ここまで名前を呼ばせようとするのか、もはや当人の月にすらわからなかった。引っ込みどころを失ったというか。口をへの字に曲げたまま座っている少女を見下ろすと、やれやれといったように頭を振ったその女は心底迷惑そうにじとりと見上げた。
「わかりました。呼びましょう。でもどうして呼ばなかったのかすぐわかりますよ」
「? どういう…」
「月くん」
少女の口から出た己の名にどきりとする。
散々呼ぶよう促しといて呼ばせたというのに、下の名前で呼ばれることなど珍しくもないのに、あまりに呼ばれなかったためか少女の口から己の名前が出たことに酷く動揺した。
返事をしようと口を開ける前に、鎖で繋がった隣の男から声が上がった。
「羨ましいですライトくん。ナマエ、私のことも下の名前で呼んでください」
「……」
「…こういうことです」
ほら面倒臭いでしょう。
少女が瞳で訴えてくるのに神妙な顔をして頷いてしまう。
「…『竜崎』、下の名前あるの?」
「……ありませんでした」
「じゃあ呼べないね」
「残念です…でもライトくんだけずるいです」
「あんまりワガママ言わないで、エル」
穴が開くほど少女を見つめた竜崎に呆れたように少女が声をかける。それを聞いたこの男はしばし目を瞬かせると「…ナマエのそういうところが好きです」とか言い出した。なんだ?窘められて喜ぶなんてMなのか?
「…というわけで必要最低限以外はお呼びしたくないのですが?」
「……ああ、わかった、悪かったよ、今迄通りで良い」
名前を呼ばれるたびにさっきのように突っかかられては面倒臭い。そんなことしないだろうと言い切れないのが恐ろしいところだ。
釈然としないまでも、名前を呼ばれない理由もわかったし割り切るか、月がそう納得しかけたところで新たな爆弾が落とされた。
「ああ、あとナマエはライトくんの名前が嫌いですもんね」
「!!竜崎!」
「…は!?」
落とされた爆弾は少女によって有耶無耶にされ真偽を夜神月が知ることはなかった。