名探偵のお気に入り
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何の変哲も無い白いTシャツにこれまた何の変哲も無いジーパン。
何処にでも売っていて誰もが着た事のあるその服も、私にとっては特別なんです。
「おはよ、エル」
「おはようございます」
鈴の鳴るような軽やかで甘くて快い声に、そちらを見ないまま返事する。
ちらり、と視界の端で盗み見ればしょんぼりしたように目線を下にやって入り口に立つ姿が目に入り、自然と口角が上がる。
私が見向きもしないとあからさまにしょんぼりし、少しでもそちらを見れば尻尾を振っているかのように明るい顔をするのだから反応が可愛くてつい意地悪をしてしまう。
ナマエはワイミーズハウスで私以来の秀才と評され、5歳の頃から度々私の元で共に事件解決をしてきた神童だ。まだ幼いけれども今迄私が生きてきた中で唯一といって良いほど頭が冴え、故に話も合う貴重な存在だった。
頭の回転も知識量も好奇心も全て馬が合う人間がこの世にいることが嬉しくて、興味深くて、観察し研究し共に過ごすうちに手に入れたい、常にそばに置きたい、自分しか見えなくしてやりたいと歪んだ独占欲に支配されるようになった。
それがどうやら世間では恋と呼ぶらしいと知ったのは18の時、彼女はまだ9歳だった。
自分はロリコンだったのかと思案したこともあったが、別に彼女が幼いから好きなわけではない、彼女が彼女だからとんでもなく愛おしいのだと結論付けてからは年の差のことは考えなくなった。
元々慕われている自覚はあったが、自分だけが恋慕の黒眼をじっと彼女から離さないのも面白くないのでじわりじわりと外堀から埋めていき、1年かけて彼女の全てをこちらに向けることに成功した。
彼女が夢中になるよう全て計算尽くで仕向けたのだから惚れられて然るべきだが、実際熱のこもった目線を浴びるのがこれ程までに興奮を呼ぶとは知らなかった。世の中にはまだまだ知らないことが多いらしい。面白い。
何か興味深い事件があるたびにワイミーズハウスの彼女を呼び付け、ワタリしか出入りしないその時々の秘密の捜査拠点に軟禁して捜査 に勤しむ。
事件が解決すれば引き止める理由もなくなるので出来る限り先延ばしにして共に過ごしたいが、事件解決というゲームが面白くて一緒に頭を捻るのが楽しくて、独りの時よりずっと早くずっと効率的に解決してしまい一度の逢瀬はいつもすぐ終わってしまうのだった。
彼女から想いを打ち明けてくれればすぐにでも共に在る理由が作れるのに、と自分から告白することを棚に上げて、漸く正面から入り口に突っ立っているナマエを見た。
ワンピースでもいけそうな少し大きめの白いTシャツにだぼっとしたサイズ感の明るいブルージーンズ。部屋は絨毯敷きといえど土足のはずなのにその足には何も履いておらず、小さな指先に桜貝のような爪が綺麗に並んでいた。
自分の姿を鏡で見ることは殆どないが、流石にこの格好の彼女が何を意味しているのかは解る。
最初の頃は毎度簡素なワンピースを着ていたというのに、彼女の気持ちがこちらに向いたなと思い始めた頃に突然この格好で現れた時はあまりの可愛い思考回路に思わず抱き着いてそのまま押し倒すかと思った。抱き着くのを我慢したどころか指一本触れなかったのを褒めて欲しいくらいだ。ナマエ自ら私のものになったような気になり、独占欲と支配欲が大いに満たされたあの衝撃は忘れられないし、その姿を視界に入れるたび笑ってしまいそうになる。
ワイミーズハウスを(というより彼女を)監視しているので知っているが、彼女はあまり朝に強くない。いつも朝食の時間ギリギリに起きてきて施設の子供たちに馬鹿にされている姿をモニター越しに見ているけれど、私の元にいる時はとんでもなく早起きだ。空が白む頃に部屋へやってきては私が先に起きていることにガッカリしているようだった。先に起きているのではなく寝ていないだけなのだけど。
私を起こしたい欲求を察していたから狸寝入りをしてやっても良いが、ドアから息を切らして顔を出し、その顔が一瞬落胆に染まるのを見るのが堪らなく好きなのでいつも徹夜してしまう。今日も今日とてその可愛い挙動を堪能した後、彼女は起きてすぐこちらに来たのだろうなと思い至る。
「朝ご飯は食べましたか」
「あ、ううん、まだ」
「丁度良かった、一緒にどうですか」
「え、」
「サンドウィッチですが。嫌いですか」
「う、ううん、好き」
好き、という言葉の破壊力に目眩を覚えながらその興奮をそのまま机に押し付けて、腕が机を押した力だけを推進力にキャスター付きの椅子でサンドウィッチの乗ったテーブルの前まで移動してくると傍にあった椅子をナマエに勧めた。
ラップのかかった白い皿には上品なサンドウィッチが数種、綺麗に並べられている。
白いTシャツに薄い青のジーパン、その先から覗く白くて小さな足が向かいに座ったのを視界の端で確認しながらラップをはずす。
「似合いますね」
「え?」
「そのTシャツ」
サンドウィッチへと手を伸ばしたせいでダイレクトに視界へ全身入ってきたナマエに、思わず声をかけてしまった。
サンドウィッチを取り落としそうになりながらこちらをギョッと見た彼女は一瞬で笑顔を貼り付けた。
「似合うも何も…ただの無地の白いTシャツなんて誰でも似合うよー」
「そんな事無いですよ」
食い気味に反論してしまったことに我ながら動揺し、アプリコットジャムのサンドウィッチに齧り付く。
「似合うのは私と貴女だけです」
黙るためにサンドウィッチを頬張ったというのに口は勝手にすごいことを吐き出していた。
自暴自棄になって
「好きなんですよね」
と吐き捨て、向かいを見れば、動揺したような絶望したような青くて赤い酷い顔をしたナマエと目が合い、加虐心がむくむくと全身を支配する。
はむ、とサンドウィッチをもう一口齧り
「その格好」
と続ければ、彼女は大層ガッカリしたような、けれどもあからさまにホッとしたようなこれまた複雑な顔をするものだからその可愛さについ口角が上がりそうになり、必要以上に口をひき結んだ。
自分の一言でこうも振り回される様を見るのがこんなに愉しいなんて。
内心、あらゆる欲が満たされて悦に浸っていると、彼女から爆弾が落とされる。
「好き、だよ、」
顔を上げないまま聞き取れないくらい小さな声で発せられたその音が甘く脳内にエコーする。
「私もです」
「…好きなんだ、とっても」
知っていますよ。私色に染まりきってくれた時からずっと。
その言葉を、服を言い訳にしないで、早く真っ直ぐ伝えてくれ、早く、早く、
自分からそうしないでナマエにだけ求めたまま、焦ったくて余計なことが飛び出しそうな口に残りのサンドウィッチを全部詰め込んだ。
何処にでも売っていて誰もが着た事のあるその服も、私にとっては特別なんです。
「おはよ、エル」
「おはようございます」
鈴の鳴るような軽やかで甘くて快い声に、そちらを見ないまま返事する。
ちらり、と視界の端で盗み見ればしょんぼりしたように目線を下にやって入り口に立つ姿が目に入り、自然と口角が上がる。
私が見向きもしないとあからさまにしょんぼりし、少しでもそちらを見れば尻尾を振っているかのように明るい顔をするのだから反応が可愛くてつい意地悪をしてしまう。
ナマエはワイミーズハウスで私以来の秀才と評され、5歳の頃から度々私の元で共に事件解決をしてきた神童だ。まだ幼いけれども今迄私が生きてきた中で唯一といって良いほど頭が冴え、故に話も合う貴重な存在だった。
頭の回転も知識量も好奇心も全て馬が合う人間がこの世にいることが嬉しくて、興味深くて、観察し研究し共に過ごすうちに手に入れたい、常にそばに置きたい、自分しか見えなくしてやりたいと歪んだ独占欲に支配されるようになった。
それがどうやら世間では恋と呼ぶらしいと知ったのは18の時、彼女はまだ9歳だった。
自分はロリコンだったのかと思案したこともあったが、別に彼女が幼いから好きなわけではない、彼女が彼女だからとんでもなく愛おしいのだと結論付けてからは年の差のことは考えなくなった。
元々慕われている自覚はあったが、自分だけが恋慕の黒眼をじっと彼女から離さないのも面白くないのでじわりじわりと外堀から埋めていき、1年かけて彼女の全てをこちらに向けることに成功した。
彼女が夢中になるよう全て計算尽くで仕向けたのだから惚れられて然るべきだが、実際熱のこもった目線を浴びるのがこれ程までに興奮を呼ぶとは知らなかった。世の中にはまだまだ知らないことが多いらしい。面白い。
何か興味深い事件があるたびにワイミーズハウスの彼女を呼び付け、ワタリしか出入りしないその時々の秘密の捜査拠点に軟禁して
事件が解決すれば引き止める理由もなくなるので出来る限り先延ばしにして共に過ごしたいが、事件解決というゲームが面白くて一緒に頭を捻るのが楽しくて、独りの時よりずっと早くずっと効率的に解決してしまい一度の逢瀬はいつもすぐ終わってしまうのだった。
彼女から想いを打ち明けてくれればすぐにでも共に在る理由が作れるのに、と自分から告白することを棚に上げて、漸く正面から入り口に突っ立っているナマエを見た。
ワンピースでもいけそうな少し大きめの白いTシャツにだぼっとしたサイズ感の明るいブルージーンズ。部屋は絨毯敷きといえど土足のはずなのにその足には何も履いておらず、小さな指先に桜貝のような爪が綺麗に並んでいた。
自分の姿を鏡で見ることは殆どないが、流石にこの格好の彼女が何を意味しているのかは解る。
最初の頃は毎度簡素なワンピースを着ていたというのに、彼女の気持ちがこちらに向いたなと思い始めた頃に突然この格好で現れた時はあまりの可愛い思考回路に思わず抱き着いてそのまま押し倒すかと思った。抱き着くのを我慢したどころか指一本触れなかったのを褒めて欲しいくらいだ。ナマエ自ら私のものになったような気になり、独占欲と支配欲が大いに満たされたあの衝撃は忘れられないし、その姿を視界に入れるたび笑ってしまいそうになる。
ワイミーズハウスを(というより彼女を)監視しているので知っているが、彼女はあまり朝に強くない。いつも朝食の時間ギリギリに起きてきて施設の子供たちに馬鹿にされている姿をモニター越しに見ているけれど、私の元にいる時はとんでもなく早起きだ。空が白む頃に部屋へやってきては私が先に起きていることにガッカリしているようだった。先に起きているのではなく寝ていないだけなのだけど。
私を起こしたい欲求を察していたから狸寝入りをしてやっても良いが、ドアから息を切らして顔を出し、その顔が一瞬落胆に染まるのを見るのが堪らなく好きなのでいつも徹夜してしまう。今日も今日とてその可愛い挙動を堪能した後、彼女は起きてすぐこちらに来たのだろうなと思い至る。
「朝ご飯は食べましたか」
「あ、ううん、まだ」
「丁度良かった、一緒にどうですか」
「え、」
「サンドウィッチですが。嫌いですか」
「う、ううん、好き」
好き、という言葉の破壊力に目眩を覚えながらその興奮をそのまま机に押し付けて、腕が机を押した力だけを推進力にキャスター付きの椅子でサンドウィッチの乗ったテーブルの前まで移動してくると傍にあった椅子をナマエに勧めた。
ラップのかかった白い皿には上品なサンドウィッチが数種、綺麗に並べられている。
白いTシャツに薄い青のジーパン、その先から覗く白くて小さな足が向かいに座ったのを視界の端で確認しながらラップをはずす。
「似合いますね」
「え?」
「そのTシャツ」
サンドウィッチへと手を伸ばしたせいでダイレクトに視界へ全身入ってきたナマエに、思わず声をかけてしまった。
サンドウィッチを取り落としそうになりながらこちらをギョッと見た彼女は一瞬で笑顔を貼り付けた。
「似合うも何も…ただの無地の白いTシャツなんて誰でも似合うよー」
「そんな事無いですよ」
食い気味に反論してしまったことに我ながら動揺し、アプリコットジャムのサンドウィッチに齧り付く。
「似合うのは私と貴女だけです」
黙るためにサンドウィッチを頬張ったというのに口は勝手にすごいことを吐き出していた。
自暴自棄になって
「好きなんですよね」
と吐き捨て、向かいを見れば、動揺したような絶望したような青くて赤い酷い顔をしたナマエと目が合い、加虐心がむくむくと全身を支配する。
はむ、とサンドウィッチをもう一口齧り
「その格好」
と続ければ、彼女は大層ガッカリしたような、けれどもあからさまにホッとしたようなこれまた複雑な顔をするものだからその可愛さについ口角が上がりそうになり、必要以上に口をひき結んだ。
自分の一言でこうも振り回される様を見るのがこんなに愉しいなんて。
内心、あらゆる欲が満たされて悦に浸っていると、彼女から爆弾が落とされる。
「好き、だよ、」
顔を上げないまま聞き取れないくらい小さな声で発せられたその音が甘く脳内にエコーする。
「私もです」
「…好きなんだ、とっても」
知っていますよ。私色に染まりきってくれた時からずっと。
その言葉を、服を言い訳にしないで、早く真っ直ぐ伝えてくれ、早く、早く、
自分からそうしないでナマエにだけ求めたまま、焦ったくて余計なことが飛び出しそうな口に残りのサンドウィッチを全部詰め込んだ。