名探偵のお気に入り
はじめにお名前変換してください
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「エル、何してるの?」
「ナマエ」
殺風景な広い部屋で、ノートパソコンを床に置き、その前にぺたりと座ったエルに声をかける。
この部屋には椅子もソファもないから床に座るしかないのだけど、カーペットも何も敷いてない冷たく硬い床にずっと座っていたら身体に悪そうだなぁと思いつつ、隣にしゃがみ込んだ。
途端、腰を掴まれ、あぐらをかき直したエルの脚の真ん中へ座らされる。冷たい裸足が当たって、やっぱり床に直接座っているのは身体に悪そうだ、と思った。
私を後ろから抱き込むように両手をお腹にまわしてぎゅっと密着してきたエルは、背中越しに感じる体温も低くて、私の肩に乗せてきた顎は尖って硬くて、すり、とくっつけてきた頰も冷たかった。
何かあったかいものを飲んだ方が良いんじゃない?と聞けば、ナマエがあったかいから大丈夫です、とさらに抱きしめてくるものだから最早羽交い締めにされているみたいだ。
10も歳の違うはずのこのカエル顔はいつもこうして甘えてくる。表情の読めない彼の細やかな表情の違いがわかるのは私とワタリくらいなものだろう。今の彼は随分ご機嫌だ。
左腕で私を抱きしめたまま、右手を伸ばしカチャカチャとキーボードを叩く。パッと画面に現れたウィンドウの中に見知った場所が映されて、思わずアッと声をあげた。
「えっ、なんでワイミーズ?」
「これから査定を行うので」
私がつい1年前まで暮らしていた懐かしい場所が映し出されて、思わず乗り出すように前屈みになって画面に注目する。エルが後ろから抱き込んでいるからあまり近づけなかったけれど。
画面の中ではワイミーズの子供たちが興味津々にこちらを覗き込んでいた。まさかと思ってエルを横目で見れば(顔が真横にあるので振り向くまでもない)大丈夫、こちらは見えてませんと返された。良かった。みんなにこの有様を見られていたら流石に恥ずかしい。というか憧れの「L」が私を羽交い締めにしてベタベタしている姿なんてみんなだって見たくないだろう。
懐かしい顔の中に知らない顔も1つ2つあって、もう私の知っているワイミーズじゃないんだなぁと感傷に浸っていると、エルの指がマウスを操作してスピーカーがオンになった。
私の唇に人差し指を押し当てて静かにするように指示したまま、耳元で静かに「Lです」と名乗った。
それまで物言わぬ画面を見ていた子供たちはワァっと画面に押し寄せてきた。目を輝かせてこんにちはL!と挨拶してくる。動かなかったのは壁際でチョコレートを齧るメロと部屋の奥でパズルをしているニアだけだった。
相変わらずだなぁと思いつつ、エルがいつまでも人差し指を私の唇にめり込ませたままなので黙って始まった質疑応答を眺める。たわいない質問から鋭い質問まで、エルはNG無しのように淡々と答えていった。
「正義心ではありません」
驚いて振り向けば、ピントがぼやけるほど近くにあった顔もこちらを向いた。
ちょっと首を前に出せばキス出来そうな距離で私達は見つめあっていた。
「難事件を解決するのは趣味です」
「皆さんがゲームをクリアしたいと思うのと同じ」
「正義ではありません」
エルが興味のある事件にしか手を出さないことも解決する為ならどんな違法なことでもすることも知っていたけれど、それをこの場でこんなにはっきり言うとは思わなかった。
驚いたままエルの顔を凝視していると、エルはその光の宿らないぎょろっとした瞳をこちらに向けたまま私をまっすぐ射抜いて
「そして、クリアする為なら手段を選ばない、負けず嫌いでずるい人間です」
と言った。
この発言はワイミーズの子達にショックを与えたようで、先程までの勢いのある質問は減り、自然とお開きとなった。
暗くなった画面を前に、軽くため息をついたエルが私の肩へおでこを押し付けた。かための髪が当たってくすぐったい。
相変わらず腹に腕が回されているので身動きは取れない。
「…私の後継者がいるとすれば、壁際にいた金髪の子か奥でパズルをしていた白髪の子でしょうね」
「メロとニア?」
「そういう名前なのですか、私は彼らの資料はまだ見ていないので」
「…査定ってそういうことだったの、2人とも施設のNO.2…いや、」
「今はきっとNO.1なんでしょうね、元NO.1がここにいますから」
そう言ってぎゅうと抱きしめられ、少し上がった顔はそのまま首筋に押し当てられて唇がちゅ、と音を鳴らした。
ぴく、と反応した私を愛おしむように抱きしめた手が脇腹を撫でる。
怪しくなってきた雰囲気を解くように明るい声で「どうしてあの2人?」と聞くと顔をあげたエルは「2人だけ質問会に参加せず私を観察していました。あの目つきの悪さは只者ではないです」と誰よりも目つきの悪い顔で答えたので笑ってしまう。
「流石エル、2人の目つきの悪さは私のお墨付きだし、 ワイミーズにいた頃は私と3人でよく謎解きやゲームをして遊んでたの。他の子達とは比べ物にならないくらい切れるよ、私と対等に遊べるんだもん」
「妬けますね」
ワイミーズ時代を思い出しながら笑顔で教えれば、そう言ったエルが頰に唇を押し付けてきて、ほっぺちゅーなんてかわいいものじゃない圧のそれに体幹が勝てず、そのまま押し負けて横向きに押し倒されてしまった。エルの腕は私に巻き付いたままだったのでエルも一緒に倒れてくる。横倒しになった私の上に馬乗りになるように乗っかって上体を起こしたエルは私の顔にかかった髪をそっと避けながら「まぁ知ってますけど」と呟いた。
「…えっ?」
「ずっと見てましたから。ナマエと仲が良いのは知ってましたよ」
「…………えっ?」
エルはワイミーズに来たことが無い。
ただ、私はワイミーズに入る直前の幼かった頃にエルと会ったことがある。一瞬すれ違っただけでそれがエルだったと知ったのはもっと後だったけれど、度々事件の解決を手伝えと呼び出されてはエルの元で直接事件を解く手伝いをしていた。何年も。他にワイミーズから出てそんなことをしてる子はいなかったから度々いなくなる私に不審がる皆(特にあの2人)には、私は身体が弱くて時々入院しているのだと説明されていた。
そして去年、もう充分大きくなったからとワイミーズから出され、ついにエルの元へ正式に配属になったのだ。配属というか、もう何年も前から私はエルにベタ惚れだったし、一昨年のある日耐え切れずにエルに告白したら無表情のまままさかのオーケーを貰えたので、元々秘密の恋人同士だったのが満を辞しての同棲になっただけだ。これはワタリしか知らない。よく出入りするFBIのエージェントなんかでも私はただの右腕だと思ってる人の方が多いだろう。私は仕事中は割り切ってビジネスライクに徹してるけど、エルは常にベタベタしてくるから察している人も少なくないかもしれないけど…。
話が逸れた。
そんなわけで、エルはワイミーズに来たこともないし、私以外の子のことも知らないはずだ。テストの点くらいは知っているのかと思ったけど、それも知らないようだし。なのに何故?いつも見てた…?
難しい顔をしたままエルを見上げていたら目を隠すように大きな手が降って来て顔の上半分を片手で覆われてしまった。何も見えない。下半分は出ているから息苦しくはないんだけど、なんだこれ。
「誰も知らないことですが、ワイミーズハウスには隠しカメラが至るところにあります。私とワタリは好きな時に見ることが出来ます。別に興味がないので見ることは殆どありませんが…ただ1人、興味がある子が出来てからはいつも見ていました」
いつも、を強調して言うものだからゾッとして身体をかたくした。私の顔に乗せたままのエルの手に軽く力が入る。頭を床に押さえ付けられるように固定され、「一昨年からは見るのを辞めましたけど」と声が降ってくる。なぜ、と自然に喉から掠れた声が出て、耳元で囁かれた言葉に全てを察して震えた。
「私はクリアする為なら手段を選ばない負けず嫌いでずるい人間ですよ」
「ナマエ」
殺風景な広い部屋で、ノートパソコンを床に置き、その前にぺたりと座ったエルに声をかける。
この部屋には椅子もソファもないから床に座るしかないのだけど、カーペットも何も敷いてない冷たく硬い床にずっと座っていたら身体に悪そうだなぁと思いつつ、隣にしゃがみ込んだ。
途端、腰を掴まれ、あぐらをかき直したエルの脚の真ん中へ座らされる。冷たい裸足が当たって、やっぱり床に直接座っているのは身体に悪そうだ、と思った。
私を後ろから抱き込むように両手をお腹にまわしてぎゅっと密着してきたエルは、背中越しに感じる体温も低くて、私の肩に乗せてきた顎は尖って硬くて、すり、とくっつけてきた頰も冷たかった。
何かあったかいものを飲んだ方が良いんじゃない?と聞けば、ナマエがあったかいから大丈夫です、とさらに抱きしめてくるものだから最早羽交い締めにされているみたいだ。
10も歳の違うはずのこのカエル顔はいつもこうして甘えてくる。表情の読めない彼の細やかな表情の違いがわかるのは私とワタリくらいなものだろう。今の彼は随分ご機嫌だ。
左腕で私を抱きしめたまま、右手を伸ばしカチャカチャとキーボードを叩く。パッと画面に現れたウィンドウの中に見知った場所が映されて、思わずアッと声をあげた。
「えっ、なんでワイミーズ?」
「これから査定を行うので」
私がつい1年前まで暮らしていた懐かしい場所が映し出されて、思わず乗り出すように前屈みになって画面に注目する。エルが後ろから抱き込んでいるからあまり近づけなかったけれど。
画面の中ではワイミーズの子供たちが興味津々にこちらを覗き込んでいた。まさかと思ってエルを横目で見れば(顔が真横にあるので振り向くまでもない)大丈夫、こちらは見えてませんと返された。良かった。みんなにこの有様を見られていたら流石に恥ずかしい。というか憧れの「L」が私を羽交い締めにしてベタベタしている姿なんてみんなだって見たくないだろう。
懐かしい顔の中に知らない顔も1つ2つあって、もう私の知っているワイミーズじゃないんだなぁと感傷に浸っていると、エルの指がマウスを操作してスピーカーがオンになった。
私の唇に人差し指を押し当てて静かにするように指示したまま、耳元で静かに「Lです」と名乗った。
それまで物言わぬ画面を見ていた子供たちはワァっと画面に押し寄せてきた。目を輝かせてこんにちはL!と挨拶してくる。動かなかったのは壁際でチョコレートを齧るメロと部屋の奥でパズルをしているニアだけだった。
相変わらずだなぁと思いつつ、エルがいつまでも人差し指を私の唇にめり込ませたままなので黙って始まった質疑応答を眺める。たわいない質問から鋭い質問まで、エルはNG無しのように淡々と答えていった。
「正義心ではありません」
驚いて振り向けば、ピントがぼやけるほど近くにあった顔もこちらを向いた。
ちょっと首を前に出せばキス出来そうな距離で私達は見つめあっていた。
「難事件を解決するのは趣味です」
「皆さんがゲームをクリアしたいと思うのと同じ」
「正義ではありません」
エルが興味のある事件にしか手を出さないことも解決する為ならどんな違法なことでもすることも知っていたけれど、それをこの場でこんなにはっきり言うとは思わなかった。
驚いたままエルの顔を凝視していると、エルはその光の宿らないぎょろっとした瞳をこちらに向けたまま私をまっすぐ射抜いて
「そして、クリアする為なら手段を選ばない、負けず嫌いでずるい人間です」
と言った。
この発言はワイミーズの子達にショックを与えたようで、先程までの勢いのある質問は減り、自然とお開きとなった。
暗くなった画面を前に、軽くため息をついたエルが私の肩へおでこを押し付けた。かための髪が当たってくすぐったい。
相変わらず腹に腕が回されているので身動きは取れない。
「…私の後継者がいるとすれば、壁際にいた金髪の子か奥でパズルをしていた白髪の子でしょうね」
「メロとニア?」
「そういう名前なのですか、私は彼らの資料はまだ見ていないので」
「…査定ってそういうことだったの、2人とも施設のNO.2…いや、」
「今はきっとNO.1なんでしょうね、元NO.1がここにいますから」
そう言ってぎゅうと抱きしめられ、少し上がった顔はそのまま首筋に押し当てられて唇がちゅ、と音を鳴らした。
ぴく、と反応した私を愛おしむように抱きしめた手が脇腹を撫でる。
怪しくなってきた雰囲気を解くように明るい声で「どうしてあの2人?」と聞くと顔をあげたエルは「2人だけ質問会に参加せず私を観察していました。あの目つきの悪さは只者ではないです」と誰よりも目つきの悪い顔で答えたので笑ってしまう。
「流石エル、2人の目つきの悪さは私のお墨付きだし、 ワイミーズにいた頃は私と3人でよく謎解きやゲームをして遊んでたの。他の子達とは比べ物にならないくらい切れるよ、私と対等に遊べるんだもん」
「妬けますね」
ワイミーズ時代を思い出しながら笑顔で教えれば、そう言ったエルが頰に唇を押し付けてきて、ほっぺちゅーなんてかわいいものじゃない圧のそれに体幹が勝てず、そのまま押し負けて横向きに押し倒されてしまった。エルの腕は私に巻き付いたままだったのでエルも一緒に倒れてくる。横倒しになった私の上に馬乗りになるように乗っかって上体を起こしたエルは私の顔にかかった髪をそっと避けながら「まぁ知ってますけど」と呟いた。
「…えっ?」
「ずっと見てましたから。ナマエと仲が良いのは知ってましたよ」
「…………えっ?」
エルはワイミーズに来たことが無い。
ただ、私はワイミーズに入る直前の幼かった頃にエルと会ったことがある。一瞬すれ違っただけでそれがエルだったと知ったのはもっと後だったけれど、度々事件の解決を手伝えと呼び出されてはエルの元で直接事件を解く手伝いをしていた。何年も。他にワイミーズから出てそんなことをしてる子はいなかったから度々いなくなる私に不審がる皆(特にあの2人)には、私は身体が弱くて時々入院しているのだと説明されていた。
そして去年、もう充分大きくなったからとワイミーズから出され、ついにエルの元へ正式に配属になったのだ。配属というか、もう何年も前から私はエルにベタ惚れだったし、一昨年のある日耐え切れずにエルに告白したら無表情のまままさかのオーケーを貰えたので、元々秘密の恋人同士だったのが満を辞しての同棲になっただけだ。これはワタリしか知らない。よく出入りするFBIのエージェントなんかでも私はただの右腕だと思ってる人の方が多いだろう。私は仕事中は割り切ってビジネスライクに徹してるけど、エルは常にベタベタしてくるから察している人も少なくないかもしれないけど…。
話が逸れた。
そんなわけで、エルはワイミーズに来たこともないし、私以外の子のことも知らないはずだ。テストの点くらいは知っているのかと思ったけど、それも知らないようだし。なのに何故?いつも見てた…?
難しい顔をしたままエルを見上げていたら目を隠すように大きな手が降って来て顔の上半分を片手で覆われてしまった。何も見えない。下半分は出ているから息苦しくはないんだけど、なんだこれ。
「誰も知らないことですが、ワイミーズハウスには隠しカメラが至るところにあります。私とワタリは好きな時に見ることが出来ます。別に興味がないので見ることは殆どありませんが…ただ1人、興味がある子が出来てからはいつも見ていました」
いつも、を強調して言うものだからゾッとして身体をかたくした。私の顔に乗せたままのエルの手に軽く力が入る。頭を床に押さえ付けられるように固定され、「一昨年からは見るのを辞めましたけど」と声が降ってくる。なぜ、と自然に喉から掠れた声が出て、耳元で囁かれた言葉に全てを察して震えた。
「私はクリアする為なら手段を選ばない負けず嫌いでずるい人間ですよ」
1/24ページ