「ねぇ、ジローは将来の夢とかもう決まってるの？」


プロテニスプレーヤーとか、そういう返事を想定してたんだけど、（クリーニング屋継ぐ、とかも想定してはいたんだよ）返ってきた返事はビックリするもので。


「ん、俺、『でっかいジロー』になる」


「、え？で、でっかいジロー？」
「うん。大きくなったらでっかいジローになるわけ！」
「…へー…」


それは身長を伸ばしたいという事なんだろうか。
それともウルトラマンのように大きくなりたいんだろうか。
ニコニコと嬉しそうにしているジローを見て深く追求できずに、あたしまで頬が緩んでしまう。


「そっちは？」
「え、私？そうだなぁ…うーん…」


『でっかいあたし』という言葉が過ぎったが、別にでっかくなりたくはない。


「雲、とかかなぁ」


もうすでに将来の話ではなくなった、と勝手に解釈して（まぁジローは大真面目にでっかいジローになりたいんだろうけど）小さい頃の夢を言ってみる。


「えー…反対…」
「反対？！」


人の夢に反対とかしないで頂きたいんですけど！
地味にショックを受けているとむくり、と起き上がったジローが大真面目に語りだした。


「だって雲ってとんでっちゃうし、なくなっちゃうんだよ！それに高いとこに浮かんでて手が届かないなんて俺嫌だＣ！」


そう言ってぎゅっと手を握られて、どきん、と胸が高鳴る。
真面目な目線が強すぎて、思わず目を逸らす。


「どこにも、行かない、よ」
「ホント？」


しぶしぶといったように手を離してくれたと思ったら、ほっとする間もなく肩を捕まれて。


「じゃあ鳥になればＥんだよ！」
「と、鳥？」
「空を飛びたいんじゃないの？？」


雲が美味しそうで雲になりたかったわけで、空を自由に飛びたいなー♪なんて風には思ってなかったんだけど、


「そうだね、鳥になろうかな」


そう言えば、これでもかってくらい顔をくしゃくしゃにして嬉しそうに笑うあなたが見れるから


「よーし、じゃあオレも『でっかいジロー鳥』になる！」
「え？！」
「で、どこまでも一緒に飛んでく！」


ぶーん！と叫びながら勢い良く立ち上がって、あたしの手を強く引いて、走り出す。
あたしも引っ張られて、転びそうになりながら一緒に走る。
ぶーん、は鳥じゃないよなぁ、なんて思うけれど、まぁいいか。



017　　volante （ヴォランテ * 鳥が飛ぶように）（音楽的に10のお題）