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紅の王子様
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「「「「「凌先輩おはようございまーす♡」」」」」
「ああ、おはよう」
毎朝声をかけてくる後輩に笑顔で返事を返せば、キャーと黄色い悲鳴が上がる。
この瞬間がたまらなく気持ちがいい。自分がこんな注目を浴びることがあるなんて。
元々女の子は大好きだし、昔っから男の子より女の子に人気が出る方が多かった。
バレンタインなんて持ち帰りきらないこともあったし、兄貴より何十個も上回ってることもたくさんあった。
それでも昔はみんなが自分を女だとわかっていて渡してて、それは本当にモテる、というのではない。
今では自分は男、本当に自分に恋心を持ち合わせてくれる子もいるのだ。
それがたまに罪悪感を生むこともあるけれど。
「おはよ、毎朝大変だね」
「ああ詩菜おはよ。そんな大変じゃねーよ?」
確かに気が滅入ってる時はめんどくさいけど、自分の言動一つ一つで女の子が舞い上がるのはとても気持ちがいいものだ。
最近の自分の趣味は
①女の子を惚れさせる
②女の子を夢中にさせる
③女の子を自分の虜にする
に限られてきている気がする。危ない。少し控えた方がいいような気もする。
たちまち凌様ファンクラブやら凌様研究同好会やらの数はあっという間に忍足や跡部の数を越えた。
最近では裏で隠し撮り写真も動いてるとのことで、女だとバレないように最新の注意を払わなければならない。
その上凌がやたらめったら部員と仲が良く、時たま見せる女っぽい表情のせいで
「凌様総受け」
という言葉が流行り出した。自分にはよくわからないけど、どうやらホモ物らしい。
「あの…凌先輩いらっしゃいますか?」
「………いたらなんなんだ」
「いえ、これを渡したくて…」
自分のファンの子が教室に来たりして、その対応を跡部もしくは忍足なんかがすると大変なことになったりする。
「跡部、今の子俺になんか渡すもんあったんじゃねえの?」
「手紙を預かっただけだ」
「いや、俺に見せろよ。」
「絶対見せねえ」
跡部か忍足に預けようものなら、自分には届かない。ちくしょう、こいつらはそんなに俺の邪魔して楽しいのか。
「凌くんー女の子きてるよー」
「あ、今行くわー」
クラスメイトの女の子に呼ばれて凌は席を立ち、教室の入り口まで向かって歩いて行った。
「跡部、さっきの大人げないよ」
「うるせえ」
隣の席のチビに言われてなんとなく腹が立ってきた。
俺は凌に女からの告白の言葉とかを聞かせたり読ませたりしたくねえんだよ。あいつは俺のもんだ。(まだ決まったわけじゃないけど)
それに忍足だってやってることだろ。
「…………あいつは、すげえよ」
「は?」
ドアの前で女の子と笑顔で会話している凌を見つめながら呟いた。
まさか俺様から発せられると思わなかった言葉を聞いて、詩菜はびっくりしている。
「跡部、あんたでも尊敬することがあるんだね」
「お前俺様をなんだと思ってやがる」
「で、なんで急に?」
「いや…あれだけ辛いことが過去にあって、それでもそれを隠して笑えるって…普通の精神じゃ出来ないだろうよ」
俺は思ったことを素直に述べた。
こいつに言って何か変わるわけでもないけど、人を生まれて初めて尊敬できたことを誰かに伝えてみたかった。
「あの子はそういう子だから。でも…あまりに隠しすぎて心配になることも多いのが玉にキズだけどね」
心配そうに笑いながら詩菜は俺と同じ方向を見つめた。
自分の辛いこと、悲しいこと、辛いことを全てしっかり自分で受け止め、周りに迷惑をかけまいと必死で孤独に生きようとしていたんだ。
ああそうか、だからあいつはあんなに………
「だから人に好かれるのか。本人は好かれようなんて少しも思っちゃいねえだろうけどな」
俺はそう言いながら席を立ち、女から引き剥がそうと凌の方へ歩いて行った。
HRが始まるチャイムが鳴るまであと5分。