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紅の王子様
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「なんでこんな暴力女が氷帝の天使とか言われてんのか誰か俺に説明しやがれ。」
お昼休み。
ざわざわと騒がしい教室や廊下から切り離されたように静かな生徒会室。
会長の俺は書類を読みながら座り心地の良い本革の椅子に深く座り込み、ひとつ小さなあくびをした。
背を持たれかければ、ぎし、と鈍く軋む椅子。
紙の滑る音が耳に付くくらい静かな生徒会室をいきなり轟音が襲った。
「ちょっ先輩、困ります!」
「誰も入れるなといわれているんです!」
「その前に部外者は立ち入り禁止で―…」
聞き慣れた後輩の声、ガタガタと騒々しく資料室が騒ぐ。
廊下からは会議室と資料室を通らないと入って来れない生徒会室に誰が何の用か。
そう思い、立ち上がろうと中腰になったところでけたたましい音を立ててドアが開いた。
「…どうした」
「一緒にお弁当を食べようかと思いまして」
言葉遣いは丁寧でも言い方はこの上なく嫌味らしくて。
豪快にドアを開けたのは、氷帝男子テニス部マネージャー乾詩菜。
コンビニの袋を掲げてにこりと笑う。
その辺の男ならコロリとやられてしまうだろうその笑みも跡部に向けられる時はだいたいが絶対零度の微笑。
今日も例に漏れず冷たい空気を纏ったその笑み。
怒っている。
直感でわかったが理由はわからない。
忍足や宍戸には問答無用でいきなり殴るこいつも俺には殴りかかって来ず、まずはこの笑みで挨拶してくる。
その感情の篭ってない、いや、ある意味物凄く感情の篭ったその微笑みを前に、資料室でこいつを止めようとしていたであろう生徒会役員の後輩達は軽く頬を赤らめている。
馬鹿か。
この嫌になるくらいはっきりと発せられた怒りのオーラに気付かず、見た目だけの笑みにしか反応できないとは。
こいつは物凄く嬉しい時と物凄く気分を害している時の笑みがほとんど同じ表情で、愚民にはその差がわからないらしい。
「下がっていい。今度は誰も入れるな。樺地、飯だ。」
「ウス」
なかなか間近で見れない詩菜の微笑み(今している表情は決していい意味のものではないのだが)に見とれている愚民(後輩)に言い、部屋の隅にいた樺地に昼食を用意させる。
ぱたん、と扉が閉まり、かちゃかちゃと食器の音だけが響く静かな生徒会室。
詩菜はと言えば、樺地に挨拶した時はふわり、と柔らかい笑みを溢したのだが、また俺の方を向いた時には零度の笑みに戻っており。
がさがさと袋から紅茶のペットボトルとサンドウィッチを出し、俺の向かい側に座ると黙って食べ始めた。
「何の用だ」
「何だと思う?」
喧嘩を売ってるのか。いや、売っているんだろう。
樺地が用意してくれたローストビーフに乱暴にフォークを突き刺し相手を見れば、樺地がそいつにもローストビーフを勧めいてるところだった。
「えっいいの?」
「ウス」
「樺地が作ったの?」
「ウス」
「わーすごいありがとー!」
「樺地!!!」
荒々しく名を呼べば、スミマセン、と小さく返ってくる声。
違う、樺地に当たってはいけない。
悠々とローストビーフを口に運ぶ詩菜を睨みつけるが俺様の視線にはお構いなしで樺地に「美味しい〜」と微笑みかけている。
イライラして何か言ってやろうと口を開けたが詩菜の方が早かった。
「私はね、」
サンドウィッチを見つめたまま静かに発せられた声は心なしか震えていて。
「大事なんだ、凌の事。」
らしくない、と思った。威勢の良いこいつが、こんな、哀れみを誘うような声を出すから。
「お節介なんだとは思うんだけどね、関係ないって言われたらそれまでなんだけどね、心配なの。大事だから。知らないだろうけど、いっぱい傷付いてるんだよ、あの子は。」
力が入った手から、ぐにゅ、と出てきたサンドウィッチの中身がこぼれた。
「だから、…だから、傷つけないであげて、お願いします」
サンドウィッチの中身だけではなかった。
搾り出すようなか細い声と共に頬を何かが伝い、音もなく机を濡らした。
何が言いたい。
俺が何をした。
正体を知ったからか?じゃあ萩之介にもこうして泣いて頼んだのか?
だいたい何故お前が泣くんだ。なんでお前がそこまで入れ込んでいるんだ。
知らないだろうけど、って、そりゃ知らねぇが、だから何だ。
いくら幼馴染でも、なんでお前がそうやって全部知ってる顔をするんだ。
全部知っているのかもしれないけど、そうやって知った顔をされるのは良い気分ではなかった。
お前に何がわかる、俺が何をした、お前は何がしたい…
「綾香に何言われた」
「…え?」
「綾香が頼んだのか?そんなに俺の事嫌って…」
「ちょっと、跡部、」
「だいたい何だお前、俺が一体何し「跡部!!!」
急に立ち上がった詩菜に視線を移せば涙はどこかへ飛んでいて信じられない、という顔をしていた。
「今、なんて?綾香…?」
「は?」
「凌の名前、綾香って、呼んだ?」
「だってそれが本名だろうが。」
「…なんで知ってんの?」
え
今度は俺が信じられないという顔をしていたに違いない。
マズった。
綾香はすぐに詩菜に俺にバレた事を言うだろうと思っていた。
それで怒って殴りこんできたんだと。
違ったのか?
綾香は言わなかったのか?俺が女だと知った事を詩菜は知らなかったのか?
「し、んじらんない、嘘、よりによって…」
「おい」
「どうして?なんで知って…」
へなへなと座り込んだ詩菜に「着替えを見たから」なんて言えるわけもなく、何も答えずに見守っていれば独り言をずっと言っていた詩菜が突然叫んだ。
「な、なんだよ」
「跡部だけ?跡部だけ?」
「なにがだよ!?」
「綾香の事、知っちゃったのって跡部だけ?」
「…萩之介の野郎も知ってるみたいだぜ」
「ああ〜〜…うん…うわーうえー…」
「日本語を喋れ、日本語を。」
突っ伏してしまった詩菜をもう気にすまいと飯を口に入れたが、何故泣いてまで傷付けるなと言ってきたのか気になり、聞こうとした。
「…なぁ」
「わかってんのか。」
「は?」
突然ドスの効いた声で凄まれる。
なんだこいつ。
情緒が迷子か?
「言うなよ、誰にも。綾香のこと」
「…言わねぇよ」
「忍足がね、跡部も綾香に惚れてるって言ってさ。頑張って男装してんのにそれをぐらつかせるような事されたらたまらないと思って手を引けって言いに来たんだけどさ」
「…」
「女だって知ってんなら…待てよ。」
「なんなんだよ!」
「跡部、本気で綾香の事好きなの?それとも忍足の嘘?」
ころころとテンションを変えるこいつにイラつきながらもいきなり核心に触れられ、柄にもなく焦った。
好き、だろうさ、そりゃあ。
けどこいつにそう言ってやる必要なんて…
「凌は男なんだからね、」
「は?」
「綾香は女でも、氷帝に通っている「大石凌」は男なんだからね。それわかって恋してね。皆の前で女扱いしたら殴るよ。人の恋路をとやかくは言わないけど、綾香を傷付けたら私は本当に容赦しないからね。跡部が綾香の事好きなのも忍足が綾香の事好きなのも気に入らないけど、綾香の気持ち次第だけど、でも、」
息継ぎ無しで喋っていたらしく深呼吸を一つすると、にっこりと屈託の無い笑みで言い放つ。
「本気じゃないなら、想う事も許さないから。」
本当に大事なんだな、と頭の端で理解した。
何故そんなに大事なのかはわからないけれど、大事なんだな、と。
「…自分がアホらしく思えるほど本気みたいだぜ?」
こいつは味方にはならない。
初めて抱いた熱い本気の恋心を激励するような真似は地球が吹っ飛んでもするはずがない。
だが、真面目に本気に想っていれば敵にもならない。
牙を剥く時は、傷つけてしまった時。
上等だ、やってやろうじゃないか。
お前が納得せざるを得ないくらいに、綾香をオトしてやろうじゃないか。
ニヤリ、と余裕な笑みを浮かべれば、「やっぱ跡部だ」という当たり前な発言をし、席を立った。
そして、思い出したように振り向くとニコリと顔に笑みを貼り付けて
「なんか私を恋敵みたいに敵視していらっしゃるようですけど、私より忍足君の方を気にしたらいかがですか?」
と言った。
その言葉には、忘れがちだけどあいつは天才なんだよ、という言葉も含まれていて。
それが、いかに恐ろしい事かを改めてわからせられて。
もし、詩菜を打ち倒しても忍足がいる。逆もまた然り。
自分はつくづく棘道に恵まれていると思わず苦笑をもらした。
お昼休み。
ざわざわと騒がしい教室や廊下から切り離されたように静かな生徒会室。
会長の俺は書類を読みながら座り心地の良い本革の椅子に深く座り込み、ひとつ小さなあくびをした。
背を持たれかければ、ぎし、と鈍く軋む椅子。
紙の滑る音が耳に付くくらい静かな生徒会室をいきなり轟音が襲った。
「ちょっ先輩、困ります!」
「誰も入れるなといわれているんです!」
「その前に部外者は立ち入り禁止で―…」
聞き慣れた後輩の声、ガタガタと騒々しく資料室が騒ぐ。
廊下からは会議室と資料室を通らないと入って来れない生徒会室に誰が何の用か。
そう思い、立ち上がろうと中腰になったところでけたたましい音を立ててドアが開いた。
「…どうした」
「一緒にお弁当を食べようかと思いまして」
言葉遣いは丁寧でも言い方はこの上なく嫌味らしくて。
豪快にドアを開けたのは、氷帝男子テニス部マネージャー乾詩菜。
コンビニの袋を掲げてにこりと笑う。
その辺の男ならコロリとやられてしまうだろうその笑みも跡部に向けられる時はだいたいが絶対零度の微笑。
今日も例に漏れず冷たい空気を纏ったその笑み。
怒っている。
直感でわかったが理由はわからない。
忍足や宍戸には問答無用でいきなり殴るこいつも俺には殴りかかって来ず、まずはこの笑みで挨拶してくる。
その感情の篭ってない、いや、ある意味物凄く感情の篭ったその微笑みを前に、資料室でこいつを止めようとしていたであろう生徒会役員の後輩達は軽く頬を赤らめている。
馬鹿か。
この嫌になるくらいはっきりと発せられた怒りのオーラに気付かず、見た目だけの笑みにしか反応できないとは。
こいつは物凄く嬉しい時と物凄く気分を害している時の笑みがほとんど同じ表情で、愚民にはその差がわからないらしい。
「下がっていい。今度は誰も入れるな。樺地、飯だ。」
「ウス」
なかなか間近で見れない詩菜の微笑み(今している表情は決していい意味のものではないのだが)に見とれている愚民(後輩)に言い、部屋の隅にいた樺地に昼食を用意させる。
ぱたん、と扉が閉まり、かちゃかちゃと食器の音だけが響く静かな生徒会室。
詩菜はと言えば、樺地に挨拶した時はふわり、と柔らかい笑みを溢したのだが、また俺の方を向いた時には零度の笑みに戻っており。
がさがさと袋から紅茶のペットボトルとサンドウィッチを出し、俺の向かい側に座ると黙って食べ始めた。
「何の用だ」
「何だと思う?」
喧嘩を売ってるのか。いや、売っているんだろう。
樺地が用意してくれたローストビーフに乱暴にフォークを突き刺し相手を見れば、樺地がそいつにもローストビーフを勧めいてるところだった。
「えっいいの?」
「ウス」
「樺地が作ったの?」
「ウス」
「わーすごいありがとー!」
「樺地!!!」
荒々しく名を呼べば、スミマセン、と小さく返ってくる声。
違う、樺地に当たってはいけない。
悠々とローストビーフを口に運ぶ詩菜を睨みつけるが俺様の視線にはお構いなしで樺地に「美味しい〜」と微笑みかけている。
イライラして何か言ってやろうと口を開けたが詩菜の方が早かった。
「私はね、」
サンドウィッチを見つめたまま静かに発せられた声は心なしか震えていて。
「大事なんだ、凌の事。」
らしくない、と思った。威勢の良いこいつが、こんな、哀れみを誘うような声を出すから。
「お節介なんだとは思うんだけどね、関係ないって言われたらそれまでなんだけどね、心配なの。大事だから。知らないだろうけど、いっぱい傷付いてるんだよ、あの子は。」
力が入った手から、ぐにゅ、と出てきたサンドウィッチの中身がこぼれた。
「だから、…だから、傷つけないであげて、お願いします」
サンドウィッチの中身だけではなかった。
搾り出すようなか細い声と共に頬を何かが伝い、音もなく机を濡らした。
何が言いたい。
俺が何をした。
正体を知ったからか?じゃあ萩之介にもこうして泣いて頼んだのか?
だいたい何故お前が泣くんだ。なんでお前がそこまで入れ込んでいるんだ。
知らないだろうけど、って、そりゃ知らねぇが、だから何だ。
いくら幼馴染でも、なんでお前がそうやって全部知ってる顔をするんだ。
全部知っているのかもしれないけど、そうやって知った顔をされるのは良い気分ではなかった。
お前に何がわかる、俺が何をした、お前は何がしたい…
「綾香に何言われた」
「…え?」
「綾香が頼んだのか?そんなに俺の事嫌って…」
「ちょっと、跡部、」
「だいたい何だお前、俺が一体何し「跡部!!!」
急に立ち上がった詩菜に視線を移せば涙はどこかへ飛んでいて信じられない、という顔をしていた。
「今、なんて?綾香…?」
「は?」
「凌の名前、綾香って、呼んだ?」
「だってそれが本名だろうが。」
「…なんで知ってんの?」
え
今度は俺が信じられないという顔をしていたに違いない。
マズった。
綾香はすぐに詩菜に俺にバレた事を言うだろうと思っていた。
それで怒って殴りこんできたんだと。
違ったのか?
綾香は言わなかったのか?俺が女だと知った事を詩菜は知らなかったのか?
「し、んじらんない、嘘、よりによって…」
「おい」
「どうして?なんで知って…」
へなへなと座り込んだ詩菜に「着替えを見たから」なんて言えるわけもなく、何も答えずに見守っていれば独り言をずっと言っていた詩菜が突然叫んだ。
「な、なんだよ」
「跡部だけ?跡部だけ?」
「なにがだよ!?」
「綾香の事、知っちゃったのって跡部だけ?」
「…萩之介の野郎も知ってるみたいだぜ」
「ああ〜〜…うん…うわーうえー…」
「日本語を喋れ、日本語を。」
突っ伏してしまった詩菜をもう気にすまいと飯を口に入れたが、何故泣いてまで傷付けるなと言ってきたのか気になり、聞こうとした。
「…なぁ」
「わかってんのか。」
「は?」
突然ドスの効いた声で凄まれる。
なんだこいつ。
情緒が迷子か?
「言うなよ、誰にも。綾香のこと」
「…言わねぇよ」
「忍足がね、跡部も綾香に惚れてるって言ってさ。頑張って男装してんのにそれをぐらつかせるような事されたらたまらないと思って手を引けって言いに来たんだけどさ」
「…」
「女だって知ってんなら…待てよ。」
「なんなんだよ!」
「跡部、本気で綾香の事好きなの?それとも忍足の嘘?」
ころころとテンションを変えるこいつにイラつきながらもいきなり核心に触れられ、柄にもなく焦った。
好き、だろうさ、そりゃあ。
けどこいつにそう言ってやる必要なんて…
「凌は男なんだからね、」
「は?」
「綾香は女でも、氷帝に通っている「大石凌」は男なんだからね。それわかって恋してね。皆の前で女扱いしたら殴るよ。人の恋路をとやかくは言わないけど、綾香を傷付けたら私は本当に容赦しないからね。跡部が綾香の事好きなのも忍足が綾香の事好きなのも気に入らないけど、綾香の気持ち次第だけど、でも、」
息継ぎ無しで喋っていたらしく深呼吸を一つすると、にっこりと屈託の無い笑みで言い放つ。
「本気じゃないなら、想う事も許さないから。」
本当に大事なんだな、と頭の端で理解した。
何故そんなに大事なのかはわからないけれど、大事なんだな、と。
「…自分がアホらしく思えるほど本気みたいだぜ?」
こいつは味方にはならない。
初めて抱いた熱い本気の恋心を激励するような真似は地球が吹っ飛んでもするはずがない。
だが、真面目に本気に想っていれば敵にもならない。
牙を剥く時は、傷つけてしまった時。
上等だ、やってやろうじゃないか。
お前が納得せざるを得ないくらいに、綾香をオトしてやろうじゃないか。
ニヤリ、と余裕な笑みを浮かべれば、「やっぱ跡部だ」という当たり前な発言をし、席を立った。
そして、思い出したように振り向くとニコリと顔に笑みを貼り付けて
「なんか私を恋敵みたいに敵視していらっしゃるようですけど、私より忍足君の方を気にしたらいかがですか?」
と言った。
その言葉には、忘れがちだけどあいつは天才なんだよ、という言葉も含まれていて。
それが、いかに恐ろしい事かを改めてわからせられて。
もし、詩菜を打ち倒しても忍足がいる。逆もまた然り。
自分はつくづく棘道に恵まれていると思わず苦笑をもらした。